担いだ神輿が重すぎる!   作:ノコギリヘッド

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 なんだかんだで信頼置いてるやつが実は地雷、好き好き大好き(もう古いか?)


非日常が重すぎる

 

 

 

「〜ッ!?」

 

 

 悍ましい気配を感じ震える。具体的にはすごく粘っこくてしっとり、尚且つかなりの熱を帯びた…とにかく無性に恐怖を感じた。

 

 

「こんな所もう沢山だ…ッ。」

 

 

 あの後あね…ボスが急に引き篭ったからもうてんやわんや、後処理に追われて死にそう。

 やっぱり魔王の子供は魔王だな。

 

 

「思えばよく生き残ったな…。」

 

 

 当時10歳の時、手頃な食料として拉致られた俺は大体10万円程度…やっすい養殖マグロ程度の価値で売り飛ばされ無事食肉…になる前に、運良くキャンセル、そのまま各地を転々とし魔王城の晩餐に出されることとなった。

 

 そこからは…ちょっと特別な境遇を最大限活かしてなんとか生き残って…たらなんかあの種付けチンパンに気に入られ『今日からお前は俺の家族だ』されて…。

 別にあの馬鹿チンからファミパンは食らってないけど、それ以外で酷い目にはあった。

 

 

「俺に降り掛かる凡ゆる不利カードをチャラにしてくれる魔王の息子の名義は確かに助かった…が。」

 

 

 アイツ唯一の父親ムーブである『人間だとは気付かれなくなる魔法』を教えてもらわなければ本当に危なかった。

 が、魔王の息子カードも魔王の子供達には通用しない。なんなら俺は末っ子だったから何もかもあっちの方が上。

 魔族は様々な種族がいるが皆例外なくかなりの階級社会なのだ。…人間もそう?

 

 …もうね、やばかった。気付かれないだけで人間だからな、匂いひとつでお前美味そうだなだの…俺を食うだな飼うだの殺すだの実験に使うだのその他色々…。

 

 

「そして…これ。エルデ◯リングかな?」

 

 

 頭のおかしい種蒔き魔王が急に失踪した事で、その息子娘達にには魔王になる権利、“王片”が与えられた。彼等彼女等は自らをバックアップしてくれる種族に散り、そして統べ王として君臨した。

 

 さてここで問題が発生した。王片は実子にのみ反映される為俺に王片は無い…がこれは朗報だ。

 問題なのは名義の方。魔王の権利は無くとも名前は付いてくる。

 

 

「名義のせいで半端に発言力のある俺が、この状況で見逃してもらえるはずもなく。」

 

 

 雑魚一匹でも不安要素なら消しておきたい。何なら雑魚のうちに潰しておきたいのが権力闘争。

 逃げも隠れも出来ず、一人で孤立しては殺される。

 そこで俺は下痢の滲む苦悩の末、断腸の思いで一番マシなボスを選び、そして全力でヨイショした。

 ボスは強く後ろ盾となる『魔人』もそこそこ影響力がある。ただ彼女に足りなかったのは…まぁ、全部かな。

 

 

「その空白を埋めたのが俺って訳だ。なくてはならない忠臣ポジに収まりなんなら影から操るムーブをしてみたりしなかったり…。」

 

 

 政治に疎いが面はいい客寄せパンダを神輿に担ぎ上げ、その裏で糸を引く…悪い政治屋がよくやってそうなムーブ。

 分析の結果ボスは兄弟姉妹の中で一番神輿適性が高いと言う計算結果が出た。食人の習慣が“ほとんど無い”し本人自身政治に疎いし…。

 そんな訳で一か八か、このルートを目指したんだが…。

 

 

「ご覧の通り。地頭がいいせいでもう俺抜きでも回せる程度には成長してしまった…。教えたの俺だけど。」

 

 

 これ喜べばいいの?それとも悲しむべき?

 …いやだって求められたら従うしかないじゃん?それにボスからの政治依存度を下げれば俺が雲隠れしやすいかな…って考えてたんだけど、結果はご覧の通り。知ってか知らずか俺が逃げる前に外堀埋められた。

 

 

「…いや、まだ終わっちゃいない…!俺は誰だ?全員捕食者な世界で生き残って来た生粋無敵のサバイバーだぞ?」

 

 

 長々と振り返って見たがよく生きてるな俺。さらっと流したが兄姉の絡みマジキツかったからな?俺人間だぞ?戯れ合いで『あ、なんかバラバラになっちゃった〜。』が罷り通る上でバレちゃダメなんだぞ?

