黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
オリジナル設定満載の拙作ですが、それでもよければ、どうぞ。
季節は巡って、春。
地中に眠っていた生命の芽吹きが訪れ、ハートランドにも桜の並木が見られるようになった、そんな時期。私は今、人生の大きな節目に立ち会っていた。
「今年本校に入学された新1年生の方……並びに、ご親族の方。ご入学、誠におめでとうございます!」
壇上に立つ校長先生の淀みない祝辞。そう、今は入学式。私こと黒咲瑠璃は晴れて小学1年生になったのだ。これからの同級生が男女関係なくそれぞれの椅子にチョコンと座り、光輝く眼で校長先生の話を聞く姿は、これからの小学校生活に向けての楽しみを現すかのようだった。
「新1年生の皆さん。ここは皆さんが将来、大人になるのに向かって成長していく場です!他の人からかっこいいと言われるような大人になる、それはとっても凄いことなんですよ?」
眼鏡をくいッと直し、校長先生のスピーチが続く。かっこいい、大人。これで得られる言葉としては尊敬、賛美、羨望……などと色々思いつくが、対して前世の自分はどうだったのだろうか、とも思う。簡単に言う言葉ほど忘れやすく、また達成しにくいものは無いということか。いや、そもそもそんな恰好だけで取り繕えるような単純な世の中ではないということを成長するにつれて痛感するからなのか。
いずれにせよ、かっこいい大人、と簡単に言うがそれに成るには途轍もなく努力が必要だ。それ以前に、私は大人になるまで生存できるのか、という問題もあるのだが。
「ですから、皆さんもここで先生たちから色々なことを学び、育って、立派な人になりましょうね……と言いますが、もちろん勉強だけが小学校ではありません!幼稚園や保育園と同じく、友達を作って一緒に休み時間に話したり遊んだりするのも小学校です!」
友達100人できるかな、と言う訳だ。言うは易し、行うは難しとはよく言ったもので、できた人を私はかつて未だ見たことが無いのだが。小学校というのは6学年とそれぞれのクラスを統合していうものだ。さらに個人の個性や性格もバラバラな未成熟の人間の集合体から、選りすぐりして100人もの友達を作れるほどの子供がいるのなら、それを世間は怪物と言うのだろうな。
「友達100人できるかな、という訳です!ですが、お友達やお勉強の2つだけが大事な訳ではありません。では、何が一番大事なのか……」
校長先生は続ける。ゴクリ、と喉が鳴る声がどこからか聞こえた気がした。
「それは、皆さん自身がこの小学校生活を通して見つけることです!分かりましたか、新1年生の皆さん?」
何が一番大事なんて無い、と言いたいのだろうな。
「「「はーい!」」」
校長先生の問いかけに、元気のある黄色い声が返ってきた。声変わりという言葉すらまだ知らない6歳児の合唱。子供ってどうしてそんな小ささの肉体でありあまるほどのエネルギーを保有しているのか、私は不思議でならない。
「新入生、起立!」
スピーチが終わると、担任の先生の号令で釣られるように私含めた同級生が一斉に立った。
「新入生の皆さん、私の後をー、しーっかりついてきてくださいねー!」
言われるがままに出席番号順に整列し、歩き始める。前世となんら変わり映えの無い入学式だったな……
……嘘だ、前世の小学校の入学式の記憶なんて全く無い。ただ、この遊戯王の世界でも根本的な部分は変わっていないのだな、と思い安堵しただけだ。うん、これでいい。如何に退屈であろうと、平穏は尊いものだ。これだけは、絶対に違い無い。
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担任の先生が先導して教室に入り、出席番号順に席に座る。見慣れない光景にソワソワしている生徒が大半、実感がないのかそれとも肝が据わっているのか無表情な生徒が少し。それと、周りの環境では無く周りの生徒を見ている生徒がただ一人。私だ。
「教科書を配りまーす、1年間使うので大事に使ってくださいねー!」
教壇に立った先生がそう言うと、積み上げられた段ボールから次々に教科書が取り出され、席の後ろ、後ろへと教科書が渡されていく。ちなみに私はカ行の苗字なので出席番号は早いほうだ。
「はい、黒咲さん」
「ありがとう」
前に座る生徒から教科書を受け取り、後ろに回す。
「どうぞ」
「ありがと!」
こくご、さんすう。平仮名なのは漢字をこれから習うからだろう。えいご……英語って1年生から習ったっけ……?まぁいいか。せいかつ……懐かしいな。2年生から理科と社会に分離するんだっけ?どうとく……ああ、こういうのは変わらないんだな。おんがく、ずこう……副教科だ、なんやかんや好きだったな。でゅえる……ああ、デュエルね……んんん!?
