担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
「……来ましたか。『ヒューム』、早く座りなさい、事態は急を有します。」
「……畏まりました。」
『ヒューム』… これが俺の名前。いつも『あなた』とか『弟』とか役職で呼ばれる事が多い。…そしていつも弟呼びしてくる我らがボスでキングな『コクヨウ様』が俺を名前呼びして来ると言う事は一大事と言う事。
…帰りてー。ただでさえ襲撃の件で会う度話す度事ある毎に俺を保護という名の監禁に処して来ようとするんだぞ?もう躱す為のネタが無いの。
まして個室で2人きり。終わったな俺。
因みにこの名前は絶倫無責任野郎が付けた名前、“この世界で”人間を意味する【ヒュールク】から切り取った適当ネーミングなんだが、“前世”だと溶接時に起きる有害粉塵を意味する事になる。
つまりゴミだな。
…戦闘力がゴミなのは認めるけど、俺の存在が有害物質扱いは言いすぎじゃね?いや、この世界にそんな意味ないんだけど、俺が勝手に思ってるだけなんだが…複雑だ。
あ、本名はビスクル。はいそこビスマルクの成り損ないみたいとか言わないでね。
そして…“前世”だと『霧島』だ。うん、ちゃんと覚えているな…?定期的に思い出さないと自分を見失うからな。
日本語もそうだが使う機会が無いとすぐに消えちまう。マジで今の漢字能力は小学生に負けるレベルと自負している。
…そして、さっきも言った通り今ここにいるメンバーは俺とボスだけ。
本当になんかヤバい話が来るらしい。…本当に帰りたいんだけd
「も、申し上げますッ!!」
いつから?…いやつい今なんだろうけど、目の前に現れたのにその瞬間がマジでわからなかった。瞬きしたらそこにいたんだもん。
てか暗部隊隊長じゃん、一年くらい見てなかったけど…ってコイツが下っ端ムーブで報告して来るってことは相当やb
「『卑王ガーバク』が何者かによって討ち取られました!」
「だぁにぃ!?」
「…ヒュ、ヒューム?」
「…ん"っ、少し義務感に駆られまして…続けて下さい。」
何気に困惑したボスを見るのは久しぶりだ(現実逃避)
「はっ、…と行きたいのですが、事態は混迷を極め今言える事は、卑王ガーバクは戦闘で死亡した事、規模は城が半壊するほどと言う事のみ。それがいつどの程度の時間で繰り広げられたのか等、全容の把握には今しばらく時間を要します。が、卑王ガーバク死亡、この情報に誤りはありません。」
「………引きなさい。」
「は。」
隊長が引き下がる。これで二人っきりだね本当勘弁して欲しい。
「ヒューム、どう見ます?先日貴方が襲撃された件と関係があると考えますか?」
如何見る?お先真っ暗で何も見えませんが…。なんて言ったら体を捻り潰されるのでその前に、なんとか時間稼ぎの言葉を捻り出す。
「そう言えばあの後の処遇は…。」
「“実験”の検体になって頂きました。」
「…際ですか…。」
こっわ。考えてた返事が一瞬吹き飛んだ。…おい戻って来い…ッ!
「…最近行ったばかりですが、また集会を開かねばなりませんね。私に対する件とは…結びつけるには確証が足りなさすぎます。一先ず脇に置いて頂き「いいえ最重要事項です。」……兎に角コクヨウ様は準備を進めて下さい。わたしは予定変更に伴う処理を済ましておきます。」
「私も「いえ、ご心配なさらずにでは。」…。」
言って気付いたがかなり強引だったな…。さっと切り上げるに限るとは言えこれは軽率、それもこれも全部寝不足が悪い…つまり、引いてはこの激務が悪い。
この場は「それでは予定を詰めますので」とか言って足早に退出する。
一瞬見えた表情はかなり重苦しく、そして何処か寂しげな様子だったのが印象に残った。
して、対する俺は退出した瞬間、絶望顔を浮かべる。
【悲報精神崩壊】四日間の成果無事崩壊【明日から2億連休取得へ】
尚!叶わぬ願いの模様。そろそろ本気で口から手が出そう。
…全てを投げ出したい気分と言うかもうキチゲ解放して終わりたいのにそれをしません。なんとこの思考はすでに未来を向いている、そんな染まり切った自分に俺はさらに絶望した。うん、絶対逃げてやる。
慣れちゃいけない、俺はこの境遇に断固として否を唱え続けなければならない。
「………。」
『卑王ガーバク』…魔王の息子にして四男、ナーガとかリザードマンとかメデューサ辺りの爬虫類型怪物を包括する『爬蛇』の母を持つ、狡猾で陰湿な野心家。
性格は狡猾冷酷残虐、手段は選ばないタチで次男三男とかなり強い同盟を結んでいたりする。
卑王の名の通り少なくとも人格者では無いし実際嫌な奴だ。が、王としてしっかり外交をこなし国をまとめ上げるなど、実際優秀な面があったのは間違いない。
それに、アイツは唯一俺の欺瞞を看破一歩手前まで行った奴だし、そう言った面でも侮れなかったんだが…そうか……死んだのか…。
確かに嫌な奴だったけど死んで欲しい訳じゃなかった。
一つ言えることと言えば、あの国はこれから大変な事になるって事だ。
「一体誰がこんな余計な事を…ッ。」
魔王が居た頃、この国は人間以外の無数の種族が集まった連合国家として機能していた。が、その結束は緩く力のある種族と言う前提は付くが自治権も強かった。基本自分達のことは自分達で何とかしろってスタンスの投げやり国家、最早国家と呼べるかも怪しいが…それは人間の尺度か?
