「………。」
「………♪」
「………(やらかしたか?)
さて、今件のパン屋に向かってるわけだが空気は…ギリ地獄と評価させていただく。
方や
方やそんなのお構いなしと俺に寄り添うご機嫌なシルバ。
御忍びだからな、全員正体は隠してる。…魔法で。
お前バレたのかよ!?って?そんな事はない。てか俺が魔法使えることくらいコクヨウでも知ってる。俺が隠してるのは出来る出来ないじゃ無くて、どこまで出来るかだ。
因みにシチュエーションは両手に花だ。…仕方ない仕方ない、コクヨウとシルバを隣に並ばせて見ろ、最悪殺し合いが始まるぞ?
まぁ俺を挟んだら挟んだでベタつくシルバに、殺意ムンムンなコクヨウとか言う天国と地獄を味わう事になったんだが。
「……はぁ、コクヨウ様。」
「……?」
肘を浮かし腕を組む様に促す。このまま嫉妬で暴れられても困るからな、体裁と言うか周りからの視線は気になるが…ここは飲むしかない。
「……!…ふふっ…。………。(私は“誘って”貰ったが貴女は?)」
「…ッ!………ッ。………。(気を遣われたんですよ、可哀想だから)」
「………。」
「………。」
……俺を挟んで無言の口論するのやめて貰っていいっすか?
てか…。
「シルバもコクヨウ様も…何故今になってパン屋など?…余程のパン屋という事でしょうか?」
そこが気になる。百歩譲ってシルバは分かるが何故にコクヨウが?
「……(パン屋の口実でデートしたかっただけですが…。)…最近働き詰めで外にも出ていらっしゃらない様でしたので、息抜きになればと…。」
「……(本で読んだ“でーと”をしたかったからですが…。)…聞くに一風変わったパンを売っている様でしたので、どの様なものかと興味が湧いたのです。」
「「確かそのパン屋は…。」」
「………。」
「………。」
「あーもういいぞ、着いたからな。」
良かった、これ以上の火種は消しきれん。
着いた建物、確かにデカデカと
…中々洒落た看板だが佇まいも中々。
「…巨大な窯みたいだな。」
店の風貌が中々イカつい。窯の様な…或いは岩山に開けられた穴とでも言おうか…かなりワイルド。
本格派なのかも知れない、これは…確かに一風変わった店、しかし美味しそうだな。お高そうでもあるがお金は一応それなりにある方だ。行けるだろう。
「いつまで見つめ合ってるんですか?行きますよ。」
「「…あっ。」」
チリンチリン…
ん〜、パンのいい匂い。外装こそ中々だったが、内装はかなり落ち着いた様子、開いたばかりとは言えお客さんもそれなりにいるし、これは末長く生き残れそう。
さてさて気になるパンの品揃えは?
「…巻龍パン、リュウノニクバサミ、鱗パン、龍卵パン…これ普通のたまごパンと何が違うんだ?てかラインナップが龍特化だな…。」
「龍爪パンに龍骨パンもありますよ。…これ、何処かで見たことある造形してますね…。」
「…!…ヒューム、私はこの龍頭パン造りにします。この造形…最早芸術です…。…あっ、あのパンはクギパンでは…?」
割と食に関しては貪欲なコクヨウ、だが俺としては割とそれどころじゃない。
「…ヒューム様…。」
「あぁ、なんかおかしいぞ。」
「どうかしましたか?私の弟。…なるほど、ヒュームはその鱗パンが気になっているのですね?」
気になってると言うか気にしてると言うか…。
「…!あら!これは御足労頂き感謝します…!」
「「「…ッ!?」」」
皆が一斉に声のする方向へ振り向く、その声色は“誰”を確定させている、偽装を看破されたと。
一斉に。そして…目の当たりにしたその光景に…。
「…………。(あっあっあっ。)」
「…ッ!?(急いでパンを元に戻す!)」
「……ド…ドラグニカ…?」
「…!はい!ようこそでございます!このドラグニカ謹製のバン工房!『パンドラ』へ!貴方達のご来店を、首を長くしてお待ちしておりました…!」
…ぷっつり連絡が付かないと思えばまさかまさか…。
……
…
「…本当に入れてないのでしょうか?私は信じられません。」
「本当に入れてません。型を取るのに使いはしましたが、その様な異物混入など許しません。」
「ではこの肉は?」
「仕入れた物です。断じて私のモノではありません!」
騒ぎになるとまずいのでドラグニカのパン工房、その奥へ案内してもらい…そして始まったのはシルバの姑詰め。
…ただまぁあの地獄を体験した者として言いたい気持ちはわかる。
「確かに資金を得るために私は体を売りましたが、それも元々家に使っていた物を売り払ったくらい…、あとは全てマトモな方法で積み上げた物です!」
体を売る(物理)…けど…ドラグニカなりにこちらのルールに寄り添おうとしている、凄まじい進歩だ。
