勇者アニス伝説   作:びく太

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第0章:第0章の伝説
二人の勇者◇旅立ち


 世界は魔物の脅威にさらされていた。

 

 しかし魔物自体は昔から存在しており、それほど珍しい存在でもない。

 だがここ数年、魔物の数が急増し、その凶暴性も日に日に増していき、世界は混沌の時代を迎える。

 その原因は魔物を統べる王……つまり魔王が現れたこと。

 

 魔王バラモス――

 

 まだ、その存在を知る者は少なかった。

 なぜならば現実にその存在を確認した者がいない為に、その存在を信じる者もまた少なかったからだ。

 しかし確認しようにも、魔王が居るというネクロゴンド大陸には強力なモンスターがひしめき合っており、足を踏み入れるどころか誰も近づくことすらできなかった。

 

 だがネクロゴンド大陸に足を踏み入れて、帰ってきた者が2人居た。

 膨大な知識と呪文、そして華麗なる剣技でサマンオサにその人有りと言われた"知の勇者"サイモン。

 そして頑強な肉体と不屈の闘志、その一撃は岩をも砕くと言われた質実剛健の英雄、"武の勇者"アリアハンのオルテガ。

 サイモンは魔王の城へ攻め込む為の鍵を探し出し、オルテガは困難な道を越え、魔王バラモスの居城を確認してきた。

 世界は魔王の存在を認め、偉業を成し遂げたこの2人の勇者に希望を見た。

 

 魔王の居城があるネクロゴンド大陸は、大陸全土が山脈に囲まれており、細い川を船で行かねば踏み入ることはできない。

 そして魔王の居城まで踏み込む為には、強力な魔物が巣くう火山を越えなければならず、そこはとても多くの兵を送り込めるような道ではなかった。

 世界が出した結論は『少数精鋭』で攻め込み、魔王バラモスを討ち果たすこと。

 

 白羽の矢が立ったのは、もちろん『二大勇者』――"知の勇者サイモン"と"武の勇者オルテガ"。

 そしてサイモンの持つ『鍵』を使えば、ネクロゴンド大陸に兵を送り込める道を作ることができるという話だった。

 そこで多くの兵士に露払いをさせ、オルテガとサイモンを魔王バラモスのところに送り込み、打ち倒す……そういう作戦だった。

 

 しかしその肝心の勇者サイモンの足取りがプッツリと途絶えてしまった。

 一説にはサイモンの持つ『鍵』を邪魔に思った魔王が暗殺したなどともささやかれた。

 だが、"知の勇者"とも呼ばれるサイモンは、簡単に死ぬような者ではない。

 誰もがそう信じてサイモンが戻ることを願ったが、彼が戻ってくることはなかった。

 

 そして世界は、やむを得ずオルテガ一人に全ての希望を託すことになる。

 

 そしてオルテガはその希望を受け、とうとう旅立つことになった……後に『第0章の伝説』と呼ばれる事になる旅へ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 旅立ちの前日――

 

 オルテガの家にはアリアハン市民の代表として2人の男が訪れていた。

 やや恰幅の良い道具屋の主人と、防塵マスクをかぶった筋肉隆々の坑夫だ。

 

「おはようございます奥さん。明日はいよいよオルテガさんの旅立ちですね」

 オルテガの妻フローラは、道具屋の主人の言葉に「はい」とひとことだけうなづいた。

「オレたちにゃ何もできないけど、せめてこれを受け取ってくれ」

 そして坑夫が手持ちの麻袋から何やら取り出し、テーブルに置いた。

 

「まあ……このカブトは?」

 やや無骨な形をしているが、一見しただけでそこいらのカブトとは違うことがフローラにも分かった。

 話を聞けば、このカブトはアリアハンの市民がお金を出し合い、最高の職人と最高の鉱石と最高の施設によって作らせたオルテガの為のカブトだと言う。

 このカブトに勝る物は世界に存在しないほどの最高のものに仕上げられた世界で唯ひとつのカブト。

 フローラは、その皆の気持ちにいたく感じ入り、丁寧にお礼を言い、それを聞いた代表の2人は満足気にうなずいた。

 そして最後に「市民を代表して…」と、2人はオルテガの無事と勝利を祈って行った。

 2人を見送ったフローラは、皆の気持ちに感謝しつつも、やはり心のどこかでオルテガの旅立ちに賛同できなかった。

 

「ねえ、せめてもう少し……あの子が大人になるまで待てないの?」

 オルテガの部屋。オルテガは旅立ちの支度をしていた。

 もう、この質問も何度したのか分からない。

 もちろんオルテガがどう答えるのかも知っている。

 しかしフローラはそれを知りつつも、やはり同じ事を問わずにはいられなった。

 

「すまない、分かってくれ。オレは少しでも早く平和を取り戻したいんだ。皆の為だけじゃない。お前と……子供のためにも」

 オルテガは隣の部屋で寝ているであろう自分たちの子供を思い起こしながら、フローラの肩に手を置いた。

「……分かってるわ、あなた。ごめんなさい。でも無茶だけはしないでね」

 フローラは肩に置かれた夫の手に自分の手を重ねる。

 分かっていた答えに悲しみを覚えつつも、勇者の妻として、その血を引く子の母として、気丈であらねばならない自分を感じていた。

 

 そして翌日――オルテガは旅立った。




本来は仕切りの部分で二話に分かれていましたが、1000字以下は投稿出来ないようなので、苦肉の策として二話分くっつけました。
タイトルも◇で分けてます。
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