アリアハンの城下町から離れ、アニスたちはレーベの町に向かっていた。
現在、島国であるアリアハンはモンスター被害縮小の為に鎖国政策中なので、基本的に他大陸へはいけない。
だからと言って、いち冒険者のアニスだけの為に船を出すわけにもいかない。
そもそも鎖国前のアリアハンは、海路による交易もあったが、基本的には陸路による交易を主としていた。
島国であるアリアハンがどうやって陸路による交易を可能にしていたか?
それは空間を越えて特定の場所へ瞬間移動できる『旅の扉』のおかげである。
『旅の扉』は世界各地に存在し、一部の人びとの交通手段として重宝されていたが、アリアハンは鎖国政策の折、大陸西部の"いざない洞窟"にある『旅の扉』 を封印してしまった。
よって、現在のアリアハンには外部との交易が無いのが現状。
しかしアニスたちはバラモスを退治する為に、どうしてもアリアハン大陸を出なければならない。
当然アリアハン王も、そのことを知っているのでアニスに旅の扉の封印を解く許可を出している。
ただ、旅の扉の封印を解くには『魔法の玉』と呼ばれるものが必要であるらしいとのこと。
アリアハンの城に居た研究者の話によれば、レーベの村にその『魔法の玉』の研究をしている人が居るという。
そんなわけでアニスたち4人は、レーベの村を目指していた。
そんな道すがら、アニスは先頭を歩く戦士ライドウを見て、ふと思う。
「あの……」
「なんだ?」
聞いて良いのか、良くないのか分からないので、アニスは控えめにたずねた。
「ライドウさん……は、戦士としてのキャリアが長いと聞いていますけど……」
「そうだが……?」
「それなのに何故、銅の剣を使っているんですか?」
そう、戦士ライドウの装備はどれも質素。
銅の剣、皮の鎧、皮の盾……それはまるで冒険者の初期装備のようだった。
正直な話、その装備からはとてもキャリアのある戦士には見えない。
「ああ……」と、ひとこと。
「いくつか理由はあるが、大きな理由は2つだ。ひとつは、俺は船が難破してアリアハンに漂流してきた。そのために本来の自分の持ち物を全て失ってしまった。もうひとつは、良い装備と言うのは時として自身への甘えにもつながる。この辺りのモンスターを相手にするのであれば、この程度でなければ釣り合いが取れんだろう……そんなところだ」
「ははあ、なるほど……」
さすがキャリアのある戦士。名人は武器を選ばないと言うが、つまりはそう言うことなのだろうとアニスは感心した。
確かに武器が弱いから、装備が貧弱だから戦えないなどと言う戦士が居たら嫌である。
必要であれば、ひのきの棒一本でも先陣を切って戦う心を忘れないのが本当の戦士。
「え、そうだったんスか? 俺はまたライドウさん、実はビンボーだったからだと思ってたんで聞いちゃいけなかったのかと」
「トウヤさん!」
さりげなく失礼な事を言い出すトウヤ。そしてそれを強い口調でたしなめるエヒルン。
ちなみに彼ら2人の装備も似たようなものであるが、盗賊や魔法使いは軽装が常。あえてスゴイ装備を揃える必要はない。
「まあまあ……」
アニスはエヒルンをたしなめる。
ルイーダの言うとおり、盗賊トウヤは性格が軽くて失言が多そう。そして魔法使いエヒルンは逆に頭が固そうだ。
どん
「おぶっ!」
先頭を歩くライドウが急に立ち止まり、すぐ後ろに続くアニスはその背中に顔からぶつかった。
「ああ、ライドウさん怒らないでください。彼はたぶん悪気があったわけじゃなくて……」
ライドウが立ち止まるのを『トウヤの言葉が癪に障った』と思ったアニスは、必死に弁明を始める。
「……モンスターだ」
だがそんな言葉は耳に入っておらず、ライドウは腰にかけてある銅の剣を抜いて静かに構えた。
その大きな背中の後にいるアニスは、前の状況が見えず、まだ状況を把握していない。
しかし周りを見れば、トウヤもエヒルンも武器を取り出し戦闘態勢に入っている。
「えっ……え……?」
ひとり戸惑うアニスに構わず、ライドウは無言で飛び出した。
そのおかげでようやく目の前の状況が把握できるようになる。
「ふんっ!」
ライドウの一閃。アニスが最初に見たのは、いっかくうさぎが角ごと両断された瞬間。
いっかくうさぎのあの硬い角を、切れ味の悪いことで有名な銅の剣で断ち斬るなんて並の腕じゃない。
モンスターは、いっかくうさぎの他に大アリクイも数匹出てきている。
「ほいっと!」
トウヤが武器を払うように振る。
ビシッ!
