担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
アクロと呼ばれた少女、彼女の得物は…まるで半端に乾いた粘土細工を強引に大剣という形に押し込めた様な、そんな武器。切れ味とかそんなのはどうでもよくて、ただ対象をぶっ壊さればそれでいい…そういう思想が丸見えだ。
対するシルバ。展開した靡く羽衣で攻撃…する事はなく、寧ろ愚直なまでに鎖を振り回し叩きつけ、そして白光混じりの爆発を引き起こす。
ひたすらな爆破と破壊…暴力的としか言えない戦闘スタイル、それは彼女の半生が導き出した苦し紛れの最適解。
恵まれた才とそれを生かす技が、確かにあった筈なのに、理不尽にも奪われ破壊され、それをこんな形でしか振うことができない、そんな現実に対する嘆きとも言えるか…。
「チッ…無駄に堅いッ!その力といい人間かも怪しい…ッ。ともあれ穢らわしいので…死ね。」
「
…んー、口ではあんなこと言ってるけどかなり活き活きしてる様子を見るに、そんな事ないかも知れん。
ごほん、さて謎の頭痛も晴れたし体も何とかなって来た、状況を整理しよう。
シルバとアクロがめちゃくちゃに敵対。アクロの付き添い2人は…アクロを止めたがっている。つまりあの2人的にこの交戦は避けたかった。潜在的な敵だが協力可能と見た。
…てかそう言えば毛玉は?逃げたか?…そりゃ逃げるか、俺ならそうするし。
どうやら2人は完全に自分たちの世界を作っている。…動くなら今だな。
「くぅ…何ぼさっとしてるのよジン!早く止めなさいよ!“剣鬼”だったんでしょ!?」
「おま恥ずい事言うな!それに無茶言う…。感覚麻痺ってねーか?魔族と人間は、基本タイマンじゃ勝てねーんだよ。張り合えてるアイツがおかしいだけ、んで…そんな奴らに割って入るとか自殺したいのかな?って話よ。」
「なら見てるだけ!?フィクも何処かに行っちゃったし…。」
「…そのフィクとは?」
「アクロと一緒によくいる獣よ。狐っぽいけど鈍臭いのよね…ん?」
「……それで?お前、誰だ?」
「あまり名前を晒せる様な者では無いので…。御好きな様に。所で我々は協力し合えると考えています。どうです?」
「…はぁ?魔族が?協力?大体アレ、お前の部下かなんかだろ?態々目の前に現れて喧嘩ふっかけられて…そこで手を結びませんかってマッチポンプもいい所だぜ?」
何やってるの?おい何やってるの!?コイツ…ッ!クビにしようかな?
「…〜はぁ…。はい、その件に対しては謝罪の用意があります。わたしとしては騒ぎなど起こしたくないのです。あなた方と同じ、見つかれば終わりの立場なのがわたしですので。」
「………おい聞いたか?」
「えぇ…。」
「「魔族が人間に謝罪…?」」
「…明日は龍の卵が降るかもしれんぞ。」
あ、そう言う認識なんだ。…ごとっとも!いやーやっぱりそうだよな?
「成る程な、お前さん喰魔の魔族ではないらしいな?…密偵…にしてはどうだか…だが、いいだろう。」
「信じるの!?」
「どの道ここで騒ぎ起こし続けてたらヤバいだろ!そのうち家主が戻って来たら…それこそ詰みだ。ガーバクとは訳が違う!…おいお前、いくら人間だからって舐めるなよ?お前程度なら撚れるからな?」
ふむふむ見えて来たぞ。
シルバも言ってたがやっぱりコイツら人間だな、それも勇者一行的な。
「結構です。それでは手筈を教えますので耳を拝借…。」
「……まさか魔族に耳を貸す日が来るなんてな。」
まぁ内容としては、シルバに関して、あれは我を忘れているが強い【命令】なら何とかなるはずだ。
【命令】はかなり重い意味を持つ。具体的には生き死にに関わる事=命令と言うくらいには。因みに普段使いは【指令】だ。
ただ…これ俺が凄いからじゃなくて俺の立場が凄いから効力を発揮してるんだよな…なんか虎の威を借る狐見たいで虚しい。
あ、アクロに関してはなんか効きそうなフレーズある?と聞いてみたところ…。
「…反応するフレーズは確かにある。」
