黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
放課後の穏やかな日差しが、通学路の木々を彩る。木々の間から差し込む日光は暖かく、そして優しい。しかし、私の中を渦巻く感情は、そんな生ぬるい美しい景色など一切目に入らないほどに荒れ狂っていた。
重たいランドセルが、歩くたびに小さな背中で揺れる。玄関のドアを開け、出迎えてくれた母にただいまの手短な挨拶だけを済ませると、私は早歩きで二階にある自分の部屋へと直行した。
いつも通りにドアノブを回し、部屋に入る。
私は部屋のドアを静かに閉め、カチャリと鍵のサムターンを回した瞬間。この空間の空気は外部の生ぬるい暖かさから遮断され、瞬時に絶対零度へと凍りついた。
「おい……よくもやってくれたね?出てこいよ」
はっきり言って、私はブチ切れていた。昼休みのデュエルで起きた、予期せぬインシデント。なんとかなったとは言え、だ。許すわけにはいかない。私の意志を完全に無視し、神の身勝手なエゴで想定していたプランを完全に破綻させ、歪まさせた怒りが、確かにこの小さな体の奥底で煮え滾っている。
『……瑠璃』
私の声に呼応するように、部屋の片隅の空間に黒いモヤがどろどろと集まり始めた。部屋の温度が体感さらに数度下がり、瘴気が渦を巻く。やがてモヤが晴れると、そこには私にしか見えない、そして私にしか聞こえない異形の存在が姿を現した。
絶望神、e・ラー。今の私にとっては単純にただただ腹立たしい対象でしかなかった。
「正座」
一言、言う。
『分かった』
e・ラーは渋々といった様子で、天井に届きそうだった巨大な影が縮んでいく。所せましと言わんばかりに彼女は、膝を折りたたんだ。だが、その表情はまだどこか余裕げが感じられる顔だった……許しても無いのに姑息な手を。
「体重操作するの禁止。意味が無いでしょうが」
私は鋭く目を細め、冷ややかな視線を下へ向ける。霊体のような存在であるe・ラーが誤魔化し、膝や足首にかかる重力の負担を密かに減らそうとしているのが分かったからだ。反省の態度として、そんな逃げ道は絶対に許さない。
『チッ……あ、いや、何でも』
舌打ちを慌てて飲み込んだe・ラーの足元に、本来の重力がずっしりとのしかかる。硬いフローリングの上での正座は、何人たりとも容赦なくダメージを蓄積させていくはずだ。
私はそれを確認すると背中のランドセルを床へ下ろし、学習机の椅子に座る。まだ床に届かない短い両足をぶらぶらと揺らしながら、足元に正座するe・ラーを見下ろす。
知ってるかな?日本で起訴されて行われた刑事裁判での有罪率は99%以上なんだそうだ。
という訳で、裁判開始。
「──言い訳するなら今のうちだけど、どうぞ?」
『コホン……寛大な主に感謝する。我は絶望神。如何に力が衰え瑠璃に仕える身となったとは言え、心まで神性を失ったわけでは無い。絶望を糧とし、世界を絶望に落とし込むのが我の存在意義であり最終命題よ』
わざとらしく咳払いをした後、e・ラーは滔々と語り始める。その言葉の端々には、かつて自身が持っていた圧倒的な存在感を未練がましく忘れられない者の、自尊心がこびりついている。いくら堕ちようと、威厳だけはどうにか保とうとする必死さが窺えた。
『だが、そうは言えど力が必要だ。圧倒的なまでの、力が無ければ絶望など創造できぬ。故、我は現身とすら言える最強の絶望神を創造した……お前にこの気持ちが分かるか?』
彼女の声色が、ふっと低く沈み込んだ。そこにあるのは怒りでも反抗でもなく、本物の深い悲哀だった。自分という存在の根幹を揺るがすような、途方もない喪失感。
『我の全霊の魂を込めて生み出した最高傑作が、お前の世界では駄作に成り下がっている。そしてそれは、力の大部分を失った我の影響化に無い』
『心象変化。我が知る《絶望神アンチホープ》と、瑠璃が知る《絶望神アンチホープ》はまるで違う……同一存在とは言え、余りにも目も当てられぬ効果になってしまった』
