ハードな世界で俺だけイージーモード 作:ゆらゆら
「「「……」」」
「……へ、へへ」
俺は無数の視線を浴びながら引きつった笑みを浮かべる。
色々な感情が混ざり合っていて、好意的なものもあれば値踏みするようなものも感じていた。
どうしてこうなったのかと思いながら、これまでの事を思い出していく。
先ず、敷設に関しては専門家たちに任せた。
俺は物資をお役人の指定する場所まで運んだだけだ。
が、噂を聞きつけたコロニーの住人たちから道中、拍手で迎えられた。
泣いている者もいて、すげぇ歓迎されていた。
トラックから荷物を下ろし、さぁ宿に行って一服しよう。
そう思っていれば、謎のアンドロイドの集団がやって来た。
『――』
見た事も無いタイプの機体だった。
四つの腕に錫杖のようなものを持っていた。
灰色の機体は傷だらけであり、補修を施したような跡もあった。
オレンジ色の布切れを纏って、手は祈りを捧げているかのようだった。
念仏のようなものが聞こえてきて、兎に角、不気味だった。
奴らの中のリーダーのような存在が、俺に対してすぐに“寺の本堂”へと来るように言ってきた。
寺の本堂へと来いとは何だと思いつつも、有無を言わさぬ迫力に負けてついていった。
すると、コロニー内の上層にある広い敷地内で。
巨大な木造の寺が建てられていた。
立派なものであり、庭のようなものまであった。
アンドロイドたちは呆ける俺を誘導し、そのまま本堂だというこれまた立派な建物中に招き入れた。
中では、立派な仏が鎮座してた。
その周りには黄金の装飾がこれでもかと飾られていたが。
それよりも目に着いたのは――完全機械化した人型が正座していた光景だ。
『――っ!』
広い本堂では、他にもスーツを着た人間や半分機械化した人間たちもいたが。
そのどれもが、無言で俺を見つめてきていた。
俺はすぐに、正座して仏像の前に佇む存在こそがこのコロニーの王だと理解した。
だからこそ、深々と頭を下げて言葉を待った。
『面を、上げてください』
『は、ははぁ!』
俺が顔を上げれば――無言。
誰も一言も発さず、ただジッと俺の顔を見つめるだけ。
何を考えているのかも、何を企んでいるのかも分からない。
ただただ見つめられるだけで時間が過ぎて行く。
足元には座布団を引いてはくれているが、それでも正座はきつい。
さっさと何か話してくれと念じながら、俺は笑みを浮かべ続けて――王が頭を垂れた。
「へ!? あ、いや!?」
「――今回の支援、私、管理者である“スメラギ”が、心よりお礼と感謝を申し上げさせて頂きます」
声は女性のものだった。
物腰柔らかで、見事な所作で頭を下げて来た。
俺は両手を振って、慌てながら顔を上げてくれと頼んだ。
「い、いえ!? そ、そんな!? どうか頭をお上げ下さい!」
「……いえ、私が頭を下げるのは至極当然の事。ただでさえ、貴重な食料や水を恵んで頂いた上に……大勢の犠牲を払われたのですから」
「「「――我々からも感謝の意を!」」」
「…………ぎ、せい?」
俺は目を点にする。
どういう事かと考えて……あぁ、なるほど!
つまりだ。
第参から此処まで来るのに、最初は何十人もいたが。
此処に辿り着けたのは俺一人だった。
だからこそ、犠牲を顧みずにやってきてくれたこの俺に対して最大限の感謝を伝えているんだろう。
俺は状況を理解し――手を振って誤解を解こうとした。
「いやいや! あの、何か誤解されているようですが。我々は人的被害は一切被っておりませんので!」
「………………と、申しますと?」
「え? あ、あははは、わ、私一人で此処に来たという事ですね、はい!」
「「「………………は?」」」
今度は全員が目を点にする。
その瞬間に、彼らの視線は――恐怖一色に染まる。
「……一人で来られたというのは……我々を気遣っての嘘ではなく?」
「はは、まさか! 私はそれほど器用な人間ではありませんので。全て事実です!」
俺は静かに頷いてさっきの話を肯定した。
瞬間、全員がひそひそと話し始めた。
「どういう事だ? 第参から此処へ来るのであれば、確実に闇の眷属の……」
「いや、もしかすれば、あの巣は既に……」
「いや、それはない。十日前に討伐隊が壊滅したのを忘れたか?」
「だ、だが、それでは、あの男はどうやって」
「「「……ま、まさか?」」」
「……え?」
何か、全員が俺を化け物でも見るような目で見て来た。
すると、控えていたアンドロイドたちが錫杖で床を叩く音が響いた。
瞬間、全員がハッとして深々と頭を下げた。
「……申し訳ありません。危険を顧みずたった一人で参られた御客人に対してとんだご無礼を」
「い、いえいえ! 全然、私は気にしていませんので!」
「……ただ、彼らの疑問は私も感じております。もしよろしければ、此処まで来た経緯をお話していただけないでしょうか?」
「え、い、いやぁ、べ、別に大した事は何も」
「「「……」」」
俺は話をはぐらかそうとしたが。
全員が無言でまた俺を見つめて来た。
