こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:スネージヤナ最高でしたね(追い課金)
「んー」、こんなところか?」
虚空に浮かんだ無数のウィンドウ。
そこに記されているのは、オレが構成したダンジョンのざっくりとしたシステムだ。
色々操作方法を確かめた結果、かなりやりたい放題できるってのが分かった。
具体的に言うと、頭の中にある構想をそのままアウトプットできるのだ。
眼前に浮かんでいるウィンドウもそうだし、オレたちがいるマスタールームもそう。
オレが召喚されたばかりのマスタールームは真っ暗闇の空間だったが、今では生活感のあるリビングに変貌を遂げていた。
ほぼほぼ我が家である。
違うところがあるとすれば、家族がいない代わりにシロちゃんがいることだ。
そのシロちゃんは現在、人の心を学ぶためにアニメやゲームに漫画、ドラマにバラエティなど色んなサブカルに触れている最中である。
そういうのも生み出せるの、普通にチートだよな。
しかもどういうわけか、オレが見たことない作品すら閲覧可能という。
8時〇ョ! 全員集合が見れんの神過ぎんだろ。普通に泣いたわ。もちろん爆笑もした。
しかもマスタールームの改装に関しては、ほとんど無料だったんだよな。
ダンジョン内の改装についても、モンスターを配置するより低コストだった。
良心的でありがたい限りである。
経営なんざゲームですらほとんどやったことないが、そう悪くないんじゃねえかな。
不幸中の幸いというべきか、ソシャゲとダンジョンの相性は良い。
ソシャゲにおいて運営が最優先に考えることは、『売上を増やす』ことと『コストを抑える』ことの二つだ。
何年もサービスが継続できているソシャゲというのは、長く遊んでもらいながら課金したくなる仕組みの構築に成功している。
プレイヤーレベルやデイリー、スタミナなんてその最たる例だろう。
ユーザーからすれば煩わしいことこの上ない要素だが、コンシューマーゲームのように一気にコンテンツを消費されたら堪ったものじゃないからな。
長時間プレイによる旨味を削りつつ報酬を提示することで、定期的なログインを促す環境を作っているのだ。
その考え方は、維持費に悩まされるダンジョンの運営に適していた。
ダンジョンも長期的な利益を見据えたシステム作りが一番の生存戦略なのだ。
そのために真っ先に行う必要があるのは、プレイヤー――つまり冒険者の保護だ。
「冒険者を死なないようにする、ですか?」
「ああ。
この世界はダンジョンがあるが、ゲームじゃない。
セーブにロードはもちろん、レベルやステータスにスキルなんてゲーム的要素も現状存在しないし、ゲームオーバーになったらそのまま終わりだ。
オレはまず、そこにテコ入れをすべきと思った。
リトライ大事。
「お言葉ですがマスター。ダンジョンにとって冒険者の死体とは極上の糧です。それが回収不可となるのは大きな損失と愚考致しますが」
シロちゃんは心底ワケが分からないと反対の姿勢を取った。
ダンジョンは入場料として冒険者から一割の魔力を徴収するわけだが、その冒険者が死んだ場合は魔力を総取り、死体すらもDPに変換することができる。
その旨さたるや、まさにメタル系スライムの如し。
高位の冒険者になれば、もはやキング並みの
シロちゃんが反対したくなるのも分かる。
せっかくのメタル系をスルーするなんて正気とは思えないもんな。
だが、その説明を聞いた上でオレは左右にかぶりを振った。
「そうやって冒険者を殺してたら、いつか必ず頭打ちになるぞ」
「どういうことでしょうか?」
「これがオレがいた世界のように人類がぽこじゃか沸く環境ならいい。それなら冒険者なんて幾らでもリポップするからな」
言っててちょっと引いた。
もしかしてオレってばダンジョンマスターになったことで倫理観おかしくなってる? 多分こんなこと平然と言うタイプじゃなかったと思うんだけど。
これはアレか。転生者特有の精神が肉体に引っ張られるパターン。
気をしっかり持てまっくろくろすけ。
