【DQ3】勇者アニス伝説   作:びく太郎

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1-8 勇者の証明

「ライドウさんが……勇者サイモンの……弟子?」

 ライドウの意外な告白にアニスは小さく呟いた。

「そうか。それが勇者サイモンの剣技か……」

 そしてアロンは、腕の回復が大体終わったようだ。

 

「うぇぇ!? ライドウさんて、あの勇者サイモンの弟子だったんですか!」

「だから……さっきからそう言ってるじゃないですか。聞いてなかったんですか?」

 遅まきに驚くトウヤにエヒルンが突っ込む。

「あ、いや……ここは驚いとかなきゃいけないような気がして……」

「ふぅ……」

 なんだか良く分からないトウヤの行動理念にエヒルンはため息ひとつ。

 どうやら分かっていながら場の演出を盛り上げるために改めて驚いたらしい。

 

「そんな話はあとだ。それよりみんな耳を貸せ」

「?」

 ライドウはアニス達を集め、ヒソヒソと耳打ちをする。

 アロンは、あえてそれが終わるのを待つ。腕を完全に回復させる為でもあるが、甘く見ていい相手じゃなさそうだと、ライドウを注視する。

 

「ああ、スンマセンお兄サマ。作戦会議中っす。ちょっと待っててもらえると助かります」

 アロンの視線に気が付いたトウヤは、何を思ったか"ちょっと待って"などと非常識なお願いをする。

「うぃででっ!?」

 意味不明な事をするトウヤをたしなめるように、エヒルンが耳を引っ張って作戦会議にムリヤリ引き戻す。

 

「ふぅ……」

 そんな妹のパーティーメンバーを見て、アロンは小さくひと息もらした。

 あきれているのか、ただ呼吸を整えたのか、緊張しているのかは分からない。しかしどうやら作戦会議を待つつもりらしい。

 

 

 

「ええっ――!?」

 アニスは仰け反って唐突に驚きの声を上げる。

「そう言うことだ。じゃあ行くぞ!」

「え、え……ちょ、ちょっと待って下さい」

 耳打ちでの作戦会議を終了し、散開する4人……もとい3人。

 散開する3人をあわてて引きとめようとするアニスだが、それぞれアニスを無視。

 

「決定事項だ。変更はない……というよりも、それ以外にやりようがない」

 アニスの戸惑いをバッサリと斬り捨て、ライドウはアロンに向かって剣を構えた。

「フォーメーションっすよ、フォーメーション。短く言えば、チームプレイで役割分担しながら攻撃しましょうってことで……」

「……長くなってるんですが」

 アニスの言葉にトウヤが変な解説をし、さらにそれに対してエヒルンの鋭い突っ込みが入る。

「はぁ……」

 作戦了承云々はともかく、アニスはため息を漏らしながらトウヤという人物を理解した気がした。

 

「……それぞれが、それぞれの出来ることを考えた場合、あの人に勝つには……」

 改めて、エヒルンがアニスの決断を促した。

「それぞれが……出来ること……そうか、そうだよね」

 アニスの心が決まる。それに満足したように、エヒルンはアロンの方へと目を戻す。

 すでにライドウから受けたダメージを回復し、アロンは悠々と身構えていた。

「作戦会議は終わったのか?」

「まあね……ってことで――」

 

『――メラッ!』

 アニスの言葉を合図に、アニスとエヒルンが同時に仕掛ける。

 2つの火球はアロンを目掛け飛んでいくが、アロンは再び盾を使って呪文を弾く構え。

 しかし当然、エヒルンに同じミスを繰り返すつもりは無い。

 

 ぼぅん!

