2-1 ロマリア王の依頼
ヒュルル!
「ふむ……悪くないな」
ライドウは鉄の槍を振り回し、感触を確かめる。
「え? ライドウさん、槍を買うんですか?」
鉄の槍を持ってカウンターへ行こうとするライドウを見たアニスがひとこと。
ライドウは足を止め、アニスの言葉に眉間にしわを寄せた。
「さすがにロマリアは銅の剣で戦うって所でもないだろう。それなりの武器を使わなければな……何か問題でもあるのか?」
昨日ロマリアに着いたアニス一行は、ひとまず宿を取って一休み。そして今日、昼前にみんなで買い物に出かける。
ここはロマリアの武器屋。
鎖国で良質の武具が不足気味のアリアハンとは違い、さすがに様々な武器・防具が売られている。
所狭しと飾られている防具、そして赤いレンガ造りの壁に立てかけられている武器類。
道具屋とつながっているので、色々と揃えたいアニス達にとっては、まとめて買い物ができるので便利だった。
アニス達の装備は旅立つ前から使っていた物が多く、その上この間のアロンとの戦いで一部壊れた装備もある。
そんな状態で新しい大陸の敵と戦うわけにも行かないので、アニス達は装備を新調する事になり武器屋に来ていた。
「あ、いえ……ライドウさんは剣専門だと思ってたんですけど違うんですか?」
「フッ、バカかお前。確かに俺は剣が専門だ。しかし戦士とは、あらゆる武器を使いこなして初めて『戦士』と呼ばれる。俺だって一通りの武器は常人以上には使える。人によっては多少"武器との相性"ってのもあるだろうがな」
鼻で笑うライドウ。アニスは納得はしたが、同時に馬鹿にされて頬を膨らます。
ライドウ自身、別にアニスを馬鹿にしているつもりは無い。
しかしそれでも多くの経験を積んだ冒険者としては、こう言った初心者じみた質問は馬鹿馬鹿しく思ってしまい、それがつい口に出る。
「はい、そこっ! 懐に入れようとしないっ!」
「うっ――!」
何かを懐に入れようとした状態のまま、トウヤの動きが固まる。
手癖の悪いトウヤが聖水を失敬しようとしているところをアニスが目ざとく指摘。
それを横で見てたエヒルンがため息ひとつ。
「……まったく」
アロンとの戦いで、少しは協力することを覚えたメンバーだったが、それはあくまで戦闘に関してのみ。
普段が個人主義なのは相変わらず。こうやって色々と交流があるように見えるが、やはり基本はアニスと誰か……という交流のみ。
トウヤのボケにエヒルンが突っ込むくらいはするけれど、アニスを除いたメンバーに関しては交流と呼べるものは無きに等しい。
戦闘力では最低であっても、パーティーリーダーとしてのアニスの位置は重要であり、それ故に意外にも気苦労が絶えない。
なんとか交流させようとわざわざ皆で武器屋に来たのに、特に交流と呼べるものは無く、いつも通りアニスと誰か……という関係。
交流の無い団体行動ほど息苦しいものは無い。
長い旅路をただ黙々と歩いていくのは、アニスにとって真綿で首を絞められている事に近い。
さすがに今までの道のりで自分のポジションを悟ったアニスは、とにかくメンバーを繋げる役をする事にしていた。
そうしてこうやって色々画策するも、今のところ思ったような成果は現れず。
それは、ただ単に他のメンバーと交流する価値を感じていないとアニスは思っている。
ただ皆がそれぞれ反目しあっているわけではないのが救いだが、このままで良いとはとても思えない。
聞けば、ライドウは孤児だったところを勇者サイモンに拾われて育ち、小さい頃から弟子として戦士の教育を受けてきた。
エヒルンはアリアハンの祖父母に育てられたが、その祖父母が早いうちから他界し、小さな頃から一人で頑張ってきたらしい。
トウヤは自分の事を話したがらないが、その性格から家族などの生活感は全く見えない。
それぞれが基本的に己の力を頼りに生きてきており、他人に頼る性格でもない上、大体が自分で何とか出来てしまう。
おそらく『交流しない』のではなく『交流することを知らずに育った』、もしくは『交流する必要が無かった』のではとアニスは想像する。
ひとり家族の下でぬくぬくと甘やかされて育ったアニスが、このメンバーの中で一番弱いのは、そういう意味では当然なのかもしれない。
「はふぅ……」
アニスは再びため息ひとつ。
メンバーは新しい装備を買い揃え、武器屋を出る。
ライドウは、鉄の槍・鎖かたびら・青銅の盾と装備を一新したが、他3人はあまり変わらず。
トウヤは新調した棘の鞭と皮の鎧、皮の帽子を。エヒルンは武器がブロンズナイフから聖なるナイフに変わった程度。
アニスに至っては、元々の装備が新しかったこともあり、アリアハンから全く変わっていない。
