黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
決意表明が終わったところで、作戦を建てよう。
ここはエクシーズ次元。ハートランドシティと言う前作のZEXALと同じ町が存在するからには、ナンバーズも当然存在するものだろうと思うかもしれないが、実のところそんなことは無い可能性がある。
その理由が、天城カイトの存在だ。
彼はZEXALだと最強のギャラクシー決戦!(半ギレ)で有名な通り、テーマで言えば光子ことフォトンを使用していた。だが、ARC-Vだと光波ことサイファーを使用している。さすがにミリしらな自分ででもこれぐらいは知っている。とにかく、これが何を示すかと言えば、おそらくこの世界のカイトはZEXALとは全く異なる存在であろう、ということだ。この世界にハルトはいないし、フェイカーも居ない。ただ前作と同じ皮をかぶっただけの全くの別人。
つまり全く頼れないだろう、というのが私の仮説だ。
とはいえ、何も確認していないのに決めつけるのもあんまりだろう。ということで、前作だとハートランド陣営の根城になっていた、あのハートがてっぺんに付いている巨大なタワーに行くことにした。確か前作だと、あそこがフェイカー一家が住む場所だ。何もなければ撤収、何かあれば機を見計らって撤収だ。ということで行こう。兄さんを巻き込んで。
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「兄さん、ちょっといーい?」
そんな声とともに、俺の寝顔を覗き込んできたのは俺の妹こと黒咲瑠璃だった。俺は瞬時に身を起こし、瑠璃の顔を見る。ああ、なんて愛しい妹なんだろう、瑠璃。俺はお前のためなら、何だって──
「なら、ちょっと付き合ってほしいことがあるんだけど」
うん?何に付き合ってほしいんだ?俺ができる限りのことなら、言ってみな。
「フフ、そんなに難しいことじゃないよ」
なんだ、やけにもったいぶるじゃないか。言ってみろ。
「あのハートがてっぺんについてるタワーがあるじゃない?」
ああ、あのタワーか。それがどうしたんだ?今に始まったことではないが、瑠璃は何を考えているのかよく分からない傾向がある。やけに隠すそぶりもその一つだ。同時に、俺は絶妙に悟った。よからぬことに巻き込まれるのだろうな、と。
「聡いね兄さん。私と一緒に、今夜あそこに潜入してみない?」
……ほらな。
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夜。
やってまいりました、ハートがてっぺんに付いているタワー。……正式名称が分からん。
「瑠璃、本当にやるのか?」
「当然」
普通ならば、警察に見つかって即補導されるであろう年齢の私だが、ご生そういうのものが夜に巡回していないのがハートランドだ。ZEXALからの治安の良さは変わらないと言ったところか。
とにかく、潜入だ。方法は簡単。町を駆け回っている清掃ロボットの中に乗り込み、そのままゴミ処理場を兼ねているらしいタワーに入り込む。そしていい感じの場所で降りて非常口から内部に入る。……完璧だ。
「……父さんには後で平謝りだな。調べたところによると、オボットは夜11時辺りからタワーに自動的に帰還するらしい……見えてきたな」
兄さんがそう言うと同じころ、どこからともなく集まってきた清掃ロボット改めオボットはタワーに繋がる橋に入りだしてきたのが分かる。
「そろそろだな、行くぞ!」
「うん!」
そう言うと、おもむろに私と兄さんは道から飛び出し、手ごろなオボットをひっくり返して中に入ろうと試みる。
「瑠璃のためだ、無理に抵抗してくれるな!」
……兄さんは初手でいきなりハイキックをぶちかまし、オボットを転倒させた。
『……オソウジ、オソウジジジ……』
「今だ瑠璃、今のうちに乗り込め!」
……あ、今の私のためのキックだったんだね。いきなりで困惑の極みだったよ。私は倒れたオボットの頭部をかっぴらき、中に入っているゴミを掻き出し中に乗り込む。
……臭い。使い捨ての服でよかった。
『ゴミ、ゴミ』
私だって酷い行動ってのは分かっちゃいるけど、その言い方は無いでしょ……私はそう思いつつ、オボットが自動で起き上がったのを感じ、頭頂部を開いて兄さんも無事に乗り込めたか確認すべく周りを見渡す。
「兄さーん、乗り込めたー!?」
すると、後ろのオボットの頭頂部が開き、拳を突き立てる形でサムズアップするのが見えた。ターミネーターかよ。そんなことを思いつつ、しばらくそのままオボットに身体を預けて頭頂部の隙間から前方を覗いていると、そろそろ中心の空間が見えてきた。
「頃合いだな、出るぞ!」
前方から頭頂部を傾けてゴミを底に落とすオボットを見ながら、兄さんの掛け声と同時に飛び出し、非常口に繋がる階段へと歩みを進める。レーンから大群のオボットが進むのを見ると同時に、階段を駆け上がると底に見えるのは紫色の渦だった。紫色の渦!?
