「どうです?素晴らしいでしょう…?コクヨウ、貴女も救われます。最後だからと気を落とさないで…ヒュームは貴女を信じて最後に選んだのです。」
「…私を…信じて…?」
「はい!貴女は強いと、貴女なら分かってくれると信じているからこそです。…何故なら貴女はヒュームの帰る場所、それならば当然最後になるとは思いませんか?」
「……そうですね…エルネスお姉様…。」
あぁ…♡…なんて可愛いのでしょう…♡
この調子で全ての弟妹を私の下に…あ、アイツは除外ね、外野から覗いて嗤うだけのクズ、家族の崩壊をエンターテイメントとしか見てないクソ悪魔。アレは救済対象外、見つけ次第レベルの高い救済を施さなければなりません。
「…♪…私も誰かを救えます…♡」
いい…♡満たされる感覚です…。
「少々遅く、大きくなってしまいましたがまだ間に合います。…やり直しましょう…♡また皆んなでひとつに、一つ屋根の下で幸せな暮らしを謳歌しましょう!」
「……ひとつ…ですか…?」
「えぇそうです!私達を受け入れ無い世界に何をする義務などありません!私達はこの世界に必要とされず、またその逆も然り!この世界に未練などなく、だからこそ
「………。」
「そして…私は初めて『長女』に成れる…。忘れ失う物は多くても、しかしそれは些細な事。辛い記憶など不要…だってその先には…私達の望む
コクヨウの頭を優しく撫でる。夢にまで見た妹との優しい時間、まだひとり目だと言うのに…私は…感動で前が…っ…。
「悪いがその考えには賛同しかねる。…エルネスよ、“妹”を渡して貰おうか?」
「あら?いつの間に…?」
「ひとりになりたく無い気持ちは痛いほど分かります。ここ迄に来る苦悩は二度と味わいたく無い物です。…ですが…私は忘れたいとは思いません。」
「ドラグニカ…会いたかったです…!」
「…なぁエルネス、お前は『長女』になりたいのか、みんなを『救済』したいのか、どっちをしたいのか分かってるのか?」
「…?不思議な事を聞きますねヒューム…。私は勿論
本当に不思議な事を聞きます。ですが…そんな事はどうでも良い…。
今ここに揃っている家族達…!ギリギリ半分とは行かずとも私の周りにこれだけの弟妹達が…!私は…感激しています…。
「…私は
「「「拒否する」します。」しておく。」
「……え?」
…拒否…?どうして?救いは皆んな求めている筈のものでは…?
そう言う事…つまり…。
「可哀想に…苦しむ期間が長く救いを信じられ無いのですね…?ならば…私が証明して見せましょう。…私達の…楽園の存在証明を…!」
待っていて下さいね愛する弟妹達…これこら『長女』である私が!
「少し待っていてね…今、お姉ちゃんが…!助けてあげますからね!」
………
……
…
「…うわぁ…。」
『うわぁ…。』
俺の目の前で何が起きてると思う?
