「ほいっとぉ!」
トウヤの放った棘の鞭が、まるで生き物のように伸びてアロンの剣に巻きついた。
「ふんっ!」
「……っと!」
しかしアロンは巻きつかれた剣をあえて引き、トウヤと引っ張り合う格好になる。
「おおおっ!」
動きが止まったのを見て、ライドウが斬り込んだ。
それを横目で確認し、アロンは引っ張り合っていた力を一気に抜き、剣に絡められた鞭を解く。
拮抗していた力が急に解かれトウヤはそのまま後ろに素っ転び、アロンはライドウを迎え撃つ。
――ギィン!
互いにすれ違いざまに放った一撃は、互いの剣を衝突させただけ。双方ともにダメージは無い。
背を向ける2人は、斬撃を放った体勢のまま、互いの一撃の余韻を手に感じていた。
「くっ……」
しかし苦い顔をするのはライドウ。
「硬度の違い……ってヤツだな」
振り向き、アロンは不敵な笑みをうかべて再び構える。
見れば、ライドウの銅の剣が刃こぼれを起こしていた。
銅と鋼ではその硬度に差がある。それが衝突したのだ。当然、硬度の弱い方に何らかの被害があってもおかしくは無い。
「今度は、こっちから行くぞっ!」
アロンはアニスに向かって駆け出し、剣を振り上げた。
「――!?」
咄嗟に動くことが出来ないアニスは、剣を構え、その斬撃を受ける体勢に――
ザシュッ!
「ぐぅっ……!」
唐突に飛び込んできたライドウが、アニスに体当たりをかまし、腕にアロンの斬撃を浅く受ける。
そして、2人はそのままもんどりうって転んだ。
「な、なにを――!?」
アニスに覆いかぶさるように倒れこむライドウ。アニスには何故、ライドウがこんな事をしたのかが分からない。
「バカヤロウ……さっきのを見てなかったのか、このバカ! お前の技量なんかじゃ、銅の剣で鋼の剣の攻撃を受けたら剣ごと真っ二つだ! そんなことも分からないのかバカ!」
「そ、そんなバカバカ言わなくても……」
痛みを堪えて立ち上がるライドウに感謝しつつも、アニスは何か悔しいので素直に返事をしなかった。
実はアニスは練習用の剣くらいでしか、武器を持つ敵との対戦経験が無い。
実戦では、相手の武器・防具と自分の武器・防具の差を見切った上で、防御・回避・反撃などの選択をしなければならない。
練習であれば、互いに同じ武器・防具を使う事になるので、それに慣れていたアニスは硬度の差など考えたことも無かった。
「その男の言うとおりだ、アニス。その男が助けなかったら斬られていたのはお前だ。お前は戦いに向いていない。今からでも遅くない、魔法の玉を渡してアリアハンに帰れ」
今、手加減していなかったら、アニスをかばった戦士は重症を負っていただろう……と心の中で付け加える。
アニスは分かっていない。弱い者が身の丈以上の目標を持つことによる周囲への悪影響を。
自身の未熟が、どれほど周囲に迷惑をかけているのかを。
剣を握るアロンの手に力がこもる。
「イヤっ! そんなの絶対イヤっ!」
アロンの言葉を、アニスは駄々っ子のようにひたすら嫌がった。
「くっ……」
アニスとアロンの間に、傷を押さえて刃こぼれした剣を構えるライドウが立ちふさがる。
「なんだ、まだやるのか」
「アニス……ホイミだ」
アロンの言葉を無視。ライドウは自分の傷の回復を指示する。
「え……?」
しかしこう言った緊迫した戦闘に慣れていないアニスは、雰囲気にのまれ、かけられた言葉に思考が追いついてこない。
「いいから早くっ!」
「は、はいっ! ホイミっ!」
ライドウの怒鳴り声に我を取り戻したアニスは、その腕に回復の呪文をかける。
淡い光につつまれ、傷口はみるみる小さくなっていく。
「――メラッ!」
アロンの注意がアニスとライドウに向いている隙をつき、エヒルンが側面から呪文を放った。
こぶし大の火球が飛んでいくが、アロンは慌てる事もなく、ゆっくりと盾の持つ左腕を上げる。
「ふんっ!」
バシュ!
