黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
四時間目が終わり、給食の後の喧騒が支配する、そんな昼休みの教室。談笑する生徒たちの声が無数に重なり合う中、不意に私の名前を呼ぶ声が鼓膜を揺らした。
「黒咲さん、黒咲さん!」
「何?」
声の主は、隣の席の九十八さんだった。彼女の顔は好奇心に満ちており、目は真っ直ぐだ。ならば答えざるを得ない、私は読んでいた教科書を机に伏せてわずかに小首を傾げながら応じてみる。
「昼休みだよ、昼休み!皆ドッジボールとかで遊んでるけど、黒咲さんは何で遊ぶの?」
すると彼女は、人差し指をどこかに向ける。
「そうだね……」
彼女の指さす方向を見てみると、窓の外からは、グラウンドでボールを追いかけるクラスメイトたちの元気な姿が見える。
ドッジボールか、懐かしいな。結局ドッジ、なのかドッヂ、なのかは分からない。だがこの世には知らなくても別にいいことと、知っておくべきことがある。これは前者なのだろう。
そしてその知るべきことの一つは目前にある。私はここで思い出したかのようにおもむろに立ち上がり、校庭に猛ダッシュで向かうような人間ではないということだ。
「……九十八さん。ちなみに、別に他意とかは全く無いのだけれど。デュエルディスクとかって持ってきてたりする?」
私は極力自然なトーンを装いながら、彼女に問いかけてみた。この世界において、デュエルディスクはもはや必需品。デュエルができない人などハートランドにはいないし、そのためかデッキ並びにデュエルディスクは持ち運びしている人が大半だ。
「デュエルディスク?」
予想外の単語が出たからか、九十八さんは一瞬だけ目を丸くして立ち止まった。
「あ!勿論よ!黒咲さんも?」
しかし、数秒後にはその意味を理解し、パッと花が咲いたように表情を輝かせた。彼女がロッカーに入ったランドセルからデュエルディスクを取り出すと、慣れた手つきで腕に装着する。やっぱり標準装備なんだね、デュエルディスクって。
「うん。ということで、デュエルしない?私、九十八さんのエースモンスターとか見てみたいんだよね」
私は引き出しからデュエルディスクを取り出し、また彼女のように装着する。私自身でもびっくりするぐらいに至って自然なデュエルのお誘いだった。
「当然!そのデュエル、受けて立つわ!」
すると返ってきたのは、迷いなど一切ない、清々しいほどの即答だった。ということで、教室の隅の空いたスペースに立ち、私たちは数歩の距離を置いて対峙する。
「じゃあ行くよ……」
「行くわよ!」
周囲の喧騒が、少しずつ遠のいていく。私と九十八さんが同時にデュエルディスクを構えると、鋭い光のブレードが展開される。現実の教室の光景から、上塗りされるように赤い幾何学的なフィールドが展開され、すぐに元の光景に戻る。
「「デュエル!!」」
瑠璃 LP 4000 / 灯 LP 4000
二人の声が重なり合うと、周囲の談笑していた生徒たちも何事かと興味本位で集まり始め、私たちを囲むように即席のギャラリーが形成された。緊張感と高揚感が、場を支配していく。
さぁ始めようか。
私なりの、友達作りを!
#
「私の先行ね!先行はドロー無し、私は手札から《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚!」
先行は九十八さん。彼女が力強くカードをディスクに叩きつけると、フィールドに鋭利な刃を片手に構えた戦士が実体化して現れた。
「……良きモンスターだ」
この世界はエクシーズ召喚が主流の世界。中でもレベル4はその中でも随一の人気を誇るレベル帯だ。となると、1ターンでレベル4を二体並べられるモンスターというのが必然的に注目されるわけで。ちなみに私が好きなレベル4を並べるモンスターは《ゴブリンドバーグ》、次点で《召喚僧サモンプリースト》だ。使いやすいからね。
「そうでしょ?私はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」
だが彼女はどうやらいきなりエクシーズ召喚せず、バックに2枚のカードを伏せるだけに留めるようだ。防御を固めつつ、相手の出方を伺う堅実なプレイング。前時代的かと思うかもしれないが、この世界はそもそもが前時代。彼女が基礎をしっかりと叩き込まれているデュエリストであることが伺えた。
「よし、私のターン!ドロー!」
ターンを受け取り、私はカードを引き抜く。ドローしたカード……《LL-ターコイズ・ワーブラー》、初動だ。カードを一瞥すると、次は手札全体の陣容を確認する。
「……んんん???」
しかし、そこにあるべきではない異質なカードの存在に気づき、私は思わず眉間にシワを寄せて低い唸り声を上げてしまった。
「どうしたの?」
私の突然の不審なリアクションに、九十八さんが怪訝そうな顔で首を傾げる。なるほど……あいつの思うツボに嵌ってたまるか!
