担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
…いやなんか本当ありがとうございます、ノリと性欲と勢いでここまで来れるもんだな…
「出て来なさい。」
「………?」
目線は相変わらず俺に向けているが、その言葉をかけた先は明らかに俺ではなかった。…では誰か?
「…自分から呼び出しながら、まるで私が隠れて盗み聞きしていたかの様な呼び方は心外です。コクヨウ様?」
「シルバ…?」
「はい、“貴方の”シルバです。」
ダクトから白塵が降り、そして砂時計の様に降り積もる。しかしそれは山と成らず、人の形に積もり…はいシルバ。
えぇ…(困惑)
てかここで俺の存在を強調するんじゃない…!飛び火するだろ!頼むから穏便に…。
「呼び出しはしましたが、天井裏に呼び出したつもりはありませんが?」
「それは失礼致しました。“何処”と指定はされていなかったので…。」
互いに落ち着いた様子で粛々と会話を続ける。が、それはあくまでも上っ面の話だと言うことくらい俺でも分かる。
…冷戦だ、これ。青とアカじゃなくて黒と白の間柄だが、空気感はまさにそれ。それもレベルとしては熱戦間近、いつ核戦争が起きても不思議じゃない時期の緊迫感。
…勝手にやってくれよッ!お前らの喧嘩でまず真っ先に吹き飛ぶの俺だからな!?
「そうですか。非常識極まりますが、貴女程度の知能指数ではこうなってしまうのも仕方ありませんね。」
「いい加減ヒューム様を離していただけませんか?参謀相手に盛るとは見上げた性欲の持ち主です。」
「………。」
「………。」
あーこれ俺が何とかしないとダメ?この会話に割って入らないとダメなの?…ス〜…まじか…。
「……あの。」
「どうしましたか?……。」
「何でしょうか?……。」
お前ら本当は仲良いだろ。
…あーどうしようマジで…。
コクヨウの味方したらシルバとバイバイしなきゃならないし、そんなことしたらシルバ絶対ヘソ曲げるだろうし、やけになって何しでかすか分からないし…。
だからと言ってシルバの味方したら…、それこそコクヨウに何されるかわかったもんじゃないし…。
チラリとコクヨウを見やる。一見いつも通りの澄ました表情だが、余裕が溢れている。自分の提案が受け入れられると確信している表情だ。
チラリとシルバを見やる。…一見取り繕っているが、やはり余裕は無さそうだ。しかしそれでも俺は自分を選ぶと信じて止まない様子。
「……はぁ…。」
おっと、内側で留めとくはずの溜息が溢れてしまった。…だが…溜息くらいつくだろこんな状況…。
「分かりました。直ちに…とは参りませんが一週間程で仰せのままにいたしましょう。」
「………ッ!?」
「…意外にもあっさり切り離すのですね。」
「さて、何のことでしょうか。」
「私は嬉しいです。貴方の身勝手さを知ることが出来て…。」
意地の悪い笑みを浮かべながら慈愛を滲ませるとか器用な奴だな。
…前と比べれば随分と感情が豊かになった。
『感情表現が出来ない人物が、人との接触を経て豊かになっていく』
此処だけ切り取れば喜ばしいことだが、その感情の方向性が歪んだ物だった場合…それも必死に良い方向へ持って行こうとした、…のにも関わらずそれガン無視で悪くなっていったとなれば?
パニックホラーかな?勘弁してくれ…。
失敗作扱いされて放置くらってたコクヨウが歪まない様、俺も情操教育は頑張ったんだよ?
