ハードな世界で俺だけイージーモード 作:ゆらゆら
「……はぁ、たく」
エンジン音を響かせながら、巨大なトラックを運転する。
中には、食料やら水やらが詰め込まれている。
他にも岩盤の掘削機からチェンソーなどの工具も積んであった。
そして、ちらりとミラーから後方を確認すれば……ちゃんと稼働しているな。
蜘蛛のような形をした灰色の機械。
その大きさはトラックの荷台ほどある。
口元の照射装置から掘削用のレーザーを出し続けていた。
そして、胴体の下の冷却装置によって深く掘ったその箇所を瞬間冷却。
そして、ケツのあたりから太くて長い特別製のケーブルを出していた。
後ろの方ではそいつの子供みたいなちいせぇ蜘蛛ロボがわらわらといるが。
奴らはぽっかりと空いた地面の溝にコンクリを流し込んで埋め立てっていた。
ケーブルを通す為の深い穴を開けてその中にケーブルを入れて、その上からコンクリで蓋をする。
原始的だが、此方の方が現代では有効だろう。
一体何をしているのかと言えば、第肆コロニーの連中と通信を行う為の電線を引いていた。
超アナログ方式であり、着くまでずっと電線を引き続けるだけだ。
俺の役割はこの荷台の物資を届ける事と、電線ロボを見守って、適宜、メンテやら電線の交換を行う事だ。
「……何て言ったか……あぁ、アレだ。野戦電話ってやつか? 似てるよなぁ……規模がまるで違うけど」
冗談を言いながら再び後ろを確認し……またかよ。
蜘蛛ロボが停止している。
見れば、センサーを激しく点滅させて何かを思考している様子だった。
俺はトラックを停車させてすぐに降りる。
蜘蛛ロボへと近づいてから、手に持った端末を動かし奴に命令コードを送る。
それから、横のハッチを開いてメカニックに聞いた通りに摘まみを90度回した。
「三秒間固定……よし」
《――再起動完了。運転を再開します》
「おう、頼むぜ……はぁ、だる」
俺はケツを掻きながらトラックへと戻る。
運転席に乗り込んでエンジンを再始動し、そのままアクセルを踏んでトラックを進めた。
第参を出てから、ずっとこの繰り返しだ。
停止すれば再起動し、また止まれば再起動……やってらんねぇよ!
「……これでお荷物まで着けられちゃ、ストレスで禿げちまうよ」
当初の予定では、護衛役やらロボのメンテ係をつけようなんてお上は考えていた。
その他にも、障害物の撤去をする為の工事員など。
当然の考えであり、普通は完全武装の兵士でもいなければ何日もかけて外には出ない。
が、そんなもんをつけられたら、目の前で惨殺パーティが開催されるのは確定だ。
俺は助けてやれないが、絶対に助けろなんて言っちゃってくれるだろう。
そんなやり取りを目の前でしようものなら、三日間は不眠は確実だ。
『いえ! 必要ありませんよ! 私一人で出来ます!』
『だが、お前の負担が』
『いえいえ! 問題ありませんよ! ははは!』
絶対に失敗しないと念押しして出て来た。
まぁ全部一人でやらないといけないのはクソだる案件だが。
幸いにも、渡す物資はこの大型トラック一台分で事足りる。
食料のほとんども日持ちする“虫肉”や“雑草豆”などの加工物ばかりだ。
虫肉の原料はゴキブリだ。
ゴキブリはハードな世界では貴重な食料原で。
何処にでもいるからこそ、数を増やすこと自体は簡単だった。
遺伝子操作によって体の大きさも増大させれば、食料としては申し分ない。
食用にするには多少の時間は掛ったらしいが、今では普通に皆食べている。
最も、あの形そのままに出せば食欲なんて出ない。
加工場で食べられるようにミンチにされてから、化学調味料などを混ぜて美味しいフレーバーにし。
着色料などを加えて肉のような色味にしてからブロック状に成型する。
化学調味料の原料は菌床で育てられたキノコ。
主にひらたけなどから抽出されていると聞いた。
着色料に関しては虫やら花から抽出していると知り合いに聞いたな。
虫肉は正直そんなに旨くはない。
ただ、色々と混ぜているので暑いところでも品質は落ちない。
一部の人間は体に悪いと言っていたが、そんな事を気にしている奴はごく一部だけだ。
雑草豆だって、生きにくいこの世界で生きる為に作られた魔法の食べ物だ。
元々は雑草であった植物を人の手で改良し、人が食べられる豆を自生するようにさせた。