こんな緩さでも纏まった国家と呼ぶのなら、それは一つの国家なんだろうな。
じゃあその中で魔王に求められていたのは何かと言うと、それは統一の象徴と言う形式的な面もあれば、種族間の問題…つまりケンカの仲裁とかそう言う実務的な話まで、割とハードワークだ。
んで、魔王は世襲制。誰が嫁、或いは婿に入るかでドロドロした話が湧き出てくるがそれは一旦置いておいて、お眼鏡にかかった種族が取り入れられる。そう言うのを繰り返していくと…凡ゆる血を受け入れた統合の象徴の完成だ。
「…象徴は一個で十分なんだよ!バカスカ作った挙句丸投げとかほんま…ほんま…ッ!」
普通指名とかするよね、無いんだなそれが、種蒔きするだけして消えたからさぁ大変!資格を持つ息子娘達の中の誰を後継にするかも決めずに消えたせいで、この緩やかな国は一瞬で分裂した。
「百歩譲ってここまでは良いな。元々ほとんど自立してた様なもんだし。問題は…。」
分裂によって生まれた国家達それぞれになんと、王片の所有者が王として君臨してしまったのだ。
有力な種族全てに手を付けてた拙僧の無さ、本当責任とって欲しい。
…そして…。
「玉座に座れるなら座りたいって思ってしまうのが王の血の定め…ってか?」
そして座す国家は“力のある種族”の国…。はい野心か燃える音がしますよね?戦国時代の始まりです。
ここはそう言う民度なんです。今までは誰が魔王の隣に着くかで血みどろの戦いがあった訳だが、それが今は誰が魔王に変わる覇権種族になるかで闘争が起こっているんだな〜。
本題がすり替わってるのは如何なんだろうか?とか言う理性的な言葉はまるで聞かない。或いは不都合だから誰も喋らないだけか。
「今までなら様子見ムードから起因する小康状態だったが、かなーり不味い状況だ。舵取りミスると戦争が起きる、なんとしても避けたい…。」
……最高だな。てか何でガチの部外者である人間の俺が魔族の未来を憂いているんだ?優しすぎだろマジで全員俺に感謝しろよな。
…いや別にしなくていいから、さっさと俺をここから出してそして記憶から消してくれ。
だが引っ掛かる。王片の所有者は皆一騎当千…いや当万の実力者。いざ潰し合うならば戦争とか決闘とか、兎に角絶対デカくなって情報は漏れる筈。
なのに今回はあまりにも唐突。城が半壊したらしいが、王片の所有者が戦ったにしては小規模。本来想定される規模的にはまるで暗殺の範疇だ。
…もし、もしそんな実力の暗殺者がいたら?…チートにも程がある。
「隠し子が突然暴れ始めた、って線の方がまだ信憑性があるな。」
全然あり得るのがホント嫌だ。だってアイツの事だから、そう言う方面での信頼は厚い。
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「良いですか私の大切な弟、第一に…。」
「会うな喋るな目を合わせるな。…無理ですねこんなの。」
「貴方が無理かどうかは聞いていません。私が許せないので許可していないのですから。」
「公私を分けていただく事は可能でしょうか?」
「弟…私の愛しい弟…これは愛です、愛なのですよ?不要な塵芥どもを近づけぬ様こうして姉である私が守ってあげているのです。あぁ弟、私の愛しく可愛い弟…何故それを理解しないのですか?貴方は愚かですが馬鹿ではありません。だから解せないのです…なぜ?」
「理解して実行したらこの国の行末が塵芥になるからですよ。」
「…これはキツめの教育が必要ですね。中身が出ちゃうくらいが良いでしょうか?」
「今のどこら辺に“良い”要素があるんですか?」
愛が重いね、中身が出るくらいには。ただ俺的にこれを愛と呼ぶのは個人的に絶対に嫌だ。
「ほら付きましたよ。…これからは貴女をお側で支える参謀です、ご自身の立場を理解して下さい。」
「そうですかヒューム。では早速……。」
真剣な表情…と言ってもいつも澄まし顔だからあんま変わりはないが、とにかく腕を広げる自称姉、名前はコクヨウ。さてこのバカは何を求めているのでしょうかね?
「………?ほら早くしなさい、“王の命令”ですよ?」
「…立場を…。」
「王命が、聞けないのですか?」
「………。」
諭す様に、何処までも上から問いをかける。そしてその問いに対する答えは一つのみ許される。
俺は渋々身を寄せ抱擁する。生地の厚い制服の為か全くもって感触は硬い…。が、それを突破する勢い、締め殺さんばかりの力を込めるコクヨウ。身長差もボスが大きい為に俺は何も出来ない。抱き返す?鯖折り寸前の体勢で抱き返せる訳ないだろ!
俺はこう言うことのために立場を利用しろなんて言ってねーぞ!?
「…これで頑張れそうです、では行きますよ。…?行くのでしょう?」
「わたしは既にノックアウトです……。」
「お仕置きはやめにして鍛錬にしましょうか?中身が出ちゃう程度の強度で。」
「どうしてわたしの中身を出そうとするんですか?あと仕事が…。」
「行きますよ、ヒューム。」
「……はい…。」
王達が集う会議、それもその一席が欠けて絶対ピリ付いてる場所に行くと言うのに…もう俺は力尽きそうだった。
…なんでこんな命懸けの漫才を前座に据えないと前に進めないんですかね…。
高圧的ながらその実依存してくる女!コクヨウ様!