謁見
それはアニスが16歳になる誕生日のことであった。
「起きなさい。起きなさい、わたしのかわいいアニスや」
声の主は、夢にまどろむアニスの肩をたたく。
「んあ……? お母…さん……」
抱えた枕に顔をうずめながら、チラリと目をのぞかせてアニスは声の主を確認する。
勇者オルテガの妻にして、アニスの母……フローラ。
シャッ――
「きゃ!」
フローラは部屋のカーテンを開け、暗い部屋に朝日を取り込む。
急なまぶしさにビックリしたアニスは、ふたたび枕に顔をうずめてしまった。
「おはようアニス。もう朝ですよ。今日はとても大切な日。アニスが王様に旅立ちの許しをいただく日だったでしょ。娘のおまえをこの日のために勇敢な男の子のように育てたつもりです」
「あ、そうだった!」
母の言葉に目を覚まし、跳ねるように飛び起きる。
そして急いで寝グセをなおし、朝食をとって身だしなみを整え、謁見用の服へと着替えた。
「さあ、母さんについてらっしゃい」
アニスはアリアハン城の門前まで母に連れてこられる。
「ここからまっすぐ行くとアリアハンのお城です。王様にちゃんと挨拶するのですよ。さあいってらっしゃい」
心配するように何度も確認するフローラ。
「もー、お母さん。そんな事言われなくても分かってるよ。ほんっとにもー心配性なんだから」
口ではそう言いつつも、心の中でアニスは母の気持ちを理解していた。
父オルテガの悲報を受けてから数年。
母は気丈にも普段と変わりなく振舞っていたが、アニスは母が陰で密かに涙していたのを知っている。
それだけに、アニスには母のそれが逆に辛く思えた。
「よくぞ来た。勇敢なる勇者オルテガの息子よ! ……いや……娘じゃったか……」
第20代目である現アリアハン王。
アニスが来るなり威勢良く声を上げたは良いが、いきなり間違えてしまい咳払いをひとつ。
「むほん……しかし男に勝るとも劣らぬその精悍さ。アニスはさすがオルテガの子供じゃな」
年頃の女の子を誉める言葉ではないが、勇者としてこれから旅立つアニスには、それは誉め言葉であった。
「すでに母から聞いておろう。そなたの父オルテガは、戦いの末、火山に落ちて亡くなってしまった。しかしその父の後を継ぎ、旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞ!」
そう、数年前――
父の訃報を聞き、アニスは女でありながらもオルテガの遺志を継いで旅に出たいと思った。
はじめはその事に渋っていた母や祖父も『やはりこの娘もオルテガの血を引く子か…』と熱意に負けた。
以降、アニスは旅立ちの為に必死に訓練を重ね、母から出されていた課題『ホイミの習得』を達成。
それにより旅立ちの準備が整い、晴れてアリアハン王に旅立ちの許可を申請したのである。
「そなたならきっと父の遺志を継ぎ、世界を平和に導いてくれるであろう。敵は魔王バラモスじゃ! 世界のほとんどの人々はいまだ魔王バラモスの名前すら知らぬ。だがこのままではやがて世界は魔王バラモスの手に……。それだけは、なんとしても食い止めねばならぬ!」
アニスを前に王は熱弁を振るう。
かつて世界を統治していたアリアハンだったが、魔王バラモスの出現によって世界が凶暴なモンスターに蹂躙され分裂。
現王はモンスターの攻撃から国民を守るため、苦肉の策としてアリアハン大陸を世界から隔離せざるを得なくなった。
この隔離政策によって他大陸との徒歩による移動が不可能となり、アリアハンは外界より隔離された一国家に成り下がってしまうことになる。
その決断を下さねばならなかった現アリアハン王……その辛苦は察して余りある。
「アニスよ。魔王バラモスを倒してまいれ! しかしひとりではそなたの父オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ。町の酒場には冒険者達が集っておる。そこで仲間を見つけ、共に旅立つがよかろう」
王は、未だオルテガを一人で行かせてしまった自分の不明を悔やんでいた。
ゆえに、その子には決してひとりで行かせぬよう心を砕いていた。
もちろん旅立たせると言うことは、アニスもまたオルテガのようになるやもしれないことは分かっている。
しかしもうオルテガの子以外に魔王に挑める者が居ない以上、その血にすがるしか無いのもまた事実。
それゆえに王は苦渋の決断を下さねばならなかった。人々の希望がオルテガの血に託されているかぎり……
王は旅立つアニスを鼓舞するように……優しく、また力強く声をかける。
……この子の無事を祈りながら。
「では、また会おうアニスよ! そなたのはたらきに期待しているぞ!」
<キャラデータ>
●女勇者 アニス 16歳 せけんしらず Lv.5
フルネームは『アニス・ディアルティス』
★使用可能呪文★
おもいだす、メラ、ホイミ