担いだ神輿が重すぎる! 作:ノコギリヘッド
ヒュームくんも限界と見える。
ギラードは女好き。これテストに出たり入ったりするからしっかり捕まえておけよ。
と言うわけで女装は既定路線。問題は何処ぞの誰とも知れない女が王の元に易々と近づけるか?って話だが…。
別に女形態で近づく必要はない。女装して無害を演じ少しでも近づき、適当な所で衛兵…近衛兵…と近づき、後はスニーキングの時間だ。
パーティの主催が出張っている内に、部屋を漁り情報を得る。完璧だな。
そもそも巨人だらけの所に俺が行っても目立つだけ?のんのんのん、野晒しで暮らしてた時代ならまだしも、巨人にだって文明はある。あのスケールのまま文明を築こうと思ったら、必要なリソースがとんでも無いことになるって事くらい考えつく。トロールじゃ無いんだし。
そこで巨人達は生まれながらにして縮小魔法を本能レベルで叩き込まれます。よって大人でも大体2メートルくらいに収まり、平時はその形態で暮らしている訳だな。
本気で戦う時か出産の時くらいじゃ無いか?元に戻るの。
まぁ、小さくなったとしても、やはりそれでも大きい…いやこれ俺が小さいのか?…この話はもう辞めるか。
出立は内密にだ。我らがボスに軽く旨を伝えて誰にも見られないよう外に出て、あらかじめ用意しておいた車に乗り込む。運転はもちろん俺、シルバは後から別ルートで来る。
本来なら俺ほどの立ち位置の存在が直々に情報収集に出向くとか正気を疑う案件だが、ボスさえ丸め込めば罷り通る。
…あのコクヨウ様がよく出してくれたって?彼女は…返事をしなかった。ただ無表情で血涙を流しながら机に向かって仕事をしていた。
魔族とは、自分の非は全然認めないが、一度自分の非を認めれば格下相手だろうと譲歩の姿勢を見せる。ボス的には置いてけぼりにした事に後ろめたさを感じているからこそ、俺の暴挙にも強くは出れなかったのかも知れん。
「魔族のこの性質には苦労した…。」
この性質は慢性的な組織の隠蔽体質を産む。
…仕方ない面もある。魔人は比較的緩やかだが、それでも弱った相手は苛烈に殺せって気質が染み付いている。自分の非とはどんなに小さくても認められない弱点であり、他人の非はどんなに小さくても格好の叩き的だ。そりゃ組織が腐る。
正直な報告の制度を作るのには苦労した…。
第一に『実態に沿った妥当で道理通った納得感のある処理』を俺はしっかり行うと言う姿勢を教え込む事。
第二に『正直である事の有益さ』を染み付かせる事。
第三に『処罰を下す側である俺を信頼する』事とかな…。
「こう言うのは積み重ねだ…はぁ…今でも無くなったとは言えないがしっかり改善している。」
ここで得た知見はしっかり子ども達の教育にも反映してるし、他にも文化的な暮らしを続けられるよう『理性教育』を老若男女問わず、根気よく続けている。
………あれ?…『理性教育』とはつまり『道徳の授業』だ。その原本の出所はもちろん人間。……これ魔人の人間化じゃね?
「……考えないでおこう。」
さて運転に集中ッ!普及し始めだから車同士の事故はないにしろ、人身事故が怖い。
だが幸いな事に、魔人は時速60キロで轢いた所で子供であっても打撲で済むし、大人なら吹っ飛んだ後何食わぬ顔で起き上がるくらいには頑丈な種族だからそこら辺の心配は要らない。むしろ俺へのダメージの方が心配だ。
エアバックを始め各種安全装置はもちろん無い。ただ荷物を載せて早く動ける鉄の箱だ。それ以上はない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「えーと、首都方面は左だから…此処かな?」
山を越え川沿いの道を抜ければそこには都市!作りは中世〜近代と言った様子で、我らが首都よりは近代化が遅れてる。てかこっちが早すぎるだけなんだがな、主に俺のせいで。
「しかしスケールでけぇ……んうわぁッ!?前から人がッ!!!」
急ブレーキを掛けるも間に合わず、飛び出してきて誰かさんを轢き…ません。
それは衝突。車はぶつかった瞬間壁にでもぶち当たったんじゃないかと疑うレベルの挙動をしその場で跳ね返り、俺はフロントガラスを突き破って前方へ射出!
