とは言え難産でした…(小声)
生死不明のシルバ。
壊れたラジオの様に「帰ろう」と問い続けるコクヨウ。
そして…逃げ出したドラグニカ。
シルバと共に逃げたご一行はどこ行った?
何故ルーファスは此処に来ていない?
それを踏まえて俺の取るべき行動は?
やることが山積みだが、何より苦しいのは…これ、大体俺の不手際が原因だと言うことだ。
…調子に乗っていた事は否めない。なんだかんだで上手く行き、根拠のない自信で動いていた事は事実だ。
「……。」
ルーファスの為とか抜かしながらルーファスに迷惑を掛けた。
ドラグニカの好意を利用しドラグニカを傷付けた。
信頼してくれたコクヨウを裏切り心配を掛けた。
皆、確かに正直相手にしたくない苦手で天敵な存在だが、じゃあこんな事していい相手なのかと言われれば…違う。
これは重い責任だ。ならばどうする?…全うするしか無いじゃないか!
パチン!
「…ッ!?ひゅ…ヒューム…?」
「おっとすみません、気合いを入れていました、忘れてください。」
現実重くても、責任が重くても、明日を願うなら立つしか無い。
曲げるな、突き通せ!ここは人の世界じゃない!我を通した方が得をする魔族の世界!これ以上の失敗恐れ、動けなくなった瞬間…死ぬ場所だ…ッ!
「…なにを…。」
「コクヨウ様、残念ながら今はまだ帰ることは出来ません。」
「・・・なぜ?」
「まだ作戦の途中だからです。一見破綻しているように見えますが…。」
「一見どころか百見しても破綻しているようにしか見えない事について、何か申し開きは?」
「ないですね、ですので作戦を続行します。」
「・・・。」
「此度の助太刀感謝致しますが、城に戻って頂きいつもの様にお過ごしください。」
「……ふふっ…成る程…見つけました…貴方の『意地』の形所…♡」
なんか様子がおかしいが、言ってる事はその通り。
これは意地だ。俺がやった事、俺のしでかした事…俺が始めた物事、それを放棄する事は言語道断という意思。
「わたしが始めた物語、紆余曲折を挟もうとこれはわたしが閉じるべき責務、使命なのです。」
「…嬉しい…けど…許可出来ないわ。」
「これから次の段階に向けて行動を開始します。」
「許しません帰りなさい。」
「今しばらくの辛抱をお願いします。」
「なりません!!」
「であっても!」
「…ッ♡!?」
あのなんか思ってた反応と違うんですけど…。
「はぁ…♡はぁ…♡…どうしたの?早く続けなさい?愛しい弟…♡」
「……それで…つまり…ん"ッ…身勝手我が儘で何が悪い!」
「……!?」
「俺が蒔いた不手際の種を俺が回収するんだってんだから首突っ込むな!…ですのでボス、貴方はひと足先に帰ってふんぞりかってください。お叱りはそこでお願いします。」
「…〜〜ッ♡…ふふっ…そう…これです、これが欲しかった…。…漸く、言う様になりましたね…?…では聞きましょう、私の生意気で反抗的な弟は、この姉を…一体どうシしよう言うのですか…♡?」
「まずドラグニカの元へ赴きます。」
「あ?」
「次にルーファスとの決着をつけます!」
「………。」
「そして…。とは言えど貴女からの信頼を裏切ってしまった事は事実、処遇を…可能な限り大体受け付けます。」
「は?そこは全てを受け入れると言うところでは?」
まぁその通りですね。…な、何か一手は!?この重い責任を全うするとは確かに誓ったが、軽くする努力を怠る気は無いからな…ッ!!
「割引です。(???)」
「???」
終わった。しかもさも当たり前の様に言っちゃったせいで、後にも先にも行けなくなっちゃった。
「…いいでしょう。その心意気を私は好ましく評価しましょう。」
「……ッ!?」
ミシミシと、コクヨウの体から黒い石が生成され…再びあの鎧が形作られていく。
「とは言え、それとこれとは話が別…『不合格』です。いいですか?私の可愛い可愛いヒューム…これより今後一切他者との交流を禁じます。」
空気が変わる。雰囲気が一変する。不安定な彼女はもう居ない、ここに居るのは…一つの種族を束ねる王であり…激烈に束縛してくる俺の上司でもある…『コクヨウ』だ。
「それが嫌と言うのなら…これでも意地を張るならば…。張ってみなさい、私にそれを証明して見なさい。」
一歩を踏み出す。よろけたあの歩きでは無い。此方を止める意思ある歩みは焦げた大地を踏み砕き、その側から黒い石を生成する。
本調子では無いからか、体の七割を覆った所で生成が止まる。
覆われず、露出した左目に先程までの茫然自失さは無い。
「これも貴方を守る為。私の手から抜け出さない様、何重にも閉じ込めておく必要がありそうですね…?」
…あ、これ戦う感じっすか?ふーん、終わったな俺。
「さぁ、構えなさいヒューム。我を通したいのなら…それを阻む貴方の支配者を撃ち倒してみなさい…ッ。」
「……無理だろ…。」
曇天より亀裂、焦げた大地に光が差す。
それも唯の光、太陽光では無い。…正に天からの光、或いは…導き。
天より召される威光、これよりこの世に降臨する存在の為に敷かれた…言わばレッドカーペット。
俺はこの正体を知っている。…信頼しては行けない種族、会話不成立の権化…。
【繧?a縺ェ縺輔>】
「…ッ!?」
魂を撫でられた気がした。余りにも不躾に捲られたような…例えば子供がそこら辺の石をひっくり返し、石の下の生き物を遠慮なく外界に晒したかの様なざわめき。
全くもって落ち着きとは程遠いのに…何故だろうか…『見つけて貰えた』とすら思える、こんなにも心穏やかなのは…。
降り立つ“彼女”の次の一言、漠然とそれを待つ、そのふっくらと淡い唇に目線が釘付けになる…。
「……?…あっ不味い言葉間違えた…ん"っ…。」
…ん?何でこんなぼーっとしてたんだ?…あれ?お前ッ!?
