<南の果て>河の乱痴気騒ぎ ハイエナ退治! 作:WAST0101
「今日こそはJJJ、君の想い人を当ててみせるよ。んーと……<緑の烽火(ほうか)>隊の魔法戦士、ルハさん!」 満面の笑みで言ったのは、十代のあどけなさを残すハーフダークエルフだった。銀髪に灰色の肌。夕焼けを閉じ込めたような赤い瞳。鋲付きのレザーアーマーに、文字が禍々しくうねるロッドを携えている。それが、まともな魔術の系譜ではない「契約の呪術(ウォーロック)」の道具であることは、ジェナの目から見れば一目瞭然だった。 背丈は男性にしては低く、女性にしては高い。どこか中性的で、見る者の印象をゆらゆらと揺らす。 「セネン、違うわ。それにルハさんは魔法戦士じゃなくて前線指揮官よ!」 カウンター越しに苛立ちを隠さず答えたのは、冒険者ギルド兼酒場<曲芸するジン(ジャグリング・ジン)>の受付嬢、ジェナ。酒場の頭文字『JJ』と、ジェナの『J』。悪友たちは三つ合わせて彼女を「JJJ(ジェー・ジェー・ジェー)」と呼ぶ。
ジェナがセネンにだけ険しい態度を取るのには、相応の理由があった。 下町一の美人と謳われた彼女は、ただの飾り人形に収まるつもりなど毛頭なかった。戦士たちの戦術、魔術師の血筋に眠る素質、冒険者それぞれの正確な実力評価――それらを徹底的に研究し、最適な依頼斡旋システムを構築して受付の座を勝ち取ったのだ。 ……このあざといハーフダークエルフが現れるまでは。
セネンは、人の心を惑わす恐るべき【魅力】で瞬く間にギルドの人気をさらっていった。哀れな少年にも、頼れる英雄にも、自在に“顔”を使い分ける。その笑みに重装の戦士も、荒野の狩人も、あるいは――ジェナが密かに想いを寄せる「あの人」までもが、彼に心を奪われた。邪険に扱いたくなるのも当然だが、セネンは彼女のそんな反応すら楽しんでいる。
「じゃあさ、本命を誰か言ってくれれば、僕がちゃんと振ってあげるよ。そうすれば、その人はJJJの方を向いてくれると思うし。JJJは美人だしね。……言いたくない? じゃあ毎日、冒険者の名前を一人ずつ挙げていくから、当たってたら『ハイ』って言うだけでいいよ。遠慮しなくていいからさ」 ――というのが、さっきから続いている不毛なやり取りである。
と、そのとき、朝食をとっていたベテランパーティから声がかかった。 「お、セネンじゃないか。冒険前のアレを頼む」 「はーい!」 セネンは彼らの方を振り返る。その瞬間、彼の表情はさっきまでより、明らかに幼く、従順で健気なものへと変貌していた。 近づいたセネンは、まずベテランパーティの筋骨隆々としたバーバリアンに髪をクシャクシャと乱された。次に、隣にいたクレリックとローグに交互に頭を撫でられ、最後に、几帳面そうなウィザードの手によって乱れた髪をきれいに整えられた。 セネンは満面の笑顔を咲かせ、 「また元気で会おうね!」 と明るい声で手を振った。
それを見送るジェナの不機嫌が最高潮に達したとき、背後から落ち着いた声が鼓膜を叩いた。 「いい景色だ。全員、他意がないのがいい」 言ったのは、セネンのパーティに所属する秘術使い、コンスタンティアだった。 ジェナは内心で激しく毒づく。 (他意がない? 他意しかないじゃないの! 秘術を二つの系統で使いこなすほどの超天才のコンスタンティアさんでも、わからない事があるっていうの!?) ジェナの目は誤魔化せない。セネンが頭をいじくらせる順番は完璧に計算されている。 混沌を愛するバーバリアンにクシャッとやらせて、こだわりを持たない二人に適当に撫でさせ、秩序を愛するウィザードにきっちり整えてもらう――。 (完全にあの人たちの『気質(アライメント)』に合わせた誘導じゃないの……!)