「私は考えたのです、どうすればヒューム様と過ごせるかを…。ヒューム様に社会と道徳を教えていただき、貴方様お手製の料理を食べて!そしてお勧めの本を読むうちに!私やるべきことが見えて来たのです!それは!」
「食べ物で皆さんを笑顔にする事!」
「………なん…ですと…?」
シルバさんキャラが崩れてますよ。
「先ず第一に私は社会に馴染まなければなりません。働いてお金を稼いで自立する。第二に…私は…誰かを笑顔にしたいのです!そしてその一番の近道こそ…!美味しいなのです!」
「…ま…まとも…ッ?」
「先ずは食べてもらう、そして笑顔になっていただく…!お代はその次です!…そしてゆくゆくはヒューム様の胃袋を掴んで!私と共に暮らす!完璧な夢の設計図!私は建築士にもなれるかも知れません!」
「「……ッ!?」」
シルバとコクヨウに電撃が走る。
…いや行ってみただけだが、実際そんな表情をしている。
ただ…言われてみれば値段、安かったなぁ。見た目と名前のインパクトで余り気にしなかったが、こうやって振り返ると安かった。
…龍の素材、高く売れたんだろうな。
「……ッ!(このドラゴン…この僅かな期間で確実な距離詰め方法を模索し、実行している…ッ?強い…強すぎる…ッ。)」
「……ッ!(余りにも“強すぎ”ます…。ヒュームの隣に立つべくに相応しくあろうとするその純粋な努力…ッま…眩しい…ッ!)」
「「……。(は…敗北…?)」」
…なんか勝手に二人が撃沈している。
「あ!そうですヒューム様!こちら試作のパンなのですが…どうぞ持ち帰って下さいませ!」
「感想が欲しいのか?それならここで…。」
「いえ!ふふっ…感想は…
「「………ッ!?(こ、この女次の布石を…ッ!?)」」
「そうか、それならそうさせてもらおう。ドラグニカ…俺は…正直ビックリしている。まさかここまで来るとは…ってな。ただ…ここまで来るとは何様って感じだが、うん、よくやった、偉いぞ…。」
「…わ…は…はいっ!」
僅かに小麦の匂いがする頭を撫でる。何も教えられずに歪んだ純粋な龍は、しかしこうして再び真っ直ぐ立っている。
俺は……俺は……感動している…!
「取り敢えず長居するのも営業の邪魔だ、とっとと客に戻ってパンを買うぞ。」
「…!ヒュームなら別にお代は…!」
「いや、ドラグニカの店にパンを求めて入った以上俺たちは客、ただ飯なんて失礼が過ぎる。…もし、それでもと思うのなら…これは俺からの応援とでも思ってくれ。」
「……!はい!貴方様の応援があるならば!ここより一万年パン屋を続けられます!」
「はははっ。気合いたっぷりだな。」
毎回百年生きても100回転生できるなこれ。
「シルバ、コクヨウ様も、いつまでもFXで財産とかした人の顔してないで早く選びますよ。」
「「は、はい…。」」
…ガチャン
……またしてもコクヨウとのお話は出来ませんでしたね…。次は私から尋ねるべきでしょうか…?
……ふふっ♪それもまた口実になるので良いかもしれません!何せ機会が増えればそれ程に…ッ!
…私の愛、皆さんに受け取って頂ける様でこのドラグニカは感激で…あぁ…孕みそうです…♡
「原材料…世にも貴重な『龍の卵』…古き時代、かつては時の王者が最愛の相手に求婚のアイテムとしてプレゼントとしたとも言われる…愛の贈り物の最高峰…♡」
…私にはまだそんな勇気もなく、またやるにしても早過ぎる未熟な身ですが…いつか…いつかその時が来たならば…。
「貴方と私の
愛おしく下腹を撫でる、いつかココに本物の命を宿す日を夢見て…私は全てを愛します。だってそれこそ…
………
……
…
「うっま、何これ本当に美味い…!」
「…くっ…負けました…。ヒューム様!私…強くなります!」
「……ヒューム、私にも料理を教えなさい。」
「シルバは勝手にしろって感じだが、コクヨウ様、その前に溜まっている仕事の方を何とか…。」
「…っ…それは…。……。…いえ、その通りですね。私の愛しい弟、貴方も仕事を早く終わらせなさい、いいですね?」
「言われなくとも。」
「いい返事です。では後ほど、私の部屋へ。」
「良いでしょう。」
…ん?待て何でそこは厨房じゃ…。
ガチャン。
「………。」
「………。」
「……やはり私も「ダメです」あぁぁぁあぁぁあ!「うるさい!」…ッ♡…ヒュームさまぁ…。」
「そもそもお前は十分な家事スキルを持ってるだろ?俺が教えられる分は大体教えた、後はお前がどう伸ばすかだ。」
「………ヒューム様は…やはり、私に独り立ちを望まれているのでしょうか。」
…単調に感情を感じさせない平坦な声。しかし俺の鋭敏に研ぎ澄まされた『空気を読む力』は誤魔化せない、その奥に隠された…寂しさ…か?なんか違う気がするぞ?