「……いや、何でもないよ。私はフィールドにモンスターがいないため、手札から《LL-ターコイズ・ワーブラー》を特殊召喚!」
清らかな鳴き声と共に、鮮やかな色の羽を持つ小鳥が現れ、軽やかに空を舞った。小鳥と言いつつも人間でもあるし、これってハーピィって呼ぶのが正解なのかな?あ、でもそれだとややこしいことになるか……まぁいい。
「かわいい鳥さんね!」
緊張感漂うフィールドに現れた愛らしい姿に、九十八さんの表情がぱっと明るくなる。ふふふ、分かってくれますか。自分の操るモンスターを褒められて喜ばないデュエリストなど居ないぞ。
「そうでしょ?更に私は、《ターコイズ・ワーブラー》を手札から特殊召喚したため《LL-コバルト・スパロー》を特殊召喚!」
私は彼女の言葉に同意しながら、流れるように次の展開へと繋ぐ。ターコイズ・ワーブラーの効果が発動し、光の軌跡を描きながらもう一羽の小鳥がフィールドに舞い降りた。
「あっという間に二体のレベル1モンスターが……」
流れるような連続召喚に、九十八さんの目が驚きに見開かれる。
「まだまだッ!《LL-コバルト・スパロー》の特殊召喚が成功した場合、デッキからもう一体の《コバルト・スパロー》を手札に加える!」
私の指先がディスクを駆け巡り、デッキから的確に必要なカードをサーチして手札へと引き入れる。ここまでは、いつも通りの、リリカル・ルスキニアの展開。
――しかし、その時だった。
『……出せ』
e・ラーの声が、私の意識の深層から聞こえてきたのだ。
……マジか。
「私は更にフィールドに同名以外の「LL」モンスターがいるため、手札から《LL-サファイア・スワロー》を特殊召喚し」
私は額に微かな汗が滲むのを感じながら、手札からサファイア・スワローをディスクにセットする。小鳥が、新たにフィールドへと加わる。
『瑠璃、出すんだ、瑠璃……!!』
しかし、絶望神の干渉は止まらない。破壊衝動と顕現への渇望が、私の意識を内側から激しく揺さぶる。手札の中で、そのカードだけが異常な重力を持っているかのように脈打ち、私の理性をじわじわと侵食していく。
「うるさいっ!同時に《コバルト・スパロー》を特殊召喚!」
私はついに耐えきれず、内心で絶叫するように声を荒げてしまう。同時に、サーチしたばかりの二体目のコバルト・スパローを乱暴にディスクに叩きつける。これで、フィールドには4羽の小鳥たちが揃い踏みとなった。
「綺麗……」
可憐な鳴き声が響き渡るが、一方私自身の心は暗い沼に沈みかけていた。
「私は、レベル1の4体を」
私は深呼吸をし、震える右手を前に突き出した。このままエクシーズ召喚を行えば、いつものエクシーズモンスターを呼び出せる。いつも通りの、私のデュエル。
次の、言葉を紡ぎかけたその時。
『「墓地に送り」』
だが、私の口からこぼれ落ちたのは、私自身の言葉ではなく、別の声――e・ラーの呪詛のような囁きだった。私の意志とは無関係に、四羽の鳥たちが光ではなく、漆黒の泥のような闇に飲まれ、虚空へと引きずり込まれていく。
「えっ?」
突如として起きた不気味な現象に、九十八さんが素っ頓狂な声を上げる。周囲の空気が一気に冷え込み、教室の明かりが明滅し始めたかのような錯覚に陥る。
「手札から特殊召喚……!!」
もはや私の右手は、まるで別の生き物のように動き、手札にあった、ある意味で最恐にして最凶のカードを高く掲げていた。私の制御を離れ、絶望の顕現を告げる宣言が、私自身の声帯を使って高らかに響き渡る。
「エクシーズ召喚じゃ無い?」
光の柱が立つはずの場所に、底なしの暗黒の渦が出現する。予想外の行動に、九十八さんは混乱したように一歩後ずさった。