咳払いをしてから続ける。
「でもこの世界はそうじゃないだろ? シロちゃんみたいに詰み状態にあったダンジョンコアが自棄を起こしたせいで人類の数そのものが減ってんだよ」
軽く調べてみたら、町中にダンジョンを生み出したコアも少なくないという。
切羽詰まった状況だから適正を考える余裕すらなく、闇雲にモンスターを放流。
結果、一夜にして滅んだ村や町が後を絶たないのが今の人類だ。
この世界、割とダクファン寄りである。
「そうなのですか? 寧ろ昨今の冒険者の数は、増加傾向にありますが」
「そこで思考を止めるからダメなんよ」
めっ! とシロちゃんを叱る。
冒険者というのは夢とロマンある職業だが、大多数にとっては職を失った人間が最後に就く仕事なのだ。
そして、その職を失った原因は上記の通り。
これを他でもないダンジョンコア側がカケラも理解してないのが何とも。
彼女たちは人間の機微も、在り方も、関係性が生み出す刺激も、何一つとして理解できないのだ。
というわけでまっくろくろすけ説明中。
「なるほど。冒険者は増加していても人類の絶対数は減少しているということですか」
「イグザクトリー。頭打ちになると言った理由は分かったか?」
「肯定。出過ぎた真似を致しました。申し訳ございませんマスター」
「いいよいいよ。意見交換は大事だしな。良い子良い子してあげよう」
よーしよしよし。
無反応!
「ダンジョンの最適な運営方針は『共生共栄』、『持ちつ持たれつ』だ。奪いすぎてもダメだし、与えすぎてもダメ。この塩梅を保ち続けるのが大事なんだ」
「生きて返す方が将来的な利益率は高いということですか」
「そ。しかも圧倒的にな。死なないダンジョンなんて冒険者からすりゃあボロい商売も同然だ。間違いなく口コミで広がるぞ」
ちなみに痛覚を緩和させる設定も導入予定だ。
死なない上に痛覚まで消せるとなれば、確実に冒険者は押し寄せるに違いない。
もちろん、設定の有無や強弱により報酬量は変化させるが。
難易度が高いほど報酬がウマウマなのは当然だからな。
「分かりました。……いえ、内容を理解出来たとは言えませんが、マスターの方が正しいというのは理解しました」
「そいつは重畳。シロちゃんはこれからよ。そもそも十中八九上手く行くとは思うけど、成功が確約されたわけじゃないからな。一先ずはオレを全面的に信頼しておくれ」
「肯定。改めてマスターに全権を委ねます」
そういうわけでオレたちのダンジョンは死んでもオッケー(死んでない)になった。
さて、リトライを導入した次は、気軽に
ソシャゲにしてもそう。
どんだけクオリティが高かろうと、継続してプレイしたいかどうかは別物だからな。
ロードがやたら長かったり、UIがゴミだったり、デイリーが面倒くさかったりすると現代のドパガキたちは簡単に距離を置いてしまうのだ。ドパガキがよ。
それはダンジョンも同じ――とは言わんが、とにかく冒険者たちが毎日、短時間でもダンジョンに挑みたくなる環境を整えるのは必至。
冒険者を死ななくした以上、入場料こそがオレたちの主な収入源となるわけだからな。運営側がログボを貰っているようなものだ。
システム面はまあ良い。
それこそソシャゲのようにデイリーとスタミナを実装するからな。
オレがどれだけソシャゲの沼にハマり、一方的に搾取されてきたと思っている(憤怒)。
あのときの経験を活かせば、冒険者を沼にハマらせるシステムくらいわけないさ。
なら何が問題かというと、移動時間だ。
ダンジョンというのは基本的に世界中のどこにでもポップするが、当然、人里やその近隣に出現すると、あっという間に駆除される。
良いダンジョンというのは、人間の生存権と程よく離れた場所にあり、美味しいドロップアイテムを吐き出してくれるダンジョンだ。
それ以外はカスというのが人間の認識だと思う。
ちなみに程よくというのは、大体十キロくらいだ。
徒歩や荷馬車だと大体二時間くらい。
まあギリギリ毎日行き来できなくもないかな? というレベル。
そして我らがダンジョンと一番近いとこにある都市との距離は、何と! 何と! 何とっ!!
