勇者アニス伝説   作:びく太

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ルイーダの酒場

 ジロリ

 

「うっ……」

 急に向けられた視線にアニスは一瞬たじろいだ。

 

 ここは冒険者の集う場所……ルイーダの酒場。

 アニスは冒険を共にする仲間を探す為、王に言われたとおりこの場所を訪れていた。

 しかし酒場に入った途端、見かけない訪問者に酒場の客一同の視線が突き刺さる。

 

 ――が。

 

 それは一瞬で終わり、アニスから興味の失せた客一同の視線は元に戻った。

 

 やや薄暗いホール。

 おせじにも大きい建物と言うわけではないが、設置されている円形テーブルが程良い間隔で並べられている。

 そして、その円形テーブルには酒場に登録されているであろう冒険者達が、出された料理を堪能していた。

 

「……良いにおい。そう言えば、もうすぐお昼だっけ」

 アニスは母の料理を思い出し、密かに腹時計を鳴らす。

 母フローラの手料理の美味しさは、アリアハンでも指折り物だと思っていた。

 しかしここの料理のにおいは、母の出す料理とはまた違った良い香りをただよわせアニスの食欲を刺激する。

 この料理は母に匹敵するかもしれない……アニスはそんな事を考えていた。

 

「……ん? おや、アンタはもしかして……」

 入り口で呆けている人物を不審に思ったのか、テーブルから食器を片付けていた女性が近づきアニスに話しかけてくる。

「へ? ――って、うわ凄っ……!?」

 呆けていたアニスは、声の主を見てその姿に驚く。

 そこには両手にそれぞれ塔のように高く食器を積み上げ、絶妙なバランスを苦も無く保っている女性。

 非常識な積み上げの高さ、そしてその量と重さを考えると……アニスならば動けるような状態ではない。

 それがまるで街角で気軽に「やっほー」とでも言うようにスタスタと歩いて声をかけてくる……とても人間業とは思えない。

 

「もしかして王さまの言っていたお嬢さんかい? え~と確か名前は……」

「うわぁぁぁ!!! あ、あ、あに、あに……あにすっ、アニスですっ!」

 そう言って思い出そうと目を瞑って眉をしかめ、うつむく女性。

 その瞬間、両手に積み上げた食器がグラつく。アニスはハラハラしながら必死に自分の名を名乗った。

 

「ああ、そうそう。アニスだったね」

 思い出したのか、女性はアニスににこやかに笑ってみせる……しかしアニスは笑うどころではない。

 先ほどから手に詰まれた食器がユラユラと揺れ続けているのが気になってしょうがない。

 女性はアニスに付いて来るように言うと、塔のように積まれた食器を鼻歌交じりに軽々とカウンターまで運びテキパキと片付ける。

 アニスはカウンターでホットミルクを出され、それをチビチビと飲みながら女性の仕事がひと段落するのを待った。

 

「ほい、お待たせ。確か、冒険を共にする仲間を探しにきたんだろ?」

 そう言ってカウンターに名簿を出し、女性はアニスに渡した。

「あ、はい。その通りです……え~と……」

「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私はここの酒場の主人兼、冒険者名簿管理責任者のルイーダさ」

 女性は親指で自らを指し示し、ニヤリと白い歯を見せた。

 見た感じ『酒場の主人』と言うよりは、『おかみさん』と言った方が違和感が無い雰囲気を持っている。

 

「そこの名簿に載っているのが、現在ここに登録されている冒険者さ。そして名前の横に星型の印が捺してあるのは、今冒険に出払っている人。星型の印が塗りつぶしてある人は冒険の終わった人。塗りつぶされた星型の印がたくさんあるって人は、それだけの数の冒険をこなした人ってことさ」

「え~と……なるほど」

 名簿には数十名からなる冒険者の名が連ねてある。そして、その半分近くに塗りつぶされた星型の印が捺されている。

 アニスは名簿を指でなぞり、登録者をチェックしていく。

 

「……あっ、カナン姉さんだ」

『カナン・アルバート 24歳 女 商人 アリアハン出身……』

 アニスは名簿に知り合いの名前を見つけた。

 

 カナン・アルバート――

 

 アニスの家の近所に住む道具屋の娘。お姉さん的存在で、アニスも昔から色々とお世話になっていた人。

 基本的にとっても良い人なのだが、調子に乗りやすい性格で失敗も少なくは無い。

 しかし、しばらく経てばそれを忘れて気持ちを切り替えることが出来るので、それはそれで前向きな人であるとも言える。

 名簿を横になぞっていくと星型の印が捺してある。どうやら今は冒険中のようだ。

 

「むー」

 名簿を見ながらアニスは唸った。

 確かに名簿には多くの登録者の名が載っているが、カナン以外は知らない人ばかり。

 名簿だけでは、どんな性格で、どんな特徴を持って、どれだけの実力があるのかがサッパリ分からない。

 塗りつぶされた星型の印がたくさんあるからと言って、必ずしも実力があるとは言えない。

 パーティー組んで冒険に行ったけど、途中で別れただけの可能性もある。

 

「あの~、オススメの冒険者……とかいます?」

「オススメかい? そうだねぇ……」

 そう言ってアニスから名簿を取り上げ、頭をポリポリとかくルイーダ。

 名簿と酒場の客の両方を交互に見て、再び名簿をアニスに渡す。

 