デュエルって義務教育の範囲なんだ!?
しかも結構易しめの、ちゃんとした感じの教科書だな……後で読んでみよう。
「さーて、皆さん。今日から皆さんは小学生になりました。まだ知らないお友達ばっかりでしょうが、是非お互いに仲良くしてあげてくださいねー?」
兎も角、教科書を配り終わり、段ボールを畳んだ先生が両手を合わせて言う。仲良くしてあげる、か。甘美すぎてもはや皮肉交じりに話されるほどに、耳触りのいい言葉だ。だがうん、先生の言う通りだ。せめてクラスメイトのコミュニティに入り込めるだけには仲良くなろう。独りぼっちは寂しいしね。如何に脳味噌の発達度合いがズレいていようと、コミュ障という訳では無いんだし、第一この身に失礼……だよね?瑠璃。
「「「はーい!」」」
兎も角、私たちが間延びした返事を返すと、いい返事だ、と言わんばかりに先生は頷いた。
「でーは!最初の授業は、自己紹介にしましょうか!名前と適当なモノ3つ、そして決め台詞を言えたら座ってよしッ!」
ホワイトボードに、じこしょうかい、と先生が書いて言う。決め台詞ってなんだよ。
「まずは出席番号1番から、お願いします!」
「はい!僕の名前は──」
男子生徒が起立して、ハキハキと話し始める。
「──は、──です!これから6年間、よろしくお願いします!」
決め台詞ってそういうことかい。流石、出席番号1番君。常に彼がこういう出席番号順の発表でトップバッターを務めると考えると、その責任は重大だろう。先陣を切った彼を真似るような感じで、次々と生徒が立ち上がって時におもしろ半分、時に真面目、時にボソボソ、時にハキハキと自分のことを話し始める。
「私の好きなものは──。一緒のが好きな人がいたらうれしいな」
に、しても眩しいな。純粋無垢とはまさにこのことか、目が潰れちまいそうだよ。
「次、黒咲さん!」
「はい!私は──」
だが、そんな眩しい奴らとこれから6年間過ごしていくのだ。私だって負けてられない。
「──仲良くしてくれると嬉しいです、これからよろしく!」
……決まったな。私は会心を得ながら、立ち上がった椅子に再び座ったのだった。
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「「「さようならー!」」」
小学校初日が終わった。教科書と色々貰ったプリントを集めたファイルを詰め込んだランドセルを背負い、教室を出る。
「瑠璃!」
声がした方を向くと、そこには兄さんがいた。兄さんはまだ春休みなのだが、入学式は新入生と親族しか来ない。つまり何も言ってないのに兄さんが来てくれた、という事実に私は嬉しさに若干震えながら、言葉を返す。
「兄さん。来てたんだ?」
「当然だ、俺は4年生だからな」
兄さんと私は3歳差。私は6歳、兄さんは9歳だ。なるほど、流石は年長さん。自信が違うね。すると、どこからか母さんと父さんが現れた。父さんの手元に書類が入ったファイルがあるのを見るに、多分私の入学手続きをしていたのだろう。
「あら、隼が瑠璃を見つけてくれたの?流石はお兄さんね」
「母さん。や、俺は瑠璃が教室から出てくるのを見つけただけだ」
「あれ、さっき兄さん4年生だからって……」
兄さんが私と話しているのを見つけて、母さんはそんなお世辞を言うが、変に誇るのもおかしいと思ったのか兄さんはさも当然、と言わんばかりに振る舞う。
「瑠璃、それはそれ、これはこれだ!」
すると、母さんは兄さんに近づき、頭をグリグリする。
「あいてててて!何すんだ、母さん!」
「ほーら、隼。そういうところが不器用なのよ?こういう時は『運が良かった』って決め顔で言うのがかっこいいんだから」
いいこと言うな、母さん。さっきは自信満々に言ってたのに、他人に言われるといっつもすぐこうだ。兄さんは内に秘めた思いは確かなものだけれど、それを言葉として表現する力が乏しい……所謂、不器用な性格なのだ。
「いつつつ……むぅ、そういうものか?」
だからこんな感じで母さんのグリグリから解放されたら、何事も無かったかのように『運が良かったんだ、母さん』と復唱して決め顔を決めることも無いのだ。
