黒咲瑠璃に転生してしまった…… 作:絶望神サガ
ハートランド。
前作ZEXALの舞台となり、遊馬たちがデュエルを繰り広げたその町の名前は、ARC-Vのエクシーズ次元の舞台としても受け継がれている。
当然、この町だけがエクシーズ次元という一つの世界を構成しているわけではない。そこには描写されずとも、確かに外部が存在するはずだ。確かにハートランドの外には他の町が存在しているし、海を越えれば外国も存在する。
であれば、それは内部にも同様のことが言えるはずだ。DMだったらKC、GXは学園長、5D’sは治安維持局、ZEXALだったらフェイカー陣営がトップに立ち、政治を担い、内政を仕切っていた。
そこで、描写されなかったARC-Vのハートランドの政治構造はどうなっているのだろう、という疑問が浮かんでこないだろうか?
このエクシーズ次元という世界は、極論を言えば英雄が生まれる必要すら生まれなかった世界。フェイカーというカリスマは生まれず、Mr.ハートランドという悪人も生まれず、というかそもそもナンバーズすら存在しない世界だ。
カリスマが存在しないということは、必然的にパラダイムシフトも起こりえない。
だが、ハートランドは割とZEXALと同じく近未来的な構造をしている。パラダイムシフトは発生したということだ。これはおかしい。この辻褄合わせを、どうやってつけようか。
簡単だ。
民主制。それが人間が長き闘争の果てに導き出した、最悪かつ最善な政治体制。力無き人間たちが集まり、物事を決め、研究し発見し、昇華することで未来を形作っていく。言わば団結の力だ。
結論を言うと、エクシーズ次元のハートランドでは、ハートランド評議会……なる政治組織が存在し、そこが町を支配している。
町民の願いを聞き入れたり、町の問題を審議したり、また催しを行ったり、と決して華々しくは無くとも活躍の場は広い。ここだけ聞くとよくある市議会、町議会と何ら変わり無いと思うかもしれないが、評議会は外部の町とは比べ物にならないほどの権力を持っている。ハートランドをフェイカーに代わりここまで発展させたのは評議会の積極的な技術発展支援のためだし、町の方向性を決める役割もここが持っている。政令指定都市って奴だ。
よって、ハートランドにおける政治構造の頂点、権力を持つのはハートランド評議会ということになる。終わり。
長く説明してしまって申し訳ない、取り合えず、
であれば、私、黒咲瑠璃が運命を変えるために必須なことは、まずこの評議会を動かすことだろう。
ここに私が存在する限り、アカデミアによる次元戦争にハートランドが巻き込まれるのは必至だ。未視聴なものでミリしらの立場から言わせてもらうと、ハートランドの住民が次元戦争でカード化され、また町が廃墟状態にまでになりもはや人が住める場所ですら無いことは知っている。それ以上は知らない。
だが、エクシーズ次元がここまでにコテンパンにされた要因の一つは流石に分かる。住民がそういう状態に慣れていなかったからだ。一言で言えば平和ボケ。
迎え撃つ、その態勢に取る前に侵略し尽されてしまった。だから負けた。簡単だ。
だから、私がこの知識のアドバンテージを生かしてすべきことは、評議会にハートランドの住民が融合次元に対抗できるような仕組みをつくらせることだ。
どうやってするんだ、って?こうするんだよ!!
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「ファ~ア、眠い眠い」
ハートランド評議会内部、会議室Bにて。白髪交じりの筋肉質の男性が、欠伸をしながら机に手に持っていた紙の書類を置き、椅子に座る。
「おや、凍砂議長。欠伸ですかい?」
「いんや、ただの眠気覚ましさ。最近碌に寝れてねぇもんでな……つうか、お前以外まだ来てねぇのかよ」
どこからどう見ても欠伸なのを誤魔化し、凍砂議長は目の前の頭頂部が若干寂しい初老の男を見据えた。目の前の男は江口議員。確か、世襲で評議会入りした坊ちゃん生まれだ。昔はギャンブルでブイブイ言わせてたらしいが、親父が死んでから入れ替わって今は優男という感じだ。さて、この書類の束を今日はどこまで処理できるかな……と、凍砂議長はそんなことを考えつつも時計を見る。
「ええ、私はただ早く来ただけなのでね。時間のゆとりは心のゆとりですよ。議長も何を思ったかは知りませんが、珍しく早く来たじゃないんです?」
江口議員は当然、と言わんばかりに言う。確かに、こいつは会議に結構早く来るタイプだったような気がする。
「んぁ?そうだったか?あれ、会議って何時から?」
「9時に開始ですが」
時計の短針は7時を示していた。ありゃ、随分早く来ちまった。書類でも目を通しておくかな、どうせつまらねぇことばっかりだろうけど……あれ、じゃあ江口議員は2時間前に会議室入りして何をてるんだ、と思うも。
「流石、警察上がりの方は朝が早い……と、そういう訳では無い?」
そうらしいな。同時に、瞼が下がり、意識が沈んでいくのが分かった。
「寝るわ」
欠伸って眠気覚ましに効果的だった試しもねぇな、と思い凍砂議長は机につっふして、夢の世界へと誘われていった。ま、江口議員が起こしてくれるだろ。
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(滅亡の未来が来る)
ここは夢か。……ああ、どういうことだ?