六・時・間!!
――終わりだ(チョコラテ顔)。
「なので1階層はオフィスエントランス風の宿屋にします」
「???」
都市が遠くにあるのなら、ダンジョン内に人が生活できる空間を作ればいいじゃない。
オレは1階層の改装に着手。
モンスターを撤去。センスのカケラも感じさせない石材だけの無機質な空間をオシャレなオフィスエントランスにした。
元々ダンジョンは5階層までできてるみたいだからな。
だったら1階層を好き勝手に弄っても問題ないやろ。
そんな発想から出来上がったのは、開放感のある吹き抜けとモノトーン調が特徴のエントランスだ。
照明は暖かみのある電球色。しっかりと空調も効いており、天井に吊り下げたシーリングファンが静かに回転している。
こうしたいな、っていう意思を反映してくれるダンジョンのシステムさん、マジ有能。
オレがぼんやり思い浮かべたものも再現してくれるし、気になった部分は手動で手直しすることも来た。
やってることは、ほぼほぼハウジングだ。
宿屋と称した通り、吹き抜けにある二階、三階は客室となっている。
内装はビジネスホテルを参考にした。
冷暖房完備だし、風呂やトイレはセパレート。
ベッドもダブルサイズのポケットコイルマットレスを採用。
スプリングの効いたベッドは、さぞかし快適な睡眠を与えてくれるに違いない。
「ぶっちゃけビジネスホテルでも王侯貴族より遥かに贅沢な暮らしだよな」
この時代に冷暖房はもちろん、ポケットコイルマットレスもあるわけないし。
冷暖房は良いぞぉ。
夏は冷房をガンガンに効かせた上で布団を被り、冬はコタツで丸くなりながらアイスを食うのが最高なんだ。
と、話を客室からエントランスに戻そう。
中央には地下へと続く大きな螺旋階段。
ここを降りれば2階層となり、極楽な空間は反転。
危険なモンスターが跳梁跋扈するテンプレなダンジョンが待ち構えているわけだ。
他にも全面張りのガラスで区切った喫茶店や売店、図書館、更には大浴場など、至れり尽くせりとはまさにこのこと。
もちろん魔力を払えば食事も出ます。
要するに、だ。
1階層はソシャゲで例えるところのホームなのだ。
ソシャゲ式ダンジョンにするならホームは必須だよね。
こんだけの改装をしても、DPにはそこそこの余裕があるから大助かりである。
その分、広さはそこまでだからな。
今後次第では幾らでも拡張できるのも偉い。
ケケケ、これだけの贅沢を仕込んだんだ。
しかも家賃は魔力を払うだけ。
前世で例えるなら、献血をすれば宿泊費が無料になるようなものだ(食事代や風呂代は別途)。
こんな素晴らしい空間、世界中のどこを探してもここだけに違いない。
間違いなく冒険者たちは虜になり、数日間は滞在するだろう。
ダンジョン探索で疲れた身体を大浴場で洗い流し、美味しい飯を食らい、余暇を満喫してからスプリングの効いたベッドでZzz……。
この極楽のコンビネーションアサルトに太刀打ちできる猛者がどれだけいるというのか。
そうなったら、もうオレの勝ち。
人間、一度上げた生活水準を下げるのは難しい。
ここで暮らすという選択肢を選ぶ冒険者も少なくないだろう。
そうなれば、そいつらから恒久的に魔力を徴収し続ける機関が完成するわけだ。
「勝ったぞシロちゃん。この戦い、我々の勝利だ……!!!」
――一週間後。
「冒険者、来ねえ」
快適なダンジョンを作ることばかりに囚われ、すっかり失念していた。
そもそも発見してもらわないと何の意味がないことを。
もしかしてバ――
冒険者ー! 早く来てくれー!
今なら出血大サービスでダンジョンマスターが直々にナビゲートするからーっ!