「はやくのませてよパパ!」
「し…しかし…。」
困惑する俺、現在俺はルーファスを膝枕している。ルーファス的にはお姫様抱っこをご所望だったが、体格を考えて欲しい。ただお前がデカいから無理なんて言った日にはぶちのめされるのは目に見えてる。俺は…頑張った…。
「のませてくれないとあばれるぞ!わたしがあばれたら…どうなるだろうなぁ?くくくっ…。」
「…ッ。」
甘え蕩けた表情から一点、勝ち誇る様な表情でそんなことを言う。焦らしプレイの一環とでも思ってるのか?愉しんでる様に見える
てかその急に素に戻るのやめてくれ…。
まだお前が正気を失ってるって程で進めれば「あぁでもコイツ正気じゃ無いしな」で“まだ”納得出来るの。…自らの意志じゃん、事故に出来ないじゃん、計画的反抗なんよ、頭おかしいって事実を正面から受け止めなきゃいけないじゃん!
てか坊かな?坊かな?構ってくれないと暴れちゃうぞってか?お前の腕程度へし折っちゃうぞってか???
残念ながら俺はあの少女でも無いし、目の前の女もクソでかい赤ちゃんでは無く赤ちゃんプレイをご所望する立派で大人な吸血鬼の女王様だ。
もしこの場で「血!」なんてしてみろ、嫌がるどころか狂喜乱舞、血を見せた所で別の意味で大興奮して殺される。
でも俺にもヒーロー欲しいよ〜!はくーって言ったら飛び込んできてくれる頼りになるヒーロー。
「………。」
「ど…どうかいたしましたか?…?」
勝ち誇った表情がどんどん陰り…歪みそれはいつしか怒りとも取れる表情に変わる。
それは丁度、さっきまでご機嫌だったのに見る見るうちにぐずり始めた赤ちゃんの様に…そして、彼女の中で何かしらの一線が破られたらしい。
その視線は俺では無い、俺の後ろ、その向こう。意を決してルーファスから目を離し後ろを見た瞬間、窓に映る光景を受け入れた時、全てを察しこう吐き捨てた。
「……ほらな?」
このクソトカゲgッ!
ズドォォオオオンッ!!
「……お前じゃねーよ…。」
ルーファスの自室、その壁を何処ぞの騙し絵の如く突き破り迫真の不法侵入を果たしたのは…そう、ドラグニカd
バクンっ!
「……は?」
ごっくんっ!!
「なッ!?」
飲み込んだッ!?…ハッしまった…ッ。態々あのクソメストカゲが私の城の壁を突き破ってまで来るとなればその目的はヒューム以外に他ならないと言うのに…ッ。
ドラグニカは余裕の表情で喉を鳴らすともはや用無しと言わんばかりに飛び立った。
……悔しい話だ…ッ。私に感知される事は前提、ならばされた所でどうにもならない速度で接近し、強襲、速やかに用を済ませ離脱…。
しかし何よりも悔しいのは…ッ。
「私の獲物だぞ…ッ。今の今まで姿も見せなかった癖に…ッ…横取りとは姉だろうと龍だろうと断じて許せん…ッ。」
羨ましすぎる…ッけしからんけしからん!その手筈は今正しく私が辿る筈だったと言うのに…ッ!!!!
だが、クールダウン。闇雲に後追いした所で敵う相手では無い。…いや負ける気はしないがヒュームの争奪戦ともなれば彼の身を保証できない。
悔しさはそこそこに、やるべき事はまだ残っている。…そう、例えば…。
「“ネズミ”の方から来るとは…丁度いい、少し憂さ晴らしをしたかった所だ。」
「………いや〜、俺達的にはもうここには用がなくてな?ここら辺で帰らせてもらうぞ。」
「え、えぇ!失礼しましたぁ〜。アクロも!」
「……?…した。…ほら、フィクも。」
アクロの背中で怯え縮こまりながらも確かな主張をする…狐の様な無害にしか見えない毛玉の生物。
通ると思うか?
「ですよね〜。クソッ!助けに来なきゃよかったッ!」
「だから言ったでしょ無視しろって!」
「でもアイツらがどう言う存在か知りたいだろ!?」
「知りたくてもやりようはあるでしょ!?何魔族に土下座で頼まれたからって承諾…しちゃうかもしれないけど…!」
「だろ?あの魔族が、しかも二つ名持ちのヤバい奴が人間に土下座してまで頼み込んだ用事だぞ?気にならない訳無い。」
「…もう!」
「ん"ん"…あ〜てな訳だ。…人類の天敵、文明を否定する者…そして『錆血の惨姫』…魔王が娘、喰魔の王ルーファス。いつかは狙う首だ…貰い受ける。…行けるな?お前ら。」
「やるしか無いでしょッ!」
「…ばっちこい!」
男の方は…“唯の”手練れ、女は…見所ありと言った所か。
…何よりあの小娘の持つ黒い塊…ほう?成る程…。技しか持ち得ない兄を力と連携で打ち破ったか。…毛玉は…この気配どこかで…。
「奇怪で不快な得物だ…。それでガーバグを“喰らった”か。…どうだ?私の兄は美味かったか?」
「……そこそこ。」
「だろうな、少なくとも美味しいと思える部位は奴にあるまい。…これも巡り合わせか…哀れな兄の“敵討ち”と行こうか…。」
「心にも無い事言いやがる、全くもって心が篭ってねーぞ。」
「取り外し可能な家族愛ね…。」
家族愛…か。……今、正にそれを探しているのだがな。
「では、家族愛を知る人間にご教授願いたいものだな。…今日は特別だ、兄を討ち果たした強敵に敬意を表して…。」
Doッ!