『レベル1を4体召喚し、それを墓地に送り、漸く特殊召喚できる。そして、そこまでした努力はさほど大したモノでは無い』
痛切なまでの叫びが、虚しく反響する。自分が自信を持って生み出した文字通りの分身が、第四の壁を越えた先にある謎の企業の考えに縛り付けられ、見る影もなく弱体化させられている。かつては世界を絶望に包み込もうとしたほどの力を持っていた最高傑作が、今や悪名という意味で有名になってしまい、実用的な方法など一部のマニアにしか考えもされず、また同時にほとんどのプレイヤーから見向きもされない存在へと化しているのだ。ある種のクリエイターとしての絶望と、耐え難い屈辱が入り混じったような響きだった。
『絶望したぞ、絶望神の我自らがな』
自嘲気味に呟き、項垂れる彼女の姿には、言いようのない哀愁が漂っている。フローリングの木目に視線を落とすその顔は、まさしく絶望そのものだった。
『無理矢理使わせたことは申し訳ないと思っている……だが、瑠璃。どうにか救ってやってくれないか。お前が言うにはOCG版の《絶望神アンチホープ》は、何の巡りあわせかお前のデッキ、LLと相性が良い』
『レベル1を操るデュエリストなどそう多くはない。しかも、LLは特殊召喚に長けているではないか。これを運命と呼ばずして何と呼ぶ?』
すがるような、熱を帯びた視線が私に向けられる。確かに、e・ラーの言うことにも一理はある。レベル1モンスターを大量展開する私のデッキは、この産廃を召喚する重すぎる条件を満たせる数少ないデッキの一つだ。そうはいっても決して簡単ではないが。彼女がそこに一条の光、もとい活路を見出した気持ちも、全く分からないわけではなかった。
「偶然たまたま、まぐれのアタリ。それしか言いようが無いよ」
だが、私はその淡い期待を切り捨てる。無駄に期待されては迷惑だからだ。LLはレベル1の大量展開が前提のデッキ。レベル1モンスターを並べてそこから、エクシーズに繋げる。言い換えればそこに無駄なリソースは割けないし、何せ大量展開といえども語弊に近い。無限に出せるわけではないのだ、息を継ぐようにポンポン出せるわけではない。
『……だが』
「分かってる。あなたの誇りにしていたモンスターが、最弱になっていた。こんなの誰だって辛いよ」
未練がましく反論を口にする前に、私は先回りして言葉を紡ぐ。そうは言っても彼女のプライドがズタズタに引き裂かれた痛みそのものを否定するつもりはない。
「私の世界では原作でカードが出たら、そのままの効果で出るんじゃなくて、そこから時間が経ったらある企業が効果を調整するプロセスを経て実際のカードにするってのは昔言ったよね?」
『……ああ』
彼女は静かに、そして確かに私の言葉に頷く。
「役に立たないカードなんて一枚もない」
私は、かつてテレビの向こう側で輝いていた、ある一人の主人公の言葉を引用した。どんな逆境でも決して諦めず、絆を信じ抜いて新たな未来を切り開いた彼の言葉。否定の言葉もあるだろうが、彼のその悲運としか言えない生い立ちから考えて、中々どうしてその言葉は少なくとも私にとっては、確かな重みがあるように感じられた。
「私の尊敬している一人のデュエリストのセリフだよ。私もそう思ってる。でも、それってゴミカードなんて無いって意味で、勝てるかどうかは別だよね?言ったはず。私は、運命を変えるためにあなたと契約した」
声のトーンを一段階落とし、私はe・ラーの目を真っ直ぐに見据えた。彼は確かに役に立たないカードは無い、と言った。だが同時に彼は、託されたのに一度たりとも使用しなかったカードがある、という事実も同時にあるのだ。今はそれを批判したいわけじゃない。勝利を手にするためには残酷さが必要だ。e・ラーのエゴや感傷に付き合っている暇はない。私の、どうしようもなく生々しい現実の話だ。
「絶対に運命を変えると、この身に誓った。そこに、足手纏いは要らない。あなたの感情を憐れんで、世話をしている暇なんて無い」