淡い蒼白い粒子を撒き散らしながら大地を抉り、空を駆ける龍。その発光がより深まった時、空間を歪ませ、割り、曲げる。
紅い霧が立ち込める。蒼白い粒子よりも更に細かく周囲に広がっている為か赤い夜空に蒼白い星が灯っているかの様。
輝かしく荘厳な光が切り裂く様に輝く。赤い夜空に翻る白い羽は紅を浄化し、空間の歪みを無かった事にする。
「姉妹喧嘩…?」
『殺し合いの間違いじゃないじゃ無いですか?』
時折り聞こえる会話…。『本能に飲まれるな』だとか『私はそれを救済とは思いません』だとか…それに対して『何故分から無いのです!?』だとか…。
「殺意は無いと思いたい。これは…本当にただ、互いの主張を一番不器用な方法でぶつけてるだけだ。」
『…そうでしょうか?確かに規模が規模なだけに面食らいましたが、これくらいのぶつかり合いは普通では?』
お前らの普通を俺に適用し無いでくれ
…あの喧嘩に首を突っ込む気はさらさら無い、取り敢えず任せて俺はコクヨウをなんとかし無いとな。
「……コクヨウ様、お迎えに上がりました。」
「……ヒューム…?…漸く私を救済してくれるのでしょうか…?」
…当てられてるな。俺もついさっきまで軽く当てられてたからその気持ちは分かる。
さて、俺みたいに軽く当てられたくらいならきっかけ一つですぐに正気に戻る。俺の場合単純に時間が経ったってのもあるが、強力な存在が暴れる渦中に飛び込んだせいでいつの間にか飛んでた。
「コクヨウ様、何でしょうかその有様は?普段の貴女らしくも無いですよ?」
「……だって…。……普段…?…… 普段…っ!?」
「…コクヨウ様?」
『…ッ失礼します!』
「?シル…バッ!?」
強引に体が後ろに引き戻される。
何だと思った瞬間、俺が居た場所には剣山の様な毒々しくも、艶のある黒曜色の結晶が生えていた。
「普段…ッ今まで私は何をして来ました…?私は貴女を心の底から護りたかった…ッ!」
「そう思っていた…ッ!だから…私を選んでくれた時私の下に着くと言ってくれた時…ッ。」
「……私は心の底から嬉しくて…今度は私が護ると…そう決めた筈なのに…。」
………確かに、やり方は受け入れ難いが一貫して護ろうとしてたのは否定できない。
「…貴方は全てを、私の全てを受け入れると勝手に盲信して私の…ぶつけるべきでは無い欲までもぶつけていた…。護る対象に…護る対象を私の手で追い詰める事に快楽を覚えて…或いは再び…私がヒュームに護られる日を再現したくて…。」
「おぅ…。」
『………(何か言いたいけど辞めた)』
「………資格が無い…。貴方に選ばれる資格が無い…。」
成る程、つまり俺の上司である事に対して自信を喪失しているのか。
魔族にそんな精神状態があり得るのかとかなり驚いている、これが俺の正直な感想だ。
特に俺とコクヨウでは明確な上下関係が存在しているのにだ。
魔族は弱味を中々見せ無い。ドラグニカは俺を番の対象として見ていた。ルーファスは俺を親と定義した。どれも同格か格下になる。格上にはある程度の媚びはどうしても発生するし、弱みも晒す。
が、コクヨウは…?…格上が格下に弱い場面を見せる、それはつまり殺されても文句は言わ無いと言っている様な物だ。
「………選ぶ…ですか。」
折れてしまっている。エルネスに具体的に何を言われたのか分からないが、彼女は今、自信を喪失している。
…はぁ…これなんだよなぁ。変な所で人間臭い、だから俺は…見捨てられなかったんだ。
「………。」
一瞬、俺の思考とは別に脳裏を過った…『今なら行ける』の思考。
……今なら、コクヨウの上に立つ事が可能だろう。とどのつまり下剋上という訳だな。
『……。』
これは恐らくシルバの思考。その感情が伝わって来る。
シルバが今どんな目でコクヨウを見ているのかが何となしに伝わる。
…冷ややかなものだった。心配する事はなく、ただ冷静に自分の立ち回りを考えている、具体的には…。
『あ、これなら今この女消せますね。』
『ヒューム様は何を重く考えているのでしょうか?今ならこの女を支配する事も、殺す事も出来る良い機会ですのに。』
『生かすならばそうすれば私の格下も同然、日頃の憂さ晴らしには使えるでしょうか。』
……人の心とか無いんか?…人じゃ無かったな。
「コクヨウ様、何をそんな挫けているのでしょうか。」
『……???』
顔は見えないがどんな顔してるか分かる。その上で…マジで今口出すなよ、本気だからな?
「私を護りたいというのならそうすれば良いでしょう?私を使いたいと言うのであればそう言えばいいでしょう。」
「……なん…と…?」
「貴女は王で私はその家臣で参謀でしょう。王がその様では私の立場まで崩れるものです。」
「…ヒューム…?」
努めていつも通りの調子を崩さずに、しかし気持ち挑発を交えながら何でも無い様に近づく。
「貴女は悲劇の女王様?可哀想な女の子?似合わないので辞めた方がいいかと。」
「………。」
「
「………ッ!?」
「貴女があれ程愛すると、護ると豪語したのはまやかしですか?私は自慢ではありませんが風吹けば飛ぶ様な存在です。同時に、貴女が折れれば私は宙に浮き…誰の手にだって捕まれるでしょう。」
「それは……。」
「……いいんですね?それで。貴女は…ボスは…姉様は、私を諦めたのですね?」
「………。」
「成る程、では…。」
「諦める…ですか?……全く…私の愛する弟は…。」
オカシナ事をいいますね?
