こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:黒雛
感動の再会! と思いきや、何やら宇宙猫状態のヤチヨ。
まるで注文したものと違う料理が運ばれてきた客のようだった。
「あの、ヤチヨ?」
唖然としているヤチヨの名をもう一度呼ぶリンスレット。
そこでヤチヨはハッと我に返り、感極まった様子で飛び付いた。
「お嬢様ー!」
「きゃっ」
ぺたりとリンスレットは尻もちを付いたが、ヤチヨは構わずその細い腰に両腕を回して抱き着いていた。
「お嬢様お嬢様お嬢様ー! よ、良かったですー!」
「ヤチヨ……どうして貴女がここに?」
「そんなのお嬢様を探してに決まってるじゃないですかー! ラビリンス大森林に追放されたと聞いて、みんな心配してたんですよ!」
「……そう」
心配してたと言われ、表情を陰らせるリンスレット。
本来ならここは喜ぶところだが、友人にすら見捨てられた現実が疑心暗鬼を抱かせているのだろう。
『大丈夫だよ、リンスレット』
だからオレは彼女に思考にチャンネルを繋げた。
『……クロ様?』
一瞬驚いたリンスレットだったが、すぐに順応する。
『少なくともこいつは本気でお前を心配してた。お前を助けるために単身この森に飛び込んで重傷を負うくらいだからな』
『重傷……っ!?』
『それも瀕死レベルのな。オレがいなかったら確実に死んでたし、お前が生きてると分かった途端泣き崩れてたよ。だからヤチヨのことは信頼して良いんじゃないか?』
『そう、ですか……』
噛み締めるように応答したリンスレットは、おずおずとヤチヨの頭に手を乗せた。
その手は少し震えていたが、それも次第に収まり、口元に微笑を浮かべるまで至る。真紅の美しい双眸が潤んでいた。
つかオレの言葉は素直に受け止めるのな。
止めてよね。人間不信に陥ってる可愛い女の子が自分の言葉だけ素直に聞くって普通に勘違い案件やぞ。
「……お嬢様、改めてご無事で何よりです」
場所をホームの喫茶店に移し、改めてヤチヨは笑みを咲かせた。
「ありがとう。だけどヤチヨ。貴女こそ重傷を負ったって」
「アハハ、お嬢様が追放されたと聞いて居ても立っても居られず……。感情に振り回されるとは、忍び失格ですね」
そう苦笑しながらも小首を傾けるヤチヨ。
顔には『いつその話をしたんだろう』と書いてあった。いわゆる念話っす。
「ですが、そのおかげでこうしてお嬢様と会えたのですから万々歳です」
「貴女ね」
「まあまあまあ! 拙のことは良いじゃありませんか」
藪蛇と思ったのか、リンスレットからの追及を無理やり断ち切った。
「そんなことよりお嬢様、ご実家にお帰りしましょう。何やらとんでもない勘違いをしてらっしゃるようですが、公爵家の皆様方はお嬢様の身を案じております」
「お父様やお母様が……」
その呟きには、やはりというべきか胡乱なものが混じっていた。
ヤチヨもそれを理解しつつ話を進めた。
「はい。ですから、どうか顔を見せて皆々様を安心させてあげてください」
しかし、リンスレットの表情は晴れなかった。
「無理よ」
力なくかぶりを振るう。
「そんなこと、できるわけないわ。私は公爵家の顔に泥を塗ったのよ」
「ご安心を。既に冤罪の証拠は掴んでおります」
「それでもよ。一度広まった醜聞というのは取り返しがつかないわ。そこに真偽も善悪も関係ないのよ」
「お嬢様は、それで良いと?」
「良くないわ。でも仕方ないでしょう?」
「お嬢様……」
困ったように笑うリンスレットに掛ける言葉が見つからないのか、ヤチヨは苦い表情を浮かべる。
「そんな顔しないで。確かに色々あったけど、今は充実した暮らしをさせてもらっているの」
そう微笑んでリンスレットの視線がカウンター席に座るオレへと向いた。
次いでヤチヨの視線もこっちに向いたのでひらひらと手を振っておく。余裕のある男アピールは大事。
「そういえばお嬢様、凄くキレイになってますね。ああいえ、元々お美しかったんですけど、その磨きがえげつないというか」
「ええ、ここには異世界の品々がたくさんあるのよ。髪を艶やかに仕上げてくれる洗髪剤に美容液。触ってみる?」
「わっ、何ですかこのさらっとした手触り! それにお肌だって赤ちゃんみたいにプルプルじゃないですか!」
これにはヤチヨも羨望の眼差しを向けていた。
「凄いでしょう? でも、こんなのはまだまだ序の口なのよ」
リンスレットは滔々とダンジョン内にある設備を語る。
こころなしが目が輝いているように見えた。
しかし、ヤチヨにはリンスレットが何を言ってるかサッパリだろう。
疑問符がいっぱい浮かんでいた。
エアコンやら冷蔵庫なんてここだけにしかないからな。
「ストップだ、リンスレット」
さすがに見兼ねたので制止を掛ける。
「クロ様?」
「高評価なのは嬉しいけどな。来たばかりのヤチヨにあれこれ言っても伝わらんだろ」
「あ、そうでした。ごめんなさい、ヤチヨ」
「い、いえ。とにかく凄いってことは分かりました。異世界の品々ですもんね」
「ヤチヨの先祖からすれば『元』かもだけどな」
「え?」
