こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:黒雛
ガイアス・フォン・エーデルワイスは激怒した。
必ず、彼の邪知暴虐な王太子を除かねばならぬと決意した。
ガイアスには政治が分からぬ――ということはない。
ガイアスは公爵家の現当主である。
王国の盾として時には剣を抜き、時にはペンを握って暮らして来た。
けれども娘に関しては、人一倍に敏感であった。
娘のリンスレットは、王太子の婚約者である。
今より十年ほど前、エーデルワイスとの繋がりを密にしたいと考えた王の采配により、最愛の娘は王都へと連れ去られた(誇張)。
ガイアスとて貴族の人間。
政略結婚の必要性は熟知しているし、事実ガイアスだって政略結婚だ。
妻との関係に恋は無かったが、確かな愛を育んだと自負している。妻しか勝たん。
それでも幼い娘を手放すというのは相当に堪えた。
本当は断りたくて仕方なかったが、ラビリンス大森林という危険極まりない土地と隣接しているエーデルワイス領にとって、王家の支援を袖にすることはできなかった。
かくしてリンスレットと王太子の婚約は成立した。
だが、今になってそれが過ちであったとガイアスは深く悔いた。
凡庸とは思っていたが、まさかこんな愚行を犯すとは。
しかもラビリンス大森林に追放ということは、エーデルワイス領に踏み入るということだ。
その領土を治めるガイアスに話を通さず、その娘をガイアスの領土内から追放する。
こんなにも舐め腐った対応がかつてあっただろうか。
もちろんガイアスには全てが寝耳に水。
何もかもが事後報告であった。
無論、王家にどういう事か早馬を遣わせたが、曖昧な応答しか返ってこなかった。
王宮も最初こそ大騒動に発展していたようだが、それも次第に収まりつつあるという。不自然なほどに。
しかも、王太子の意向を汲み取るという形で、だ。
これにはガイアスの堪忍袋もプッチンプリン。
ガイアスの王家に対する忠誠心が底を尽いたのは当然の帰結と言えよう。
処す? 処す? ――処す!!!
――が、その前にリンスレットの捜索だ。
しかしラビリンス大森林に追放されたとなれば迂闊には動けない。
あそこは凶悪なモンスターが跳梁跋扈し、空間すらも流動的に変化する人外魔境だ。
その謎を解き明かすため百年以上の時が費やされているが、進捗は亀すらも置き去りにするほど緩やか。
幾ら愛娘のためといえど、自らに忠誠を捧げた騎士たちを見え透いた罠に飛び込ませることなど出来なかった。
冒険者にも破格の報酬を出した。
しかし、彼らは報酬も大事だが、何よりも命を最優先にする。
捜索場所がラビリンス大森林となれば誰もが及び腰になっていた。
刻一刻と時間だけが流れる状況に煮えを切らしたのは、エーデルワイスが抱える隠密衆。
その頭領の娘である望月ヤチヨだった。
時には忍として、時には従者として、そして、時にはリンスレットの友として生きていた彼女にとって今の状況は到底容認できなかったのだろう。
彼女は書き置きだけを残し、ラビリンス大森林に向かった。
ほげー!? と頭領がひっくり返ったのはさておき。
残念ながらヤチヨの行動は何の意味も為さないだろう。
確かに彼女は優秀な忍びだが、あそこに生息するモンスターは文字通り格が違う。
モンスターを一体倒すにも十数人の小隊を組む必要があるほどだ。
そもそも忍びとは闇に乗じて動く影。
その能力は暗殺や対人戦に特化しており、培った技術や知識の大半がモンスターに通用しないのは明白だった。
――そう思っていたのだが。
「た、たたたたたた大変ですぞー!!」
執務室で苦悩するガイアスの元に隠密衆の頭領が転がり込んできた。
いつもは、シュタッと音もなく現れる職人気質な男だったが、完全に取り乱していた。
ゴロゴロゴロと床を転がり、ガンと執務机に頭をぶつける。
「ふぉお!? ……ご当主様……次期頭領は……ヤチヨに……ガクッ」
「うん、余程混乱しているのは分かったから、一先ず落ち着こうか」
そのヤチヨが行方不明の真っ只中なんだけどね、とはさすがに言わなかった。
「失礼しました」
頭にでっかいコブを作りながら頭領は片膝を付いた。
「それで、随分慌てていたみたいだけど、どうしたんだい? もしや、リンスレットの行方が分かったとか?」
思わず身を乗り出したガイアスだったが、頭領はかぶりを振った。
「いいえ、リンスレットの行方は未だ」
「そうか……」
「ご当主様、気落ちされるのはまだ早いかもしれませぬ」
「それはどういう事かな?」
「先ほど我が娘であるヤチヨが帰還したのです。そして娘が言うにはリンスレット様とお会いになったと」
「何だって!? す、すぐに、すぐにヤチヨを連れて来てくれ!」
「はっ」
スッと頭領は音もなく姿を消した。
いつもは『アレどうやってるんだろ』と思うところだったが、今のガイアスにそんな余裕は無かった。
テーブルの上に両肘をつき、祈るように指を組み合わせる。
そこに額を乗せながら期待と不安に落ち着かないでいると、再び扉が力強く開け放たれた。