……プラン変更だな。e・ラー、後で制裁。
「神の降臨!」
渦の中から、這い出るようにして巨大な影が姿を現す。
「現われよ、《絶望神アンチホープ》!!」
絶望を具現化した異形の神が、その全貌を現した。禍々しい装甲に身を包み、見下ろす二つの眼光は一切の慈悲を持たない。その巨体が教室の天井を突き抜けるかのように錯覚させるほどの威圧感が、その場にいる観客の息さえも奪い去る。
「……え」
彼女の口から、思わず小さな驚愕が漏れる。先程までの勢いは完全に消失し、目の前に降臨した規格外のバケモノを前に、体が硬直しているのが見て取れた。
「《絶望神アンチホープ》、九十八さんに攻撃!!」
完全に衝動に突き動かされるようにして無慈悲な攻撃命令を下すべく、私は左腕を死神の鎌のように振り下す。
「アンチホープ・ディスペア・スラッシュ!!!」
アンチホープの巨大な拳が、質量を持った闇の塊となって戦士に振り下ろされた。
《絶望神アンチホープ》ATK 5000 vs 《フォトン・スラッシャー》ATK 2100
「き、キャアァァァアッ!」
容易く戦士を粉砕した攻撃の爆風をもろに受け、九十八さんの悲鳴が上がる。彼女の細い体は衝撃で数歩後ろへと吹き飛ばされ、床に膝をついた。周囲のギャラリーからも、思わずといった悲鳴が漏れ聞こえる。
攻撃力5000。これはモンスターが持ちうる最大の数値、通常のデュエルでは早々お目にかかれない数値。完璧にして絶対的な最大値だ。
灯 LP 4000 → 1100
彼女はこの絶望に屈する女か、否か。私はライフポイントが削られていく音を聞く同時に、吹き飛ばされた彼女のリアクションを待つ。
「……やってくれたわね……!?」
もうもうと立ち込めた煙の向こう側から聞こえてきたのは、屈した声ではなかった。膝をつきながらも、九十八さんは鋭い視線で私を、そして絶望神を睨みつけている。彼女の瞳の奥にある闘志の炎は、決して消えてはいなかった。
「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」
そうだ、その目だ。その目が欲しかった。
「さぁ、来なさい九十八さん。私とあなたが友達になるなら、この程度の絶望など容易く乗り越えてもらわなければ困る」
私はあえて、挑発するように笑みを浮かべてみせた。これはもはやただのデュエルではない。私の内にある闇と対峙してもなお、光を失わない強さが彼女にあるのか。彼女が虚飾で無い本物の輝きを持っているなら、必ずこの状況を打ち破ってくれるはずだ。
「……いいこと言うじゃない!私のターン、ドローッ!!」
九十八さんは立ち上がり、制服の埃を払うと、かつてないほどの気迫を込めて右手をデッキに伸ばした。私が彼女に求めているのは、鉄のような意志と、鋼のような強さの鱗片。彼女にそれが備わっているか見定めるべく注視していると、彼女の指先が風を切り、運命を切り拓く一枚を引き抜く鋭い音が響いた。
「来たッ……見せてやるんだから、お父さん直伝のデュエルを!私は手札から《ゴブリンドバーグ》を召喚!」
ドローしたカードを確認した彼女の顔に、自信に満ちた笑みが戻る。ディスクにカードがセットされると、プロペラ音を響かせながら、無骨な飛行機械に乗ったゴブリンがフィールドに舞い降りてきた。
「効果で手札から、《H・C ダブル・ランス》を特殊召喚する。この時、《ゴブリンドバーグ》は守備表示になる!」
立て続けにカードが展開される。格納庫から飛び降りるようにして、甲冑に身を包んだ二本の長槍を構えた戦士が雄叫びを上げてフィールドに降り立った。
