担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
「………。」
口が渇く。俺の貧相な脳みそでは反論に困る訳だ。
だってそうだもん。ドラグニカ視点俺は魔族だからな、人間庇う必要が無いもん。そこに喰魔との関係悪化のリスクを加えたならば余計に。
はぁ…せめて人間が強けりゃなぁ。…いやまぁ十分強いよ?けれど昔も昔、人類連合としてブイブイ幅を利かせてた時代と比べれば小さい物。
個々の国家に分かれてる以上、喰魔と龍に攻められてる“他国”を態々助けるかって話だ。
「…あはっ!ふふふっ!そんなに深刻な表情をしなくてもいいですのに。貴方が何処までも優しいお方だと言う事くらい私も解って居ますよ♪」
「何ですかこの女急に正妻面始めやがりましたよ。」
「シルバ黙っててくれ。」
「優しい貴方は人の犠牲すら心痛めてしまう…何と儚いのでしょう…やはり私が守ってあげなければダメなのですね…。」
「コイツ「黙れ。」」
「ふふっ。いいですよ?今回は“貴方の都合のいい女”になって差し上げます♪それにゴミ羽虫如きが太陽を騙るなど言語道断、あぁ考えるだけでムカムカしてきます…。」
「…!それはありがた「ですが…。」……。」
俺たちの周りをゆっくり、ゆっくり歩き回り…そして芝居掛かった語り口で“対価”の話を始めた。
「とは言え、愛する貴方は私の心を傷付けました…。責任、取って下さいますよね?埋め合わせが必要だとは思いませんか??そう、例えば貴方が此処で暮らすと言えばこの傷も直様癒えるのですが…。(チラチラチラチラ)」
「それは無理です。」
「はぁ…。ま、そう言うと思っていました。仕方ありません…私は寛大でもありますので…。」
視線が俺の左腕に流される。…あ、これ多分あかんヤツじゃね。
「貴方の左腕で手を打ちましょう!」
「打つ手が無くなってしまいます。」
「心配ありません!まだ片方ありますよ♪それに今すぐにとは言いません、羽虫を潰した後、つまり後払いして頂ければいいので。貴方の左腕があればもう暫く待つ事が出来ます。本来なら貴方の全てが欲しいところを此処まで妥協したのです、どうでしょう?私は寛大でしょう?」
「…ッこのイカれ龍…ッ間に受ける必要はありませんヒュームs…ッ!?」
「ぐぉッ!?」
ズガァァァンッ!!
眼前に振り下ろされた尻尾。
…ぶない…ッ!シルバが抱えてくれなかったら間違いなくシミになってた…ッ!
シルバの鎖で簀巻きにされ背負われている。普通に恥ずかしいが命の危機が迫った状況だ、ぐっと堪える。
慎みなさい
…龍が居る。
見上げる程に大きく、そして透き通る水晶の様な質感を持ち、それでいて月光を思わせる淡く儚い輝きを持つ龍が。
しなやかな尾、四足に一対の翼、六つの角。そのどれもが欠ける事なく揃い、荘厳な絶対者は威容を補完する。
しかし、やはり“彼女”であり雌龍である事に変わり無く、筋骨隆々で刺々しい訳では無く、寧ろスマート。線が細く流れる様に滑らかでありその色彩も相まって絶対的龍でありながら本来感じ得ない儚さを演出して…あぁまさかドラゴンレビューをする日が来るとな…。
異議を唱えるならば、代わりを用意する物です
貴女にそれが出来ましょうか?
「……ッ。」
それではヒューム、また近いうちに…
「待て!まだ場所を…ッ!」
分かっています。煩わしい…ッ…あっ、今のはヒュームじゃなくて羽虫に言ったのですよ?勘違いしないでくださいね本当に。
その姿でオロオロされても色んな意味で反応に困る。お前の足踏みで死ねる物理的な意味でも、龍に弱腰になられてもどうしようもないって言う精神的な意味でも。
それでは私のヒューム、また近いうちに…
そう言うとドラグニカはこの住まいから飛び立って行った。…扉を粉砕して。予定調和、周囲には褪せた鱗が飛び散り骨が飛散する。
おいそれ仮にもお前の一部だったものだろと言いたいが…彼女的には寧ろ壊したいくらいだったかもしれない。
鱗を一つ手に持つ。
「……この性質もあの行動を助長させる一因なんだろうな…。」
価値ある物を渡すから意味があるのに、渡した瞬間から価値が無くなっては意味がない。…別に俺はそう思った事はないんだがな…。
「………ヒューム様…ッ!このままではあの気狂いドラゴンに左腕を持って行かれてしまいます!そんなうらや…あってはならない事ですッ!」
「それは後だ。予定通り協力は取り付ける事はできた。このままルーファスの元に赴き遅延工作をする。手筈通りお前は外から、俺は中からサボタージュを行う。…ん待てさっき何を…「何でもありません!」…そうか…。」
「それよりもです!ですが…ッ!」
「大丈夫だ。気にするな。考えはある、取り敢えず目の前の山場を越えることに専念しろ。」
「……かしこまりました。それではこのままお運び致しますが宜しいですか?」
「………そうしてくれ…。」
「ぐふ…それでは…。」
何でそんな嬉しそうなの?あ、そう言えばコイツSだったわ。
てかつい考えがあるとか言ったけど全然なーんだわ。どうしようもマジで俺左腕失うかもw…俺なんか悪いことしたか?
