担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
あ、失礼…正しくは “していた” でした。
龍は唯我独尊、己の身一つこそ至高でありそれが事実。これが奴らの基本思考。そしてそれに見合う実力も持っているから誰も首を横には振らない。
そんな龍が自身の一部を他者に与えると言う事は、俺からしてみれば非常に高価な財産を与える事に等しい。
与える物はより重要な部位ほど重い信頼を置いている証拠。大切な物を与える程強く想っているからこその所作。
鱗から始まり、爪、牙、血、甲殻、皮…肉、骨、臓…。
……もし、もし全てを与える事にした龍が居たら?
そう、全てだ。…こんな昔話がある。
昔々、とある龍が居た。その龍はとある異種の者を大層愛したらしく、初めは鱗から始まり、牙、血とグレードを上げて行った。
そして… 龍の執着は日に日に増し、遂に自分の一部を上げるに留まらず、自分を使って欲しいと考えた。
やがて龍は執着心と独占欲を暴走させた。
身に付けている防具、振るう武器に嫉妬し『貴方を護るのは私、貴方に振るわれるのも私』と、己の鱗と甲殻と骨を加工させた武具を身に纏わせた。
次に食する物に嫉妬し、自身の肉を食う事を強要した。
そして最後に、家に嫉妬し…己の中で住む事を願った。
異種の者は大層困った。これを受け入れ続ける事は不可能、しかし拒絶すれば何をされるかわかったものじゃない。
そこで…口を開けて待機する龍に向かって、異種の者は龍にこう提案した。
『君が君の体で最高の家を作ってくれないか?』
龍は晴天の霹靂を受けたかの様な表情を作ると直様取り掛かった。
鱗を剥ぎ、皮を剥ぎ、外壁にした。骨を抜き文字通り骨組みを作る。
龍は繰り返した、部屋を作り、家具を作り、着替えを作り、風呂場を作り…。
……龍はやがて力尽きてしまった。自身の命すら材料に、愛する者と自分の二つで完結する世界を夢見て…。
「この話から得られる教訓は…そうだな、龍の感情に対する取り扱いは頭ひとつ抜けて慎重に…と言う話だ。」
龍の思考回路はブラックボックス。特に執着心と独占欲に関しては振り抜けてる。強者であり協調性が無く単独で暮らすが故に、顔色を窺う事を知らない。一旦お気に入りを見つければ相手などお構いなしだ。
龍は長命だが数が少ない。そして分布範囲も疎ら、加えて高い自尊心が災いし交流もなく、何なら繁殖能力事態が低い。こんな暮らしだから勿論出会いの機会も少ない。
だからこそ、一度気に入った相手には相手が自分を受け入れるまでアピールし続ける必要があるのだ。一生に一度、あるかないかの大一番を絶対に逃さない様、未来のパートナーを物にする為に、そのために備わった執着心と独占欲。
これを龍以外…他種族に向けた場合悲劇が発生する。
「成る程……。私今物凄く嫌な予感がしているのですが…。」
「そうか?取り敢えず行くぞ。」
「ヒューム様帰るべきです!此処は……ッ。」
「ヒューム…?」
「駄目です…これは…っ。」
「…言いたいことはわかるが…もう遅い。」
ペタ、ペタ…
「ヒューム?ヒュームなの?」
ペタ…ペタ…ペタ…
「ヒューム様…ッ!?件の龍とはまさか…ッ。」
「…そのまさかだ。…他言するなよ?コクヨウにも言ってない秘密だからな。」
「……ふふっ、ようこそヒューム、私達“だけ”の愛の巣へ…。……そこの白いのはペット?」
「私をペット呼ばわりしていいのはヒューム様だけです。」
「まずペットである事を否定しろ…。」
暗闇の奥から姿を現したのは…月光に翳した青い水晶を思わせる少女。
うすほそな体格なのも相まって…触れれば割れてしまいそうな程に儚げで…ながらも、漲る力、その一端を感じることも出来るのはやはり龍だからこそ。
「なんて言う格好でヒューム様の前に…っ。」
「辞めろ…。」
「これは…申し訳ありません…貴方の方から出向いてくれるなんて初めてでつい浮かれて…あぁ思えば表の張り替えもまだで……。」
やたらと際どい服装…と言うのも烏滸がましいか?…血塗れで乾いたボロ布一枚が辛うじてウィークポイントを抑えるのみで、大胆とかそう言う次元じゃない。
