ハードな世界で俺だけイージーモード 作:ゆらゆら
狂ったように舞を踊り、気づけば意識を失っていた。
目が覚めたらふかふかのベッドの上で――何故か、すげぇ接待を受けていた。
「ささ、もっとお飲みになってくださいましぃ」
「はい、どぉんどん」
「おっとっと……かぁ! うめぇ!!」
「「「きゃぁ! 漢らしいぃ!」」」
第肆のコロニー内にあった酒場。
いや、厳密には今まで閉鎖されていた酒場だった場所。
俺が採掘場を解放し、食料が入った事でかは知らないが。
酒場を再オープンし、備蓄していた酒などを俺に振舞ってくれていた。
……まぁ酒の品質はそれほど良くはねぇけどな。
俺が開発したニュールよりかは劣る。
酒としての濃度も薄く、甘みもあまり感じられない。
ニュールはホットでしゅわしゅわしている琥珀色の美しい酒で。
上品な甘みがありながら、酒として大切なアルコール分も存分に感じられらる。
だからこそ、美味い。そして、安いのだ。
元々は旧時代に若者の間で流行っていた飲み物であるコーラのレシピを手に入れて。
そこから着想を得て、手を加えた事によってニュールが誕生した。
コーラがどんな飲みのだったのかは知らん。
素材も現代風であり、製法も色々とし易いように変えたからな。
肝心なのは魔法を加える事で、少々の“ハッピードラッグ”を入れる事によって精神の安定化を……まぁいい。
兎に角、この酒はほとんど水だ。
香りも色味もそれほど無い。
ただ、周りで女の子たちが俺をもてはやしてくれるからこそ美味く感じるだけだ。
右を見れば、両腕を機械化した顔の火傷がチャーミングな赤髪のウルフカットちゃん。
左を見れば、巨乳のサイクロップスアイの素敵な濃い青毛の龍の剃り込みを入れたショートヘアちゃん。
他にも個性的で俺にとっては美女である素敵なお姉さんたちばかりだった。
お店の子たちは全員がタトゥーやピアスを開けまくったパンクファッションが似合う子たちばかりで。
男の扱いに慣れており、俺も気づけば酒を十杯も飲んでいた。
幸せな時間で、これからもっと素敵なご褒美タイムが待っているかと思えば自然と鼻の下も伸びてしまう。
大金が手に入り、夢にまでみた大富豪への第一歩だ。
別に支配階級に興味はないが。
大金が手に入れば、もっと工場を建てたり牧場を豊かに出来る。
商品のラインナップが充実し、もっと安価な値段で市民たちに商品を提供できれば。
自然と市場は俺が独占出来て、俺は趣味で外に出放題だ。
面倒な調達も気にせずに、好きなだけキャンプが出来る。
浜辺のバーベキューに、森でのソロキャン。
渓流でボートを楽しみ、バードウォッチングなんかもしてさ……あぁ良い。
「夢にまで見た。スローライフ」
「どうしたのぉ? もっと飲んでぇ。いっきいっき!」
「えぇぇぇ? もっとぉぉ? しょうがねぇぇなぁぁ!」
俺はジョッキの注がれた酒を呷る。
女の子たちは俺の飲みっぷりに盛り上がっていた。
俺は更に盛り上げる為に上着を脱ぎ捨てて――
・・・
楽しい時間はあっという間だ。
宿屋へと戻り部屋に入って少し寝た。
起きて時間を確認すれば、夜の1時であった。
妙な時間に起きちまったと思ったが。
もう一度、寝るのも面倒だと思った。
だからこそ、扉を開けてコロニーを散策しようとすれば……何故か、外にニコニコと微笑む坊さんが立っていた。
誰なのかと思っていれば、向こうから秘書官のアズールと名乗って来た。
そういえば、いたと思いつつ何の御用かと尋ねれば。
第肆の女王様が俺に話があるらしい。
会ってくれないかと言われて、こんな時間に行ってもいいのかと戸惑ったが。
何時でも良い事を伝えれば――何故か、向こうからやって来た。
「……へ、へへ」
「……」
女王陛下は入って来るなり硬い床に正座した。
俺も思わず正座したが……なにこれ?
どういう状況なのかと困惑する。
足が痺れて動かなくなる内にさっさと用件を話して欲しい。
内心でそう願って――女王陛下が頭を下げて来た。
「採掘場奪還の件――心より感謝を申し上げます」
「え!? い、いや!? 別にそんな」
「いえ、貴方様の活躍は我がコロニーの歴史に名を遺すほどの偉業。頭を下げるだけでは、到底、感謝とは呼べません……例の支援の件。早速ですが、何からいたせばよろしいでしょうか。何なりとお申し付けください」
「……な、何でも、ですか? ほ、本当に?」
「えぇ、何でもです。どうぞ、何なりと」
女王陛下は胸に手を置き頭を軽く下げた。
俺はごくりと喉を鳴らし、早速、ありったけの金を要求しようとし――瞬時に電流が走った。
……待て。此処で俺が金を要求すれば……どうなる?