「私は、レベル4の《ゴブリンドバーグ》と《H・C ダブル・ランス》の戦士族モンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!」
反撃の狼煙が上がる。二体のモンスターが眩い光のエネルギーへと変化し、足元に展開された巨大な銀河の渦へと吸い込まれていく。
「エクシーズ召喚!」
渦の中心から、闇を切り裂くような一条の光の柱が天に向かって立ち昇る。
「現れて、《H-C エクスカリバー》!!」
光の中から姿を現したのは、深紅の鎧を纏い、巨大な剣を携えた戦士だった。
「それが九十八さんのエースモンスター?」
「ええ、そうよ!このモンスターで、あなたを倒してみせる!私は《H-C エクスカリバー》の効果発動!」
私が問うと、九十八さんは強く頷き、高らかに宣言する。
「オーバーレイ・ユニットを二つ取り除き、攻撃力は元々の攻撃力の倍……4000になる!」
《H-C エクスカリバー》ATK 2000 → 4000
エクスカリバーの周囲を旋回していたオーバーレイ・ユニットが、剣へと吸収されていく。大剣が眩い光を放ち、戦士の全身から溢れ出る闘気が目に見えるほどのオーラとなって吹き荒れた。
「……だがそれじゃあ5000を超えて無い」
「そうよ、だからこうするの!魔法カード、《ヒロイック・チャンス》発動!」
彼女の宣言による発動と同時に、天からの一筋の光がエクスカリバーを包み込む。
《H-C エクスカリバー》ATK 4000 → 8000
「効果で《H-C エクスカリバー》の攻撃力は、更に倍の8000になる!」
エクスカリバーの闘気が、更に大きくなり、アンチホープの闇さえも飲み込もうとする。
「馬鹿な……神を上回ったというのか!?」
アンチホープの攻撃力5000を上回ったか……まぁ、これくらいはしてもらわないと。だが私はわざと、驚愕の表情を作ってみせる。恐れずに、攻撃力8000のモンスターを慣れた手つきで出す。これだけでも、私は賛美に相当すると思ったからだ。
「バトルよ、《エクスカリバー》!」
勝利を確信した九十八さんが、天高く指を突き上げた。その声に呼応し、エクスカリバーが巨大な剣を大上段に構え、大地の砕けるような踏み込みと共に絶望神へと勇猛果敢に肉薄する。
「黒咲さんに攻撃!一刀両断、必殺真剣!!」
《H-C エクスカリバー》ATK 8000 vs 《絶望神アンチホープ》ATK 5000
白刃が、アンチホープへと振り下ろされる。それはまさに、闇を切り裂く必殺の一撃だった。
相手は巨大な攻撃力を持つエクシーズモンスター、対してこちらは図体がデカいだけのやりたいことがよく分からないモンスター。
完全に勝負は決されたかのように見えた――私が、あの一枚をセットしていなければ。
「流石だ……と言いたいところだが、甘いぞ九十八さん!!」
迫り来る強大なエネルギーの圧を肌で感じながらも、私は口角を上げ、伏せカードを跳ね上げる。
「え?」
「罠発動!《魔法の筒》!!」
不意にフィールドに、二つの巨大な筒が出現する。
「当然、効果は知ってるよね?」
エクスカリバーが振り下ろした8000の攻撃力を持つ絶大なエネルギー波は、寸分の狂いもなく一つの筒へと吸い込まれると、完全に無力化される。
「えっ……あっ」
何が起きたのか理解してしまった九十八さんの口から、間抜けな声が漏れる。確信していた勝利が一転して最悪の結末へと向かっていることを悟り、彼女の顔から血の気が引いていくのが見て取れる。
「勝ちを焦ったね、それこそが命取り……発射ァ!」
私の宣言と共に九十八さんの体が、もう一つの筒から発射された光の濁流に完全に飲み込まれた。
灯 LP 1100 → 0