水晶か、或いは月光か…。透き通る蒼、麗しい髪と瞳を持ち、何処かあどけなさか、幼さ残る出立ちながらも歴とした大人である事をしめす肉体美。要所の節々から感じる気高さは、見るに耐えない見てくれなれど消え切らない。
「…?…マジマジと見られてしまうと…照れてしまいますわ…。」
「…。申し訳ありません。」
「…ん"ん"ッ、見るならどうぞ私を…。」
「それは別に良い。」
「そんなぁ…。」
「ふふふっ…。」
…そして…彼女を人外たらしめる、不釣り合いなぶっと尻尾…は半ばから切断され、大小合わせれば六本生えた立派な角…は一番大きな角が両方半ばから折れ、そして如何にもドラゴンと言った厳つい翼…も腕で表すと肘の辺りからなんか無くなってる。
他にも体の各所に鱗が生えているが、岩壁のものとは同一の物とは思えない程美しい。
「それにしても今日はなんて喜ばしい日なのでしょう?漸く…漸く漸く漸く漸く漸く漸く漸く漸く…長く長くお待ちしておりました…。全ては貴方を迎え入れる為に費やしたのです。さぁ、奥へ…私達の愛の巣へ…♡」
絵に描いたような満ちたり顔。淡く発光する瞳は何処か惚けている様で恐らく無意識…と言うか癖みたいな物だな。チロリとはみ出した舌、そんな舌の先は二股に分かれていた。
所謂スプリッドタンって言うヤツだな。あれ?スプリットだっけ?まぁあいいか。取り敢えずここは丁重にお断りだ。
「申し訳ありませんがそれは出来かねます。」
ガーン
別に見えた訳でも聞こえた訳でも無いが、俺の否定を聞いた今の彼女の反応を見ていたら全自動で脳内再生された事を此処に残す。
「な…なぜ…ッ!?見栄えも高め、広さも確保しました!此処は玄関ですから物は少ないですが奥に入って頂ければもっと本格的に…っ!」
「……確かに見栄えは…個性的でしたが…。」
うん、色んな意味で視覚的インパクトは666点だな。
新旧煮詰まった血塗れの鱗と皮を継ぎ接ぎで貼り付けた岩壁が来客を迎え、肋骨と甲殻を加工して形作られた巨大な門が中へと誘導する。内部は広大だが非常に生臭く常に血の匂いが充満、光源も殆どなく時折り設置された蝋燭台も骨と肉を継いだ悍ましい物。
邪神でも召喚する気なの?
「…ッ!それでは…ッ!」
「ですがそれ以外において減点です。まず…この匂いはとても受け入れられない物がありますし、第二に余りにも皮肉骨臓の主張が激しく…まるで腹の中にいるかの様です…。」
腹の中。自分で言って何だが此処を表すのに打ってつけだ。ズタズタの胃袋の中にいる気分だ。
「それは…。…ヒュームの肺に入るのは私でなければならないから、ヒュームが感じる匂いは私でなければならないから、貴方を巡るのは私、貴方を包むのは…私でなければならないからですよ?」
さも当たり前かの様に淡々と狂気じみた事を抜かす…。
これを濁った瞳とかハイライトオフとかもなく、いつも通りの調子で話して見せるんだからキツイ…。正気に発狂してる。
「壮大な夢ですね。」
「…?夢などではありません。現に今…叶っていますから…ふふ…それでは奥へ、愛の巣へ…♡」
「無理だ。」
「なんでですか!?」
なんでじゃねーよ、隙あらば引き込もうとしてくるの怖すぎる。、
「…『ドラグニカ』様…理由は既に話した筈です。」
「……まだ足りないのですね!」
「違います、やり過ぎです。」
「やり過ぎ…?いえそんな事はありません!そうならば既にヒュームは此処に棲んでいる筈です!此処に棲めない、つまり私の創意工夫が足りないと言う事に他なりません!あと様付けは辞めなさい。」
「………。」
「…そう言えば、そこのペットの方が背負っている荷物は…?」
「…!これは…手土g「プ…プププププププレゼントですの!?」…そう言う事でいいです。シルバ、もう下ろしていい。」
「かしこまりました。」
「お眼鏡に叶えば良いのですが。」
「…本?」
「はい、外の知識を知る事は何か新しい刺激となります。」
出来ればその歪んだ認知も正して欲しい。
トントン…
…背後から肩を叩くのはシルバ、口パクで何かを話してるが俺は読唇術も心得てるのでバッチリ分かる。
「………(この女イカれてますね)」
「……(知ってる)」
「………(本当に協力してくれるのでしょうか?)