「コクヨウ…?“姉”として振る舞う者として、勇気を出した弟の主張を素直に聞き入れないとは如何なものでしょうか?」
「…エルネス…ッ。」
コクヨウにあるまじき語気に口調。
「…うぐ…流石に妹に名前を吐き捨てられる様に呼ばれるのは心に来ますね…。…いえ、しっかり…っ!…そうですものね?ヒューム?」
「…あ、俺?」
不味い素が出た。
…いやいや待って待って!?“長女”『エルネス』!?な…なんで今になって…ッ!?てかこのタイミングで…ッ!?
…見るからに神聖な光と共に降臨するは、天使の血を引く魔王の娘にしてその長女…『エルネス』…。
…“忠告”により、俺は天使及び悪魔との接触経験は殆どない。
だからこれは又聞きだが、曰く天使達は独自の“教え”を持って信仰している。エルネスは…その信仰における神の声の代弁者、預言者、巫女とも呼べるポジ…らしい。
「私は覚えています…。貴方が世界の見方を変えてくれたから、私は新たなる自分を沢山見つけて…だから少し、前に進めたのですよ…?」
…ん?そんなの知らないぞ?…いや…ん…言われていればそうだった気がする…。会う度にキャラを変えてて…たか?
…俺は…彼女と最後に会った時、何かを打ち明けられ、そして俺はなんて返したんだっけ?
「…と、今は昔話に興じている場合ではありませんね。…ドラグニカを救いに行くの…このままでは彼女は…狂い果て、悪龍になってしまう…。」
…っとマジか…!?…様子から見て危うい事は分かっていたが…。
「ふふっ…♪…漸く会えましたね…。」
可愛らしく微笑み俺の前に降り立つエルネス。心なしかすこし嬉しそうと言うか舞い上がってる雰囲気だ。…あ、めっちゃ羽ソワソワさせてる。
改めて見ても絵に描いたような出来た天使様だ。
金髪、金瞳、大きめの双丘は南半球が見え、柔らかそうな質感がもう見ただけでわかる。と言うかこの痴乱天使露出が凄い!服がリボンと布とか言う西洋の神様コーデなせいで南半球どころか北半球も見えてるし…ッ!うお!へそ丸出し生足魅惑のエンジェルえっろ…。
…ん"ッ…そして巨大で純白の翼が…3枚。…本当はもっとあったらしいがそこは聞いてない。あまり踏み込むと…戻れない気がしたからな。
「それではこれを。貴方が望めば、忽ち辿り着くことが出来るでしょう。…本当はもう少し渡したいのですが色々と煩くて…。」
羽を3枚渡された。……え?言葉通り受け取るなら行きたい所に瞬間移動出来るワープアイテムって事?神じゃん崇めます。
「さぁ!貴方にしか出来ない救済を…!…何よりアイツが近くにいる以上早く収集をつけないと…。」
文字通り天使対応だったがこの一瞬だけ、非常にうんざりと言うか疲れた顔をする。ま、整ってるから何のマイナスでも無いが。
「…おっと。こほん…可愛い弟、私達のヒューム。…不甲斐ない“家族”の最後の希望…私を…私達を救済出来るのは貴方だけ…。」
「…!?」
俺の両手を包み取り近づき…寄り添う。その姿は…先程までこの場を支配していた長女では無く、寧ろ…いや、長女ではある、その上で頼っている?…いやもう少しズレてるな…なんだ…これは?
いや分析は後だ、取り敢えずエルネスなら信頼して大丈夫だろう。ここは機嫌を損ねない回答でお茶を濁すか。
「……承りましたよ。」
「コクヨウは私に任せて下さい。不甲斐なくも『長女』として、これしきの試練、超えて見せます…!」
この場は何とかしてくれるらしいし、それならもう長女の柔らかな胸を借りてこの場を離脱します。だって責任丸ごと仕事丸投げに出来るんだぜ?やるしか無いだろ。
「…ッ。ヒューム…!行っては行けません…ッ!…ッ私を…捨てるのですか…ッ?」
いつに無く…いや…。…事あるごとに、それこそトイレで離れると言っても裾を掴んで俺に放ったあのフレーズ…。
やはり残るべきでは無いか?