「良いかい、とりあえず実力と言うか才能と言うか……まずは、それだけの基準で言わせてもらうよ?」

「……? はい、お願いします」

 渋い顔をしつつ確認を取るルイーダをアニスは不思議に思ったが、バラモスを倒す旅なのだから実力や才能重視で教えてもらえるのなら願ったり叶ったり。

 構わず続けるようにルイーダを促した。

 

「そうかい? それじゃまず……この人。戦士ライドウ。たぶん剣の実力で言えば、この酒場で一番だろうね。ほら、あそこのテーブルで座ってる人だよ」

 ルイーダは名簿の一箇所を指差し、それを横になぞって説明。そして視線でアニスを促し、その人の居場所を伝える。

 

 振り向けば、気難しい顔をした若い戦士……しかしそのたたずまいは歴戦の強者を連想させる独特の雰囲気を持っていた。

 背が高く、父オルテガを思わせる屈強な肉体。戦士と言えばゴリラのような筋骨隆々の人を想像していたが……彼は少し違う。

 動物で例えれば、それはまさにライオン。

 筋肉が特別に太いわけではないが、確かな力強さとしなやかさを思わせる理想的な肉体……それはまさに"百獣の王"そのものだった。

 

「ライドウ・コードウェル。21歳で男戦士。出身地はサマンオサ……か」

 名簿を見ると、塗りつぶされた星型の印がいくつも捺してある。

「でもねぇ……実力はあるんだけど、ちょっと気難し過ぎて孤高なところがあってね。あまり他の冒険者とソリが合わないのさ」

「ふーん、なるほど。それじゃ次お願いします」

 ルイーダの言葉をひとまず流し、アニスは次を促す。

 

「ん~、次ね。次は……この人。盗賊トウヤ。盗賊としての腕も良いけど、とにかく身のこなしはアリアハンで一番だろうね。でも今度は戦士ライドウと反対で性格が軽すぎてねぇ。不真面目なところがあって、やっぱり他の冒険者に嫌われてるのさ」

「う~ん……トウヤ・タカトリ。19歳。男盗賊か。出身地……不明?」

 名簿を見ると、登録されたのは3年前。塗りつぶされた星型の印がいくつか捺してある。

「ああ、それかい? 何故か彼は自分の出身地を言わなくてね。理由を聞くと『盗賊は謎が多い方がそれらしい』って言うのさ……ま、良くわかんない人だよ」

 なんだかなあ……と思いつつ、アニスはルイーダに次を促した。

 

「最後に……この子ね」

「この子?」

 ルイーダが指差した部分を見て、アニスは小さく驚いた。

 

「エヒルン・クロモード……14歳!? ず、ずいぶん若いですね」

 名簿には確かに『エヒルン・クロモード。14歳。女魔法使い。出身地テドン』と書かれている。

「だろう? 今でこそ14歳だけど、そもそも登録時は12歳だったんだよ」

「じゅ……12さいっ!?」

 アニスはあまりの驚きに天を仰いだ。

 冒険者としての登録は、当然それ相応の実力が無ければ登録できない。

 それを12歳で許可された少女の話は、16歳でようやく旅立ちを許されたアニスにしてみれば凄まじい事だった。

 

「でも女の子だろう? まぁ……あんたなら分かるだろうけど、この年齢の女の子ってのは色々あるからねぇ」

「ああ………………なるほど。良く分かります」

 アニスは苦いような困ったような顔でルイーダの言葉にうなずいた。

 同じ年頃の女の子だからこそ、アニスにはルイーダの言う『色々ある』に思い当たることが多々あった。

 確かに名簿を見ると登録されたのは2年前になっている。そして星型の印はひとつも捺されていない。

 

「それにいくら最年少登録の天才魔法使いって言っても冒険は実力だけじゃないからねぇ。旅の行程を考えると体力が未発達の女の子なんて、誰も連れて歩こうとは思わないから、みんな敬遠しちまうのさ」

「ははぁ……なるほど。つまり今ルイーダさんの言った3人は、才能はあるのに別の問題があってお呼びがかからない人って事ですね」

「ま、そうさね。もったいないとは思うんだけど……でも、他の人の言うことも良く分かるのさ。私がそう言う立場なら、やっぱり敬遠するさね。旅の行程は長いから、問題は極力少ない方が自分のためでもあるし、皆のためでもあるしねぇ」

 少し困ったように笑いながら、ルイーダは暗に『この三人はやめた方が良い』と言っていた。

 

「それじゃ、その三人をお願いします」

「……………………ぇ?」

 アニスの言葉に、ルイーダはしばらくの間をあけた後、ようやく声を出した。

 

「え…え~と、ごめん。もう一回言ってくれるかい?」

「え? あ、はい。今紹介してくれた三人を連れて行きたいのでよろしくお願いします」

 言葉を聞き返したルイーダは、丁寧にお辞儀をして頼むアニスの言葉に、無理に作った微笑みのまま固まる。

 

「…………? あの…ルイーダさん? お~い……」

 そのまま固まっているルイーダの目の前で、アニスは手を振ってみたり、呼びかけてみたりした。

 翌日、ルイーダは渋々その3人を集め、アニスと引き会わせることになる。

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