………
……
…
「いいか?戦闘は極力避けろ、お前の能力なら逃げる事には事欠かさないからな。…何でそんな嬉しそうなんだ?」
現在喰魔領首都、『ヴァタス』にて喰魔に変装して行動中。産業革命以降のドイツを思わせる街並みが特徴的。ま、街の雰囲気はまるで敗戦国みたいだが、どうしたん?そんな天文学的数字の借金負わされた訳でもあるまいし。
てのは冗談、なんせ慢性的な食糧不足、先の見えない未来、そしてそもそもの国民性が暴力的だからこそ皆がピリピリしている…。
…そんな最中でニコニコしてみろ!一体どんな難癖付けられるか…。
「いえ!いくら潜入とは言え、こうして街中を私達だけで歩くのは…その…まるでデー
「おいアマお前何処見て歩いてんだッ!?食っちまうぞ!?」
「殺します、許可を。」
「良いわけないだろ。」
「?何故です?」
「逆に今の流れで急に殺しが選択として降ってくるはおかしい。だからその心底わからないって表情やめろ。」
うーんこれは分かり合えませんわw
時空が歪むんじゃないかってくらいの殺意を滲ませるシルバを何とか諌め、前の状況を…。
ぞくッ
「……?ヒューム…様?」
「…いや、何でも無い。」
…そう、何でも無い…筈だ。よし。
大柄な鬼の男とその取り巻きどもがなんかデカい荷物を持った、ちょうど俺くらいのフードにマントを着込んだ女性にガンつけてる様子でこりゃ大変そうだ。
誰か付き添いのヤツは…いる様には見えないな。
位置関係は俺達、フードマント、鬼は向かい合ってるから鬼の表情はわかるが、フードマントの表情は窺えない。…が、大丈夫そ?なんか微動だにしてないけど。
「おいクソアマテメーの躾のなってないクソ獣!ちょこまかと煽りやがって…ッ!…おいゴルァ聞いてんのかァン?」
「………。」
おいおい大丈夫か?鬼の顔がドアップで少女にガンを飛ばしてる。獣とか言ってたが…あ、確かにいる、少女の足元で震えてる毛玉。
しっかし肝っ玉だな…。ありゃ怯えて動けないんじゃない、ちゃんと受け止めた上で冷静に微動だにしていないだけだ。なんかフードにマントの時点で只者じゃなさそうだな。
「チッ…ん?スン…スンスン…。おい、テメェ…
…マジか…。
俄かに周囲がざわつく。そりゃそうだこのご時世人肉なんて高級品、騒ぎが大きくなりそうだ…。
「あぁくそ!アクロのヤツ案の定問題起こしてやがる…ッ。あー失礼失礼失礼〜、そこの奴の…あー親的なポジです〜。」
「ちょっ!…じゃあ私が母親!?あんたの妻とか役でも嫌なんだけど…ッ!」
「いいから黙って話し合わせろ!」
「あんだぁ?」
怪訝な表情で顔を上げる鬼。その意見に関しては俺も右に同じとさせていただく。
俺より後ろから騒がしい男女が現れ、そして少女の両脇に立った。
「あー…よう男前!渋いねぇー!そんな兄ちゃんには悪いんだが此処はその顔に免じて見逃してくれねーか?な?大体人肉だなんて…そんな
「誰がハニッ…そ、そうね、大方飢えすぎて空目空耳ならぬ『空鼻』でもしたんじゃないかしら?おほほ… 何よその表情ッ!」
「下手くそ!」
「ぶっ殺されたいの!?」
「……テメェら俺の事馬鹿にしてんだろ…。」
「「まさか?」」
コロスッ!!