「現在進行形で身勝手の権化に言われましても。…それに、遅かれ早かれでしたので。…では、私の権利は回復したと捉えても?」
「暫定として返しましょう。完全な復帰は…一週間後、貴方の取った行動で示されます。」
「そうですか。…離して下さい。」
「良いでしょう。」
此処に来て漸くかよ…。
「シルバ、今後の予定について…どうした?」
「………………(唖然)」
「シルバ?……仕方ないか。」
俺は唖然の表情で固まったシルバの手を連れて部屋を後にする。
…手を握った瞬間、繋いだその手に対して主に背後から猛烈な視線を感じたが…んにゃぴ、俺はよく分からない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、これよりシルバの社会復帰プログラム、その最終段階へと…。」
「お待ち下さいヒューム様、私はまだ社会へ飛び立つことが出来ません。」
「いや、出来る。そこはしっかり保証出来る事項だ。…だから今更になって赤ちゃんの真似するのを辞めろ。」
「ばぶぅ…。」
「早く揺籠から降りろ!そのサイズの服も、その赤ちゃん用品も一体何処から…。」
くっ、ゆくゆくは赤ちゃんプレイをしてもらう…或いはする為に買っておいたセットを引っ張り出してまで抗議してみましたが不発でしたか…。
「……いやです…。私は…ヒューム様と離れたくありません。」
「確かに毎日会えなくなるが別に今生の別れって訳でも…おいお前いつ着替えた?」
「どうして…どうして私を選んでくださらなかったのですか!?」
「おい聞こえてたか?こえーよ。」
……分かってる。ヒューム様はコクヨウに仕える存在。そんな存在が己の主ではなく、唯のメイドを選ぶなんて話、それこそ都合の良い創作だと言う事程度、分かっている。
けれど………私を選んで欲しかった…。
「…………。」
「……私が事故にあったヒューム様を見つけられなかったからでしょうか?それとも女装したヒューム様をヒューム様と認識出来ずにストーカーレズとして邪険に扱った事ですか?それとも…。」
「別にそこは気にしてないからそれ以上蒸し返すな、いいか?そして、何度でも言うが別に今生の別れでは無いからな?」
…今生の別れでは無い…それも確かにそうだ。別にプライベートで会えば良い話だ。が、それではダメ、ダメなのです…。
「確かにお前はまだ危うい。しょっちゅう道に迷う、他者の話を聞かない、辺なところで抜けてる、倫理観についても節々から未だ怪しい気配がする。…が、そもそも論として完璧な状態で社会に放たれるなんて、そんなうまい話はない。大体…。」
「………。」
ヒューム様と私、その“上下関係”が大切なのです…ッ!上下があるから支配する、されるが生まれる!上下があるからこそ抑えつける、引き摺り下ろすの攻防が生まれるのです…ッ!
対等なんて面白く無い。私はヒューム様に支配されていたいのです!そして…その中で私はヒューム様を…支配したい…♡
ふむ、かくなる上は…。
「誰しも不完全な状態で放り出され、そして荒波に揉まれて生き方を学んでいく、それが成長だ。だからだな…。」
「一週間…。と言う話ですが…。」
「…ん?」
「つまり一週間で私の有用性を示すことが出来たなら!幾らあの暴君とて横暴な物言いは出来ないはずです!」
「いや…だから…。」
「わたしは決して、“決して”この地位を、この環境を手放しません…ッ。では、失礼しました。」
私とヒューム様のラブラブランデブーなこの空間を破壊させるものですか…ッ。私は…!決して!この最高の主を手放しません…ッ!
……5日後……
「終わりましたぁぁぁあ!」
私は一人、自室のベッドの中で絶叫した。
残り2日にして有効な手立ては打てていない。大体そもそも私が何かしたとしてもアレはそれをブッチして辞めさせにくるだろうし、そう考えれば普通に別のことをするべきだった。
「悔しいですが私ではアレに勝てません…ッ。……かくなる上は…ッ。」
コクヨウへのアプローチは無駄、そうなれば最早道は一つ。…ヒューム様の、より深い所に潜り込むしか無い。ヒューム様がコクヨウに多少反抗してでも私を守りたいと、そう思ってくださる領域まで…ッ!
「豹変酒…飲んだ対象の性格を反転させると言う効果を持ったこのお酒をヒューム様に飲ませて……ッ。」
大凡の傾向として反転すると聞く。強固な理性と高い倫理観を持つヒューム様の反転となれば、ガタガタの理性と低い倫理観、そしてそこに私を添えれば…ッ!
「それはもうズッコンバッコン…!私としてもこの結末は不服でしたが最早背に腹は変えられません。えぇ!決して!お酒の力を借りたとは言えヒューム様から襲って頂ける日が来るなんてと胸を高鳴らせてなんて居ません!」
極端な程に苛烈になると聞くので…あぁ…高鳴ります…♡
ヒューム様はどのような手段で私を責立てるのでしょうか?私を足蹴にすればする程に上下が刻まれて私は幸せ、そしてそこから下剋することで更に幸せ、別に出来なくてもそれはそれでヒューム様なら本望なので幸せ…完璧〜♡
…だからこそ…。
「あんのすかし淫乱女に私のパーフェクト設計を破壊されるなどあり得ません…ッ。」
そうと決まれば早速…っ!