(汝に告げよう、この世界は滅ぶ)
なるほど、これが明晰夢って奴か。存在は知っていたけど、初めて見るな。
(ハートランドは滅亡し、文明は崩壊する……理不尽なる侵略者によりな)
謎の声が語り掛けるように聞こえる。声質は女性だ。彼女?の輪郭らしきものが現れると、彼女は右手を振るい、俺に見せるようにして映像を映し出す。おいちょっと待てよ、お前さんは何者だよ?
(我は名も無き存在……絶望の未来を伝えに来た、存在よ)
ほーん、絶望の未来ね。それを教えてくれるなんて随分と優しい存在だ。
(優しくなど無い!目に焼き付けろ、これが数年後のハートランドだ!!)
そうして映し出されたのは、妙にリアリティのある崩壊していくハートランドだった。廃墟と化した見覚えのある街並み。閃光と爆発が息をつく間もなく発生し、ただ人々は巻き込まれまいと逃げまどい、それを嘲笑うようにして妙な仮面を被った奴らが人々をカードに変えていく映像が、そこにはあった……夢とは言え、何の冗談だ?
(これが滅亡の未来よ……そして、貴様らが動かずに何もせんかった末路よ)
どういうことだ?滅亡の未来なのは分かった。ハートランドの数年後の姿なのも分かった。だが、俺たちが動かなかった末路というのはどういうことだ?
(気づかんのか?)
あやふやなシルエット状でしか見えない彼女は、映像を拡大し、そのカードに変えていく光景をマジマジと見つめさせて、俺に問いかける。
(彼らは戦う術を持たぬ。だが、奴らはそれを知ったことではないと言わんばかりに彼らをカード化していく……)
ああ?戦う?俺らは平和主義者だ、戦うなんてこと、俺ら評議会が許すわけ……
(痴れ者が!)
ッ!
(侵略戦争だ)
彼女は、一言そう告げる。
侵略戦争?おかしい。戦争というのはある程度のプロセスを踏んで行われる。外交上の対立、交渉決裂、戦争決定、宣戦布告、ここまでやってようやく戦争っていうのは実行されるものだ。侵略にしたってそれは同様。
何らかの言いがかりがあったとして、そこには政治的ハードルがある。ならば、評議会が介入しない道理は無いはずだ。だが、彼女はそれを瞬時に否定する。
(奴らは次元を超えてやってくる侵略者だ!)
話し合いをすっ飛ばした?
(そうだ、奴らはある日このハートランドに次元を超えて現れ、瞬く間に侵略を開始する!)
……次元を超えて?
(その通りだ、その名も融合次元という)
融合次元?随分と時代遅れな召喚法を使うもんだな。儀式は論外として、世間ではエクシーズ召喚しか使わないデュエリストばっかりだぞ。たまに使う奴を見ないこともないくらいだ。
(だが、その時代遅れの召喚法しか使わぬ侵略者にハートランドは滅ぼされる)
まぁそれは分かった。あんたの言い分では実際滅ぼされた訳だし。だがおい、なんでその融合次元の連中はハートランドにやってくるんだ?動機不十分だぞ。攻め入る理由がここにあるって言うのか?
(……不明だ)
ああ?不明って?ここまで言ったのに何で分からねぇ?
(不明と言っておろう!だが、奴らはハートランドの住民をカード化し、元の融合次元へと拉致していく……これが何を指すのかは知らんがな)
カード化、拉致、融合次元に持っていく……なるほど?
(何だ、何が分かった?)
労働力不足だな、こりゃ。
(労働力不足?)
ああ。たぶん、その融合次元は人が少ないんだろ。で、必然的に労働力が必要になった。侵略して別の次元から持ってくるのはいいが、輸送するにもコストがかかる……だが、カードにして融合次元にもっていって復元すればそれもチャラだ。で、働かせるっていうのがいいとこじゃねぇのか?
(その可能性はあるな……推測にすぎぬがな)
まぁそうだがな。俺も言っててもっとスマートな方法があるだろと思うし、外国人労働者とか。で、あんたは俺にこんな荒唐無稽な映像を見させてまでして、何をさせたいんだ?
(滅亡の未来を変えろ。凍砂議長)
ま、そうなりますわな。信じていいんだな?
(信じろ、貴様らには変えられるだけの力がある……ここから、未来を変えろ)
彼女の輪郭が強く頷くのが見える。なるほどね……面白くなってきた。さて、こんな荒唐無稽なことを奴らにどう信じさせるかねぇ?
名前はデッキビルドパックのテーマから。