枝豆のような食感で、味は全くしないが塩茹にすれば普通に食べられる。
特別栄養価が高いという訳でもないが、食べるものがなければ腹持ちがするのでマシだ。
塩だってそうだ。
今は自分で使う分は、普通に海まで行って作っているが。
前までは、人の汗やら尿やらで作った塩が普通に流通していて、俺もそれを使っていた。
不純物を取り除いた正規品であれば問題ないが。
正規品じゃないものは悲惨であり、一時期それで病気が流行っていた時期もあったらしい。
「……汗も尿も、貴重な資源なんだよなぁ。実際、買い取ってくれる業者はいるし」
雨水だけでは生活に必要な水は賄えない。
俺は普通に取りに行くが、取りにいけない奴らは自分たちが出したもんを浄化して再利用する。
特別、難しい事はないが……ちょっと抵抗はある。
捨てるもんなんてありはしない。
何でも再利用であり、よりハード感を高めている要因だ。
そんな中で、俺だけが旧時代のような暮らしをしている。
バレれば魔女狩りよろしく火あぶりにされちまうかもしれねぇ……こえぇ。
そんな事を考えながら、俺は優雅なドライブを続ける。
時計を確認すれば、時刻は14時だった。
まぁ食料の運搬はそういう事で俺一人で問題ない。
勿論、メカニックにはロボ共のメンテ用のマニュアルはデータで貰って来た。
トラックには、マップデータもインストールされている。
マップの精度はそこまで期待できないが、ないよりはマシだろう。
GPSが無いからこそ、移動距離による現在地の算出になっちまうが。
ズレに関しては手動操作で修正は可能であり、ある程度の地形データで大体の位置は分かる。
旧時代のコロニーの建設地点と現在のマップを照合し。
おおよその移動距離を計算すれば……まぁ到着するのはおおよそ一週間後ってとこか?
「ま、気楽にいきゃいいや。アレンには悪いが、ちょっとしたバカンスさ」
お上の話によれば、第肆のコロニーは今でも稼働しているらしい。
確証はないものの、数日前に第肆から流れ着いたと思われる文を入手したとも言っていた。
何とも古典的な方法で、鳥の足に文を結んでいたとか。
すぐに探査用のロボットを送ってみたが、途中で破壊されてしまって調査は断念。
お上の考えによれば、第肆の維持は難航しているようで。
中でも、食料による問題で緊急の支援を各所に要請しているんだろうと言っていた。
文の中には、取引による支援と書かれてたらしいが……はぁ。
「……古いマップによりゃ、山間部らしいが……上手くいきゃ、“ブラッドメタル”が大量に手に入るって訳か」
文にはこう書かれていた。
水と食料の支援を貰えれば、此方からはブラッドメタルを提供できると。
ブラッドメタルとは、闇の眷属によって世界が崩壊していく中で発見された新物質だ。
小さいものであれば、世界中のあらゆる場所にて存在し。
血のように真っ赤な鉱石であるから、ブラッドメタルと名付けられていた。
ブラッドメタルは加工が簡単であるが、色々なものに使える万能鉱石だ。
中でも、“物体生成機”に入れればデータがあるものであれば即時生成する事が可能になる。
流石に食べ物は無理であるが、兵器でも建造物でも、どんな複雑な物体でも一瞬だ。
お上はブラッドメタルを喉から手が出るほど欲しがっている。
噂では、新しく編成する軍隊の為に大量に必要としていると聞いたが……ま、俺は関係ねぇけど。
「……王命を果たせば、今まで以上の金が手に入る……どうすっかなぁ。新しい工場を建てるかぁ? いや、それとも新事業に着手するか。うーん、悩みどころだなぁ」
俺は幸せな妄想をする。
楽しく愉快な旅で……あ、そういえば。
「……ちょうどコロニー同士を結ぶ途中のポイントに闇の眷属の巣があるって聞いたけど……まぁどうでもいいか」
コロニーで土地の調査を行っている調査隊。
そして、破壊された探査用のロボットの最後の映像記録。
それらの情報を合わせれば確かなようだが。
正直、俺にとってはどうでもいい情報だった。
ただ、頑張って引いている電線に何かされないかだけ考えているが……まぁ何とかなるだろう。
俺は口笛を吹き、何処までも楽観的にハンドルを指でトントンと叩く。
荒れ果てた道を進み、道路に横たわる朽ち果てた知らんおっさんの銅像を避けて。
燦燦と輝く太陽をチラリと見て――大きく欠伸を掻いた。