 

 俺唯一の自慢は欺瞞魔法がマジで比肩する無しレベルの練度だと言う事。んで俺の欠点はそれをバラしたら詰むって事。

 

 

 コンコン…。

 

 

「……入れ。」

 

「資料を持って来まし…うわ…。」

 

 

 うわってなんだよ傷付くだろ。

 

 

「それはここに置いておけ。それで今日は終わりだ、休め。」

 

「…?もう、ですか?…それはボスが引き篭ったからでしょうか?」

 

「そうだ、タダでさえ予定が詰まっているのに、その予定に大幅な修正を加える必要が出て来た。優先度の高い業務は通常運転させるがそれ以外、優先度の低いタスクは停止させる。」

 

「…なるほど。で、私は何をしましょうか?」

 

「…?だからお前はもう休みだ。言っただろう、優先度の低い仕事は一旦停止だ。俺の手は2本だけだ、何でもかんでも管理できる訳じゃない。」

 

「……優先度が…低い…?…誰が…私が…?……。」

 

 

 コツ…コツ…。

 

 

「……どうした?」

 

 

 間を置いた妙に耳に残る足音が近づいてくる。

 猛烈に嫌な予感がしたのでここに来て俺は始めて顔を上げる…が、居る筈の存在が居ない。

 

 

「…?何処に…。」

 

「此方ですよ。あ、な、た、さ、ま?」

 

 

YOU DIED

 

 

 …ってのは冗談。俺は努めて冷静に左へ振り向き、その美麗な横顔を拝見する。

 ゆるりと振り向き此方を見つめる右目は笑っている様で笑っていない。

 

 まず映る左目に眼帯を付け、服装は装飾質素なメイド服、そして千切れた鎖の付いた首輪付き。

 その中でも尚目立つ色の抜け切った白い体色。

 髪も右目も皮膚すらも白く、しかし純白では無い、白色でも無い…ただ脱色の末出来た残り滓の様な白色の女が…にっこりと笑いながら…光の無い目で此方を覗き込んでいる。

 

 

「…俺が喉から手が出るほど欲しかった休みだぞ、ほら喜べ。」

 

「よかったですね、手が3本になりました。これで私に課されるべき業務も発生する筈です。」

 

「どんな化け物だ。」

 

「……。」

 

 

 いつもなら帰ってくる軽口も無し。

 

 彼女は元々、デカい商会との交友目的で買った奴隷だ。勿論今はもう違うが奴隷時代に受けた“躾”は一部未だに尾を引いている。

 例えば眼帯。これはかつて“溢れる”のを防止する為に付けさせていた名残りだ。もう外せば良いのに彼女は何故が外したがらない。

 この色もそうだ。苛烈極まるストレスと劣悪な環境が災いして色が抜けてしまったのだ。本来ならば淡く輝く白の筈なのだが…。

 他にも『白套』という人外部位がある筈なんだが、擦り切れて無くなってるせいでパッと見人間に見えるとかな。

 

 …悲惨すぎない?ただ俺の努力が実り、軽口皮肉を言う迄には図太く立ち直った筈なんだが…。

 

 

「給料を全く使ってないそうだな、どうだ?美味いものでも食べに行くことを勧めるぞ。」

 

「……。」

 

 

 そう考えたら俺もお腹減ってきた。寿司、焼肉、ラーメン、うどん蕎麦カツカレーハンバーグスパゲッティ…あー決めた絶対抜け出すこんな所!

 

 

「最近武器が壊れたらしいじゃないか、一つ見に行ったらどうだ?因みにお前に限ってそんなことはないだろうがしっかり申請はしておけよ?補助が…。」

 

「要らないですよ?」

 

「…でる…。」

 

「でも…何が欲しいと言われれば…貴方様が欲しいですね。」

 

「…へ?」

 

 

 まるで冗談。けれどくしゃみがギリ出ないあのもどかしさだろうか?俺はこのやりとりをいつも通りの延長線として捉え切れずにいた。

 正直動揺した。俺にとって『お前が欲しい』の言葉は割とトラウマでもあるから、思わず素が出るほどにはな。

 

 

「休みなんて要らないです、私は貴方様に使われる為に生きているのです、貴方様の支配あってこそ私は私として存在できるのです。さぁ、ご指示を、私を使って下さいませ。…出なければ…私が貴方様を…。」

 

「落ち着け。」

 

「使…「落ち着け、『シルバ』」…っ…。」

 

 

 彼女の名前は「シルバ」…老人の白髪みたいだったからその意味でシルバーのシルバ。我ながら適当かつ最悪の名付けだが当時の俺は余裕がなかったからな。許せ、サス…許せ、シルバ。

 

 

「何を言っている?使う?支配?奴隷契約は存在しない。強いて言うならそこにあるのは上司と部下の関係だ。…はぁ、言いたくないんだがな、俺は上司として命令する、お前は休め。」

 

「…それは命令としては…。」

 

「今回は面倒なことになった。いつもと違う、不測の事態だって考えられる。その時お前が暇じゃなければ…「わかりました。」…おう。」

 

「……“不測の事態”と言わせてしまったのは揶揄いが行きすぎましたね。」

 

 

 俺のそばから離れ、コツリコツリと足音を立て…机を挟んで正面に立つ。その姿は規律よく、出来た従者…ながらも服の端から見える鎖が異質さを醸し出していた。

 

 

「……何のことだか。」

 

「えぇ、何のことでしょうか。こほん、この失態、必ずや挽回して見せます。命令、承りました。」

 

「お、そうだな。」

 

「では…。」

 

 

 そう言い残すとシルバは白い塵になって消えた。

 これが一体どう言う原理かは知らないがカッコいい。が、普通に退出してくれねーかな?