「そこに置いておけ、気が向いたら飲む。」
「そうと言わずに…。」
「置いておけ。」
「ばぶぅ…。」
そうでした。ヒューム様はお酒を滅多に飲まないのでした。ガッデム!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……くぅ…終わった…。」
相変わらずデスクワークは身体に悪い…。現場仕事がキツいのは勿論だが同じ姿勢で書類仕事も中々苦行だよ。何より運動しないから自分が退化していく実感がある。
「……酒…か。」
シルバから貰った酒。良い酒らしいが生憎飲まないので銘柄を見てもよく分からない。
…よく考えたら断るのは良くなかったかもしれない。実はもう彼女なりに諦めが付いてて、この酒はいわゆる思い出作りの一環で…やはり悪いことをしたかもしれない。
「……ちょっと飲んでみるか。」
一緒に呑んでやろうとも考えたが、いざ呑んで口に合わなかったからその後が地獄になる。味見程度と少し…。
「……辺な味だな。いや…酒を飲まないからよくわからない、もう少し呑んでみるか。」
……。
「やっぱり変じゃ無いか?…そうだ、呑み比べてみよう、それで決着がつく。え〜…ここら辺に…。」
………。
「へっ…けへっ、ワインと混ぜたらどうなるんだらなぁ?」
…………。
「チッ、もう無くなったのかよ…しゃあねー、厨房行ってパクるか…。」
両手に瓶を持ち、ラッパ呑みしながら覚束ない足取りで厨房に向かう。
が、勿論こんな酒酔いにまともな思考回路が残されている筈なく、あやふやな記憶、そして深夜帯で辺りは真っ暗な事も相まって、見当違いな場所を徘徊し始めた…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はむ…(ぼり、ぼりぼり…)」
やっぱり手掴みで頬張るクギの実は背徳の味…!ヒュームがクギの実を話題に出すから…ここ最近はつい手が伸びてしまいます。なのでこれは仕方ありません…!
「……(ぼり…ぼり…。)………。」
少し…事を急いでしまったのでしょうか…。
あれ以来明らかに会話はおろか対面する時間すら減っています。
あのメイドが何やらコソコソしている事は把握していますが所詮その程度、今更どうにかなる術など持ち合わせている筈がありません。
「…やはり、少々強引過ぎましたか…。」
ですが、それもまた必要な事です。と言うのもここ最近の行き過ぎた行動は目に余ります。
な、の、で、ひじょーに心苦しく不本意ながら少しお灸を据えなければなりませんし、それに自由意志を押し付ければある程度の反発が出ます。
幾ら彼と言えど魔族、弾圧は反発を生む。そうすれば…。
「最近はめっきり大人しく従順な貴方も…多少生意気にはなるでしょう?」
有象無象が牙を剥く事に何の意味もない。寧ろゴミムシ如きが烏滸がましい…ですが、ヒューム?貴方なら…。
「最近の弟は張り合いがありません。」
それでは面白くありません。…昔はもっと私のする事全てに干渉して来たというのに…。
「なのに…今となっては口出しする事も稀、多少の抵抗はありますが随分と柔らかく…ありたいていに言えば物足りません…。」
張り合いが無いのです。
今の貴方はただのYESマン、貴方は私に服従してしまったの?明確にどちらが上かとも言い難く、表の上と裏の上の駆け引きが良かったのに…今では鳴りを潜め、尽く仰せのままに…。
これがまさか倦怠期?もしや私に愛想を!?
危機感…。このままでは私に興味を無くしてしまうのでは?
「……はむはむむむむ(ぼりぼりぼりぼり!)」
そんな事はあり得ませんし認めません!そうです!ヒュームは!私の弟は無害を演じているのです!興味がないふりをして私の隙を狙っているに違いありません!
貴方は私だけを見ていればいいのです!!!
ガチャン!ドカカ!
「……?」
何やら廊下が騒がしい…。……私の部屋の周囲で暴れるとは良い度胸です。優しく殺してあげましょう。
ボウルを机に置きドアへ赴く。
さて、恐らくはあのクソメイドが嫌がらせをしているのでしょうね。本当に小さい女です。…が、ここまで来るのであれば好都合、それに…アレの骸をヒュームの目の前に晒せば彼も諦めがつくでしょう。
「哀れな弟の、不要な執着を消すのも姉の役目です。貴方が執着して良いのは…私だけですから。」
ガチャリ……
「わざわざここで暴れるとは…良い度胸です。貴女にはヒュームの目の前で散ると言う名誉ある死を…あ…た……え?」
「ん?貧乳淫乱クイーンの癖に偉い口ですね…?これは…教育が必要ですか?コクヨウ様?」
闇に浮かぶ不適な笑みにギラついた瞳、口調はいつも通りなのに語気の圧が明らかに高圧的。
あり得ない…そんな…ありえない…。
そんな目で見られたら…そんな顔で迫られたら…ッ。
「…あっ…好き♡」
「何悦んで居るんですか?。我らが王がこんな飛んだド変態魔人だったとは…気持ち悪い…。」
「〜〜ッ♡!!」
基本逃げ腰な主人公がなんやかんやで豹変して普段やらない事やって逆に押す側に回るの好き。
そんで持ってそれにゆくゆく首絞められるのも好き