そしてこの道は川沿い…はい、俺はそのまま坂を転げ落ち川にダイブ、漠然とした意識の最中で不幸を呪いつつ、俺は意識を水に流した…。
………
……
…
「………辞めようよそ見運転…。いててて…なんで生きてるんだよ…。」
川縁に打ち上げられていたようだ。果たしてどの程度気絶していたのか…。
「怪我の功名か、かなり近づいたが、取り敢えず手当てをして都市に向かうか…。」
こんな所じゃシルバに発見してもらうなんて無理だ。やるやらないにしろ王城付近にまでは近づく必要がある。
「…骨折れてないの奇跡だろ。でも…頭から突き破ったからな…回復かけてもしばらく傷跡が残りそうだ。」
自慢じゃないが俺は回復魔法も心得ている、本職ほどではないが外傷程度なら何とかなる。と言うか外傷程度なんとかしないと血の匂いで人間バレする。
姿に関しては偽装魔法の出番だ。今現在、俺の服装は物乞いよりも酷い有様だが、俺を見た奴限定で発動する認識改変を掛ければあら不思議、俺は観光客になる。
「とは言え見た目誤魔化してるだけだから触れられたりしたら終わりなんだがな。」
やろうと思えば触感も誤魔化せるが、リソースがね…。
……
…
「此処が巨人首都マキナか〜テンション上がるなぁ〜。」
俺は無害な観光客、このままの足で王城へGO!
「おいそこの外来種族の男、お前どこに向かおうとしている。」
「はい!少し王城の方へ観光に行こうと思いまして。」
「今日、王城ではギラード王が催しを開催なさる。一般の民は入る事を禁じられている。勿論、観光客もだ。」
「あれ?それって昨日…あいえ、私の思い過ごしがあったようで…情報ありがとうございます!代わりにと言っては何ですが他におすすめのスポットとか教えていただけませんか?」
「む、そうだな…此処より東の旧王城が一大観光地なのは知っての通りだが、裏手の旧庭園跡が実は穴場なのだ。何がどう凄いかは直接見て確かめるといい。」
「親切にありがとうございます!では!」
「う、うむ、お前も達者でな。」
困惑気味ながらも不器用な笑みで送り出す。
ああいうのは仕事柄面倒なのに絡まれる事が多いし、それが魔族連中となれば尚更だ。そこに俺みたいな純粋な善意好意を向けてやれば…?ハッピーハッピーやね。
「それはそれとして向かうんですけどね?ただ案の定正面突破は無理、夜まで待って裏から周るか…。」
それに催しは今夜、事を始める前から満身創痍なので普通に帰るべきだが、ワンチャン狙ってみるのもアリだな。勿論、帰る事が最優先だが。
……
…
「おいそこの女!こんな所で何うろうろしている!」
「あ…えーと…。」
「何だ?言えない事でもあるのか?まさか貴様…ッ。」
「女性が言えない事も察せないのかしら?」
「……その格好…まさか催しの…。」
「因みに私、この王城の事は把握していません。」
「…ッ!こ、これは飛んだ失礼を!案内いたしますので…。」
「……。」
……あっぶねー!やっぱり女なんすわ!
今回のパーティ、そのテーマは『踊り』。各地から踊り子自信ネキ達が集まりこの大舞台で披露する、それが目的だ。
各地から集まる訳だからその裏はごった返す訳で、俺はそのゴタゴタに紛れて消えても問題なさそうな、ジミーな服装を盗…お借りして女装した訳だ!
魔法使え?それはそうなんだが…偽装パーツが増える程にステルス性は下がりバレやすくなる。
「どうぞ、ここからあちらの方へ進んで頂き、三つ目の分岐を右に曲がって頂ければそこが詰所です。…やはり今軽く地図を書きましょう、少しお待ち下さい。…はい、こちらを。詳しい道案内はそこからお願いします。」
「ご親切にどうもありがとうございます。」
「いえいえ…!では…。」
若い衛兵で助かった。合点がいってからと言うもののずっと挙動不審でヒヤヒヤしたが、単純に女性慣れしていないだけだった。
彼が巡回ルートに変えた事を確認して…直様王城徘徊を開始!
