黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
誤字報告して下さった方、ありがとうございました。
再び眼を開いた時、そこにあったのは見知った天井だった。
(ここ、家か……私が倒れた後、兄さんが運んでくれたのかな?)
五体満足。私の服装は使い捨ての服から、寝間着に変わっていた。兄さんがそうしてくれたのであればいいが、もしその後警備員に見つかって……とかそうでなかったとしてもまぁ、迷惑をかけたことには変わりの無いのだから感謝しておこう、と思っていると。
(漸く目覚めたか)
視界の端の方から、浮上するようにしてもはや見知った姿がヌッ、と幽体の形を取って現れた。e・ラーだ。身体は透けているが、その姿は私が前世と今世で知っているモノと寸分変わりの無いものだった。
「ふぅん……逃げなかったんだね、褒めてあげる」
端的に言えば私は気絶したのだから、逃げ出すチャンスは幾らでもあったろうに、それをせずに私の前に現れたということは契約はしっかりと成立したということか。私はベッドから身を起こし、目の前に悠然と浮遊するe・ラーの目を見る。
(ヒッ!)
ちょっと、何でそんなに怖がるの。こちとら未就学のピチピチ6歳児ですよ、どこにもそんな恐れる要素ないでしょうが。
(……貴様!我にした所業を覚えて無いとは言わせぬぞ!!)
私の顔へと指を差し、叫ぶが。
「あ?やっぱ消えたいんだ?」
立場を弁えろよ、という意味を込めて私はドスを込めて言い返した。人差し指が震えてるぜ?
(じょ、冗談だ!何を本気にする必要がある!!)
すると、e・ラーは条件反射のように飛び跳ねて後ろに下がる。うん、うん。そうだよね、私とあなたは契約締結により成立したパートナーだもんね。これから長い付き合いになるんだろうし、仲良く行きましょうよ、お互いのためにもね。
(……コホン。小娘、あ、いや主よ)
e・ラーは自らの失態をリセットするかのようにワザとらしく咳をすると、私に問いかけてくる。
「主?私が?」
(その通りだ、我は言わば主の身体を間借りして生存しているに過ぎん。……意識だけだがな、もしや契約を忘れた訳ではあるまい?)
口調が尊大なモノからマイルドに変わって来ているのを私は感じながら、違和感を抱く。契約は成立、アストラルが皇の鍵を拠り所にしていたように、e・ラーは私自身を拠り所としているのか。なるほど、それは納得だ。
しかし、主、ねぇ。うーん……あれ?
「名前言ってなかったっけ?」
(聞いておらぬが)
そうだったか。最初現れた時の衝撃が大きすぎて、もう自己紹介すら忘れてしまっていたか。必死だったから仕方ないとは言え、だ。
「これは流石に失礼だったね。仲良くするのに、自己紹介も無しじゃ話にならないからね」
私はベッドから降りて、悠然と立つe・ラーの前に向き直る。改めてこう見るとデカいな、色々と。
「私は黒咲瑠璃。性別は女性、身長は日々更新中。体重は25いかないくらい?年齢は6歳」
我は6歳に御されたのか、と右手の指先をおでこにあてるのが見える。そうだよ、6歳に負けたんだよ、あなたはね。e・ラーは軽く溜息をつくと、自身の自己紹介をもって返答をする。
(我はe・ラー、性別は存在せぬが気まぐれで女性の姿をとっておる。身長も体重も我にとっては自由自在よ……ただ、普段は3mと少しほどで接させてもらうぞ。慣れているのでな)
3mって。確か、バスケのリングと同じくらいの高さだったか?トンデモない巨躯だな。
(正確な年齢は我自身も知らぬ。我は絶望を体現する神、この世に絶望が生まれた瞬間に生まれたと言っても過言ではない。故、強いて言うならば、感情が発現したその瞬間が我の誕生であろうな)
年齢不詳、で伝わります……と言うのは野暮なのだろうか。軽い自己紹介も終わり、何はともあれ兎も角これからよろしく頼む、とお互いにペコリ、とお辞儀を交わしたのだった。
というか神ってお辞儀できるんだね。
(できるわ!!!)
いや、テッキリする機会や必要すらない立場だったから知らないのかと。
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(……して、主よ。汝は、下僕と堕したとはいえ神たる我を以てして、何を為そうと言うのだ?)
