ドゥーのリベリオン 作:夏で腐ったチキン南蛮
①作者は訓練されたガノタではないです。
②本作は作者の好みでテキトーに作られてる二次創作みたいなナニカです。
③本文は作者が手を加えてますが、AIを本文に利用しています。
以上
宇宙は、光が凍るくらい静かだった。
RGM-79 ーー軽キャノンのコクピットの中で、ドゥー・ムラサメは半分眠ったような目でメインモニターを見つめていた。視界の大半を占めているのは、イズマ・コロニーの巨大な外殻だ。円筒形の構造物が、遠すぎず近すぎない距離でゆっくりと視界の端から端まで続いている。内部で人々が生活していることを思わせるものは、窓から覗く生活光くらいで、外からは何も見えない。ただの、金属と複合装甲でできた筒。
コクピット内に響くのは、姿勢制御スラスターが時折吹く微かな音と、生命維持装置の低い駆動音だけだ。
「……ひま」
誰に向けるでもなく、ドゥーはぽつりとつぶやいた。
操縦桿を握る手は、もう何時間もほとんど動いていない。軽キャノンは指定されたポイントに留まったまま、緩やかな監視軌道を描いている。目の前のセンサー画面には、コロニー周辺の宙域を捉えた光学映像と、レーダーの反応がいくつか流れているだけだ。民間の輸送艇の列。定期便らしきシャトル。特に変わったものはない。
「ドゥー」
通信機からゲーツ・キャパの声が入った。抑揚の薄い、事務的な声だった。
「聞こえてる」
「観測範囲がわずかにずれている。もう少し外殻側に寄せろ」
「……わかった」
ドゥーは軽くため息をつきながら、操縦桿を微妙に倒した。軽キャノンの機体が、姿勢制御スラスターの噴射とともにゆっくりと向きを変える。センサーの捕捉範囲を示す枠が、モニター上でわずかに移動し、指示された位置に収まった。
「直った」
「ああ」
それだけだった。
ゲーツは、イズマ・コロニー内に設けられた地球連邦軍情報部の臨時指令所――といっても、表向きは民間の事務所に偽装された一室――から、ドゥーの機体が送ってくる観測データをリアルタイムで確認していた。モニターに並ぶのは、光学センサーの映像と、機体状態を示す簡潔な数値の列だけ。派手さのかけらもない、地味な仕事だ。
ドゥーの搭乗する機体は、外見上はどこにでもある民間払い下げの軽キャノンにしか見えない。装甲の色は薄汚れたグレーとオリーブで、あちこちに補修の跡がある。宇宙作業用に転用された旧式機として登録され、書類上もそのように扱われている。
しかし、その内部は本来の軽キャノンとは大きく異なっていた。
主武装であったビーム・キャノン砲は撤去されている。かわりに背部には、観測機材の展開や細かな作業に使うためのサブアームが二本、折りたたまれた状態で収納されていた。長距離光学センサーと高感度の通信傍受装置が、目立たないように機体各所へ組み込まれている。傍目には、荷役や整備に使われる作業用MSにしか見えない。だが、その実態は地球連邦軍情報部が運用する、隠密監視のための特殊機だった。
ドゥーはコクピット内で、軽く肩を回した。
「ねえ、ゲーツ」
「なんだ」
「あれ、つかっていい?」
「駄目だ」
返事は一瞬の間もなく返ってきた。ドゥーはわざとらしく唇を尖らせる。
「そっちのほうが楽なのに」
「封印を解く必要はない」
「これ、まどろっこしいんだけど」
「マニュアルで十分だ。今のところ、何も起きていない」
「……分かってるけど」
ドゥーは操縦桿を握り直しながら、モニターの端に表示された小さなアイコンをちらりと見た。機体のバイオセンサー――連邦が作ったサイコミュ――を示すその表示は、灰色のまま沈黙している。起動すれば、操縦桿もペダルも介さず、感覚に近い形で機体を動かせるはずだった。だが、ゲーツがそれを許すことは、これまで一度もなかった。
理由は、ドゥー自身も一応理解していた。
監視対象ーー赤いガンダムとそっくりのMSーーサイコミュ搭載機かもしれない相手に対して、こちらの感応機構を不用意に働かせたまま接近するのは危険だ、という話だった気がする。何かの共鳴だとか、そういう小難しい話。詳しいことは、ドゥーにはあまり興味がなかった。
ただ、面倒くさいとは思っていた。
「暇なんだよね、これ」
「観測任務とはそういうものだ」
「分かってるけど言いたいの」
「言うのは自由だ」
素っ気ない返事に、ドゥーはモニターに向かって小さくため息をついて、気怠げに目を閉じた。もちろん、ゲーツにその表情は見えていない。