『……』
私の容赦ない、そして取り付く島もない宣告に、絶望神は重い沈黙を落とすしかなかった。
「ライフが4000だから、攻撃力5000が強く見えるかもしれない。確かに驚異的だね、一発殴れば死ぬんだから。でも、殆どのデュエリストは攻撃力を見ているんじゃない。効果を見ているんだ」
「攻撃力が要らないって訳じゃないよ?でも、出すのさえ難しく、デメリットもあって、メリット効果は局所的すぎる。図体がデカいだけの、ハリボテ。それがあなたが今日私に使わせた、《絶望神アンチホープ》」
次々と突きつけるのは、私のみならず大多数のプレイヤーもそうであろう、客観的に見たカード評価。デュエルにおいて、盤面のアドバンテージを自ら四枚も失うという重すぎる召喚条件と、それに全く見合わないささやかなリターンは致命的だ。まともな耐性すらないその巨体は、あっけなく除去の的になる。そんなものを命懸けの戦いでデッキに組み込むことは、自殺行為に等しい。
もし最後の手札がこんなカードだった時、あるいはギリギリの状況でドローしたカードが《絶望神アンチホープ》だった時。絶望を感じるのは明らかに私だ。想像したくもない。皮肉も大概にしてほしいものだ。
『……そんな……使わないというのか?!確かに、足手纏いかもしれない、不要かもしれない!だが、《アンチホープ》にしか持たぬ特徴というのがあるだろう!』
「大をしている最中の姿勢のカード1枚に、私は縛られる訳にはいかない。言ったはず、これからこの世界は融合次元に侵略される」
抵抗するが無視し、私はついに一番の核心へと切り込む。
「負けたらどうなるか分からない。私の少ない知識の中でも私は尊厳を犯されて、恥辱を受けて、消えるってことは分かっている。こんな運命、クソくらえだ」
未視聴な私でも否応なく目についてしまうほどに知っている、融合次元の狂気。拉致監禁、洗脳、寄生虫による精神支配、そして最終的には別の存在へと統合され、人格が完全に消滅するという救いの無い結末。初めこの結末を知った時、私はARC-Vがストーリー以外は素晴らしいと言われる所以がよく分かってしまったのだ。
LLの融合体が禁止になった時、悲しむLL使いはいなかった。なぜなら、
「負ける訳にはいかないんだ、絶対に」
未視聴故、深くは知らない。けれど、大まかなストーリーギミックは把握している。両手をきつく握りしめると、切り揃えられた爪が柔らかい手のひらに深く食い込んだ。この僅かな痛みが、私の決意をさらに強固なものにする。
「それとも、e・ラーは私に絶望を感じてほしくて意地でも嫌がらせをしようっていうの?原作通りのBADENDを迎えて、愉悦を感じたいの?」
『い、いや、そんなつもりは毛頭無い!』
私が刺すように眼光を当てると、e・ラーは慌てたように首を横に振った。契約を結んだ以上、彼女も私の完全な破滅を望んではいないはずだ。私の敗北は、彼の消滅にも直結するのだから。
「だったら二度とこんなことしないでくれる?」
絶対に淡い希望など抱かせない、その一心で突きつける。
「ハッキリ言って、不快だ」
『……瑠璃』
一切の妥協を許さない、私の拒絶の言葉に、e・ラーは力なく肩を落としてしまう。
『……本当に、どうにかならないのか?』
「ならない。あなたの誇りは、私の前ではただの邪魔でしかない。あなたのエゴを飲み込んでデッキの構築を歪め始めるほど、私はお人よしじゃない」
『……』
するとついに、e・ラーは反論の言葉を完全に失った。すっかり小さくなり、膝を抱えるようにしてうなだれる絶望神の背中を見て、私は少しだけ息を吐き、張り詰めていた口調をわずかに和らげた。アメとムチ。完全に心を折ってしまっては、今後の利用価値に関わる。
「……嫌いな訳じゃない。あなたの登場は凛々しく、そして《絶望神アンチホープ》もラスボスに相応しい風格を持っていた。それだけはしっかり覚えているよ、確かに」