「それはよかった、では行きますよ?アクロを引き止める準備を!」
「は?いくら何でも行き当たりばったりじゃねーか!?」
「時間がないんです取り敢えずわたしはこの場を解散したいんですよ!」
「急変!?お前物腰柔らかで丁寧キャラの癖に何でそんなアグレッシブなんだよ!?」
「シルバ!命令だ!止まれッ!!」
「かしこまりましたッ♡」
「だーもう!」
「あんな所に!パイルバンカーが!」
「
「何!?パイルバンカーッ!?」
「なんでアンタが反応してるのよ!…ごめんねアクロ!『緊縛』!」
パイルバンカーと言う言葉に目を輝かせながら振り返るアクロ、反応したワードは兎も角、純真さを裏切る様で罪悪感がすごいと言う表情の…名前聞いてないや、兎に角そんな赤髪の少女が景気よくそう唱えると…アクロは一瞬で光の縄に締め付けられ地面を転がった。
…?なんでお前もって?そりゃパイルバンカーが転がってるなんて言われたら振り向くでしょ。
んで次は俺らしい、やりたくない。
「…はッ逃す訳が…ッ。」
「シルバ、
「………ッ♡!?」
………。
「「「……。」」」
「……あーシルバ?俺は座れって言ったんだぞ?」
「
「やめろ!取り敢えず普通に座れ!誰がアヘ顔晒しながらヘソ天しろと言った!?」
あー…赤髪の女の子からゴミを見る様な目で見られてるし、ジンって名前のおっさんに至っては目も当てられないって感じで、アクロは…何で亀甲縛り何ですか?あなた方も相当ですよ!?
「…何ですかその目線は…。」
「あーいや、愛の形はそれぞれだぞ?」
「ゴミ。」
あー効く、女の子の純粋な罵倒は何故こうも俺の心を的確に削るのだろうか?魔族からなら何とも思わなかったのに…傷付きました、魔族裏切ります。
「…お仲間を亀甲縛りにして居る件については?」
「…!こ、これは…!」
「コイツ専用の捕縛術みたいなもんだ。ここまでしないと抜け出すからな。」
「そ、そうよ!てか私悪くないわよ!?捕縛術の最高位術式の形態をきききき…亀甲縛りにした変態に文句を言いなさい!私も被害者なの!ただでさえ目元がキツイから勘違いされるのにコレのせいでS呼ばわり…ッ。」
「黙れ人間共!」
「「「…ッ?」」」
突然吠えるシルバ、鬼気迫る表情威圧と殺意に満ちたオーラ、そして全てを台無しにするその姿勢、早く立ち上がってくれない?俺の評価もガタガタになるのよそれ。
「…ッせっかくヒューム様が私を調教して下さる気になって下さったのにその邪魔をするな!さ!ヒューム様!どうぞこの卑しいメスに愛の鞭を…♡」
「………(うわ…)」
そもそもコイツSじゃねーの?何でいつの間にMになってるの?なに?転向したの?
「〜〜ッ♡そのゴミを見る目♡そうです!それでいいのです!さぁ!私は淫売下賎な奴隷…!どうぞ使い、支配し、屈服させて下さいませ♡」
あこれ真性ぽくて泣きそう。俺の周りにはイかれた女しか居ないのか?泣きたい。泣いていい?
「……あぁ…なんだ…悪かったな…。」
「えぇ…ちょっと誤解してたみたいね…。」
「辞めてください、その同情は返って辛いです。」
「さぁ♡」
「さぁじゃねーよ!下水で盛るな!ほら眼帯返すぞ!大体ここ何処だと思ってるんだ!?ただの下水じゃねーぞ?ルーファスお膝元だか…。」
……ッ
紅い気配。あーあ、怒ってらっしゃる…。
「……気付きましたか?」
「あぁ、暴れすぎた様だな。…大丈夫か?レスカ。」
赤髪の…レスカと呼ばれた彼女は少しびっくりした様で腰を抜かしていた。…もちろんそうなれば緊縛は解除される訳で…。
「………ビスクル…。」
しかし、闇は消え失せ、先程までのごちゃごちゃとした雰囲気は感じられない。それなりに落ち着いたらしい。
「……ルーファスが来ます。それもカンカンに怒って…。……ここは私が何とかします、取り敢えず逃げて下さい。」
「「は?」」
「……???すみませんもう一度お願いします。」
まるで意味がわからないと言う表情のシルバ。お前は取り敢えず起き上がれ。あー汚い、さっきまでの神秘的なお前は何処に行ったの?
