「アロン兄さん……」
「アニス……お前、王さまに正式な旅立ちの許可をもらったんだってな」
兄を前に、アニスは視線をそらしてうつむいてしまう。
「久々に家に帰ってきたら、お前が居ないから、どうしたのかと母さんに聞いたよ……そしたらお前が旅立ったなんて話を聞いて、文字通りルーラで飛んできたんだ」
「お前は……俺や父さんとの約束を破るつもりか?」
アニスの身体がピクリと反応した。
「お前は、父さんが旅立つ時も、そして俺が旅立つ時も同じことを約束したよな? 何て言ったか覚えてるだろ」
「うん……『母さんを頼む』って……」
数年前。オルテガが死んだという報告を受けてから、母は逆にいつもよりにこやかになった。
しかし無理をしているのが簡単に分かってしまう。アニスには、それがたまらなく辛かった。
父オルテガの悲報から幾年かが過ぎ、兄がオルテガの使命を受け継いで、アニスに『母さんを頼む』と言い残して旅立つ。
アニスは気付いていた。
兄が旅立ったことで母はさらに無理をするようになったことを。
何故、母はそれほど悲しみを心の奥に持ち続けているのか……何が悪いのか?
父が死んだことか? 兄が父オルテガと同じように死んでしまうかもしれないことか?
どれも正しい気もしたけれど、同時にどれも正しくない気がした。
まだ子供だったが、それでもアニスは考えた。
そしてアニスの出した結論は……
『魔王が悪い』
これがアニスの出した答え。
そう結論付けた時、アニスの心も決まった。
『自分も父オルテガのように魔王を倒す旅に出て、世界を平和にする』
子供らしい勝率計算度外視の単純な発想だが、それでもアニスは自信があった。
勇者オルテガの血が自分にも流れている……その事実が、未来の自分へ希望を抱かせた。
だからこそ女の身でありながら、兄のように父の使命を受け継ごうと思った。
何も勇者は一人である必要は無い。その資格があるのなら勇者は出来るかぎり多い方が良い……これがアニスの結論。
そしてアニスは、ようやくその旅立ちの第一歩を踏み出し今に至る。
「父さんの後は俺が継ぐ。お前は女なんだから、父さんの真似事なんかしないで家でおとなしくしてろ!」
「兄さんは、いつもそうやって――! 私を女、女って……女が戦っちゃダメなの?」
アロンは叱りつけるように言うが、アニスも負けてはいない。
仲間の3人は兄妹の口論に入らず、ただ傍観を決め込んでいる。
「そうは言ってない! だが、相手はその辺のモンスターじゃないんだ! 魔王バラモスだ! そんな苦しい戦いをするのは俺だけで充分だ!」
「それが余計なお世話なの! 兄さんが自分の意思で旅立ったように、私も自分の意志で旅立ったんだから、それをどうこう言われる筋合いなんて無いっ!」
「だったら母さんはどうなる? 父さんが死んでから母さんが無理してるのは、お前も分かっているだろう。戦いは俺一人に任せてお前は帰れ!」
「イヤっ!」
2人の言葉は平行線をたどる。
互いに結論ありきで言葉が出ている。そして双方その結論を変える気は無い。
それぞれの結論に交わるところがない。平行線。
「アニス……いつからそんな聞き分けが無くなった」
「じゃあ兄さん。ひとつ聞くけど……」
「なんだ?」
これ以上の口論は無駄であることを悟ったのか、互いにクールダウンしてひと段落。
そしてアニスが改めて、アロンに質問を投げかける。
「もし、兄さんも負けたらどうするつもり?」
「…………」
アロンは押し黙った。
そしてアニスの後ろでは、戦士ライドウが心の中でアニスの問いに対するアロンの答えを予測していた。
『勇者たるもの、己の敗北を考えはしない。なぜなら自分が倒れれば、世界は闇の手に落ちるからだ』