フォローを入れるように、かつての彼女の威厳と、記憶の中にあるプレッシャーを肯定する。漫画版で見せたあの圧倒的な威圧感は、確かに本物のそれだった。色々事情があり短い出演だったが、同時に様々な意味で強烈なインパクトを残したキャラクターなんてそう多くはなかったのだから。
「ただ、OCG化された際に悲惨な効果になっただけ。私が意地でも使わない理由は、それだけなんだ。分かってくれるね、e・ラー?」
『……分かった。主の命まで懸けて我が本望を通したいとは思わん』
ようやく深く理解したのか、e・ラーは重々しく、深く頷いた。
「ありがとう。これからも頼りにしてるよ、e・ラー」
『……ああ』
言葉では素直に引き下がったものの、うつむいたままのその表情には、まだ完全には拭いきれない無念さと、悲哀が色濃く漂っていた。
「理解はできても、心の奥では納得できてない顔だね」
『……駄々を捏ねても無駄だとは分かっている。だが、一縷の希望すら無いというのは……悲しいものだな』
「その感情は、絶対無駄な感情じゃない。ただ、分かってくれれば、それで私はいいんだよ」
絶望神でも希望はやっぱり欲しいモノなのね、と言葉にはせずとも私は思わず苦笑いを浮かべ、この一連の説教じみた話し合いに幕を下ろそうとした。張り詰めていた空気が少しだけ緩み始めた、その時だった。1階から階段を伝って、聞き慣れた声が響いてきた。
──瑠璃ー!?
母さんが、下から私を呼ぶ声だ。いつの間にか陽は完全に沈み、窓の外は夕闇に包み込まれていた。
「もうそんな時間か……あ、e・ラー。私これから出かけるけど」
私は学習机の椅子から降りると、部屋のドアへと向かって歩き出した。
『ム?我も同行す』
「──誰が勝手に立ち上がっていいよ、なんて言った?」
ドアノブに小さな手をかけたまま、私は歩みを止め、肩越しに冷たく言い放った。
『え?』
出かけるのだから当然許されたものと思い込み、ホッとした顔で立ち上がりかけていたe・ラーの動きが、ピタリと一時停止する。何を勘違いしているのだろう?有罪判決を受けた身で罰が無いなどと思うなよ甘ちゃんが。
「私が帰ってくるまで、そのまま正座ね」
『……何、だと?』
「姿勢が崩れてる。正座」
『はい』
背筋を伸ばし、姿勢を直した絶望神の顔に、本物の絶望が浮かび上がった。物理的な制裁がまだ終わっていなかったことに、彼女は今更ながら気づいたのだ。
「反省。一秒でも正座の姿勢を楽に崩したら、このカード、買取に出すから」
私が、右手の人差し指と中指を真っすぐにして挟むようにしてカードを持ち、e・ラーにチラリ、と見せつけた。子供の小さな手には少し大きく見えるサイズのカード。
『!?……おい、まさか』
さっきまで話し合っていた、《絶望神アンチホープ》だった。昼休みの暴走の後、忘れることがないように密かにデッキから抜き出しておいたのだ。いつでもカードショップのカードが放り込まれたストレージの奥底に叩き込める状態であることを、はっきりと誇示する。
「嫌ならその姿勢を維持しな。楽になりたいなら、あなたの変わり果てた誇りを売ってやる」
『ま、待て瑠璃、我はそろそろ足が』
「正座」
『はい』
情けない声で懇願する神を、私は情け無用で跳ね除ける。いくら神であろうと、長時間の正座による血流の悪化と、それに伴う物理的な苦痛からは逃れられないらしい。彼女の顔が、微かながらも徐々に、そして着実に苦悶に歪み始めているのが分かった。
──瑠璃ー?そろそろ出てきなさーい?
再び、1階から母親の催促の声が響く。身支度をして、慌ただしい気配が下から伝わってくる。
「はーい……さて、ストレージのどこに埋まっているか確認するのが楽しみだな?」
私は、e・ラーに聞こえるようにわざとらしく、残酷な独り言を呟いてみせた。
『や、止めろ』
「だったら、帰ってくるまでキープね。絶対だから」
『ま、待て』
──お父さんは和食屋さんがいいって言ってるんだけど、瑠璃はー!?