だって忍者だし。
それにリンスレットも以前、異世界人を祖に持つ従者がいると言っていた。
これ絶対ヤチヨのことだろ。
望月ヤチヨって如何にもじゃん。
しかもクノイチ。
これもう完全にヤチヨのご先祖様が望月千代女か、それに準ずる系譜でファイナルアンサーじゃろ。
オレは詳しいんだ。
主に運命さん一旦ステイナイトのソシャゲで学んだ。爆死も学んだ。あのゲーム、まだバトルのスキップ未実装なんかな。
「日本って名前に心当たりはないか? 或いは扶桑。もしくは日ノ本とか」
オレがそう尋ねると、ヤチヨは記憶をサルベージするように腕を組み、人差し指を口元に当てた。
あざとくない? 大好物です。
「そういえば、ご先祖様の生まれた国がそんな名前だったような……」
「クロ様はどうして分かったんですか?」
「ん? 従者に異世界人の先祖持ちがいるっつったのはリンスレットだろ?」
「いえ、それはそうなんですが。どうして国まで同じだと特定できたのかと」
ああ、そういう。
「簡単な話だよ。忍者はうちの国が発祥だからな。望月って名前にも心当たりがあったんだ。つっても五百年くらい前の話だけど」
「はー、思わぬ縁もあったものですねー」
ヤチヨは感心したような反応を見せる。
「まあ気になったら図書館でも探ってみたらどうだ? 歴史書とかもたくさんあるからな」
「あの図書館は凄いわよ、ヤチヨ。何千何万という本が敷き詰められているの」
「あれ? いつの間にか拙もこのダンジョンに居座ることになってます?」
「ダメ?」
「ダメではありませんが……と言うことは、やっぱりご実家に帰るつもりはないと?」
「ええ、個人的に政治的にも私という存在はいない方が良いもの」
こいつ、半分くらいは私情を通すためにこんな言い方をしたな。
まあ良い変化ではあるか。
それはヤチヨも感じ取ったのだろう。
「お、お嬢様が遂に反抗期を! 成長しましたねー、よよよ」
と、敢えて道化役を演じるように大袈裟なリアクションを取っている。
「釈然としないわ」
「これもクロさんのおかげでしょうか」
「っ、クロ様は関係ないでしょう……っ」
「おや? おやおやおや? この反応はもしや――」
ニマニマと愉快気な笑みを浮かべるヤチヨ。
「マジかよ。リンスレット、スケベするか?」
「しませんっ!!」
「ダメだったじゃねーか」
オレはヤチヨに非難の目を向けた。
「当たり前では???」
「それはそう」
「……二人とも、揶揄ってますね?」
オレ多分、ヤチヨとすげぇ相性良いわ。
ネットミームを仕込んだら絶対乗ってくれると思う。
「お嬢様の考えは理解しました。そういうことなら是非ともお供させて頂きます。こちらとしてもダンジョンの恩恵にあやかれるというのは願ったり叶ったりですし」
ちらりと恨めしげなジト目を向けられる。
自業自得と返すと『ですよねー』とコメくいてー顔が返ってきた。
まだネタを仕込んでもないのにこれだけのリアクションを……!
「ですが、その前に公爵家の方々にご一報を入れさせて頂けませんか? もちろん、ラビリンス大森林を無事に脱出できることが前提ですが」
お、この提案は渡りに船だ。
ヤチヨとしてはリンスレットの安否を伝えたいんだろうが、そこに乗っからせてもらおう。
「それなら任せとけ。オレならこの森を自由自在に移動できるからな」
リンスレットの親は、ちゃんと心配してるっぽいからな。
リンスレットがいるとなれば、相応の人員が派遣されるはず。
そうなればDPはウッホウホ――じゃなかったウッハウハ。
勝ったぞ綺れ――もう黙れ(無言のアゾ剣)。
「それは是非ともお願いしたいのですが……とんでもない力ですね。この森を手中に収めようとあらゆる国が軍や腕利きの冒険者を遠征に出したというのに」
と、ヤチヨは苦笑する。
リンスレットも反応に困っているようだった。
まあこの森と隣接してる領土の人間からすりゃあ複雑にもなるか。
「ヤチヨ、私も一筆書くわ。証明になるかは分からないけれど」
「いえいえ、とても助かります」
「ならいっそビデオメッセージでも送るか?」
オレはDPを確認してから薄型の端末を置いた。
「これは?」
「んー、そうだな……時間を保存する映像記録媒た――実際に試してみるか!」
オレは諸々の準備を施したその翌日にヤチヨを送り出した。
・まっくろくろすけ
ようやく光明が見えてきて大変気分がいい。
・元じゃなかった公爵令嬢
普通にずっとここで暮らそうかなと思ってる。
・主人公との相性が抜群な明るい忍者
だいよくじょうしゅごい。
オフトゥンしゅごい。
いせかいしゅごい。
ここにすむ!!!!
先祖が主人公と同郷なので実質故郷!
タワシは帰ってきた!!
最初はリンスレットの疑心暗鬼を濃くしてヤチヨとの間に不和を生じさせる予定で書いてましたが、「や、これもうダンマス物でもなんでもねーな」と深掘りを断念。
それをやるなら最初はもっとテンプレ寄りに書いて、二章辺りに持ってくるべきだった。
が、そもそも小説はギャグコメである。
ちょっと展開に困るすーぐシリアスに逃げようとするんだから。
物書きあるあるだと思います。