「……(何とかする)」
「…………(分かりました。…しかし、まさか魔王の次女『ドラグニカ』とこの様な関係だったとは…)」
「………(事故だ、とにかく口を噤め)」
「む。」
「は!そう言えば!産まれましたの!!私と貴方の卵が!!」
「…は?」
「頼むから口を閉じてくれ…。」
『昨日まで此処にいたのですよ…。』と、とても愛おしそうに自身の下腹部…胎を摩るドラグニカ。俺は一体いつドラゴンセッ◯スをしたんだ?
………
……
…
「はい、愛の卵焼きです♪」
「……(絶句)」
「……これ私も頂くので?(ドン引き)」
「はい!しっかり味わってくださいね♪」
「………(やっぱり頭おかしいですこの女!…何で料理の完成度は高いんですか!?)」
「…(分かってる!)」
地獄みたいな環境でお出しされた料理とは…卵焼きだ。
この世の終わりとも呼べる環境で調理されたとは思えない完成度の卵焼きを前に、壮絶な葛藤をする俺達。
あ、勿論“全て”ドラグニカ由来だ。椅子は骨盤と大腿骨、机は甲殻と肋骨、食器は…鱗を加工して作ってある。俺たちを呪殺したいの?
「あ、ヒュームの器は特別に私の逆鱗を使ってますの!」
「そ…そうですか…。」
嬉しくねーよ!て大体食欲なんて湧くわけないだろいい加減にしろ!
てか逆鱗を皿に加工するとか聞くヤツが聞いたら憤死する案件だろ。
「……(想像妊娠で産んだ自分の無精卵食わせるとか頭湧いてます!もう色々と駄目ですよこのイカれ女!)」
「……(何も言えん)」
「…?どうかしましたか?さ、冷めないうちに!」
「…い…頂きます…。」
……。
「「……(何で美味しいんだよ!)ですか!?)」」
俺達の渾身、魂のツッコミは心の奥だけで炸裂させる。
そりゃ龍の卵だぞ!?超希少な最高級食材だ美味いに決まってるだろ!(血涙)
くそっ!いい加減こちらから話を切り出さないと…ッ!けど…ッ。
「ふふっ♪また一つ一緒ですね…♡」
「……(言いたくねぇぇぇえ!)」
「……!(早く切り出して下さい…ッ!この様なところ!一刻も早く離れるべきです!)」
めちゃくちゃ機嫌良さそうな所に、絶対不機嫌になる様な情報叩きつけないといけないんだぞ?お腹がキリキリする…ッ。
くっ〜…やるしか無い…。
「……ドラグニカさ…いえ、ドラグニカ。…今日わたし達が此処に来たのは…。」
「当ててあげます、“お願い”をしにしたのでしょう?」
揶揄う様に目を細め笑う。けれど何処までも純粋で…あぁだから嫌なんだよ、やることなす事目も当てられないがしかし…全くの悪意が無いから言うに言えない…。
「その通りです。結論を言います……『カゲロウ』を退治をお願いしたいのです。」
「………。」
「「……!((ひぃぃぃっ!))」」
虚無、瞬きの後一切の表情を思わせない無表情になって居た。
おしっこちびっちゃいそう。そもそも、目の前に座すは【王】だ。それも扱いの難しい龍の。暴れて見ろ、3秒と立たず消し炭になる。
正しく戦々恐々…だったのだが、次第にその表情には悲しみが浮かび上がり…涙すら浮かべていた。
因みにこの涙で致死率100%の病治ります、くれ。それか赤い納品ボックスに入れといてくれ。後ついでに卵もよろしく。