「そういうものよ!まぁいいわ、お父さん、瑠璃のランドセル持ってあげて」
やれやれ、と首を横に振った母さんは隣に立つ父さんに声をかける。
「ああ。瑠璃」
「はい、お父さん。お願いします」
しゃがんだ父さんに私は背中から預けるようにランドセルを渡すと、父さんは頭を撫でてくれた。
「いい子だ」
「兄さんの妹だからね」
兄さんは不器用だが、父さんは不器用というよりかは無口に近い気がする。母さんはムードメーカーというかなんというか。で、あれば私は何者なのだろうか?分からない。
黒咲隼の妹であり、父さんと母さんの子供。それが、私だ。
そして私は私であり、同時に私ではない。不正と書いて歪、それが私だ。
でもきっと、確かな答えはまだ決まってないのだろう。兄さんはこれから器用になれるし、父さんは話しかけると意外と話を返してくれる。賑やかな母さんだって家計簿を見て苦い顔をするのだ。
誰が何者か、なんて一元的に言うことなんてできない。したがって私が何者か、と今無理に決めつける必要もないのだ。紛い物である私が、黒咲瑠璃に恥じないような、そんな
そうだ、これはきっと違いない。今という何気ない瞬間は、誰かにとっては死ぬほど欲するくらいに輝いて見えた未来なのだ。いつか必ず来る未来が、今となった時。その時に私の目に映るのは、絶対に笑顔であってほしい。
「瑠璃、上履きに名前は書いたか?学校から貰った奴だろう、無くすと困るからな」
「うん。ちゃんと書いておいたよ」
「……漢字で書いたのか、難しいのに」
「難しいのにって、父さんがつけた名前だろう?」
「だが響きは良いぞ」
だって、こんな暖かいのに。これが壊れるなんて知っていたら、守りたくなるだろう?
「響きって……父さん」
「さぁ、3人とも突っ立って無いで行くわよ!記念撮影にレッツゴーッ!!」
拳を前に振り上げて歩き出す母さんの様はまさに大胆不敵、と言うほか無いものだった。豪胆だなぁ……
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小学校校門前。白い背景に黒文字で『入学式』と書かれた縦看板を背にして、黒咲一家が集まった。
「ほら、瑠璃が真ん中よ。主役なんだから」
まず私が看板の前、写真の中心に立った。そこに母さんは私に隣から寄り添うような形でしゃがんで、手を左から私の肩に置く。
「俺はどこに?」
「入学式の文字が隠れないように……あ、私の後ろでお願い」
「分かった」
父さんはその母さんの後ろに立ち、兄さんは何も言わず自然に空いていた私の丁度左に立った。これで、入学式と文字がはっきり写りながら、家族が写真に納まる。
「いい感じね。先生、お願いしますー!」
……卒業している時には文字が隠れているくらいに育ってればいいなぁ、なんて思いながら。母さんが先生に声をかけると、父さんが渡した一眼レフのカメラを、先生が覗き込む。
「はい、では撮りますよー!ニッコリ笑って……」
言われるがまま曇りなき笑顔を、作って。
「……ハイ、チーズ!」
パシャリ、と。ぶっ飛ぶくらいの青空の下で、私たちは確かに間違いなくそこで生きていたんだぞ、という証を写真という形で刻み込んだ。晴々とした、4月初旬の日のことだった。
黒咲瑠璃(in転生者)
一人イリアステル。もう少しで7歳の誕生日を迎える。誕生日プレゼントは《神の宣告》か《聖なるバリア -ミラーフォース-》にしてもらう予定だがまだまだ考え中。
e・ラー
巻き込まれた神。主が緊張しっぱなしだったので後ろから一日中黙って見ていた。OCG版《絶望神アンチホープ》の性能に絶望したがどうにかできないかと思案中。
黒咲隼
9歳。春休みだが普通に親に付き添って入学式に出席。後ろから熱視線を送っていたが終ぞ届くことはなかった。最近の悩みはRRを同級生から機械族と勘違いされること。
黒咲父
40代前半。口は一文字に結んでいたが心の中ではめちゃくちゃ感涙に咽んでいた。
黒咲母
30代後半。隣の席で微動だにしない夫を呆れ半分で見ていた。もう半分は不明。