「えいやっ!」
アニスは魔法の玉を壁に向かって投げた。
それは壁にぶつかると炸裂するように輝き、洞窟の広間全体を眩しい程に照らし出す。
ここはいざないの洞窟。
トウヤの裏技みたいな一発逆転劇によって、魔法の玉を取り戻したアニス達。
4人は再びパーティーを結成し、新たな冒険への扉を開きに、いざないの洞窟まで来ていた。
話は2日前のアリアハンでのやり取りまで遡る。
その日アニスたち3人は、ルイーダの酒場に集められトウヤのカラーボールを使った大道芸を見せられた。
そして、その大道芸の最後にトウヤが出したのは……アロンによって奪われたはずの魔法の玉だった。
「――え!?」
アニスは、驚きの声と同時にテーブルに手をついて立ち上がった。
腕組みをしていたライドウも、その腕を解いて身を乗り出して立ち上がる。
しかしエヒルンは特に驚いた様子は無い。
「じゃ~ん。魔法の玉~!」
「効果音つけて改めて言わなくても分かります」
驚くアニスとライドウに、さらに見せ付けるように強調するトウヤ。しかし冷静に突っ込むエヒルン。
「ど、ど、ど……どう、どうして魔法の玉がここに!?」
「え? なんか問題あったっすか?」
うろたえるアニスに逆に驚くトウヤ。
「いや、問題とか何とかじゃなくてだな……」
「魔法の玉は最初から奪われてはいなかった……そうですよね?」
ライドウの言葉を制し、エヒルンがトウヤに確認する。
「……もしかしてバレてた?」
「少なくとも私には」
「ちぇー、せっかく皆の驚く顔が見れると思ったのに……一番表情の変わらないエヒルンの驚き顔が見れないとは……」
「何か言いましたか?」
「いいえ、なんにも。空耳じゃん?」
なにやらガッカリするトウヤ。エヒルンの突っ込みを"空耳"のひとことでやり過ごす。
そして「はふー」と、あきれたようにため息を漏らすエヒルン。
「私達がレーベでもらった魔法の玉は、今ここにある魔法の玉。そしてアニスさんのお兄さんに取られた魔法の玉は、おそらく……」
「あれは俺が研究所から失敬した未完成品っす。魔法の玉をもらった時に、無造作に置かれていたから……つい、チョロっと……」
エヒルンの言葉をトウヤが続け、誤魔化すように後ろ頭をポリポリかきながら乾いた笑いをする。
「……え? ……え?」
事態が飲み込めないアニス。
「それは分かった……しかし、どう言った経緯でそうなったんだ?」
窃盗などの突っ込みたい部分はあるが、ひとまずそれを飲み込んだライドウは改めて問いただす。
「あ~、最初にお兄サマに玉が取られそうになったじゃないすか? あの時点では、まだ魔法の玉は本物っす。それを俺が横から掠め取った時も、まだ本物。あの後にお兄サマが呪文打った後、ライドウさんが突っ込んで"はやぶさ斬り"決めた時点で、俺の持っていた魔法の玉は未完成品に摩り替わってたわけっす」
「あぁ~…………色々と細かく聞きたいことはあるが、今はとりあえずそれで納得しよう。それで、その時に本物はどこにあった?」
理解したような、出来なかったような……そんな微妙な表情でライドウは一応納得。いよいよ本題に迫る。
「あの時本物は……どこにあったと思います?」
「洞窟にいた老人のローブの袖の中でしょうね……おそらく。トウヤさんに抱えられた後、袖の中に何かが入っていたように見えたので」
もったいぶるトウヤに痺れを切らしたエヒルンが、先に答えを言ってしまう。
「あー、先に言ったらダメじゃん!」
「知りません。トウヤさんがサッサと言わないのが悪いんです」
答えを先に言われ、心底悔しがるトウヤ。そして無表情にトウヤの思惑をぶち壊すエヒルン。
「……ちぇ。ま、そんなワケっす。んで預かってもらってた玉を取りに行って、昨日の夜に帰ってきたところなんすよ」
肩を竦め、一息ついてその肩を下ろす。
「な……な……」
わなわなと震えるアニス。その手が道具袋へと伸びる。
「なーんですってぇぇぇぇ!!!」
スコーン!
「ぐへあっ!?」
道具袋から取り出したひのきの棒が、閃光となってトウヤの頭を打ち抜いた。
「それじゃあ、私のこの一週間の悩みはなんだったのよぉー!」
違う意味で驚くライドウを尻目に、アニスは誰に言うでもなく叫ぶ。他の客に注目されている事も構わず。
暴れるアニスをエヒルンが「落ち着いてください」と止めに入る。
エヒルンに止められ、大きく息をつきながらもアニスはようやく落ち着きを取り戻す。
「ふーふー……何か私、バカみたい。一人で悩んで……」
ドカリとイスに座り、肘をつきうつむいて頭を抱えるアニス。その目から、ひと滴の涙が流れた。
そして、その後ろからアニスの肩をシッカリと掴み、横から顔をのぞかせるエヒルン。
「でも、これで冒険に出られますよ。何か問題ありますか?」
「…………ないわよ」
「それじゃ決まりですね。パーティーは継続、それと冒険の再出発をルイーダさんに申請してきます」
相変わらず表情は大きく変わらないが、エヒルンのその足取りはどこか浮かれて弾んでいるようにも見えた。
横をチラリと見れば、イスに座って満足気な顔して腕組みをしているライドウ。
正面には、尻餅をついて頭に出来たタンコブを撫でているトウヤ。
アニスはこんな情けないパーティーリーダーの自分と、当然のようにまた一緒に冒険しようと言ってくれる仲間達が心底嬉しかった。
そして聞こえるような、聞こえないような小さな声でひとことつぶやく。
「…………ありがとう、みんな」
そう言ったアニスは、そのまましばらく顔が上げられなかった。
『アリアハンより旅立つ者共よ……我に汝らの証を示せ』
いざないの洞窟。
石像の目が妖しく光り、洞窟のホールに重い声が響く。
声に従い、アニス達はそれぞれ壁に手を置いて名乗りを上げた。
「アニス・ディアルティス」
「ライドウ・コードウェル」
「トウヤ・タカトリ」
「エヒルン・クロモード」
名乗りが終わると、石像の目が再び妖しく輝いた。
『汝らの証は示された。封印されし扉を抜け、旅立つが良い』
石像の言葉と同時に、手を置いていた壁が消える。
……と言うより壁が後にあり、目の前には地下への階段と宝箱がひとつ。
どうやら手を置いた状態のまま、一瞬にして壁をすり抜けたようだ。
目の前の宝箱の中には地図が1枚。そして宝箱の蓋の裏を見ると、こう文字が刻まれていた。
『アリアハンより旅立つ者へこの地図を与えん。汝の旅立ちに栄光あれ!』
勇者アニス伝説 第1章-勇者アニスと旅立ちの扉- 完
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