「貴方! リンスレットが見つかったというのは本当ですか!?」
「母上、落ち着いて下さい。まだ断定するには早いかと」
入ってきたのは妻のナタリアと、長男のユリウスだ。
ガイアスはふぅ、と一息。
気持ちを切り替える。
例え愛する家族の前だろうと大黒柱が弱みを見せるなど、あってはならない。
「それをこれから聞くところだよ」
応接用のソファーに腰を降ろした二人。
ナタリアはそわそわと落ち着きがないが、嫡男であるユリウスは流石というべきか微動だにしない。
ややあってノックの音が三回響いた。
面々の顔が引き締まる。
「ご当主様。ヤチヨです。お召しに従い、参上致しました」
「入りなさい」
「はい、失礼します」
ヤチヨが入室したことにガイアスは安堵する。
ヤチヨは五体満足だ。
ラビリンス大森林に向かう前よりずっと顔色も良くなっている。
「ヤチヨ、早速ですまないが、リンスレットと会ったというのは本当かい?」
「はっ。お嬢様はこれといった怪我もなく息災にあられました」
ヤチヨからの肯定を受け、場の空気がほんの少しだけ和らいだ。
「ということは、もしかしてリンスレットはラビリンス大森林に入らなかったのかい?」
その可能性は考えていた。
だから近隣の村にも捜索の手を伸ばしたのだが、結果は空振りだった。
「いいえ、お嬢様を見つけたのはラビリンス大森林で間違いありません。それもダンジョン内でのことでした」
「ダンジョンだって? どういうことだい、ヤチヨ。ちゃんと話してくれ」
「……その、かなり荒唐無稽な話になりますが、宜しいでしょうか?」
少し困ったようにヤチヨが言った。
「構わない」
「承知致しました」
深呼吸を一つして、ヤチヨは自身が辿った軌跡を語り出した。
結果――
「「…………」」
凄く微妙な空気になった。
なるほど。確かに荒唐無稽な話だ。
もしも語り部がヤチヨじゃなければ『ふざけているのか』と怒りを滲ませていた自信がある。
はっきり言って、妄言にしか聞こえなかった。
「……ヤチヨ。すまないが、何か証明できるものはあるかい?」
半ば無理だろうと思いながら尋ねてみると、
「あります」
「……あるの?」
「はい。それも、かなりとんでもないものが」
そう言ってヤチヨが取り出したのは、手のひらに収まるほどの、薄く平たい板状の道具だった。
銀に塗装されたそれは艶やかな光沢を帯びており、思わず一同の目が釘付けとなる。
「えっと……確かこれをこうして」
おっかなびっくりにヤチヨが板状の道具に指を走らせる。
すると道具から光の線が立ち上り、空中に光る窓のようなものが映し出される。
「こ、これは」
あまりの未知に目を見開くガイアス。
光る窓のようなものを凝視していると、その中にリンスレットが現れた。
「お……おお! リン――」
見知らぬ男を隣に添えて。
「――――」
絶句するガイアス。
男と愛娘の距離は近く、そして愛娘はまんざらでもなさそうな顔だった。
麗しい美貌を持つ王太子の隣ですらスンと澄まし顔だった愛娘が、だ。
ガイアスは思い出す。
幼い頃、リンスレットが『大きくなったらお父様と結婚します!』と抱き着いてきた、あの素晴らしきメモリアルを。
ズキュン! である。
バキュン! である。
愛娘プリティダービー余裕の一着である。
だから王太子の婚約者になったときは血涙を流しそうになったし、王太子の隣ですら澄まし顔を崩さなかったリンスレットの姿に『やはり娘はパパ上が好きなんだな』と後方腕組みおじさんムーブもかました。
そんな、目に入れても痛くないほど可愛い愛娘が。
知らん若者の隣で乙女の顔を晒していた。
「? ……??? ……????」
完全に脳が処置落ちしたガイアス。
そんなガイアスに構わず、その男は不敵に笑って口を開く。
『イエーイ、リンスレットのお父さん。見てる~?』
「くきゅ」
脳が壊れる音がした。
この日、ガイアスは真なる不俱戴天のズッ友と出会った。
・出戻り忍者
拙、知~らない
・脳破壊系公爵
む、むむむむす、むす、むす、娘ガ、ガガガガガーー!
野郎オブクラッシャー!!
ガイアス・フォン・エーデルワイスは激怒した。
・脳破壊系公爵の夫人
あらあらまあま――ーちょっと待ちなさい。
娘、めちゃくちゃキレイになってない???
何あの髪質。何あの肌。
母の目は誤魔化しませぬ。
・脳破壊系公爵の嫡男
妹の男運無さすぎじゃない?
それはさておき、この道具は一体……
・バカ
父親なら大丈夫やろ、と地雷原でタップダンス
・乙女顔を晒した公爵令嬢
え、お父様と結婚する?
……そんなこと言いましたっけ?
ダンジョン物の知見を深めようと、途中まで読んでいたダン活を読み進めていたらアホほど更新遅れました。
架空原作物への転生ってものっそい増えましたけど、あの作品ほど『全力で楽しんで生きてます!!!!!』な主人公って未だかなり珍しいですよね。
言動はもちろん、地文からでもすっごい楽しんでくるのが伝わってくるんだもん。
え? そもそも光属性の転生主人公自体が珍しい?
それはそう。
じゃあ、うちの主人公の属性は?
沼。もしくは爆死ですかね。