「うわっ! マジっすか!」
背後で隙を伺っていたトウヤは、火球の急襲を受け、あわてて飛び退きそれをかわす。
アロンの左手に装備されている盾は、どうやら魔法に対する耐性を持っているらしい。
その盾の装備された左手を角度をつけて振り下ろし、エヒルンの放ったメラを弾いて軌道を変え、背後に居るトウヤへの牽制に逆利用したのだ。
未だノーダメージ。対してアニス達は、大きなダメージは無くとも有効な攻撃は出来ないでいる。
そしてアロンはまだ本気を出している様子は無い。
――強い。
その場に居た全員が思った。
「チョロチョロと……面倒だな」
図らずも、アニスたちはアロンを包囲するような陣形になっている。
それを目だけで確認すると、アロンはボソリとつぶやき、左手をかざした。
「イオ!」
瞬間、アロンを中心に爆風が巻き起こり、アニスたちの陣形はアッサリと崩れた。
そもそも意図して作った陣形ではない。
パーティーメンバーの中で、その陣形を敷いていた事に気付いていた者がいたのかすら疑問だ。
「アニィィィス!」
体勢を崩したアニスを見て、アロンは体当たりを仕掛けた。
今、3人は爆風によって体勢を崩していて、アニスの援護が出来ない。
「うっ――!?」
正面から体当たりを食らったアニスは、後ろへと転がり、壁に激突した。
そしてその衝撃でアニスの道具袋が外れ、袋の中身が散乱する。
コロン……
倒れるアニスを前に、アロンは転がってきた玉を確認する。
「魔法の玉は俺が預かっておく……」
そう言って玉を拾おうとした瞬間、アロンの視界から魔法の玉が消えた。
「おおっと、そうは問屋が卸さないっすよ! ついでに、これも食らってちょ!」
電光石火の動きで横から魔法の玉を掠め取ったトウヤが、振り向きざま鞭の一撃を放った。
「――ちいっ!」
アロンはそれを盾で弾き、一度さがって距離を取る。
「ナイス、トウヤ! そのまま渡さないようにして!」
アニスは壁に激突した衝撃の残る身体で、必死に起き上がりつつ魔法の玉の死守を指示。
「了解っす」
視線はアロンから離さず、トウヤは握った手の親指を立ててアニスに了解の合図を送る。
「面倒な……一気にカタをつけるか」
「――来るぞっ!」
ライドウの一声に、全員が次の攻撃に備えて身構える。
距離を取ったアロンは、アニスたち4人を前に再び左手をかざし、振り払った。
「ベギラマっ!」
「ちいっ――!」
呪文が放たれた瞬間、ライドウは咄嗟に盾を呪文に向かって投げつけた。
そして投げつけられた盾に呪文が命中し、その場にて呪文が炸裂する。
「――なにぃ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
双方の中央で炸裂する呪文は、アニス側にもアロン側にもその威力を撒き散らす。
自分の放った呪文が予想外のところで炸裂し、虚を突かれたアロンは、炸裂した瞬間の光をまともに見てしまい目が眩む。
アニスと言えば、思いもよらないところで呪文が炸裂したことにビックリして声を上げていた。
「おおっと。おっちゃんはこっちに……」
戦闘に巻き込まれる老人を心配したのか、トウヤは下がって見ていた老人を抱え、呪文から逃げるように離れた。
アニスやエヒルンは、その呪文の威力を堪えるので精一杯。とても他に目を向ける余裕は無い。
「おおおっ!」
しかし皆が爆風を堪えようとする中、ライドウはダメージ覚悟で猛然と呪文の中を突っ切り、アロンに斬りかかった。
「――ちぃ!?」
目が眩んでいるアロンだが、本能的にライドウの剣に自分の剣を斬り合わせた。
ギィン!
斬り合わせた瞬間、アロンは違和感を感じた。
先ほどの斬撃に比べて軽すぎる。今は虚を突かれたアロンへの決死の攻撃だったはず。
しかしその一撃がさっき斬り合わせた一撃よりも軽いとは――
シュン――
「な…に……!?」
斬り合わせた一撃の衝撃が収まらない内に、アロンは風を斬るような音と共に、摩擦で火傷したような痛みが右腕に走るのを感じた。
そして次の瞬間、ようやくそれが目の前の戦士によって斬られたという事が理解できた。
アロンは咄嗟に後退して距離を取り、腕を抑えながら動揺を抑える。
「みんな、大丈夫?」
爆風が収まり、ようやく視界が開けたアニスはメンバーの無事を確認をする。
「な……なんとか」
「こっちも平気っす」
エヒルンとトウヤの返事は、すぐに返ってきた。しかしライドウの返事が無い。
アニスはあたりを見回した。
「――えっ!?」
ライドウを見つけたアニスは、驚きのあまり声を上げた。
何がどうなったのかは全然わからないけど、アロンは右腕を押さえて後退し、ライドウは血の付いた剣を持って立っている。
「な……何が……」
何故かいつもより大きく見えるライドウの背に、アニスは恐る恐る声をかけた。
トウヤもエヒルンも何が起きたのかは分からず、声は出さずとも驚きの表情を見せていた。
「貴様――」
しかしアニスの言葉は、アロンの言葉によって止められる。
アロンは上腕を押さえながら立ち上がった。どうやら深手では無いようだが、浅いわけでもなさそうだ。
「今のは……まさか――」
「フッ……咄嗟に身体が動いたが、まさかこの技が使えるまでに身体が回復していたとはな」
ライドウは自ら確認するように、手を握ったり開いたりして答える。
「そうか……"技"か。やはりな。見るのは初めてだが、今のがウワサに聞く"はやぶさ斬り"か……聞いたことがある。"その技、まさにハヤブサの如き速さと軽やかさを持つ。呼気ひとつにして、二枚の翼が敵を斬り裂く"……だったか?」
アロンの言葉にライドウは答えず、ただ、アロンを見据えている。
「しかし、その技の使い手は……貴様、何者だ!」
腕を押さえているアロンの手が光っている。おそらくはホイミの光。
ライドウは、刃こぼれした銅の剣を構えてアロンの問いに答えた。
「アリアハンに勇者オルテガ在れば、サマンオサに勇者サイモン在り。俺は……勇者サイモンが弟子の一人……戦士ライドウ!」