「姿を誤魔化すのは安いが姿を消すのは高く付く。ギラードが酔ってたならまだしもシラフの時にそんな魔法使えば、確定でバレる。」
ましてここはホームグラウンド、だから俺は姿消しではなく誤魔化しで徘徊している訳だ。見えないよりも感じないを優先しているんだな。
しかしここどこだ?なんだかんだでずーと迷ってる気がする…。はぁーこれだから巨人建築は!無駄に広くて無駄にデカい!だから俺は断じて方向音痴などでは無い!
…あれここさっきも見たぞ?
「あら?貴女…格好は地味ですけど…参加者ですわよね?このような所でふらついて大丈夫ですの?披露宴はもう終盤でして?」
「…あっ、……えー…。」
「…?…何番ですの?」
「何番…え〜その…。」
「…まさか無くし「いえ!あります!これです!」…101…?…ですが確か参加者は100…。」
「ギリ滑り込みでしたあはは…。」
咄嗟にさっきもらったメモ用紙に『思い込み』の魔法を掛けて渡す。
思い込みの魔法は完全に相手の想像頼りの博打魔法だ。見る人によって解釈が変わるから複数人相手に使うとボロが出る訳だが、一人に限定するならこの通り!
「…そうね、そうだった気がしますわね!…それなら後次の次では?早くしませんと!さ!着いてきなさい!」
「え?のわっ!?」
今回も彼女の中で勝手に組み立てた妄想がメモに反映され、存在しない101番の踊り子を産んだ訳だな。うむ。
…不味い不味い!普通に生で腕を掴まれたが、どうやら腕の感触が女のそれ、少なくとも男ではないと判断されたらしく、普通に気づかれなかったのは不幸中の幸いだ。
が、このままじゃ舞台に引き摺り出される!!でもここで強引にブッチすれば怪しまれる!一か八かステルス決めるか?けど絶対通報されるよなぁ…!
「直前まで奔放するなんて…けど大体貴女みたいな型破りな子は凄く面白いダンスを見せてくれるの。期待してるわよ?」
恐らく魔人、燃える様に真っ赤な彼女は完全に背を向けている。俺が実は男でギラードの腹を探りにきたスパイ的な奴なんて夢にも思ってない。
…ふと、目の前の女を排除する選択肢が生えた。確かにいくら魔族と言えどみんなが皆んな強い訳じゃない。
「貴女服はそれだけ?……私のを貸してあげる、せっかくの大舞台なんだからもっと輝ける服装じゃ無いと!」
そんな事を言うと流れるように彼女の待機室へ入室、立ち尽くす俺に見向きもせず、あれでも無いこれでも無いと服を吟味している。
……無理だよぉ〜!こんなよく出来た人を闇討ちしろなんて死んでもやだ。けどそうなると俺が死ぬことになる…ッ!どうする?どうする?!
「はいこれ!貴女の綺麗な黒髪黒目に漆黒の角は活かすべきね。それに始め見た時は質素で地味だと思ったけど、今こうして選んでみるとまさにそれこそベストマッチだと気付いたわ!だから敢えてこの黒一色!それに時間もないからこれが妥当ね、さ、何ぼーっとしてるの!早く着替えなさい!」
「…え?えあ…こ、ここで!?」
「貴女そこは気にするタイプなのね…わかったわ、私出てるから早く着替えなさい。」
そういうと…真紅の映える名も知らない彼女は外に出る。
個室と言えどやりようは幾らでも有る。今なら逃げられる…けど…。
渡された
………こんな真っ直ぐな善意を貰ったのは初めてだ。こんなに期待してもらったのは…初めてだ。
あかん俺あの子好きになっちゃうかも。
「……いやいや!だとしてもだ。済まない、名も知らない踊り子よ、俺も事情があるのだ…。」
後ろ髪引かれる想いとはこの事だな。
せめてもの誠意、俺は受け取った衣装を綺麗に畳み、ついでにパクった衣装も脱ぎパンイチになると出られそうな穴場を探し始めた。
パンツの柄は想像に任せます。
因みに私は♡柄のやつを想像してます。