こうしたやり取りは、今日に始まったことではなかった。ここに来て数日、同じような監視任務を繰り返してきた。ドゥーが軽キャノンでイズマ・コロニー周辺の宙域に出て、赤いガンダムが現れないかを待つ。ゲーツが指令所からそれを管理し、逐一指示を出す。ドゥーが不満を漏らし、ゲーツがそれを聞き流す。そういう毎日だった。
もう何百回目か分からないやり取りを、二人はほとんど無意識のうちにこなしている。
「今日も出ないかもね」
「出なければ、それはそれで報告になる」
「つまんない……」
「重要な報告だ」
軽キャノンの姿勢制御スラスターが、また小さく音を立てた。コロニーの外殻に沿って、機体はゆっくりと監視位置を維持している。センサー画面には、相変わらず特筆すべき反応は映っていない。
ドゥーはシートに背を預け、モニターを眺めながら、少しだけ意識を緩めた。
それでも、視線だけはコロニーの外壁から離さない。
どれだけ退屈でも、どれだけ同じことの繰り返しでも、ドゥーはこの監視任務を――正確には、その先にいるかもしれないものを――待つことをやめられずにいた。
やがて、センサー画面の隅に、小さな反応が浮かんだ。
最初は、ただの光点だった。コロニー外殻の近く、いつも民間の作業艇やメンテナンス用のポッドが行き交う区域の端。特に珍しくもない反応。
だが、その光点の動き方が、少しだけ違った。
ドゥーの目が、わずかに細くなる。
「……ゲーツ」
「見えている」
ゲーツの声から、事務的な響きがわずかに硬くなった。指令所のモニターにも、同じ反応が表示されている。光学センサーの解像度を上げるよう、指先が素早くコンソールを操作した。
画面の中で、光点が徐々に輪郭を持ち始める。
人型。
装甲の色は、深く鮮やかな赤。
ドゥーの表情が、それまでの気だるさから一変した。
「赤いガンダム」
声には、隠しきれない昂りが滲んでいた。
「動くな」
ゲーツの声が、即座に飛んでくる。
「観測だけだ」
「分かってる」
「近づくな」
「分かってるってば」
もう、何度繰り返したか分からないやり取りだった。ドゥーは操縦桿を握る手に力を込めながらも、機体をその場から動かさなかった。動かしたい、という衝動は確かにある。だが、動けばゲーツが黙っていないことも、痛いほど分かっていた。
軽キャノンのセンサーが、赤いガンダムの姿を捉え続ける。
距離は十分に取られている。相手からこちらの姿が視認できるとは考えにくい。それでも、ドゥーは息を潜めるようにして、モニターの中の赤い機体を見つめていた。
赤いガンダムは、戦闘態勢を取っている様子はなかった。武器を構えるでもなく、周囲を警戒するでもなく、ただゆっくりとコロニーの外壁に沿って移動している。まるで、何かを確かめるように。あるいは、何かを探すように。
「……何してるんだろ」
ドゥーがつぶやく。
「記録は取っている。動きを逃すな」
「見てるよ、ちゃんと」
ドゥーの視線は、画面から一切外れていない。むしろ、これまでの退屈さが嘘だったかのように、機体の動きの一つ一つを追いかけていた。
赤いガンダムが、外壁のある一点で動きを止めた。
しばらく、静止したまま動かない。
「止まった」
ドゥーが報告する。
「観測を継続。焦るな」
「焦ってない」
そう言った声は、少しだけ早口だった。
赤いガンダムの片腕が、ゆっくりと持ち上がる。何をするのか、ドゥーにもゲーツにも分からなかった。武装らしきものを構える動きではない。もっと、静かで、緩やかな動作だった。
その腕の先――正確には、機体の一部――から、何かがコロニーの外壁に触れる。
直後、外壁の表面に、小さな光の粒がいくつも浮かび上がった。
瞬きするように明滅しながら、粒はゆっくりと集まり、形を作っていく。目視できるほどの規模ではあったが、爆発でも損傷でもない。何かを、そこに「残している」ような動きだった。
ゲーツの声が、わずかに緊張を帯びる。
「……あれは」
「記録して」
ドゥーが、珍しくゲーツより先に指示めいた言葉を口にした。ゲーツは何も言わず、機材の操作を続ける。指令所側のセンサーも、外壁に浮かぶ光の粒を捉え続けていた。
やがて、光の粒はある程度の広がりを見せたところで動きを止めた。まるで、そこに何かの模様、あるいは印を描き終えたかのように。