いやそれよりドラグニカを助ける事が先決だ。
「…“また後で”会いましょう、その時は…大団円を期待して下さい。」
向かうはドラグニカテラーオブマイハウス!その玄関!いざ…ジャンプ!
………。
「そう、ドラグニカを救えるのは貴方だけ…。けれどどうして移動した瞬間ジャンプしたのかしら…?」
「……どう言うつもりだエルネス…ッ!」
「貴女こそよ…。姉ならば愛する弟の我が儘の一つや二つ聞いてこそでしょう?」
「お…ッお前が言えた事かッ!!」
「うぐ…。」
「私のヒュームに近づくな…!今更家族面をするな!長女の立場でありながら…ッ!今の今まで何もして来なかった癖に…ッ!
「覚悟はしていましたが…。…効くなぁ…。」
黒い籠手による殴り掛かり、これを3枚のうち1枚の翼で受け止める。
消耗した今大した物を形作る事が出来ないが故の苦し紛れ…だと言うのに、おそらくこの攻撃は今日放ったどの攻撃よりも重みがあるに違いない。
「言うな!説くな!喋るなッ!巫山戯るな!巫山戯るなッ!今の今まで逃げて来た臆病者!何もしない木偶の坊!傀儡人形泥棒猫!」
「大体ぐうの音も出ない罵倒だけど最後の何よ!?」
何度も何度も殴り付ける。何度も何度も何度も何度も何度も…。
「黙れッ!天使風情が言葉を喋るな!上辺だけの取り繕いなど聞きたくも無いッ!」
「………。」
「〜〜ッ!ぽっと出の女風情が知った口聞くな!」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…何度も…。
籠手は砕け素手で殴る。私の翼は受け止める。その怒りを正面から受け止める。…長女として…腑抜けな私に対する罰として…。
「…はァ…はァ…ゴフッ…ハァ…。」
……私が無機質に流されている間、守るべき筈の子が歪んだ。
…私が弟妹の存在を認知した時、既に手がつけられなかった。
私が長女の自覚を持った時…全てが手遅れだった…。
それでも…私は諦めたくなかった。家族が何かよくわからずとも、けれどそれが壊れていく様を見るのは嫌だったから。だから何とかなる道を模索した。
何度も何度も何度も…色んな可能性を観測して…私じゃダメだと分かった。分かってしまった。
…ありがとう、ヒューム。存在しなかった最後のピース、悩める私を救う存在…。真に信ずるべき導…。
私を勇気付けてくれた、私を肯定してくれた。こんな私でも、こんな長女でもまだ成れると後押ししてくれて、私をお姉ちゃんと呼んでくれた。
…何より…こうして機会をくれた。私に出来なかった救済を次々に成功させた私の救世主。貴方が居たから私はこうしてこの場に立てる…!
「……ぽっと出の女…その通りです…。ですが…ッ私は家族を、弟妹達を諦めた事はありません…ッ。」
「……独り、壊されて、勝手に失望され捨てられた私を拾ったのは姉でも兄でも、母でも父でもない。壊れた私を根気よく治したのは…私の弟、ヒュームただ独りだけ…壊れやすい体で必死に…。」
「………。」
「初めて護りたいって思ったの…弱くて健気で…それでも強い彼を…。」
「……それでも、ヒュームには動き続けるでしょう。彼はどんな逆境でも曲げず進み、“救済”を続ける…!…何故なら彼は…救済者だから…♡」
「……。」
あぁ…そうか…。そうだそうに違いない。そうでなければヒュームが私を捨てるはずが無い。
「彼は私達を救える唯一の救世主…我等が真の…主だから…。……そうよね…?頑張れるよね…?……私の…
「……穢された…?」
……あぁ…殺さなきゃ…。
「ふふふっ…次はどんな“救済”を見せてくれるの…?見たい見たい…可哀想なドラグニカをどう“救済”してくれるの?…早くこの場を鎮めなければ…!だから…コクヨウ?私の愛しい妹…貴女の救済は確かに始まっている、これも必要な手筈…。けれどね?本格的な始まりはまた後なの、少し大人しくしてくれるよね?」
天使の戯言は相変わらず聞くに値しない。反吐に塗れた吹けば飛ぶような甘言の押し売りにはうんざりだ。
何より許せないのは、その聞く汚物を弟の脳に捩じ込んだその所業万死に値する。
「そうよ!見てみなさいな。きっと…私の考えが理解できる筈…!」
先程まで宣った戯言など既に頭にないのだろう。恍惚とした表情で崇拝に溺れる狂信者。
…全員だ、長女も次女も、四女も揃って全員揃私の弟を苦しめ痛め付ける。優しい弟に漬け込んで、私利私欲に潰そうと蠢いている。
「……させ…ない…。」
だから…あぁ…殺さなきゃ…。
コクヨウでは無くドラグニカを選んだヒュームくん!難しい選択だったが果たして吉と出るか凶と出るか…?