徐に右手を自分の首に突き刺し右手から右腕、どんどん深くへ入れていく。当然、大量の血が吹き散らかされ、辺りには血霧が立ち込める。
ずるり…
肘に達する直前、何かにあたったかの様な反応の後に止まり、続いてこれまでの逆再生…その手には…。
「……此方も“技”を振るうとしよう。」
どちゃりと“ブツ”が床に垂れ…やがて象る、思い描く武器へ。今回はそうだな…久しぶりだ、あまり捻ると面倒か…ならば素直に“剣”にしよう。
「…道具使うより拳使った方が強いお前らに言われても舐めプ宣言にしかならん…って言いたいんだが…あ〜。…それマジかよ…。」
「私にも人間に通ずる品性はある。…それに、“使える武器”があるなら使いたいだろう?」
「…イカれめ…。」
「〜ッ"(嗚咽)…はぁ…はぁ…どうなってんのよ…。」
「………。」
結局、使える武器は己の肉体となるならば簡単た。
己を武器にすればいい。
さて、最近は内政ばかりで鈍りが酷い、これも肩慣らしの内としよう。
何よりも…コイツらは楽しめそうだ…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ngッ…ゲェェエエッ!
べちゃっ
「……はッ!?」
「……俺生きてる…?俺生きてる!?」
「〜〜〜〜ッ♡あぁみっともなく震える貴方はなんて愛らしいの…ッ♡」
「何頭の沸いた事を…ッ!」
「ふふっ…まさか本当に食べて消化されると思いましたか?」
「………。」
滲む視界、遠い聴力の最中でも、目の前で美少女微笑んでいる事は辛うじて分かる。
…俺は今、コイツの唾液だの胃液だのと一緒に地面に吐き出された訳だが、これをご褒美じゃんと言う奴がいたら割と本気で精神科医をお勧めしたい気分だ。つまり最悪って事、なんで素敵なの!?
「でも…美味しかったですよ♡ついつい目的を忘れて咀嚼してしまう所でしたので、いっそ飲み込んで正解ですね♡」
どっちも不正解だよボケ。
「本当はこんな乱暴なことしたくなかったんですが、……私との逢瀬をブッチして妹といちゃつくとはいい度胸ですね。私待っていたのですよ?」
「それに関しては悪いが、ただ訂正。いちゃついてると言うかどちらかといえばあれ捕食…。」
「そういえばカゲロウですが、今からそれを殺しますので…私の勇姿、ちゃーんとその目に焼き付けてくださいね♡」
焼き付ける?そもそも此処は何処だ…よ…ou…。
此処でやけに自分の影が濃い事に気付く。
色々と察して後ろを向けば…うん。
今正に羽化せんとする巨大昆虫カゲロウが居た。
なんならシルバが力と鎖を振る動員して縛り付け羽化を阻止しようとしてた
……色々と言いたい事はあるが此処は一旦落ち着こう。
まず一つ、お前こんな修羅場に吐き捨てるな!
続いて二つ、なんで俺無事なの!?
そして三つ、シルバ、お前は終身雇用だ。
…何より認めたく無い四つ…俺が無事なの、多分ドラグニカが飲み込んだおかげだ。ファ⚫︎ク!
くそ!認めたく無いがドラグニカの唾液と胃液とか言う愛のコーティングで俺はカゲロウの直光を浴びても平然としていられるんだ、不正解じゃねぇ大正解だよクソッタレ!
そうして状況整理をしている内にも再び龍形態になったドラグニカがカゲロウに向けて“力”を行使する。
………ッ
歪む、世界に小さく歪みが浮かび、そこを起点に湾曲が浮く。
これがドラグニカの本領、その一端。世界に干渉し不明な歪みを発生させ相手を存在から揺るがす。
当の本龍ですら本気の全力行使はしたことが無い、正に底なしの力が羽化迫るカゲロウに向けて伸び始める。
此処で大前提として両者の大きさを比較してみる。
ドラグニカは確かに大きいが、流れる様な体付きで線も細いので大きいと言うよりかは長い印象。
対するカゲロウ、全長と言う面ではドラグニカ以上、外骨格に覆われた体は内部に融合炉を備えているからか厚みがあり、総じてドラグニカ以上と言えるだろう。
が、カゲロウは絶賛羽化途中を妨害されているし、肉体強度も今日限りと割り切ってる為大して無い、羽化途中で本調子でも無いから光も熱もドラグニカからして見れば温いくらい…勝ったか?