主ねぇ……うーん。なんかシックリ来ないな。
「これから仲良くするんだから、呼び方もっとカジュアルでいいんだけど……そうだ、瑠璃で良いよ、瑠璃で」
(瑠璃?呼び捨てで良いのか?)
うん、それで良い。仲良くするのには名前を呼び捨てにさせたほうが先ず良いからね、主なんてそう大層な呼び方されたら自分の立場を錯覚してしまいそうだ。小娘で、大人に簡単に弄ばれてしまう、神にとってみれば有象無象に違いない存在。それが私だ。
「ええ」
(あい分かった、では遠慮無く瑠璃と呼ばせてもらおうか)
私はe・ラーの言葉に頷くと、洋服入れをベッドの下から引き出して、寝間着から着替えるために普通の服を取り出す。
(して、瑠璃よ。汝はこれより何を為す?)
「それは海よりも深く、山よりも高い願望なんだけどね……」
(?)
私は服一式を取り出すと、扉を開けて一応誰も聞いていないことを確認してから、扉をしっかりと閉めた。これから話すことは未来に関わることだ、兄さんは当然として、誰にも聞かれちゃいけない。
寝間着を畳んでちゃんとした服に着替えてから、胸の覚悟を確かめるように深呼吸して。
「フゥ……よし。話そうか。私は、運命を変えるためにあなたと契約した」
そうだ、運命を変える。これだけが、私が今こうして立たせている信念だ。そのためならば如何に代償を払おうと構わない。神だって従わせてみせるさ。
(運命だと?)
実際に言って、神を従えたのは私くらいのものだろうけれど。e・ラーはいきなり魔訶不思議な言葉を言うな、と言わんばかりに疑問符をつける。確かに運命なんて、まだ本来なら未確定で未知数な6歳の話す言葉では無いかもしれないね。だけど、そういう訳にもいかない。
「ええ。まず、この世界はあなたが知っている世界と少し違う。この世界に、あなたが忌々しいと語っていた九十九遊馬とアストラル、そして八雲興司も存在しない」
(……ああ、それは分かっている。我は封印から外れたのに気付いた時、最初ナンバーズの力の残滓が残っているだろうとハートランドのスタジアムにポータルを開こうとしたのだが存在しなくてな……迷った挙句、見知ったタワーの地下にポータルを開き、降り立ったのだがこれが予想外に我の影響下に無く、その際に力を使ってしまったのだ。これが不思議で仕方なくてな、屋上へと進んでいったら傷口が開きあの様だ)
おちゃめが過ぎるぞ、この神。あのタワーの奥底にあった紫色の渦は、e・ラーが生み出したポータルだったということか。ということはあの渦に入ったところでアストラル世界には繋がっていなかったという訳だ。
「そう、その根本的な原因は、ここはあなたの知るハートランドでは無いから。アセットを使いまわしただけの、簡単に言えばパラレルワールドと言える」
(丸っきり複製品という訳か……成程、我の影響力がこの世界に無いのはそのため。確かに納得できる話だ。だが、何故瑠璃がそれを言いきれる?お前はこの世界の住人であろう?)
何も知らない状態で言われたら、私も荒唐無稽な話だと思うだろう。だが、私は知っている。
(それに、九十九遊馬やアストラルは我が語ったから良いとして、八雲など我は一言も話しておらぬ。何故知っている?しかも、その素振りを見る限り我の存在までも知っていたと見た……)
e・ラーはここまで聞いて、純粋かつ至って当然な疑問を投げかけてきた。
(問おう。お前は何者だ?)
小娘、とか瑠璃、とかそういうレベルの質問ではない。もっと深く、根本かつ核心に至るための質問。何故知っているか。簡単だ。
「それは私が、転生者だからだよ」
私は、私の前世の知識を含めて、e・ラーに本当の私の事情、というのをありのままに話すことにした。自身を暴き出して吐き出すというのは本当は真に畏怖すべき行為なのだろうが、恐れは無かった。それは何故かと言うと、契約が実行された時点で信頼するに値すると思ったからというのが一つ、もう一つが必要な場面になったらまた昨日のようにすればいいだけだから、だ。