ネクロゴンドの入り口と言われる死の火山。
オルテガはその頂上に佇み、対岸を見つめていた。
眼下にはマグマ煮えたぎる死への扉が大きく口を開けている……オルテガは斧を持つ手に力を込め、上体の力を抜いて静かに身構えた。
見た事も無いモンスター。その魔物は空を飛び、大きく裂けた口からは長い舌が覗いている。
オルテガは、この熱い火口の縁に立っているのに、何故か背筋に寒気が走った。
しかしここを越えなければネクロゴンド大陸の中へと入る事はできない。
そしてここで引き返せば、背後から攻撃を受けることになり、自殺行為にしかならない。
オルテガは自分に不利な地形を承知で戦うしかなかった。
魔物が動いた――
オルテガは、それを合図に、より良い位置取りを求めて横へと駆け出す。
「ギシャァァァァァ!!!」
奇声を上げて空から魔物が突進してくる――が、オルテガは超人的な跳躍で火口の対岸へと着地。
「ギラッ! ギラッ! ギラッ!」
背を向ける魔物に閃熱呪文を放ち、牽制するが、素早い動きでスルリとかわされる。
オルテガはひとこと唸って気を取り直し、空中から襲い掛かる魔物の攻撃に備える。
「おおおおおおっ!!!」
魔物の攻撃に合わせるようにオルテガの斧がきらめく。
ザシュ!
魔物と数合打ち合い、オルテガは斧とは思えぬ速さで斬り付けた。
「浅かったか――!?」
しかし手応えの無さから、オルテガは直感的にそう思う。
その直後、僅かな戸惑いの隙を突いた魔物の攻撃が、オルテガを翻弄し――
「うあああっ!」
オルテガは足を滑らせて火口へと滑り落ち、マグマの熱に当てられたが、何とか体勢を立て直す。
「ギャ! ギャ! ギャ!」
直後、魔物の口から放たれた火球がオルテガに襲い掛かった。
しかし体勢を立て直していたオルテガは、マグマから離れながら、その火球を素早くかわし火口の縁へと戻る。
ゆらゆらと宙に浮いて、どこか余裕を見せる魔物。
跳躍し、火口の反対側に着地したオルテガは、はなれたところを飛ぶ魔物を追いかける。
しかし足場の悪いところに誘われていることに気付き、再び跳躍。
火口の対岸へと着地し、閃熱呪文を放って魔物を牽制する。
思うように行かないオルテガに業を煮やした魔物は、再びその爪で襲い掛かってきた。
ギィン!
斧と爪が交錯し、火花を散らす。
激しく動きながら攻撃する魔物のスピードに、やや後手に回るオルテガ。
「キィィィィィィィィ!!!」
疲れの見えるオルテガ。魔物はその隙を逃さず、爪による強烈な一撃を振り下ろした。
「うああっ!?」
オルテガは電撃的な反応速度で盾を出し、その一撃を受け止める――が、再び足を滑らせ火口をずり落ちていく。
またもマグマの熱気に当てられ、オルテガは少々のダメージを受け、そしてその体力を大きく削られる。
直後、休む間もなく放たれる魔物の火球。しかしオルテガの戦士としての本能が、その攻撃を避ける力を生み出す。
マグマから離れるように跳躍しながら、同時に魔物の火球をかわしていく。
何とか火口の縁に戻ったオルテガだったが、その体力は底を尽きかけていた。
ただでさえ熱い火口、そしてゴツゴツとしている足場の悪さ……さらに空を飛ぶ敵。
上を気をつければ足下がおろそかになり、足下を気をつければ魔物の攻撃に対応できない。
オルテガの経験と集中力を持ってすれば、それらを同時に行う事は可能であったが、いかに超人オルテガと言えども人の子。
その体力には限界があり、体力の低下と共に集中力もまた落ちていくのは仕方の無いことだった。
「ふぅ……」
オルテガは大きく息を吐いて呼吸を整えると、またも跳躍し、空中で魔物とすれ違って火口の反対側へと着地する。
それは戦っていた中で見つけた比較的足場の良い場所。
オルテガは気付いていた……もう、自分の体力がほとんど尽きていたことを。
慎重にタイミングを計った――
もう次の一撃が最後の一撃になる事をオルテガは悟っていた。
逃げることはできない。
こんな足場の悪い場所を、空飛ぶ魔物から逃げ切れるわけが無い。
そしてこの魔物を倒さなければ先へ進むこともできない。
自分はここで死ぬかもしれない。
「ならば――!」
オルテガは跳躍し、捨て身の一撃を繰り出した。
同時に魔物もまた捨て身の攻撃を仕掛け、1人と1匹は空中で衝突――
空中なら翼のある魔物の方が有利……だがここで犬死はできない。
オルテガは自分の後に続く者の出現を信じ、魔物を強引に道連れにしてマグマの中へと落ちていった。
ぐつぐつと煮えたぎるマグマ――しかし太陽はすがすがしいほどにきらめき、火口を照らしていた。