「おい、ババア。着いたぞ。……って、なんだ、寝てるのかよ……」
モナティアムの中心にある広場に着いたティグは、ディアナを下ろそうとしていた。しかし、ディアナは安心しているのか、心地よさそうにティグの背中でぐっすりと眠っている。
これでは参ったと、ティグは困り顔で辺りをキョロキョロと見回した。周りにいるエルフも、珍しいものが見れたと奇異の視線を向けている。
普段は強盗に略奪と不法行為を繰り返しているティグが、年老いた獣人をおんぶしているとあって、ティグは注目の的になっていた。居心地が悪くなったティグは、いそいそとその場を後にした。
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モナティアムの中心から少し外れたアーケード街。低い軒並みの並ぶ商店街にティグはいた。
中心街の摩天楼の並ぶポップな雰囲気とは少し違う独特な営みを、肌で感じるティグ。普段は来ることのない場所の光景に、ティグは目を丸くしてその場を見つめた。
「こんなところがあったんだな……」
アクセサリーに衣服、占いなど、様々なモノに特化した商店の並ぶ、少し時代を感じるレトロな街並み。モナティアムにひっそりと現れた独特な雰囲気に、ティグは少しずつ呑まれていった。
「そこの獣人!ひとついかがかい!?」
「い、いらねえよ!」
適当な声かけにティグが一蹴する。そして、一通り見て回った後、ティグはアーケード街を後にした。
「はぁ、疲れたな……」
眠るディアナを背負ったままぶらぶらと歩き回ったティグは、脚に疲れを感じながら適当に見つけた公園に入っていった。
「はぁぁぁぁ……。どうしよっかなー……」
このまま起こすのも忍びないと思ったティグが途方に暮れる。普段なら棒でも使ってたたき起こすものだが、いまいちその気になれないティグはため息を吐きながら一人立ち尽くした。
そんなティグが一人途方に暮れていると、遠くに見慣れたエルフの姿が見えた。カンナである。
カンナはモナティアムの鎮圧班隊長であり、公務に忠実な姿はモナティアム市民の畏怖の対象であった。事実、ティグも既に何回もカンナに補導されており、モナティアムの要注意人物として当局にマークされていた。
ティグの身体に緊張が走る。案の定カンナはすぐにティグに気付き、眉間にしわを寄せてティグを睨んだ。
しかし、カンナはすぐにティグの様子に気が付いた。いつもの取り巻きがおらず、何故か年老いた獣人を背負っている。いつもとは様子の違うティグをカンナは疑問に思い、キャリーハンドルのついた大砲を肩にかけ、ティグに近付いていった。
「そこの獣人、何をしている?」
「見りゃわかるだろ。ばあさんが寝てしまったから起きるのを待ってるんだよ」
「起こせばいいじゃないか。何でしないんだ?」
「……起こしたら悪いと思ったんだよ」
「ふぅん……?」
カンナの思った通り、今日のティグはいつもと様子が違う。いつもは物を壊すにも一片の躊躇もないティグが、年老いた獣人を起こす事に消極的になっている。何かがあったのかと思い、カンナはたずねてみる事にした。
「どうしたんだ?いつも自販機を壊したりコンビニ強盗したりするお前がこんなにもしおらしくなってるなんて、らしくないぞ」
「わかんねえよ……。ただ、ばあさんを見てたら、急に心がキュっとするような感じがしたんだ。だから、今日もばあさんがモナティアムに行くっていうから、こうしておぶってやったんだよ。そしたら、俺の背中で眠りやがって……」
「なるほど……?」
ぽつぽつと話すティグにカンナが相槌を打つ。
カンナはディアナが薬を買いにモナティアムに来る事はよく把握していた。ディアナはカンナと話をする時、どこで何を買うのか、村の近況などを良く話していた。その時に反アニマル缶戦線のような悪ガキ集団の苦労話なんかをよく聞かされていたものだった。
そんなものだから、今のティグの状況にカンナは混乱するばかりだった。なぜあのような悪ガキがこんなにも孝行をしているのかと思わずにはいられなかった。
今のティグを疑ったり、からかったりしてはならない。せっかくの機会なのだから、何か自分もティグの手助けをしてやれないかと考えたカンナは、ティグの代わりに薬を買いに行ってやろうと考えた。
「ちょっと、ここで待っててくれないか?ディアナさんがいつも買ってる薬を知ってるんだ。代わりにあたいが買いに行ってきてやるよ」
「い、いいのか?」
「ああ、任せときな。だけど、もしも途中でディアナさんが起きてもこの事はナイショにするんだぞ?あまりペラペラと話してもがっかりさせるだけだからな」
そう言って、カンナはモナティアムの中心街へと消えていった。