 あとなーんか変な勘違いしてそうなんだよなぁ…。…ま、いいか!めんどくせーし!…てかやっべっ打ち合わせだ!

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「……よって、優先度を再考した結果ユーグ様主導の観覧の席は中止とさせて…。」

 

「ならんならんならんならん!我らが陛下のことを思ってこの為にどれ程の…ッ。」

 

「その陛下はお一人しかいないのです。それに中止と言いましたが実質延期です。無期限となりますが…。」

 

「それを中止と言うんだ!今でなければならないのだ!大体お前の様な青二才が…!」

 

 

 何をそんなピリピリしてるんだこのジジイ。なんか心なしか目もイッてるしお前変なクスリでもやってるんか?

 

 

「ががががまんならんんん!!?やれ!殺せ!このクソガキの首を取れッ!!!」

 

「…は?」

 

 

 かろうじて回る呂律から繰り出される号令に耳を疑う。ここボスこそ居ないが重鎮がそれなりに居る会議所だぞ!?ほらみんな、あの怖い将軍ですら目を丸くしてる…うわ!?

 

 

「……ッ!?」

 

 

 下から閃く白!俺はただ全力で椅子ごと後ろに転げる事でその初撃を何とか回避する。

 仰向けになった事で状況が把握できた。どうやら刺客は俺の上下左右から侵入して来たらしく、ただ左からすっ飛んできた刺客に関しては将軍のデンプシーが決まり撃沈。将軍つっよ。

 が、まだ右に一人、そして上から飛び込んでくる奴が一人、次こそ仕留めんと得物を振るう奴が一人。

 

 あぁ余りにも急展開。こんなにあっさり俺は死ぬのか…?

 

 

「クッ…こんな所で…ッ!……??」

 

 

 向かって来た三人全員が視界から消え、死角から3回ものすごい音が響き…。ゴトンゴトン、ゴトン…ゴトン。

 じゃらりじゃらりと音が鳴り、“鎖”に縛られた瓦礫塗れの刺客三人が投げ捨てられ…そんでついでにジジイが投げられた。泡吹いて伸びてるが死んではない。…筈。

 

 鎖はズルズルと床を這い、そしてよく知る彼女の裾と襟元…あとスカートの中に消えていく。何がとは言わないが視線誘導が凄い。

 

 

「お怪我はありませんか?流石でございます。陛下の不在に動く事を感知し、私に“休み”を取らせることで油断させる。後は私がその意図を汲み取ることができたならば完璧だったのですが…“不測の事態”と言い表されて初めて気付く失態…あまつさえ御身を危険に晒す醜態…如何なる罰を受ける準備がございますのでぜひ地下へ…。」

 

「愚痴はそこまでだ、皆が居る。…席は乱れたが話は既にまとまっている、予定に変更は無い。皆、騒がせてしまったな。」

 

 

 突然ジジイが発狂して、刺客が俺の命取りに来て、将軍デンプシーとシルバの謎暗躍で全部解決した。この間僅か数分に満たない。

 …全くもって状況を理解出来ないが、俺は何とか言葉を捻り出しこの場をお開きにした。みんな謎に『感心した』って表情を浮かべていたが俺からしてみれば『何が?』だ。

 理由無き賞賛ほど怖いものは無い。足元を掬われてからでは遅い。

 

 輩とジジイの処置はシルバがやるらしいから丸投げ。なんか挽回がどうだの罰はいつ頃とか言ってるがやる気があるならそれで良い。

 

 やる気といえば…失態に対する罰。俺は気にしてないし罰する気もさらさらないが、なんかあの態度的にむしろ罰して欲しいみたいな態度だったのが気掛かりだ。躾の受けすぎで性癖捻じ曲がった可能性が…ないか、あいつどちらかといえば多分Sだろ。

 

 だってちらっと見えてたんだが、刺客とジジイ捌いてる時…愉悦に塗れた満面の笑みだったもん。緊縛プレイこっわ。

 

 …はぁ、兎にも角にも頭が痛い。

 

 普段から激務で十分寝れてないのに…。監禁事件から四日目、この間俺は全く寝てない所にこれ。

 報告…修繕…説明…何よりボス…。

 増える後処理を思えば…う"っ…マ°ッ。




 因みにかなり文明的です。電気水道なんとあります!
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