相手はこのコロニーの管理者。
女王であり、市民が逆らう事の出来ない支配者だ。
そんな存在に対して、金を要求して……危険すぎる。
いや、そもそも、このコロニーで金というものにどれほどの価値があるのか。
遂この前までは食糧難であり、市民たちもやせ細っていたからこそ満足に食事がとれていなかっただろう。
十中八九が配給制であり、金が存在していても使い道が全て無くなっていた筈だ。
物々交換が主であり、金を要求すれば恐らくは金属類や金目のものを差し出して来るだろう。
それでもいい。
金属であれば、少なくとも第参に持ち帰れば金に換えられる。
他のものでも何かしらの価値はつくだろう。
が、第肆でほとんどのものを俺が持って帰ればどうなる。
確実に市民たちが一斉蜂起を開始。
市民を鎮静化する為に、女王様は鎮圧部隊を送るだろう。
が、成功したとしてもコロニーは貴重な労働力を失う。
そうなれば、生産性が一気に落ち、物もない状態であるからこそ何も生み出せず。
どういう末路を辿るかといえば――第参の植民地化だ。
第肆は第参の占領地となり、第参の王が第肆も管理する事になる。
それはいい、別に俺には関係ない事だからだ。
が、もしも、第参の王がその結果に味を閉めればどうなるか。
『王命を言い渡す――別のコロニーへと行ってまいれ』
『ひぃぃ!!』
また地獄の長距離ドライブの開始だ。
今度はどれほど離れているのか分からない。
そもそも、存在しているかも分からないのだ。
そんな場所へと行かされて、何の成果もあげられなければ……た、ただ働きじゃねぇか!?
成功しなくては意味がない。
実益が無いのであれば報酬も発生しない。
それどころか、燃料代とか請求される恐れもある。
目先の利益を追い求めて、俺は全国を旅する事になる。
結果、店はアレンに任せっきりで物資の調達もままならず。
コロニーへと定期的に戻っては物資を調達してまた再び外へと出て……い、嫌だ。
そんな未来は真っ平ごめんだ。
だからこそ、俺は金品の要求をつばと共に飲み込む。
そうして、声を震わせて俺は小さく呟いた。
「と、土地を……店を、建てたいので……適当な、土地を、譲って」
「――手配いたします。他には?」
「ぁ、ぁの……く、車を、手ごろな、トラックを一台」
「――手配いたします。他には?」
「ぇ、ぁ……ひ、人を、雇い、たい、です」
「……雇っていただけるのですか? お望みとあらば無償でも」
「い、いえ! 雇います! 労働者に正当な対価を払うのは経営者の義務ですから!」
「……手配いたします。他には?」
「………い、以上です」
俺は掠れる声で伝える。
すると、女王陛下は目を点滅させながら困惑している様子だった。
沈黙が流れる。
まずったかと思った。
要求しすぎたかと俺は震えて――女王陛下が立ち上がる。
「……お優しいのですね」
「へ?」
「……明日の朝までには全て準備を整えておきます……因みに、店とは?」
「え、えっと、第参でオコノミ・マートという雑多なものを販売している店を経営しておりまして……そ、その第二店舗をこのコロニーでもと。へ、へへへ」
「………………このコロニーの再建を考えてくださるのですね」
「へ?」
「……この御恩、このコロニーが滅ぶその時まで語り継ぐことをお約束します」
「え、あ、あ、はいぃ」
女王陛下は壮大な勘違いをしている様子だった。
俺が呆気に取られていると彼女はそのまま去っていく。
俺は正座したまま暫く放心し――足に痺れを感じた。
「い、いでぇ!」
俺はその場に転がる。
そうして、足を擦りながらうめき声をあげる。
第肆でも忙しい事になっちまうだろうが。
これも、全ては俺の未来でのスローライフの為だ。
「第参みてぇに、コロニー内である程度の物資が作れれば御の字。が、時間はそんなにねぇだろう。陛下から呼び戻されればタイムアップ……だったら、量産可能な食料ラインの設計。そして、安全な飲み水の確保だな。幸いにも、川がちけぇからなぁ」
俺は倒れた状態でくつくつと笑う。
ハードモードでは絶対に出来ないライフラインの確保。
イージーモードである俺のみが許された開発計画だ。
これで更に第肆に恩を売り、ある程度のコロニーの繁栄が叶えば、その時こそ大金を……ふ、ふふ。
「ま、まだはえぇ。も、もうちょっと、そう! もうちょっとだけ余裕が見えてきたら……第参くらいになったらかなぁ?」
大金を手にする日が遠のいていく。
そう感じながら、俺はさめざめと涙を流した。