「き、キャアァァァァアアアッ!!」
##
「対戦、ありがとうございました。九十八さん」
私はデュエルディスクの電源を落とし、倒れ込んだ彼女の元へとゆっくり歩み寄り、手を差し出す。
「あ、あはは……完敗よ。こちらこそ、ありがとうございました」
九十八さんは床に座り込んだまま頭を掻き、苦笑いを浮かべた。しかし、その顔に陰りはなく、全力を出し切ったあとの清々しさに満ちていた。差し出された私の手を取り、彼女は勢いよく立ち上がる。
「……あー、でも勝てなかったな……」
立ち上がって制服の埃を払いながら、九十八さんは小さくため息をついた。先程までの清々しい表情から一転し、どこか未練がましく下唇を噛んでいる。その肩は心なしか落ちて見えた。
「どうしたの、九十八さん?」
勝負は終わったはずなのに、なぜそんなに悔しそうにしているのか。私は首を傾げ、覗き込むように彼女の顔を下から見上げた。
「私、あなたとお友達になりたかった……けど、負けちゃった」
……そういうことか。
「それは違うな」
私はあえて少しだけ真面目なトーンを作り、静かに首を横に振った。彼女の思い込みを訂正しなければならない。
「えっ?でも、私に勝たなければ友達になんてなれないって……」
「そんなこと言ってないけど……」
私はやれやれと肩をすくめ、わざと呆れたような仕草を見せた。
「……どういうことよ?」
九十八さんは完全に混乱した様子で、目をぱちくりと瞬かせている。
「私が言ったのは、別に勝つことじゃなくて絶望を乗り越えること。あなたは乗り越えてくれたじゃない。《エクスカリバー》でね」
私は一つ一つの言葉を噛み締めるように、丁寧に説明を始めた。圧倒的な威容を前にしても、決して諦めずに立ち向かってきた彼女の姿勢。あの一閃に込められた希望の光こそが、私が求めていたもの。
「……えっ」
九十八さんの口から、間の抜けた声が漏れる。私の言葉の意味が徐々に脳内に浸透していくにつれ、彼女の表情に驚きと戸惑いが広がっていった。
「別に私は勝ち負けを求めてデュエルしたんじゃない。あなたがこの程度の壁に当たって砕けてしまう人間か、それとも乗り越えてくれる人間かを知るためにデュエルしたの」
私の背負っている運命は、過酷だ。これから先、困難が立ち塞がり続ける。その時に、隣にいて背中を預けられるのは、決して折れない心を持った人間だけだ。私は彼女の目を見つめ、真摯な思いを言葉に乗せた。
「それって」
九十八さんの顔に、徐々に赤みが差していく。
「あなたは私の《アンチホープ》を前にして一切臆さず、狼狽えず、勇猛果敢に見事乗り越えてくれた。《魔法の筒》で跳ね返しちゃったけど、あなたは乗り越えてくれたことに変わりはない」
最後のトラップは、いわばご愛嬌だ。本質はそこではない。神の威圧感を前にしても、自分とエースモンスターの絆を信じ、限界を超えた一撃を放った。その精神力こそが、何よりも尊く、私が求めていた強さの証明だった。
「ってことは……」
ぱぁっと、九十八さんの顔に今日一番の明るい花が咲いた。私はそんな彼女に微笑みかけ、先程よりもずっと柔らかい動作で、もう一度右手を差し出した。
「ええ。九十八さん」
喧騒が戻り始めた教室の中。周囲のギャラリーたちが温かい目で見守る中、私は真っ直ぐに彼女の目を見て、心からの願いを口にした。
「是非私と、友達になってくれませんか?」
「……喜んで。お願いします!!」
差し出された私の手を、九十八さんは両手で包み込むようにギュッと強く握りしめる。かくして、私は友達を一人作ることができたのだった。
何とかなったか……。
e・ラー……よくもやってくれたな?覚えとけよ。