「…ッ!?」
『ヒューム様!回避…ッ。』
「いや!そのままッ!…ッ!?」
避けてはダメだ。咄嗟にシルバの提案を断り、コクヨウを見据え…見据え…
後ろに凄まじい威圧感。両肩に圧力が掛かる。
「可愛い可愛い私の弟…貴方はどうしてそんなに… ステキなの…でしょうか…?」
両肩を捕まれる。徐々に強まる力に肩は嫌な音を立てるが…しかし急激にそれは弱まり、そして後ろから腕を回される。
左肩に彼女の顔がくる。息遣いが耳をくすぐる。くつくつと喉から堪える様な嗤いが伝わる。
『振り返っては行けない』
本能が嘯く。この存在を無視せよと、嵐が過ぎ去るまで待機せよと。
…本当にヤバいと感じた時ってさ、後悔とかしないんだな。
「態々発破を掛けて私に再起を促すなんて…何と健気で愚かな弟なのでしょう…。」
「そんな事をされてしまっては… アイしたくなってしまいます…♡」
粘着く独占欲の視線。ルーファスの物よりも、ドラグニカの物よりもより手遅れな執着心。
果たして、今彼女はどんな笑みを浮かべているのだろうか?
「…これではどちらが上かわからなくなってしまいますね。」
「ここに来てそれですか?」
「ヒューム、貴方は私に何を望むのでしょうか?」
「望む権利があるのでしょうか?」
「勿論、ありません♡」
「では逆にボス「姉様と呼びなさい」…コクヨ「姉様、と言った筈ですが?」…姉様は、私に対する処遇に何か心変わりをしましたか?」
「貴方は私が一生を尽くすに値する強者であり、貴方は私に一生尽くすべき弱者でなのでしょう。では、私の愛する弟、貴方は勿論…私のこの愛を受け入れてくださりますよね?」
「………無理ですね。」
ぎゅっ。… メキっ
……いたい…。
人間、ライン越えると意外に騒がない物なんだな。今日はたくさん知見を得るなぁ。
「……成る程…。貴方はそれでも
「えぇ、いつも通り、変わりなく。」
「いつも通り、変わりなく…ですか。…そう言えるのも今の内と心得なさい?」
締め付けが抱擁レベルに落ちた。フワリと視界に入り込んだ髪は相変わらず毒々しくも艶やかな黒…だけど…何処かこれまでより澄んでいる様にも見えた。
「…私は貴方が欲しい。しかし今まで通りでは真に手に入れることはできないのでしょう?ならば…ふふっ…少しだけ、曝け出して見ましょうか♪」
……楽しそうにクスリと笑ったコクヨウ。
こんなこと言ってるがたぶん今もこれからも、そんな変わることはないだろう。けれど…少しだけ健全に、少しだけいい方向を向けたのなら…その甲斐があったと言うものだ。
『………。』
納得してないやつが一名いるみたいだが、それはそれで当然の反応だから何も言えん。取り敢えずそいつはこのまま無視でいいだろう。
何故なら問題はまだまだあるからだ。
「貴女も…?何故?ヒューム…なぜ?…何故です…?何故皆わかってくれないの…?」
「……分かってると思うぞ。ただ、分かった上でそれは違うと拒否してるだけだ。」
「……え?」
……理解不能に塗れた絶望。
本能と使命と欲望の境目が存在しない…天使のカタチをしたケモノ…俺には当然、重すぎるな。
これだけ長女を語っているエルネスちゃんですが、自覚するかしないかギリギリの恋心も持っているので、場合によっては直前でヒュームだけ攫って全部ブッチ、真実の愛による逃避行昇天ルートを敢行、世界にこの世の全てを恨む化け物を何体か出現させて世界崩壊もあり得ます。