舐めるように軟らかくしなる棘の鞭が、大アリクイの集団を薙ぎ払う。
早い動きから繰り出される攻撃と、不規則な軌道を描く鞭を前に大アリクイは成す術も無い。
「まだまだっ!」
トウヤはさらに追い討ちをかけ、大アリクイを一挙に殲滅にかかる。
しかし。
「うぐっ!?」
トウヤの肩に白い物体が落ち、トウヤは左肩を押さえて片膝をつく。
「上かっ!」
振り向いて見上げるライドウの視線を追って、アニスも空を見上げる。
おおがらす。
どうやら上から骨を落とし、トウヤを攻撃したようだ。
「私に任せてください。――メラッ!」
エヒルンの指先からこぶし大の火球が放たれ、上空のおおがらすに命中する。
さすが魔法使い。術の発動がスムーズで、動いている敵に対する命中も良い。
アニスだったら今の呪文は外していたかもしれない。
確かにルイーダの言ったとおり、この三人の実力は確かだ。
ただ……連携とか、以心伝心とか、そう言ったものはまったく無いけれど。
それぞれがそれぞれで目の前のモンスターを倒しただけ。
「どうやら、全部倒したみたいだな」
「そっすね」
「……え?」
辺りを見渡せば、今まで戦っていたモンスターは全て倒されていた。
「まあ、このくらいなら問題ありません」とエヒルン。
さっきトウヤが倒し損ねた大アリクイは、いつの間にかライドウが蹴散らしていた。
「あ……えーと……あれ? あの…私の出番は?」
気が付けば、何もしない内に全部片付いていて出番が全く無い。
アニスは自分のやるべき事を探す。
しかし戦闘はすでに終わっているし……と、肩を押さえているトウヤを発見。
「あ、回復します。ホイミ!」
トウヤの肩に手をかざし、回復の呪文を唱えた。
淡い輝きがトウヤの肩を包む。
「おお、回復呪文っスか。どうもっす!」
肩の痛みが取れたのか、トウヤは腕をぐるぐると回し簡単な礼を言う。
そして戦闘を終えたアニス達は、改めてレーベの村へと向かった。
その後、幾度かモンスターに襲われることになるが、三人の戦闘能力が高いせいか、ほとんどアニスの出番も無く。
ある戦闘では……
「アニスっ、ホイミ!」
「はいっ!」
また別の戦いでは……
「こっちにホイミ頼むっス」
「はいっ!」
またまた別の戦いでは……
「アニスさん、回復を――!」
「はいっ!」
パーティー内で唯一回復呪文を使えるアニスは、パーティーの回復役にならざるを得なかった。
オルテガのような強いリーダーシップで、メンバーをグイグイ引っ張って派手に活躍したかったアニス。
しかし現実とは得てしてこんなものである。アニスは理想と現実の落差に、天に向かってこう叫んだと言う。
「私は薬草じゃなーーーーい!!!」
しかしその声は、山の少ないアリアハンではこだまもせず、また仲間の耳にも入らずに空しく消えていったとかいかなかったとか。
アニスの旅はまだ始まったばかりだ。