歪みが今正にカゲロウへ到達するその瞬間、より一層に光増し耀き渡る…一対の翅。
一拍遅れて辺りを薙ぐ熱波。見る事叶わない極光は曲がった世界すら関係ないと影すら産まず照らしつける。
…あと一歩、あと一歩が…足りなかった様だ。
バクンッ!!
………あぁ、また此処か。
……咄嗟に俺をもう一度食べたらしい。
…何と言えばいいのか、献身なのは間違いないからなぁ…。
……どうにかなるものなのか?
………シルバには…悪い事をしたな…。
…………?
…ッ!?!?
Gofgッ…G"o"O"e"e"e"…
guFッ…grrrrrr……
胃壁が蠢き再び外に吐き出された!
しかし2回目は落ちる事はなく、口からぬるりと吐き出されると舌を滑り地面に転がり出された。
…吐き出しも何と言うか…『マジのゲロ』って印象だ。つまり最悪って事。
文句の一つでも言おうと振り返ると…そこには“倒れた龍”。半身が焼け爛れ…そして所々に“艶のある黒い石”が引っ付いている…と言うか生え、力無く横倒しになっている。
…あぁ、成程…。
「バレた訳ですか。」
更に背後を振り返る。
まず視界に映るは…。
斃れたカゲロウ
そしてその脇、千切れたカゲロウの脚に腰掛ける…。
我等が王、コクヨウ様
…俯いていた顔がゆっくりと上がり、腰を上げる。此方を捉える瞳は見た事ないほどにギラ付き、最早怒りとか失望とか、そう言う感情すら読み取れない…それでも言い表すならば…『激情』より他に無い。
彼女もまた無傷では無い。体を鎧の様に纏う黒い石は半壊し、元着ていた服は大きく破損、見えた素肌は酷い火傷負っている。
…なにより、ドラグニカから生える黒い石から察していたが、彼女にもまた…時折り不自然にコクヨウの輪郭が揺らぐ…それはドラグニカの力の痕跡だ。
俺は見てないからこれから考える内容は全て考察だ。
まず、カゲロウの遺骸は黒い石と不明な部位破損に塗れ、大凡、ギリ原型が分かるレベル。これから考えるに両者は共闘した。
そしてコクヨウとドラグニカ、それぞれにそれぞれの力の痕跡が残っている…かなり激しい戦いだった様で、かなりの“誤射”が発生していた様だ。
結論、まずカゲロウとドラグニカが戦い、途中からコクヨウが参戦、協力プレイ()でカゲロウを撃破するものの、先に戦闘を始めて尚且つ俺を腹に抱えていたドラグニカの消耗が激しく、結果力尽き倒れ吐いたと。
「…ヒューム…。」
「ヒューム…私の愛しき愚かな弟…。」
「帰りましょう…私達の…“家”に」
雰囲気とは真逆、とんでもない激情をぶつけられると覚悟したが現実は震える声でただ虚。帰ろうと無機質に繰り返す。
理由は聞かない、文句や疑念もある筈なのに、いつものコクヨウならする筈の詰めもせず、寧ろ何かを恐れる様に…震える声で帰ろうと呼び掛ける。
ホロリホロリと黒い鎧が崩壊する。歩く度に痛々しい傷が露わになる。
…後ろにあった筈の巨大な存在感が消える。もしやと振り返れば…。
「………もう…もう…ぁ。」
ドラグニカが震えている。蹲り、嗚咽しながら焦点の合わない瞳を泳がせて…そして俺と視線が会う。
「…ッ!〜〜〜〜ッ!」
「なっ!?ドラグニカっ!?」
……逃げ出した。足がもつれて何度も転びながら、一度も振り返る事なく駆け出し、逃げた。
俺はその背中を、何となしに見送り…焼き尽くされただ広く続く焼け野原…視界が良くなった地表を眺め…鎖の破片を見つけ思い出す。
「……ッ!?し…シルバッ!?」
独断で離脱したドラグニカの尻拭いを、俺の命令以上の働きで向き合い続けていた彼女が…この見晴らしのいい世界で影も形も見受けられない…。
「帰りましょう…?ヒューム…。……かえ…ろ?」
焦げた大地と、無数に散らばる黒曜色の石のみが支配する。
どうやら…俺は、逃げられない様だと…他人事の様にそう感じた。
…背後から見る今の俺はさぞ…面白いんだろうな。
次回!『ヒューム覚醒!無敵になる!』
知らんけど。