赤いガンダムは、それ以上何もしなかった。ただ、しばらくその場に留まっているだけだった。
ドゥーは、画面越しにその光景を見つめながら、無意識のうちにつぶやいていた。
「……キラキラ」
その一言に、それまでとは違う響きがあった。単なる感想でも、驚きの声でもない。もっと、確信に近いなにか。
通信の向こうで、ゲーツが一瞬、沈黙した。
「何だ、今の」
「え?」
「キラキラ、と言ったか」
「言ったけど」
ドゥーは、自分がそう口にしたことに、遅れて気づいたような顔をしていた。画面の中の光の粒――赤いガンダムが外壁に残したそれ――を見つめながら、もう一度、確かめるようにつぶやく。
「……キラキラだよ、これ」
「意味を説明しろ」
「分かんない」
即答だった。ドゥーは眉根を寄せながら、モニターの光景から目を離さない。
「分かんないけど、キラキラなの」
「根拠は」
「根拠とか、ない。見たら分かる」
ゲーツは、それ以上追及しなかった。少なくとも今は。指令所のモニターに映る、外壁に残された光の模様を、ゲーツは無言のまま見つめていた。目印なのか、暗号のようなものなのか、あるいは何らかのサイコミュ的な現象の残滓なのか――可能性はいくつも浮かぶが、どれも確証には至らない。
それに対して、ドゥーの反応は、あまりに直感的すぎた。
説明できないと本人が言っている。それでいて、確信だけはある。ゲーツにとって、それは記録すべき事実の一つだった。理解できるかどうかは、また別の話として。
「記録は継続する」
「うん」
「お前は、それ以上近づくな」
「分かってる」
ドゥーの声には、いつもの軽い口調が戻っていた。だが、画面を見つめる目には、先ほどまでとは違う熱のようなものが宿っている。赤いガンダムから、そして外壁に残されたその光の跡から、ドゥーは視線を外そうとしなかった。
しばらくして、赤いガンダムはゆっくりとその場を離れ始めた。特に慌てた様子もなく、コロニーの外壁から距離を取り、宙域の奥へと向かっていく。
「離脱するみたい」
ドゥーの声に、わずかな焦りが混じった。
「見ての通りだ」
「追う?」
「駄目だ」
食い気味の返事だった。ドゥーは操縦桿をわずかに握り直したが、機体を動かすことはしなかった。動かせば、確実にゲーツに止められる。それは分かりきっていた。
「もういい。帰投しろ」
「もうちょっとだけ」
「ドゥー」
名前を呼ばれただけで、それ以上の言葉は続かなかった。ドゥーは口をへの字に曲げながら、モニターの中で小さくなっていく赤い機体の姿を、最後まで目で追い続けた。
「……わかった」
渋々といった声で、ドゥーは答えた。
軽キャノンが、緩やかに機体を反転させる。コロニー周辺の監視ポイントから離れ、あらかじめ定められた帰投コースへと向かっていく。センサー画面の中で、赤いガンダムの反応は、やがて完全に見えなくなった。
コクピットの中、ドゥーはしばらくの間、何も言わなかった。
ただ、モニターの隅に残った、先ほどまでの記録映像――外壁に残された光の粒の模様――を、繰り返し眺めていた。
その光景は、赤い機体が去った後も、ドゥーの目にしっかりと焼き付いていた。
通信機の向こうで、ゲーツが小さく息を吐く音がした。
「今日の分の記録は、こちらで処理する。お前は帰って、いつも通りにしていろ」
「いつも通り、ね」
ドゥーの声には、どこか他人事のような響きがあった。
「学生としての、いつも通り」
「そうだ」
軽キャノンは、静かな宙域を進んでいく。イズマ・コロニーの巨大な姿が、少しずつモニターの端へと遠ざかっていった。
その機体の中には、今しがた任務を終えたばかりの、地球連邦軍の実働要員としてのドゥーがいる。
そして、これから帰る先には、コロニー内で暮らす、ただの学生としてのドゥーがいる。
二つの姿は、同じ一人の少女の中に、当たり前のように同居していた。
軽キャノンのコクピットの奥で、ドゥーはもう一度、小さくつぶやいた。
「……キラキラ」
それが何なのか、自分でもまだ、うまく言葉にはできない。いや、しなくてもいい。
けれど、確かにそこにあった、と。
ドゥーだけは、そう感じていた。
連邦側のニュータイプの捉え方はある程度分かっても(ニュータイプ研とかナラティブとかアムロくんとか)、キラキラをどう捉えてんのか、どこまで理解してんのか、よく分からなかったので、この描写です。自分でも納得いってませんが、とりあえずこの描写で落ち着きました。