【DQ3】勇者アニス伝説   作:びく太郎

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勇者アロン伝説 Episode-04

 独りには慣れていた。

 それは自ら進んで選んだもの。今この場においても後悔などありはしない。

 いや、余計な事を考えるな。

 今は一歩一歩落ち着いて進むのみ。決して慌ててはならない。心を鎮めて動揺を消し、はやる気持ちを抑えて理性的に行動すべきだ。

 それなのに気がつけば自己の理念を再確認しているとは。動揺を抑えていたつもりが、まだ抑えきれていなかったようだ。

 

 俺もまだ甘い。

 波ひとつ無い鏡面の如き水のような、冷気纏う冷ややかな氷の静寂のような、そんな心構えが今の俺には必要だ。

「…………いや。余計な事は考えるまい!」

 情けない自分を認めながらも、だからこそそれに負けられないという想いが、頭によぎった雑念を振り払う。

 かざした盾の影から空を見上げる。空には偉大なる太陽が活き活きと輝いていて、砂の大地には焼けた空気と焼かれる俺が存在するだけだった。

 そんなイシスの砂漠で、俺は水を失った。

 

 不覚だったとしか言いようが無い。

 すでに一度越えている事が油断を誘ったか、俺は初めて砂漠を渡ろうとした時ほど準備をしていかなかった。

 それでも砂漠において水は最重要アイテムだから、余分に持った。

 しかし旅には不測の事態というのが常に付いて回る。どんなに気をつけていようとも、予期しない角度から必ずやってくる。

 それを忘れていた俺の落ち度だ。

 

 アッサラームを出た後、俺は順調に砂漠を進んでいた。

 照りつける太陽の輝きに辟易しながら、急激に下がる凍えるような夜の冷たさに耐えながら、それでも予定より早く進めていた。

 足が沈み込む砂上の戦いも、敵の動きの一手二手先を予測することで動作の鈍りを補い、呪文を有効に使いながら、いつものように敵を倒した。

 しかし砂漠に入ってから幾度目かの戦いに関しては、運が悪かったとしか言いようが無い。

 戦闘中、流砂が発生して俺は足を取られた。待ち受ける砂の墓穴へと滑り落ちようとする自分の身体を逃がそうとすることで精一杯だった。

 

 そして相手をしていたモンスターが火炎ムカデ。実に不運だ。

 吐き出された炎は、流砂から逃れようとしていた俺を襲った。何とか直撃は逃れたものの、背に負っていたバッグがやられた。穴の開いたバッグの中身は砂の渦に巻き込まれ、砂地獄の底へと消えた。

 幸いにして落ちた荷物は砂漠越え用に準備したものが大半で、普段持ち歩いている荷物は大体無事だったが、水とキメラの翼を失ったのがとにかく大きい。

 残り半分の行程を、今はただ一歩一歩確実に進むだけ。俺に出来るのはそれだけだ。

 しかしどこまでも続く熱砂を前に湧き上がる絶望感は、いかにしても抑えることは出来そうにもなかった。

 今日もまた、太陽は輝いている。

 

「…………」

 水を失ってから五日。背に肉薄する死を感じながら、俺はまだ熱砂の上を歩いていた。

 いくつかの条件を揃えた上で昼夜の温度差を利用すれば、カップ半分くらいの水はなんとか作る事は出来る。小さいがサボテンも見つけた。手持ちの食料にフルーツがあったのも幸いした。

 しかしまだ足りない。足りないが、それらが俺をここまで生きながらえさせているとも言える。

 

 水だ。食べ物はある。水なんだ。水、水、水、水、水……。

 延々と熱砂の中に突っ込んだ足は熱病にかかったような温度になっている。そのせいか足元にいまひとつ感覚が無く、歩いていてもフワフワとおぼつかない。歩きながら、たまに意識が飛んでいる時もある。ゆらゆらと揺れる砂だらけの風景に平衡感覚さえ狂ってくる。もう自分がまっすぐ歩いているのか、目的地へと進んでいるのかさえ分からない。

 水を失った絶望的な状況で、俺はさらに方向感覚さえも失っていた。

 

 しかし歩かなければならない。この場に留まって事態が好転することなどありえない。だから進む。

 俺には使命がある。それを果たすまで絶対に死なない。

 例え可能性が0パーセントになろうとも、そこに1パーセントの可能性をこじ開けてこそ真の勇者だ。

 死んでも俺は生きる。

 

 ――砂?

 

 何故か砂が目の前にあった。地面が縦に見える。僅かに開いていた口を閉じようとすると、入り込んでいた砂がそれを邪魔した。

 

 ――手?

 

 手があった。砂に半分埋もれていて、小さな山になっている。

 

 ――誰の手だ?

 

 目の前の手は自分の意志では動かない。とても自分の手に似ているが、どうやら違うらしい。

 

 ――ああ、人食い蛾が来た。戦わなくては。

 

 揺れる熱砂の上をゆらゆらと飛ぶモンスターのその遠い遠い先に、青々とした葉を生やして聳える木々が確かに見えた。

 

 ――なんだ、オアシスまでもうすぐじゃないか。さあ、はやくモンスターを倒して水をたらふく飲んでやるぞ。

 

 着くなり、裸になってオアシスに飛び込む自分を想像すると、自然に頬が緩んだ。

 

 ――あと少し、あと少しだ。剣を取れ、敵を見据えろ。さあ、来い。俺は勇者アロンだ。




第4章があれば、その後に載せる予定だったエピソードです。
よく考えたら、これ前は公開しないままお蔵入りになってたから意外にも初公開だ……。

ちなみに第四章のタイトルは以下の予定でした。

【DQ3】勇者アニス伝説 第4章-勇者アニスと王家の墓-(仮)
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