「「……ッ!?」」
あちゃー、俺的には面白かったけど鬼的にはあの漫才は気に入らなかったらしいな。
「ど、どうすんのよ!」
「そんなの決まってるじゃねーか。……逃げるぞ!アクロ逃げるぞ!」
「……(頷く)」
ニガスカァァァア!!
おうおう怒ってる怒ってる…ん?…ッ!おいこっちに逃げてくるな…ッ!!!
「ヒューム様失礼致します…ッ。」
「うぐむ!?」
鎖に絡め取られ緊急離脱、俺がいた所を三人と一匹が過ぎ去り…そして巨漢が通り、すぐ後ろを腰巾着供が追いかける。
「……変わった者達でしたね…。見たところ喰魔には見えませんでしたし観光客でしょうか?しかし……もしや希少種族でしょうか?」
「どうだろうな、だがこれは暁光だ。あいつらが騒いでいると言うことは警備の目が多少剥がれる、潜り込むぞ。」
「イレギュラーすら糧にする…!流石でございますヒューム様!」
やけにヨイショしてくるシルバ。だが申し訳ない、俺の頭の中はあの一行で一杯だ。厳密にはデカい荷物を持ったフードマントの少女。
「…あのフードマント…確かに俺たちを見てた…。」
逃亡の際、フードの隙間から伸びた視線。偶然目に入ったとかでは無い筈だ、あの少女は確かに、俺を視界に入れてそして…これは見間違いの可能性が高いが…何かを呟いた。
…あの感覚と言い…アイツら何者だ?
………
……
…
「おい聞いたか?流れて来た話によると、なんとも人間共の国に攻めるんだとよ。」
「はぇ…、おりゃ肉食えればそれで良いが痛い目はゴメンだな。」
「んな、歳食った奴等はなんか血気盛んでやる気だが…。」
「生肉よりもマギリア生鮮食品のさっぱり味付けの肉缶詰が欲しいな。」
「あれ新しい味付け出たらしいぞ?だがまぁ、こっちに輸入されるのはいつになるやら…。」
…マギリア生鮮食品は我等が誇る食品メーカーです。生物から加工食品まで幅広く取り扱っており、規模としてもかなりのシェアを確保、ゆくゆくは人との貿易で一線に立って欲しい。
そんな事を思うのは俺、ヒュームだ。今はカーテンに擬態してサボタージュの機会を窺ってます。
てかまぁやっぱりと言っちゃあやっぱりだが戦争は嫌だよな。…どうやらやる気のやつも一定数いるみたいだが。
さて、俺の目的は書類の書き換えだ。わかりやすく命令系統をごちゃごちゃにして作戦行動どころじゃさせなくする。
んでついでにルーファスの弱点も抜きます。完璧だな!
「……(まずは高位の…侯爵クラスが目安だな。)」
喰魔の階級分けは爵位が用いられる。侯爵レベルなら殆どのセキュリティをパス出来るはずだから、そいつの後ろに寄生してより深くに食い込んでいきたいところ。
…侯爵レベルにそんな事してバレないのって?大丈夫だ問題ない。
フラグじゃないぞ?当たり前だがみんなが皆んな戦闘慣れしてるわけじゃない。腑抜けって言ったらアレだが、政治が食い込む以上ペラが回って立ち回りが巧けりゃ生き残れるし。
「………(例えば…アイツとかな)」
「はぁ…ッ、ルーファスの奴め…ッ、お前が死ぬ気でカゲロウを倒せば済む話だろ…ッなぜ私がこの様な雑務に追われなければならんのだ…ッ。」
きっちりした軍服着てる癖にに下っ腹が出た如何にも私腹肥やしてそうなアイツはたしか『ベルギン』侯爵。アレでも吸血鬼だが一般イメージとは程遠いな。まぁ吸血鬼はみんなスマートだなんて、アメリカ人は皆んな陽キャって言ってる様なもんでステレオタイプにも程があるし、現実はこんなもんだな。
「……!(お、アイツセキュリティ高めの区画に入っていくな?それでは俺も失礼して…)」
楽しんでる様に見える?…否定はしないでおこう。
さて!此処より先の内部情報は全く未知、案内人もいるが質問は受けていないらしいので気張っていこう!
弱者とヤバい奴が虚勢と勘違いがある前提で、薄氷の上だから話し合えてるだけ、つまり紙一重の会話をする感じを出したいんだけど難しいな。