ハードな世界で俺だけイージーモード 作:ゆらゆら
車を借りて、走らせる事暫く。
マップで示された場所には確かに採掘場が存在した。
半壊した壁に、破壊された強光装置など。
中に入れば悲惨さに拍車がかかっていて、骨やら血の跡やらが凄まじかった。
「……うわぁ沢山いるなぁ。ほぼゴキブリじゃねぇか」
「「「……」」」
いるいる、うじゃうじゃといる。
闇の眷属たちが太陽の下で徘徊していた。
すげぇだるそうであり、欠伸している奴もいた。
昼寝していたり、またしても山盛りの肉残飯をもしゃもしゃと喰っている奴もいる。
正直、ガスマスクが欲しいくらいには臭いがきついが。
今から一人でこいつらを退散させる作戦をするのであれば、それは邪魔でしかない。
「……どうせ、穴の中にもいやがるんだろうなぁ」
面倒だが、全ての眷属たちを此処から遠ざけない限りはコロニーで待機している作業員たちを呼べない。
俺一人では壊れた強光装置を直すのは時間が掛かり過ぎる。
壁の修復にも専門の人間を呼ぶほかない。
故にこそ、俺がやるべき事は此処で闇の眷属たちを――排除する事だけだ。
「その為にも、先ずは準備だな。忙しくなるぞぉ」
俺は腕を捲る。
そうして、車に積んできた音響装置やらの設置を始めた――
・・・
音響装置の設置が完了した。
既に日は沈み掛けており、闇の眷属たちも動きが活発になってきた。
目が冴えている状態であり、俺はそんな奴らを見ながら――ドレスアップを完了する。
派手なピンクのぴっちりドレス。
手には派手なセンスを持っていて、足にはヒールを履いていた。
旧時代の日本。
ある場所にて存在した劇場。
そこでは夜な夜な若い男女が神への舞を捧げていたという。
その舞は闇を光で満たし、夜であろうとも日が昇ったかのような明るさだったらしい。
闇の眷属が襲来した中でも、舞はずっと続いて。
首都が陥落して暫くしても、その劇場の光は落ちなかったという伝説を――俺はオールドネットで見た。
オールドネットとは、旧時代のネットと呼ばれる電子の海の事だ。
沢山の情報が眠っており、一部の記録は俺の端末にも入っていた。
そのオールドネットの情報によれば、この衣装こそが舞を踊る上での神衣らしい。
他にも、情報を集めてみたが、舞は闇の眷属に有効で。
奴らを一時的に遠ざける事が可能であると書かれていた。
誰に話しても信じて貰えなかった情報。
まさか、此処で俺自身が検証する事になるとは思わなかったが――やってやんよぉ!
「さぁ、舞の時間だぜ」
「「「……?」」」
俺はセンスを広げる。
そうして、お立ち台の上でヒールを鳴らし――爆音が鳴り響く。
空気を激しく振動させるほどの爆音。
そして、眩いばかりのネオンの光。
激しい曲調のミュージックが鳴り響き、俺はそれに合わせるようにセンスを振る。
お立ち台は俺の動きに合わせて回転を始めて。
俺は激しくセンスを振りながら、全力で舞を踊る。
「とっとと失せろやァァァァ!!!」
「「「――」」」
奴らが口を開けて放心していた。
俺の事をマジマジと見ている。
怯えているのか、震えているのか。
分からないが、きっと効果がある筈だ。
俺はそう信じながら、汗を迸らせて舞を踊り続ける。
かつて存在した伝説の舞手――ジュリィアンナ・トキョーのように。
「ほぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「――――」」」
・・・
アレからどれだけの時間が経ったか。
一時間や二時間ではない。
日が昇るほどであり、俺は未だに踊り続けていた。
最初は全く動かなかった眷属たち。
放心したままであり、た茫然としていた。
が、そんな事はどうでもいいと思えるほどに躍る事が楽しくなっていた。
気づけば、時も忘れて俺は踊り狂っていた。
センスを振り、腰を振って、叫び声をあげる。
ノリノリで踊り続けて気が付けば――――誰もいなかった。
ヒールを打ち鳴らせば、音がぴたりと止まる。
照明も消えて、俺は汗を流しながら呼吸を乱す。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……れ、レーダーは?」
俺は近くに置いていた広域レーダーを確認する。
すると、闇の眷属の反応は消失していた。
周囲一帯からいなくなっていて、安全な領域になっている。
俺は作戦が成功した事を確認し、すぐに通信機の電源を入れた。
「繋がれ、繋がれよ……! もしもし! 作戦成功! 繰り返す、作戦は成功! すぐに来てくれ!!」
《了解!!》
伝える事を伝えた。
俺は通信機を切り、汗まみれのドレスを脱ぎ捨てる。
俺はお立ち台から、降りようとし――足がぐきりとなった。
「うぉ!?」
慌てて姿勢を直そうとする。
が、もっとおかしな姿勢になった。
俺はそのまま山盛りの肉残飯の中へとダイブする。
「う、うぇぇぇぇ!! くっせぇぇぇ!!」
俺は慌てて飛びのき、怒りに任せてヒールを投げ飛ばした。
完全なる全裸状態であり、体は闇の眷属たちの血肉で汚れまくっていた。
汗に塗れて、おまけに敵の死肉でべったりだ。
なるはやでシャワーを浴びたかった。
が、それ以上にどっと疲れが押し寄せて来る。
俺は裸足でよろよろと動く。
そして、丁度良さそうなバカでかい骨の近くに腰を下ろした。
何の骨かは分からない。
しかし、恐らくは戦車型とかの骨だろう……これもくせぇな。
肉と血がこびりついていやがった。
俺は頭をくらくらとさせながら、天を仰ぎ見た。
「はぁぁ…………あ、近いな」
エンジン音が聞こえて来た。
どんどん近くなっている。
もう間もなく、此処まで到達するだろう。
俺はそう考えて……あ、ダメだ。
「ふあぁ……ちょっと、寝よ」
俺は重い瞼を下ろす。
そうして、睡魔に完全に身を委ねる。
心地よい意識の底へと、沈んで、いき、なが、ら――――…………