「……なんだ、あれは?」
「さぁ……」
確かあれはアストラル世界に繋がるポータルだったような気がするが、何であれがあるのだろう。あのポータルは、フェイカーがアストラル世界を滅ぼすためのポータルだったはずだ。ということは、この世界にはフェイカーが存在する……!?いや、それなら私の仮説は……!
「瑠璃、大丈夫か?行くぞ」
ああ、うん。ごめん兄さん。用があるのはここじゃない、目指すは最上階だ。
「また一人で何を考えこんでいるんだか、お前は全く分からん奴だ」
失礼な。
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その後、居ないとは思うけれど、一応敵が出てくるのを警戒しつつ最上階を目指して私は兄さんと一緒にエレベーターに乗り込んで最上階に何事もなく着いた。
「ここか?瑠璃が言っていた場所は?」
うん。システムの障壁が少しはあるとは思っていたけれど、道中には不気味なほど何も無かった。清掃はされているけども、誰もいない。ここに存在する、ただそれだけの無人のタワー。そして、それは最上階でも同じだった。最上階、ZEXALならハルトが寝て過ごしていた場所だった。けれど、それが今目の前では何も無い。殺風景、という言葉が正しいだろうか。それとも無機質、だろうか。
「何も無いな」
その通りだ。とにかく、目の前には何も無い。ガラス張りでハートランドを一望できるだけの、何も無い入居待ちの一角。ここまで何も無いとは……
「期待外れだったわけだ、瑠璃。満足したか?」
「……うん、付き合ってくれてありがとう兄さん。ここまで継ぎ接ぎだとは思わなかったよ」
また意味不明なことを、というような表情だけれど、これはマジだ。だって、ARC-Vにカイトは存在する。けれど、住む場所も家族も無い。ただアセットとして、NPCとして配置されているだけ。空虚と言う言葉がこれほど当てはまる存在があるだろうか?
けれど、一つ疑問が残る。アストラル世界へのポータルが開いているのに、何故ハルトがいないのだろうか?これじゃ動機がめちゃくちゃなことになってしまう。
確か、フェイカーはハルトを救うために、アストラル世界へのポータルを開いたはず。なら、ハルトが存在しないならポータルが開いている道理は無いハズだ。というかそもそもフェイカーも存在しないなら誰が開けた、という疑問すら浮かんでくる。
動機が無いのに、確かに存在する。これほどに奇妙なことは無かった。
知らん、そんなことは私の管轄外だ、と言えばそこまでだけれど。ARC-Vでも別の形で何かしら使用されていたのかな?という疑念を抱きつつ、確か兄さんやユートは別にバリアンとかアストラル世界の力を借りずに平然とランクアップしていたような、と謎の反論も浮きだつもそんなことが瞬時に解決するはずも無く。
「さっさと帰るぞ、不法侵入者」
「共犯してくれてありがとうね、兄さん。それに」
「それに?」
「もし私が捕まっても、兄さんが助けてくれるよね?」
「……あまり高望みするな、瑠璃」
「流石は兄さん」
私はこの場を後にすべく、兄さんと一緒に踵を返そうとするが、その瞬間。
──ピチャリ、と。
何かの水滴が、滴り落ちる音が聞こえた。