「だから、ルーファスの相手は俺がする。だから逃げろ。」
「いやいや!…お前死ぬぞ…!?バレたら不味いんだろ!?」
「確かに不味いですが一斉に逃げても無駄です、誰かが殿を務めなければなりませんが…この中に置いてそれを務め尚且つ生き残る芽があるのは私でしょう。シルバ。」
「はい。」
「…その切り替えは見習いたい所だ…。……代役はお前だ、ドラグニカのカゲロウ退治、それを見届けろ。負けるとも思ってないが万が一がある、その時は…手助けしてやって欲しい。」
「………。(不服)」
「そう言う正直な所は評価に値する。が公私を分けられないのは減点だ。」
「……わかりました。」
「ならお前ら全員行け、逃げられなくなるぞ。」
「……いいんだな?」
「お前らが居ると余計事態がややこしくなるの!早く行け!」
「おー怖い怖い、真面目な奴が怒る時は大概洒落にならん。レスカ、アクロ、行くぞ。」
「あちょ!……もう!あんた絶対死なないでよね!聞きたいこと山ほどあるんだから!」
「……またね。」
…今度は保護されるべき人間として出会いたい。
「行ってしまいましたが。何故庇うのです?」
「なにドヤ顔で隣に居座ってるんだよ、お前も行け。…ルーファス相手は本当に綱渡だ、1人で集中させてくれ。」
「……。」
シルバは…少し悲しそうな顔をした。珍しかった。なんだかんだで付き合いは長い俺ですら、こんな…何か色々な思いを含みその上で悲しむシルバを見たことはない。
「…お役に立てずに申し訳ありません…。」
「気にするな。十分役に立ってる。」
「…本当ですか?」
「…本当だ。」
「…では…ヒューム様の右腕を貰っても良いですか?」
「何でそうなるの?」
「具体的には下腹辺りに減り込ませて…。」
「一本じゃなくて一発の意味かよ。早く出ろ…。」
「はい。」
シルバは眼帯を付け直すと名残惜しそうに闇に消えた。
はぁ、アイツがまさか両刀だったとは、知りたくない事実だったな。
てかアイツのせいで言い訳考える時間が無くなっちゃった。
コツ コツ コツ…
「…ほう、成る程成る程…。これは実に愉快だ…。」
コツ コツ コツ…っ
「地下で暴れるクソネズミ、一体どんなゴミクズかと態々足を運んで見れば…。」
コツ コツ コツ…ッ
「飛んだ“可愛らしい”…愛しのネズミが居るではないか…。そうだろう?“私の”…ヒューム?」
「…奇遇ですね、ご無沙汰してます。」
「くくくっ… 相変わらずだな?」
「…ッ。…ッ!?」
耳から脳内に響く様な、そんな声。
闇の向こうから聞こえてきた声は喉を鳴らす様な、押し留めくぐもる様な笑い声。その後何かを喋ろとして…辛うじて見えた輪郭が溶け消え言葉は紡がれない。
そしてその続きは…俺の耳の側で。
「………ッ!?」
「くははははははっ!何という怯え振りだ!…その様な態度を取られてしまうと…もっと苛めたくなってしまうでは無いか…。…ふむ…そう例えば…この首を…。」
俺の首に当てられたしなやかな指。触れ心地はひんやりとしていてかなり極上、ぜひ俺の命じゃなくて息子を握って…ッ!?
「随分と余裕そうでは無いか、それは挑発か?それとも…とうとう私を受け入れる気になったか?」
「………。」
暗闇の最中背後を取られ、首を掴まれている。言葉の節々から感じる重厚な圧は、決して彼女が上機嫌では無いことを示している。
「時にヒューム。我らが吸血鬼は捕食の際、こうして裏を取るらしいぞ?先ずこうして首を抑え、次に腕ごと体を抑える…そして…はぁ…無理矢理首を傾けさせ、晒された首目掛けて牙を突き立てる…ガブっ!…少しくらい動じろ。」
「申し訳ありません、怖がる訓練を受けていないので。」
「…くくっ、やはりどうにもお前が欲しい…。」
当たり前だがもう適当な事は言えないし、思う事も多分許されない。
生かすも殺すも彼女次第、そんな最中で俺が言うべき最適な言葉は…。
「では、そういたしましょうか?」
「……ほう?」
まぁこうなるよな。
多分このシーンコクヨウちゃんが見たらマジで脳みそ爆発します。そして世界を呪う魔王になります。