 

「なっ――!?」

 アロンの直前で火球同士がぶつかり、盾を構えたその前で炎が炸裂。

 弾けた火球は瞬間的に激しく燃え上がり、アロンをひるませた。

 

「2番手トウヤ……行くっすよ!」

 いつの間にか距離を詰めていたトウヤが、炎にひるむアロンに仕掛ける。

 しかしアロンもトウヤの攻撃に気付き、剣を振り上げた。

「そこっ!」

 だが、振り下ろすアロンの剣は空を斬る。

「――じゃないんだなぁ、それが!」

 スピードに緩急をつけることでアロンの斬撃をやり過ごし……

 

 とん。

 

 アロンの身体に寄りかかるように密着。懐に入って密着してしまえば、そこは攻撃を受けない安全地帯。台風の目。

 そのままクルリとアロンの身体に沿って回り、背後へと位置取って背を蹴り、振り向きざま鞭を放つ。

 ほぼ回避不能。顔だけならともかく、身体を回す時間も無いし、盾で弾くにも攻撃される位置が悪すぎる。

 普通なら、この攻撃は防御など出来ない。

 

 ――が。

 

「――ちぃ!」

「うぇっ!?」

 アロンは、その回避も防御も不能な攻撃をしのいだ。

 顔だけ振り向いて確認し、左手で背中の鞘を使って、背後からの攻撃を弾く。

 虚を突かれ、一瞬焦ったのはアロン。しかし真に驚いたのはトウヤの方。

「ダテや酔狂で背中に剣を背負っているわけじゃない!」

 攻撃をしのいだアロンは、振り向きざま呪文を放つ体勢を取る。

 

「ギ――」

「おおおっ!」

 しかし呪文を撃とうとした瞬間、ライドウが仕掛け、アロンは呪文を止めて急いで身構えた。

 身構えるアロンに構わず、ライドウはそのまま攻撃を放った。

 

 ギィン!

 

「また、それか――!」

 一撃目が軽い。

 アロンは、また"はやぶさ斬り"が来るのだと、1撃目を小さく受けて2撃目に備える。

 しかし、いつまで経っても2撃目が来ない。

「――かかったな!」

 一撃目を放った直後でもあり、ライドウとアロンは非常に接近していた。

 "はやぶさ斬り"を警戒するアロンの意識を逆に利用し、ライドウはわざと一撃目を軽く放つ。

 そして、2撃目に備えるアロンを確認し、ライドウは改めて攻撃を仕掛けた。

 

「ちぃ――!」

 突き。

 近距離で放たれた場合、最も防ぎにくい攻撃。通常は突かせないのが常。

 そもそも突きを効果的に使うには、その予備動作で身体が大きく開く為、近距離で放つ攻撃としては向いていない。

 しかしライドウの仕掛けた心理的トラップによって、アロンはその攻撃をさせてしまうだけの致命的な『間』を作ってしまった。

 

「おおおっ!」

 ライドウの突きがアロンの胸を突いた。

 しかし鎧を着込んでいるため、アロンの身体に刃は届かない――が、その心理的トラップに落とされた事とダメージは少ないとは言え直撃を受けた事。

 アロンは受けた衝撃によろめきながら、精神的にショックを受けていた……が、すぐに冷静さを取り戻す。

 しかしその瞬間的なショックは、次の手を撃たせる隙を生み出していた。

 

「――ヒャド!」

「うっ――!?」

 エヒルンの放った氷の刃がアロンの足下に突き刺さり、その足ごと床を凍結させる。

 瞬間的に状況を把握したアロンは、氷を溶かすため、ギラを使おうと左手を掲げた。

 

「おおっと、そうはトウヤが卸さないっすよ!」

 面白くない、出直してまいれ。どこからか声が聞こえたような気がしたが、それは気のせいだ。

 それはともかくトウヤはアロンの左手に鞭を放ち、呪文を使おうとしたその手を絡め取る。

 

「アニスっ!」

「は、はいっ……! やあぁぁぁぁ!」

 両足と左手を拘束されて身動きの取れなくなったアロンに、アニスは戸惑いながらも剣を振り上げて突っ込んだ。

「兄さん、覚悟っ!」

「おおあぁぁぁぁぁ――!!!」

 両手で握られた銅の剣が、驚きの声を上げるアロンの身体に振り下ろされる。

「――ストロン!」

 

 

 

 ギィィィン!