「…ヒューム…私は悲しいです…。日々貴方のことだけを想って身を削る毎日、いつか訪れる、幸せな日々が訪れる…そうやって漸く、漸く私を受け入れてくれたと、貴方のくれた本を一緒に読み過ごし、幸せが訪れると信じていたのに…。」
「蓋を開ければ私を利用する為、なんて薄情なのでしょうか?このドラグニカ、深く悲しみ痛く、痛く心傷を嘆きます…。」
「…それでもわたしは止まれません。貴女が傷つくと分かっていながらもこの道しかわたしには残されていませんので。」
「………羽虫が貴方を追い詰めているのですか?」
「そうです。」
「その羽虫は何処に?」
「…喰魔領の食糧生産地、詳しい座標は…。」
「なぜ?魔人を統治する貴方がなぜ喰魔の件で追い詰められているのでしょうか?」
「それは…。」
「…まさか、脅されて?可哀想に…。横暴な四女に脅され、不出来な七女は流されて、やりたくもない虫退治をさせられ私に泣き付いたのですね?分かりましたそれではまずルーファスを潰しその次にコクヨウを消しそして羽虫を落としましょう!それで万事解決…。」
「少しお待ち下さい。話が先行しすぎています。一先ずわたしの説明を聞き入れてはもらえませんか?」
「そうですか?…いいでしょう、貴方とのお話も好きですよ?…内容は少し不満がありますが…。」
・・・ヒューム説明中・・・
「成る程…では人間を滅ぼしましょう!」
「お待ち下さい何故そうなるのです!?」
「なぜ?喰魔が勝てば全て解決する話ではありませんか?私としては何故貴方が危険を犯す必要があるのか理解出来ません。」
「……。」
「貴方の計画は…まるで喰魔との関係を悪化させるリスクを負ってまで人間との衝突を避ける…、まるで人を守ろうとする様な動きにすら見えます。確かに人は強い、しかし私の助力が得られるならば話は変わる筈ですよ?全盛期ならいざ知らず、今の人間など羽虫を潰すより容易い…。なぜ?そこまで面倒な立ち回りをして何の利益があるのでしょうか?」
「………。」
「私としては貴方以外どうでもいいですが、貴方は別に人間の事を考える必要はありません。人間がどうなろうとどうでもいい…そうでしょう?」
……ゴリゴリどうでも良く無いんだよ!!!だって俺がその人間なんだからな!!!
困るんだよ…!俺の帰る場所が喰魔の『食民地』になっていたらな!
シット…見立てが甘かった。どうせ外の事なんて知らない『引きこもりゅう』だと思ってたのに…ッ!
てかおいシルバ!お前何成る程って表情してるんだよ!?お前俺の味方しなきゃダメだろ!?!?
…あ、そうだった、俺の周りには今も昔も敵か潜在的な敵しか居ないんだったな!最高かよ。
…しかし…マジか…。
コイツが加われば勝ててしまう…ッ!魔族屈指の戦闘力を持つ喰魔の軍勢にルーファスの時点でも相当キツイのに、そこにドラグニカ?分裂した今の人間ではこの戦力比は絶望的だ。かなりの領域と民を放棄する可能性が高い。
人だけが雑に損を被るルート。しかしながら魔族的に人などどうでもいいから実質ノーリスクってか?クソが。
さて…どう反論する…?この人外を俺は、どう説得するべきなんだ…?
没案として既に産んである卵を調理するのではなく、目の前で産卵する様子を2人は見せつけられ、そこから料理する予定でしたが流石にヤバいかと前者に修正しました。