話すまで帰さないっといった感じで……はぁ。
「えっと……大型トラックで此処まで来ました。あと、電線の敷設の為にロボットも連れていました。ルートは電線の長さも考慮して最短の距離で」
「――つまり、闇の眷属の巣を通ったのですね?」
「あ、はい。通りました」
「「「……な、何と」」」
俺の秘密に気づかれるかとひやひやした。
だからこそ、俺は誤魔化す為に口を回した。
「い、いやぁ、で、でも! 全然、問題ありませんでしたから! 戦闘にもなりませんでしたし。ほ、ほら! 体に傷一つないですよね!?」
「……戦闘に、ならなかった?」
「……ぁ」
俺はうっかり墓穴を掘ってしまう。
これではまるで、襲われなかったっと自分で打ち明けているようなものだ。
全員の視線が俺へと注がれる中で、俺はだらだらと汗を掻く。
俺は必死に笑みを浮かべる。
が、疑惑の目は一向に消えない。
気が狂いそうになりながら、足が痺れて行くのを感じて――
「――嘘、ですね」
「ももももも申し訳ありません!!!」
秒で俺は頭を下げる。
瞬間、全員がやはりと言った声を出す。
俺は終わったと思って短い生涯だったと――
「戦闘にならなかったのではない。戦闘と――呼べる戦いでは無かった、ですね?」
「…………へ?」
「あぁ、やはり! 闇の眷属の巣を単身で突破できるという事は……正に鬼神の如き強さを!」
「一体、第参はどれほどの化学兵器を生み出したんだ!?」
「これで我々人類もようやく闇の眷属へと反撃の狼煙を上げる事が!」
「いいいいいやいやいや!! 待ってください! 別に俺は――武器何て使っていませんよ!?」
「「「――――ッ!?」」」
俺は咄嗟に武器は使っていないと暴露する。
何かやべぇと感じて更に、第参の武器でも闇の眷属を殺す事は多分無理だと伝えてしまう。
すると、場にいた全員が俺を化け物どころかもっとやべぇ何かであるような視線を向けて来た。
「ぶ、武器を、使わず……で、では、な、何で?」
「え、な、何って……特に、あの、はい」
「「「……素手、で?」」」
何かどんどん俺の評価がおかしなものになっていく。
このままではやべぇと思って、俺は無礼であると思ったが用件だけ伝えて早々に宿へ行こうとする。
「あ、あの、そ、それでは! 後は陛下と今後の未来について語っていただき、私は一足先に宿の方へ」
「――お待ちください!!!」
「ひゃひゃいぃ!?」
俺は立ち上がろうとしたが、秒で座り直す。
すると、王様は姿勢を正し再び額を床につけて――
「無礼を承知の上で、どうか今一度貴方様の力を――我々にお貸しして頂けないでしょうか」
「「「お願いいたしますッ!!!」」」
「え、えぇぇ、い、いや、あ、あの…………な、何をすればいいでしょうか?」
またしても厄介事。
いや、話だけでも聞いてみよう。
もしかしたら、案外、簡単に出来る事かもしれない。
そうだ、そうに違いない。
少なくとも、彼らにとって救世主であり客であるこの俺に対して無茶ぶり何て――
「此処より北にあります。ブラッドメタル採掘場を――奪還する為にお力をお貸しください」
「わ、わぁ! や、闇の眷属ですかぁ?」
「左様です。数にしてざっと――五千」
「わ、わぁ! それは大変だぁ……って、採掘場? も、もしかして」
俺は採掘場というワードにガタガタと震える。
間違っていて欲しい。頼むから当たっていてくれるな。
そう願って――
「……騙すつもりはありませんでしたが……我々が提供する筈のブラッドメタル……現在、ございません」
「……へ、へへ」
「ですが!! 奪還が成功した暁には、必ずや望むものをお贈りさせて頂きます!! どうか、どうか!!」
「「「我々にお力添えをッ!!!」」」
内心でふざけんじゃねぇよと思った。
が、少なくとも王様に対してそんな言葉は言えない。
そもそも、ブラッドメタルが手に入るっていうから支援したのに。
肝心のブラッドメタルが無いと我らがお上が知ったとすれば――
『次の仕事を与える』
「あ、あぁ、ぁぁ」
絶対に、また無茶な事を言う筈だ。
それも高確率で、採掘場の奪還に関する事になるだろう。
となれば、俺がやらざるを得ない事は決まっていた。
俺は涙と鼻水を出しながら、震える手で親指を立てる。
「ぜ、全部、こ、この、私めに……お、お任せ、を」
「「「おぉぉ!!!」」」
「ありがとうございます!! 誠に、誠に……もし、採掘場の奪還が叶えば、第参コロニー……いえ、貴方様にも第肆の全てを持って如何なる支援をも約束すると此処に誓います」
「な、何でもですか?」
「はい。御仏に誓って、お約束いたします」
神に誓うのなら嘘ではないだろう。
つまり、このデカくてやべぇ仕事を果たせば、第参と第肆から莫大な金が……ぐ、ぐふ!
俺は自らの物欲に溺れそうになりながらも。
明日、作戦会議を開くから今日は安んでくれという陛下の言葉を聞く。
が、支援も仲間も俺には不要。
絶対に断って……また一人かよとぼやきそうになった。