そうしてしばらくカンナを待っていると、袋を下げたカンナが小走りで戻ってきた。薬を買いに行ったにしては不自然に多い荷物に、ティグは怪しんだ。
「なんだ?何を買ってきたんだ?そんなにたくさん薬は飲んでないはずだぞ」
「まぁまぁ。ほら、食べな」
そう言って、カンナはティグに肉まんを差し出した。
ティグは怪しいといった視線を向けながら、おずおずとそれを手に取る。
においを嗅いで怪しい物ではないかと確認するティグ。かぐわしい小麦と餡の匂いがティグの鼻腔を刺激する。疲労と空腹から、ティグは今にもそれにかぶりつきたいという衝動に駆られそうになった。
「……良いのか?」
「もちろんさ。頑張るお前の為に買ってきてやったんだからな」
そう言って、カンナはティグの持つ肉まんに酢醤油をかけた。食欲をそそる調味料の香りがより一層ティグの食欲を掻き立てる。
サポートベンチに腰をかけて、二人は背中を並んで肉まんを食べた。初めての経験に少し緊張しながらも、どこか心の片隅で温かいものをティグは感じた。
「……なんでいつも迷惑をかけてるのに、ここまでしてくれるんだ?」
「頑張ってる奴らを見てると、助けたくなるものさ。それが、お前みたいな子供だったらなおさらな」
「俺は子供じゃないぞ!」
そう言って怒るティグをカンナはケラケラと笑いながら受け流している。カンナは面白がりながらも、ティグの変化を嬉しく思っていた。
そうして遠くを見つめながら、カンナは独り言のように呟いた。
「まあ、そう難しい理由なんてない。ただそれだけさ。……っていうか、迷惑をかけてるっていう自覚があるんなら、モナティアムを荒すのは止めてもらいたいものだけどねぇ」
「…………」
口をとがらせて黙るティグ。カンナの言葉に、ティグの心情にも変化が起きている。ティグは自覚がないながらも、心のどこかでこの変化を受け入れていた。
「……考えといてやるよ」
「そうか?まあ、何か悩んでるっていうんなら相談に乗ってやるよ。変化を受け入れるのにも、まだ時間もかかるだろうしな」
そう言ってカンナは立ち上がり、背伸びをした。
このような穏やかな時間を過ごしたのはいつぶりだろう?初めて感じる感情に、肉まんの味がなんだか尊いものように思えた。今まで感じる事のなかった穏やかでゆったりとした時間に、ティグは永遠とも思えるような不思議な感覚を覚えた。
「う、う~~ん………」
「おっ?」
ふと、ディアナが目を覚ました。もぞもぞと動くディアナにカンナが視線を向ける。
「目を覚ましたようだな。……っと、これはディアナさんに渡しときな!間違ってもあたいからと言うんじゃないぞ!」
そう言って荷物を押し付けると、カンナは足早に去って行った。
「お、おい!」
突如置いてけぼりを食らったティグの背中でディアナが大あくびをする。そして辺りを見渡すと、ディアナはハッとしたようにティグに声をかけた。
「あらあら、居眠りをしちゃったようだねぇ」
そう言って、ディアナはティグの背中から降りた。
「ごめんよ、ティグ。疲れたでしょう?」
「ったく……。当たり前だろ?……っと、コレ」
そう言って、ティグはぶっきらぼうに袋をディアナに突きつけた。
「これは……?」
「……ババアがずっと寝てるから、先に買っといてやったんだ」
袋を受け取るディアナにティグが小さい声で呟いた。
しかし、ティグの心にはわだかまりのようなものが残った。本当にこれで良いのかと頭の中で何かがぐるぐると回るように感じた。今渡したこれはカンナが自分の為に買ってきたものだ。ヒトの手柄を、自分の物としてあげても良いのかと考えが巡った。
「まあ、ティグが……」
「……迷惑か?」
ティグが問う。しかし、ディアナは笑って返した。
「まさか。ありがとうねぇ、ティグや」
そう言って、ディアナはティグの頭に手を置いた。
「……!」
やさしく頭を撫でられるティグ。暖かく優しい手つきに、少しむず痒いと思いながらも、ティグは初めての感覚に身を委ねることにした。
ディアナの暖かな温もりが手のひらから伝わる。こうして頭を撫でられるのはいつぶりだろう?いつもいたずらをしては杖で殴られるのが日常だっただけに、ティグはこうして褒められる事が少し嬉しく思った。
「や、やめろよ……」
「おや、嫌だったかい?」
「いや……。嫌じゃない……」
耳を寝かせてティグが少し小さくなる。いつもは見られない大人しいティグに、ディアナは少し可笑しく思った。このままもう少し褒めてやったらどうなるのだろうと、ディアナの心に少しいたずら芽生える。
「ふふふ、えらいえらい。良い子だねぇ、ティグ」
「…………」
顔を赤らめてしおらしくなるティグ。こうしてしばらく、二人の時間が過ぎていった。