「ん? なんじゃお前さんは? 研究所の扉にはカギをかけておいたはずじゃが、どうやってはいってきた?」
「……え? カギ…かかっていなかったですけど?」
――レーベの村。
旅の扉を封印しているアリアハン大陸を出る為、アニス達は、その封印を解く『魔法の玉』を求めてこの村へやってきた。
村の奥に位置するその研究所には、特別な扉が付けられていたようだが、何故かカギはかかっていなかった。
研究所の中には、色々な器具と、数々のアイテムが置いてある。
「むぅ……そうじゃったか? おかしいのぅ。して、お前さん。一体ワシに何の用じゃ」
いきなり凄い見幕で迫ってきたわりには、研究所の老人は意外にアッサリと引き下がる。
アニスたちは事の成り行きを説明し、魔法の玉が欲しい旨を伝えた。
「なんと! するとお前さんがあの勇者オルテガの……! そうじゃったか……であれば、これをお前さんに渡さねばなるまい」
老人は棚に飾られた魔法の玉をアニスに渡す。魔法の玉を受け取ったアニスは感慨深いものを感じていた。
これで本当の意味で、父オルテガの無念を晴らす旅に出ることが出来る。
「その玉を使えば『いざないの洞窟』の旅の扉の封印が解けるはずじゃ。気をつけてゆくのじゃぞ」
「はい!」
アニスは魔法の玉を手に持ち、嬉々としてレーベの村を後にした。
いざないの洞窟。
アリアハン大陸東部にある険しい岩山の奥。そこの泉のほとりにある洞窟。
岩山にはかつて交易で使った山道があるが、旅なれた者でなければ、なかなかに辛い道である。
魔法の玉を得たアニス達は、そのいざないの洞窟を目指していた。
相変わらず戦闘におけるアニスの役割は薬草のそれと変わらないが、今のところ何とかトラブルも無くやっている。
おそらく皆が皆、個人主義ゆえに他人を気にしない分、ソリが合わないとか、人の好き嫌いとかが発生しないのだろうとアニスは思っていた。
この個人主義の3人をかろうじてつないでいるもの……それはアニスのホイミだ。
このパーティーは、4人でひとつの集団を形成しているのではなく、アニスとライドウ、アニスとトウヤ、アニスとエヒルンというアニスを中心とした1対1の関係が3つあり、それによってかろうじて集団の形勢を可能としている。
そして不幸中の幸いと言うべきか、3人はそれぞれに能力が高いため、互いの邪魔になるような戦い方はしない。
それぞれが、なんとなく人の戦っているモンスターには手を出さない。むしろ、時々しゃしゃり出すぎたアニスが邪魔をしているくらいだ。
しかしそれに関しては、アニスとの間にあるそれぞれの利害関係のせいかトラブルは起きない。
そういう意味では、メンバーをつなぐ役割として、アニスがパーティーの中心的存在だと言えた。
「……っと」
「大丈夫、エヒルン?」
アニスは辛そうなエヒルンに手を差し伸べる。
足場の悪い岩山……いくら腕の良い冒険者とは言っても、やはり身体的に未発達な少女。
当初から懸念されていたエヒルンの体力不足が早くも顔を出してきた。とは言え、実はアニスも辛い。
だが旅慣れているライドウやトウヤは、特にエヒルンを気にかける様子も無くそのままスイスイと登っていく。
「……大丈夫…です。気にしないで下さい」
アニスは手を取って引っぱってあげようかと思ったが、エヒルンはそれを払いのける。
ルイーダからの話によれば、彼女は冒険者としての力量は、そこいらの下手な冒険者よりも上。
しかし冒険者とは、文字通り冒険……つまり旅をする。旅ができる体力が無ければ、冒険者としては役に立たない。むしろ足手まといだ。
おそらく常々言われてきた事なのだろう。身体的・体力的にも未発達であるエヒルンは、そんな自分に強いコンプレックスを持っているという話だった。
だからそう言われないよう、エヒルンは必死に頑張っている。だからアニスは気を遣う事はしても、それは口にしない。
しかしそこまでして冒険者であろうとするエヒルンに、アニスは何か決意めいたものを感じていた。
けれど今の時点では、それを聞いたところで答えてはくれないだろう。でも、いつか話してもらえる時が来る……そんな風に思った。
「おーい、なんか泉のほとりに洞窟らしき穴が見えるんスけど~?」
岩山の頂上、未だ足場の悪い岩山をえっちらおっちらと登るアニスとエヒルンにトウヤが呼びかける。
すでにトウヤとライドウは、岩山の頂上まで登りきっている。
山はのんびりと登るのが『通』なんだからと、心の中でアニスは無意味に強がってみた。
「はーいはい、いま行きます……いま行きますから。どっ……こいせ!」
自分の足を手で押し、ようやく最後の岩を登りきる。オヤジみたいな掛け声だというのは突っ込んではいけない。暗黙の了解。
何とか岩山を登りきったアニスとエヒルンは、眼下に見える湖と、そのほとりに見える洞窟らしき穴を確認……するフリをして、こっそり小休止。
横でにらんでいるライドウの視線が気になったが、エヒルンの為にもアニスはあえて気付かないフリをした。
おそらく『休憩しよう』と言えば、エヒルンが強がって断るだろうし、このまま休憩なしで行こうとすればエヒルンも大変だが、アニスも大変だ。
だからあえて大っぴらに休憩せず、微妙な『間』を使いながら僅かな休憩時間を作る。
そしてその僅かな休憩時間にエヒルンを休ませ、アニスたちは改めて『いざないの洞窟』へと進む。
ここから洞窟のある泉のほとりまでは、なだらかな下りの傾斜があるくらいで足場もそれほど悪くない。
ほどなくして湖のほとりに着いたアニスたちは、いざないの洞窟へと入った。
中は町の公園ほどの大きさ持った城のホールのような空間が広がっており、壁際に大きな石像が二体。
そしてそのホールの真ん中に、老人が一人ポツンとたたずんでいた。
「ここはいざないの洞窟じゃ。じゃが旅の扉は、あの石壁によって封じられておる。もし魔法の玉があるならば、石壁の封印を解く事ができるじゃろう」
話しかけると、老人はうなだれたように元気なく答える。
老人の視線に促され、アニス達もまた老人と同じく石像の飾られた壁に目を向ける。
……とその時、石像の陰からひとつの人影が動いた。
「あっ……」
「ようやく来たか、アニス……待ちくたびれたぞ」
驚くアニスをよそに、石像の陰から現れた男はひとこと言うと、小さく息を吐いた。
その人物はアニスのとてもよく知る顔。
彼の名は――
「アロン兄さん!」
勇者オルテガの長男にしてアニスの2歳年上の兄……勇者アロンであった。