「偶にはハシゴなんてどうー?」
私はごく自然な無邪気な大声を張り上げ、階段の下に向かって返事をした。外出時間が長引けば長引くほど、足の痺れは限界を突破していくはずだ。
──ハシゴー?あんた呑兵衛じゃないんだから、そんな言葉使わないのー!っていうか、早く降りてなさーい!
「はいはーい!」
階下との間の抜けた日常のやり取りを終え、私は改めて部屋の中、正座する絶望神へと向き直った。
「そういうことで。じゃあね、e・ラー……」
『瑠璃……なるべく早く帰ってこい。待ってるからな』
極力威厳を大きく見せるように力強い言葉を使うが、それは本質的に言えば藁にもすがるような哀れな声だった。私はそれに応答するべく笑みを浮かべてみせた。
「いいや、急かす必要は無い……また数時間後に会おう」
『瑠璃ぃぃぃ!!』
ドアの隙間から漏れ聞こえる悲痛な叫びを背中で聞きながら、私は容赦なく部屋のドアを閉めた。廊下に出ると、自然と口角が釣り上がってしまうのを抑えることができない。
「あぁ、絶望の神が苦痛に耐え抜いた顔……一体、どんな顔なんだろうねぇ?」
帰ってきてからのお楽しみ、か。足を軽快に動かして階段を降りリビングに向かうと、そこにはいつの間にか帰ってきていて、既に外出の準備を整えた兄さんの姿があった。
「どうしたそんなに満面の笑みを浮かべて?何かいいことでもあったのか?」
妹の機嫌の良さに気づいた兄さんが、私の顔を覗き込むようにして不思議そうに首を傾げる。兄の、優しく温かい眼差しだ。
「ううん。まだ仕込みの段階、これからだよ。とっても、いいことはね」
「どういうことだ?」
要領を得ない私の意味深な返答に、兄さんはさらに眉をひそめた。私は話題を変えるように、引き続き最高の笑顔で夕食の予定について尋ねた。
「あ、父さんは和食屋さんに行きたいって言ってるらしいけど、兄さんは和食好きだっけ?」
「ああ。それも奇遇なことに、今日は鮭の西京焼きが食べたい気分なんだ」
「西京焼き……うーん、ちょっとあるか怪しいね」
「……確かにな」
他愛のない、平和な家族の会話を交わす。いつも通り日常の裏で、今頃二階の自室では、絶望神が足の痺れという極めて物理的な苦痛と孤独な格闘を繰り広げているのだ。そう想像しただけで、私はお腹の底から湧き上がる笑いを堪えることができなかった。
『瑠璃、瑠璃ぃぃ!』
幻聴か、それとも念話か。脳裏に直接響いてくる哀れな絶叫。
「フフッ」
思わず笑みの声が漏れ出てしまった。
「どうした?」
「いい表情してるなぁ、って」
「?」
意味が分からず首を傾げる兄さんを下から見上げながら、私はふと思いついた疑問を彼に投げかけた。
「ところで兄さんは正座得意?」
「苦手だな、あぐらが一番」
「ミートゥー。じゃ、行こうか」
「ああ。ちなみに瑠璃は何を注文したいんだ?」
「久々に納豆と冷奴かな」
「サイドメニューだし、渋いな。だがそれで言えば俺も──」
このまま外出時間が長引き、お店をハシゴでもしようものなら、あの身勝手な神の足は使い物にならなくなるだろう。一時的とはいえかなり効くはず。和食屋さんに行ってから取り合えず文房具店か、その次はどこに行こうかな、あ、それこそカードショップかな。誕生日で買ってもらうカードをそろそろ見繕わないといけない。《魔法の筒》が意外と高かったんだよね、私じゃ1枚しか買えなかったよ。
『瑠璃ぃぃい!!!』
まぁ、これだけ言っておくか。
レディース・アンド・レディース!私のお楽しみは、これからだ!!