作:ハーレム人気者

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始まり②

俺の名前は、朽木レン。

二十歳。

 

――何者でもない存在。

少なくとも、今はそれでいい。

 

「マスター」

カウンターの奥にいるミカへ声をかける。

「休憩に入ります」

「うむ」

ミカはいつもの落ち着いた様子で頷いた。

それだけで話は終わる。

俺は身につけていたエプロンを外し、休憩室へ向かおうとする。

――が。

当然、そこで話が終わるはずもなかった。

「あっ! ちょっと待ったぁ!」

背後から聞き慣れた声が飛んでくる。

振り返る必要すらない。

誰なのか分かりきっている。

「……なんだ、千束」

「えぇー? ズルいよ!」

錦木千束。

いつも騒がしい女だ。

俺とは正反対と言っていい。

「何がだ」

「休憩! レンだけ先に休憩入るのズルくない?」

「俺の休憩時間だ」

「私も休憩したーい!」

「働け」

「ひどっ!」

千束が頬を膨らませる。

俺は気にせず休憩室へ向かう。

「ちょ、ちょっと待ってよ、レン!」

ついてくる。

「仕事はどうした」

「今、お客さんいないし!」

「だからといって休憩していい理由にはならん」

「固いなぁ~、レンは!」

「……そうか」

「そうだよ!」

後ろから文句を言いながら、それでも千束は離れない。

昔から変わらない。

俺を見つければ寄ってくる。

暇になれば話しかけてくる。

俺が一人でいれば、いつの間にか隣にいる。

正直――騒がしい。

「レン!」

「なんだ」

「休憩、一緒にしよ?」

「断る」

「即答!?」

「お前は仕事中だ」

「じゃあ私も先生に聞く!」

千束は勢いよく振り返った。

「先生ー! 私も休憩入っていい!?」

「ダメだ」

「えぇぇぇぇ!?」

店内に千束の声が響き渡る。

俺は小さく息を吐いた。

「働け」

「レンのせいだからね!」

「なぜ俺のせいになる」

「だってレンだけ休憩するから!」

「意味が分からん」

「むぅぅ……!」

また頬を膨らませている。

俺はそんな千束を一瞥して、休憩室へ向かう。

「……千束」

「ん?」

足を止める。

振り返らずに告げた。

「休憩が終わったら相手をしてやる」

一瞬。

店内が静かになった。

「……ほんと?」

先ほどまでとは違う、小さな声。

「ああ」

「約束だからね!」

一瞬で元に戻った。

「絶対だからね! 忘れたとかなしだからね!」

「分かった」

「よーし! じゃあ頑張ろー!」

単純な奴だ。

先ほどまで休憩したいと騒いでいた人間とは思えない。

俺は再び歩き出す。

背後からは、機嫌よく仕事へ戻る千束の声が聞こえてくる。

「…………」

ほんの少しだけ振り返る。

楽しそうに笑う千束がいた。

俺は、あいつのあの笑顔が嫌いではない。

いや――。

おそらく。

俺が思っている以上に、あの笑顔を気に入っている。

だが。

それを本人に言うつもりはない。

少なくとも――今は。

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