 

 

 

 アニスの手には何も握られておらず、ただ痺れだけが残っていた。

 確かに、アニスはアロンにとって致命的なタイミングで剣を振り下ろした。

 だが、そこにあるのは黒い"鉄のかたまり"と化したアロン。

 そしてその"鉄のかたまり"は、再び色を帯びて本来の姿へと戻る。

 

「ふぅ……まさかアストロンを使う事になるとはな。よっ……と、ギラ!」

 アロンは右手の剣でトウヤの鞭を斬り、閃熱の呪文を使って足の凍結を溶かす。

 アニスたち4人は顔色を失っていた。

 千載一遇のチャンス……それを逃した。4人の頭には、ただそれだけが理解できた。

 

「……っ!」

 アニスは我を取り戻し、後ろへと飛んでいった剣を拾って再び構える。

 刃こぼれした剣を持つ戦士、未熟な勇者、短く斬られた鞭を持つ盗賊、魔力の残り少ない魔法使い。

 対して……鋼鉄に包まれた装具。実戦で培われた実力。そしてダメージ無し。

 もう勝ち目は無かった。

 

「アニス……思ったよりも腕の良い仲間を集めたな。だが、遊びは終わりだ」

「…………」

 アニスは兄からのプレッシャーを耐えるように、ただ剣を握り締めていた。

「最後の忠告だ……アリアハンに帰っておとなしくしてろ。それがお前のためだ」

「…………い、いやっ! 何が『お前のため』よ! 私が自分で決めた事なのに、何で兄さんが勝手に私の生き方を決めるの! 絶対に兄さんの言うことなんか聞かない!」

 アニスは必死に言葉を搾り出した。

 手が、声が震えていた。涙も出ていた。しかし現実は変わらない。

「そうか……ならば仕方ない。強制的に帰らざるを得なくさせてもらうぞ」

 

 

 

「そう言えば……そこの戦士」

「……なんだ?」

「お前の勇者サイモン特有の技の返礼として、俺の勇者オルテガ特有の呪文を見せてやる」

 アロンは自身の剣を背中の鞘に納め、右手を天に掲げた。

「――呪文!?」

 

「来たれ、聖なる雷!!!」

 アロンの右手を中心に雷光が渦巻く。

「な、なに……あれ?」

「アニス、お前は知らないだろうが……これこそ勇者オルテガのみが使いこなせたと言われる伝説の呪文――」

 アニスは見たことも聞いたことも無い呪文に、ただ驚くばかり。

「ラァァァイ……」

 そして、雷光渦巻くアロンの右手が振り下ろされる。

 

 

 

「デイィィィィィン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔法の玉は俺が預かっておく」

 アロンは床に転がっていた魔法の玉を拾う。

「あ……う…う……」

 

 床に倒れているアニスは、必死に身体を動かそうとするが、アロンの放った雷撃は身体の奥にまで衝撃を残していた。

 動こうともがくも、ただアニスに出来たのは聞こえるか聞こえないか分からないような唸り声を出すだけ。

 

 アロンの放った雷撃の呪文は、アニス達4人を一撃で戦闘不能にする凄まじい威力だった。

 皆、気を失ってはいないものの、アニスと同じく衝撃が身体に残っていて身動きが取れない。

 

「今のが、父さんだけが使えたという雷撃呪文ライデインだ。父さんの遺志を受け継ぐ呪文……この呪文こそが勇者の証明。分かったろアニス。お前には無理だ。これに懲りて、父さんの真似事なんかやめるんだな。レーベの村に助けを呼んでおいてやるから、お前はアリアハンで母さんと待っていろ」

 身動きの取れないアニス達を残し、そう言ってアロンは洞窟を出て行く。

 

 

 

 アニス達は全滅した。

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