ライドウは、かつて剣術を教えてくれた師の言葉を思い出していた。
しかしライドウは、その言葉に矛盾を感じていた。ライドウにはその理屈が納得できなかった。そんな事を思い出す。
アロンは答えた。
「俺にとって戦いとは『勝つか負けるか』では無い。『勝つ』……それだけだ。勝たねば世界は終わる。だから俺は負けない」
奇しくも師と同じ意味の答えを言うアロンに、ライドウは若干の苛立ちを覚えた。
「そんなの絶対おかしいっ! 父さんだって自分が負けることなんて……死ぬことなんて考えてなかったはずっ! でも、父さんは死んだ! "勇者"の使命を受け継ぐのは一人でなければならないなんて決まりは無い! もし勇者が父さんだけじゃなく、もうひとりの勇者……勇者サイモンが居れば父さんは死ななかったかもしれない! 一人で戦いに行って……一人で世界の運命なんか背負って……それで無責任に死なれたら迷惑なのっ! 勇者が一人じゃなきゃいけない理由なんてないっ! だから絶対に私も父さんの使命を受け継ぐ! そしてバラモスを倒してみせる!」
「――っ!」
アニスの言葉にアロンは言葉を詰まらせた。
そして同時に、ライドウの身体はピクリと反応した。
もし勇者が2人いれば……それはオルテガの悲報を知った時、世界の誰もが思ったこと。
確かに居たのだ。勇者が2人。でも、その一人が欠けたためにオルテガは一人で勇者の使命を背負った。
もし、あの時。勇者がもうひとり……勇者サイモンさえ居たら。
「フッ……どうやらそう言うことらしいな、兄さん。これ以上の口論は無意味だろう」
ライドウが歩み出て、アロンとアニスの間に割って入る。
「なんだお前は?」
「俺はルイーダの酒場で、このお前のちんちくりんな妹の仲間になった男だ」
「ち……ちんちくりんってなんですか! ちんちくりんって! 私はそんなんじゃありません……って聞いてるんですか!」
残念ながらライドウは聞いていない。
後ろでギャースカわめくアニスを無視し、ライドウの視線は勇者アロンへと注がれる。
「そうか……」
ライドウの言葉に小さく息を吐く。そしてアニスの決意の固さを知ったアロンは説得を諦めた。
そして……背中の剣を抜く。
「だったら……力ずくで止めてやろう。魔法の玉さえ壊せばアリアハンから出られまい」
「残念だが、俺にはアリアハンを出なければならない理由があってな……アンタの思い通りにさせるわけにはいかない」
アロンの言葉に、ライドウは腰の剣を抜いて構えた。
「ちょ~っと俺も、せっかくアリアハンから出られるチャンスが無くなるのは困るっす……って事で俺もお相手するっすよ、お兄サマ」
そう言ってトウヤもアニスの前に出て、棘の鞭を持って構える。
「私も……アリアハンから出る理由があるので……お相手します」
今度はエヒルンまでもが同じ理由でアニスの前へと歩み出た。
「え? え……?」
個人主義の三人が、それぞれ根本的な理由は違うだろうが、初めて思いをひとつにした。
慣れない状況に、逆に戸惑うアニス。
そんなアニスを見て、ライドウがため息を漏らしながら言う。
「アリアハンから出たいのだろう? ならばやる事はひとつだ」
今、アニスたちをアリアハンから出すまいと、兄アロンが立ちはだかっている。
ならばやることはひとつ……兄を蹴散らし、自ら道を切り拓くこと。
「はい!」
心が決まったアニスは、アロンを倒すため剣を抜いて皆と一緒に構えた。
<キャラ紹介>
●男勇者アロン(アロン・ディアルティス)
年齢:18歳
性格:いっぴきおおかみ
装備:はがねの剣、はがねの鎧、まほうの盾、てつかぶと
呪文:????
<備考>
オルテガの長男にしてアニスの兄。オルテガの使命を継ぐ者。