深夜のアリアハン。フローラは子供と共に、月の光が差し込む薄暗くなった王の間に居た。
王の間には他に国王、大臣、そして4人の衛兵が居る。そこへ1人の兵士が入ってきた。
「遅かったな。して、どうであった?」
「はっ……申し訳ありません。火山の頂上には我々ではとても辿りつけず……オルテガ殿の遺品はまったく見つけられませんでした」
王の言葉に淡々と答える兵士。
その報告を聞いて、うなだれる国王……しかし気丈にもフローラは、その言葉を聞いても平然としていた。
「そうか……しかしオルテガほどの者がやられるとは。ご家族にもなんとお詫びを申しあげればよいのか……奥方、まことに申しわけない……」
フローラの気丈な態度を逆に痛々しく思った国王は、玉座から離れフローラへと歩み寄って、オルテガを送り込んだ者として謝罪の念を伝えた。
国王は後悔していた……オルテガという人類最後の切り札を安易に送り込んでしまった自らの浅はかさに。
「ありがとうございます王様。私も覚悟は出来ておりました。それに夫は立派に戦いました。きっと本望だと思います」
しかしフローラは、なおも気丈な態度を崩さなかった。
勇者の妻として、平和に殉じた夫の心を思えば、ここで泣くわけにはいかない。
偉大なる勇者の戦いを涙で締めくくらせるわけにはいかない……フローラは子供をギュッと抱き寄せた。
「しかし実に惜しい命を亡くしたものだ。もはや魔王に挑めるような者はおらぬ。我々にはもう希望はないのか……」
国王はフローラの気丈な態度に気まずさを覚え、少しだけ話をずらした。
しかしこの言葉もまた国王の心をそのまま表していた。
サイモンは行方をくらまし、そしてオルテガほどの勇者ですら魔王の力の前に倒れた。
これではもう魔王に戦いを挑むどころか、ネクロゴンドに踏み入ることすら出来ない。
オルテガやサイモンのような超人的な能力を持って初めて入る事の出来る魔王の大陸……ネクロゴンド。
この二人を失った今、誰が魔王を倒せるのか、誰がネクロゴンドに入れると言うのか……国王は途方に暮れていた。
それだけにオルテガを失った国王の責任は重く、その判断をした自らの過ちを悔い、肩を落とした。
しかしフローラは答えた。
「いいえ、王様。この子がいます。オルテガの血を引くこの子が! 夫の遺志は、きっとこの子が継いで見せますわ!」
国王は顔を上げる。
この子が……オルテガの血を引くこの子供がいる――
国王は思った。まだ世界は……我々を、人間を見放してはいなかったと。
オルテガの血を引く子は、急に注目を浴び、驚いて目を丸くする。
この子はまだ父親の死を理解できていない……そんな年端も行かない子供。
しかしそれでも皆は期待した……偉大なる勇者の血を引く子に。
偉大なる運命は親から子へと引き継がれ、それは世代を超えた物語となって、魔王をも退ける力を生み出す。
これは後に闇を払った偉大なる勇者の物語『ロトの伝説』において、日の目を見ることの無かった『第0章』に記されし物語。
オルテガという最後の希望を失った世界――そんな暗黒の時代。
その闇の中に残された小さな、小さな希望……数年の後、希望を受け継ぎし運命の子は、勇者として旅立つ日を迎えた。
そして伝説が始まる……