「もし、もし仮に…貴方様が私を捨てると言うのであれば…。」
コツ…コツ…。
「貴方無しには生きられない、
コツ。
「どうなってしまうのでしょうか…?」
「………。」
「…ふふふっ♪」
何でもない様に、上品に笑う。
「その様な難しい表情をなさらないで下さい、単純に…此処よりも良い職場環境などそうありません、とどのつまり…怠惰なメイドをお許しください…そう言いたいのです♪…あ、ルーファス様の手紙の他にも重要な手紙が幾つか届いている様です、確認された方がよろしいかと…では♪」
コツコツコツ…ガチャン
「…はぁぁぁぁ…。そう言えばああ言う奴だったな…こんなのばっかり、ドラグニカは癒しです。」
さて、手紙を確認しながらルーファス宛の返事でも考えるか。
今の俺は少し晴れやか、前よりちょっぴり軽いからな。
………
……
…
「ふむ…やはり今まで通り従わせた方が色々と楽…。」
眼前に置かれた
いや、その様な考えは捨てた筈ですコクヨウ。
今回、あの一件で私は明確に刻みつけられたのです、彼はこの世の全ての中でも比肩する事なき、私の愛を証明する
ふふっ…。ヒュームは口では言いませんがやはり私を好きなのです!それも…きっと…いや、絶対、私がヒュームを愛する以上に私を愛しているのです!
「薄っぺらく私が愛だ好きだと連呼する間に、彼はただ主張するまでもなく、ずっとずっと私に愛を示し続けていた…♡…比べて私の…なんと浅はかな事か…。」
ヒュームはずっと私を試していたのでしょう。
『俺を“物”にし手に入れたければ、自分からそう願う程に惚れさせろ』
…と、ずっとその姿勢を続けていたに違いありません間違いない…!
私が鈍感なばっかりに、私は常々ヒュームからの愛を疑い、束縛し、唱え続けていましたが…ふふ…ふふふふふっ…。
初めから相思相愛ならば…何も気にする事はありませんよね…?
「エルネスに突きつけられた現実など、この前提条件の前には最早どうでも良い事です。」
そう…!私は体を休めている間、情報を集めていたのです。
そしてその情報から算出される結果は…『相思相愛ならば許される』!
よって、それもこれも、真っ当な愛!
ただひとりの雌として、今まで一度たりとて弱みを見せた事がない頼れるヒュームに全てを委ねて、愛されて壊されて、あの頃の様に甘やかされて楽になりたいこの気持ちは本物。
立場が逆転しだからこそ、弱い癖に顧み無い、そんな可愛い貴方を今度は私がこの手で護りたいと思った気持ちも本物。
「護るべき弱いヒュームを、この私が私の手でぐちゃぐちゃに壊して支配して、あらゆる欲を満たす捌け口にして愉悦に浸りたいこの気持ち…こちらもまた、本気です。」
本気で愛した結果ならば…そしてそれが相思相愛以心伝心ならば!
…私は、手順を間違えていたのでしょう。求める結果はお互い同じ、けれど過程を間違えていました。…そしてその手順は…ずっとヒュームに示されていたと言うのにも関わらず。
「貴方から『好き』を引き出す。そこで初めてお互い同じ場所に立てると、私が貴方を壊すか、貴方が私を壊すかを始められる…そう行動で示していたのですね…。」
だからこそやはり、思えば思うほど、私から好きだ愛してるだは散々言いましたが、彼からは一度たりとてその類の言葉を聞いていません。
「………聴き出したいですね。貴方からの混じりなき、強制も、強要もない自然な…『愛している』を…。」
貴方はこんな私を見て…どう思うのでしょうか…?不器用だと、今更滑稽だと思うでしょうか…?
「…いえ、今日を一緒に過ごして確かな手応えを確信しました。これで良いと…少しずつ、少しずつ…私は貴方への愛をやり直します…。」
いきなりは無理でも、少しずつ…そうすればヒューム、貴方はきっと…。
「…私を好きと…言ってくれますよね…?」
ベッドに蹲る。その言葉を口にした瞬間感じたことも無い熱が体を覆う。愛と欲に濡れた劣情の熱に近く、しかしそれよりも何処か清々しくて甘酸っぱい様な…。
けれども…ふふ…心のどこかで憧れていた熱だった様な気もします。
皆んなの愛が少なからずいい方向へ変わったと言うところで、一先ずこで一つの区切りとします。
この作品かなりその場のノリで続けていたので、次の展開を考えるにあたり流石に整理が必要になって来たので、間隔が空いてしまいます…。
誤字報告も助かっていますし、高評価やお気に入り、感想、ここ好き等凄くモチベになってます!ランキングに載った時とかびっくりしました!