そして宿への帰りの道すがら、先頭を歩いていたアニスは思い出したように振り向いた。
「あっ、そう言えば。これからロマリア王に挨拶しに行くんだけど――」
ロマリア王は気さくな人物で、常に冒険者たちの訪問を歓迎している。
単なる一般の冒険者であっても、時間さえあればロマリア王は冒険者を歓迎すると言う、あまり居ないタイプの王。
城の出入りも自由、王の間への出入りも番兵が許可すれば出入りが自由という……場合によっては王の身が危険である。
しかしロマリア王は好奇心が強く、そんな気さくな人柄がそれなりに国民から親しまれている。
アニスも旅立ってはみたものの、これからの進路や最終目的である『バラモスの打倒』への手がかりは無きに等しい。
もちろん、今のアニス達にバラモスなど倒せるはずも無い。ここはやはり国王に情報を求め、順序良く当面の目的を探したほうが良い。
これから何処へ行き、何をするべきか……そんな大事なことなのに。
「俺はパスだ」
「あ、俺もパスするっす」
「私もパスでお願いします。先に宿へ行って昼食の注文でもしておきます」
言ったそばからパスパスパス……みんな団体行動する気はゼロらしい。
「ああ、そう……やっぱり」
グッタリと力を落としたアニスは、大きなため息をつくと、渋々ひとり城へと向かった。
「よくぞきた、冒険者よ……と、お主一人か?」
「いえ、仲間はいるのですが……今は気にしないでください……しくしく」
ロマリア王の言葉に涙ながらに答える。
もちろん本当に泣いているわけではない。そんな気分だという事である。
アニスはロマリア王に謁見し、協力を得るため事情を説明して情報の提供を求めた。
「なんと、お主が勇者オルテガの……勇者オルテガの噂は聞き及んでいるぞ。まことに残念じゃったな。しかしその娘が父の遺志を受け継いで、冒険に出ているとは知らなんだ。アリアハン王も水くさいのう……ワシに教えてくれれば良いのに」
王の威厳とはかけ離れた、実に庶民的な言い回しで小さくぼやくロマリア王。
実はロマリア王とアリアハン王は親類であり、国家間はもとより王同士も仲が良い。
「ま、慎重なあやつの事じゃ。何か考えがあって秘密にしておるのやも知れぬな。オルテガの娘よ、何でも相談にのるぞ」
アニスの頼みを快く受けてくれたロマリア王は、近隣の事件などの細かい情報を教えてくれた……と言っても、実際に教えてくれたのは大臣だが。
現在、ポルトガ方面への通路は鍵で閉ざされ、関係者以外は通れないとの事。北のノアニール方面でエルフを見たという事。
そのノアニールでアロンと思われる人物が目撃され、近隣の魔物を退治してアッサラーム方面へ向かったらしい事。
そして最近、カザーブからロマリアにかけて盗賊団が頻繁にあらわれ、様々な被害が出ている事などなど。
アニスは、その情報のひとつひとつを良く覚えて深く心に刻み込んだ。
「王、あの事を頼んでみてはいかがでしょう?」
「……あの事?」
おおよそ情報を聞き終えたあと、大臣がロマリア王へと進言。
そしてアニスは首をかしげる。
「ああ……うむ、それが良いかも知れぬな」
ロマリア王はバツが悪そうな渋い顔をし、玉座の肘掛をバンと叩いて身を乗り出す。
「アニスよ、実はそなたに折り入って頼みがあるのじゃが頼まれてもらえるか?」
「……? はい、私にできる事ならば」
王の頼み……それはつまり『勅命』とも言える。ロマリア国の臣下であれば拒否不能である。
アニスはロマリア国の臣下ではないが、それでも受けられない理由でもない限り断れるわけも無い。
しかもアニスは王から様々な情報も貰っている……多少無理なことでも受けざるを得ない。
「うむ、すまぬな。実は……」
ロマリア王は、自分の頭をなでて話しはじめる。
先日、ロマリア王家の宝である"金のかんむり"をカンダタという盗賊に盗まれてしまったらしい。
しかし内密に探索をさせてはいるものの、王家の失態をさらすわけにもいかず、大っぴらに動けない。
そのせいか、未だその足取りを掴むことはできていないらしい。
今、ロマリア王の頭にある王冠は平時用の王冠であり、盗まれた王冠は式典用の物であり、豪華な装飾をあしらっているらしい。
「では、その式典用の王冠である"金のかんむり"の奪還、もしくはそれを盗んだ盗賊カンダタの拠点の捜索……という事で宜しいでしょうか?」
アニスは一通り話を聞いて、ロマリア王の依頼内容を整理して聞き返す。
「うむ、その通りじゃ。頼まれてくれるか?」
内心渋っていたが断るわけにもいかず、身を乗り出して返答を待つロマリア王を前に、アニスは頭を垂れて承諾した。