こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:スネージヤナ最高でしたね(追い課金)
冒険者きちゃー!
うおー! やったー! しかもめちゃんこ可愛い美少女だー!
金髪赤目……つ、強すぎる……!
しかもお前、これっ、平成初期に猛威を振るったインテークヘアじゃねえか!
三次元ではほぼ再現不可能のM字シルエット!
なっっっつ! 生きとったんかワレェ!
その隙間に指突っ込んでいいっすか?
「???」
ダンジョンに入ってきた美少女は、まさに宇宙猫状態だった。
かわよ。でもそれはそう。
ダンジョンに入ったと思ったらしっかりと空調の利いたモノクロのオフィスエントランスに出たんだもん。
しかもこれらの材質やデザインは、中世風なこの世界からするとあまりに異端だ。困惑するのも無理はない。
「あの……ここはダンジョンなのですよね?」
宇宙猫状態から何とか復帰しただろう美少女が問い掛けてくる。
この可憐なボイス……喉にさぞかし有名な声優を飼っているに違いない。
「それに、ダンジョンマスターとは一体……」
ん? ああ、そっか。
ダンジョンマスターってオレが勝手に言ってるだけだもんな。
つまるところ造語なのだ。そりゃ分からんわ。
もしかしたらダンジョンコアの存在すら知らんかもだが。
つかこの子、本当に冒険者か?
かなり上品なデザインの制服だし、荷物をおろか武器すら携帯してないのは明らか。
極めつけは、その淀んだ眼だ。
彼女からは全く以て意思というものを感じられなかった。
人生そのものに疲れた社畜のようなオーラだ。
社畜力12000……20000……ま、まだ上がっている……!
21000……22000……(ボンッ)ひ、ひいい……。
「そ、それより、長旅も疲れただろ? まずは大浴場に入って疲れを取ったらどうだ?」
「??? ダンジョンに、大浴場……?」
またもや宇宙猫になる少女。
「オレがプロデュースしたからな。そんじょそこらの没個性ダンジョンとは訳が違うのよ!」
オレは少女の背を押して大浴場まで連れて行った。
あ、でもシャワーの使い方とか分からんよな。何ならシャンプーボトルの使い方すら分からんかもしれん。
どうしよっかな。
シロちゃんに頼むという選択肢は無しだ。
オレはダンジョンコアであるシロちゃんが生きている限り、死んでもリスポーンするが、シロちゃんはそうはいかない。
そしてシロちゃんが死ねば、オレも諸共だ。
だというのに初対面の相手にシロちゃんを合わせるのは、幾ら何でもリスクが高すぎる。
って普通に使い方をレクチャーすればいいだけじゃんね。
危うく『ソシャゲの主人公が気軽に性別を切り替えられるんだから運営もできて然るべきだよね』理論で女体化。一緒に入りながら教えるという択が脳裏を過ぎったけど、何とか踏み止まれた。
ラッキースケベは極めて惜しいが、明らかに訳ありみたいな感じだったもんなぁ。
流石にそこは自重することにした。
というわけでオレは大浴場の使い方を教えてから来た道を引き返す。
エントランス――つか、ソシャゲ式ダンジョンなんだからホームって呼んだ方が良いか。
ホームに設えた喫茶店で漫画を取り出し、時間を潰すことにした。
ウィンドウを展開。
漫画一覧を開いてから、五十音順にずらりと並ぶ項目をスクロールし、何を読もうか吟味する。
あれ? この漫画。
オレが死んだときはまだ15巻までしか出てなかったのに、新刊更新されてんじゃん。
ホントどういう理論なんだ、これ。
地球と意識がリンクしているとか、そういう系なのかしら。
ん? あ、ということは……。
おお、予想通りだ。他の連載中だった漫画も幾つかが新刊が更新されておられる。
じゃ、じゃあもしかして、あのハンターな漫画も……!
「……………(スン)」
知ってた。
大ピを踏みしめて~♪
大ピを踏みしめて~♪
大ピを踏みしめて~踏~み~し~め~て~♪
「あの…………」
頭上から声が掛かる。
顔を上げると、大浴場から上がった少女が所在なさげに佇んでいた。
「悪い。全然気付かなかった」
オレは読んでいた漫画を閉じて対応する。
「いえ、こちらこそ、つい長風呂を頂いてしまいましたから」
時計を見ると、一時間以上が経っていた。
女子は長風呂と聞くが、よくそんな長時間も入れるよな。
ソシャゲにどっぷり浸かったドパガキにはキツいっス。
やや恥ずかしそうに答えた少女の血色は、大分良くなっていた。
ふわりとシャンプーの香りが鼻孔を擽る。
しっとり艶やかな金髪とほのかに上記した頬。髪を後ろでまとめたことにより曝け出されたうなじのコンボはとてつもない色香を漂わせていた。
「いいよ、そんくらい。お気に召したようで何よりだ」
「はい。とても、とても素晴らしかったです。摘みを捻るだけでお湯が出たり、水温を調節できることにも驚きましたが、それ以上にあの三つの洗髪剤です。シャンプー、トリートメント、コンディショナーでしたか? まさかこんなにも髪が滑らかになるだなんて」
うっとりしたように、少女は自身の艶やかな金髪を撫でる。
やはり異世界でも女性は『美』に情熱を燃やす生き物のようだ。
まだ瞳の奥に昏い淀みは残っているが、先ほどに比べればかなりマシになった。
それでも空元気といった感じだが。
「お前の素が良いからじゃないか? それより長話は座ってからにしようぜ」
オレは彼女に対面に座るように促した。
一瞬間を置いた少女だったが「……失礼します」とお行儀よく着席する。
「まずは自己紹介……の前に、喉乾いたろ? どれがいい?」
オレはテーブルに三つの瓶を置いた。
ダンジョン内において、オレはかなりの無法だ。
こんなふうに物を創造するなんてわけないのである。
「これは?」
「右から牛乳。コーヒー牛乳。フルーツ牛乳だ」
風呂上りの御三家とはこいつらのことよ。
「……それでは、このフルーツ牛乳を」
「あいよ」
フルーツ牛乳を差し出し、オレも自分用にコーヒー牛乳の蓋を開けた。
うまうま。やっぱコーヒーは牛乳とセットに限るね。ブラックコーヒーとか訳が分からん。
「……美味しい」
ほう、と心地良さそうな吐息を漏らす少女。
限界社畜OLみたいな雰囲気だ。まだ二十代にもなってなかろうに(ほろり)
「そんじゃあ改めて。オレはクロだ。このダンジョンのマスターをやっている」
オレが名乗ると、少女は僅かに首を傾けた。
やっぱりダンジョン側に意思疎通可能な生命体がいることを知らなかったんだろう。
が、まずは自己紹介が先決と判断したようだ。
「フィアレス王国にて公爵位を賜るエーデルワイス家の娘、リンスレット・フォン・エーデルワイスにございま――……した。この度は私に寛大なお心遣いを下さったこと、心より御礼申し上げます」
音もなく立ち上がった少女――リンスレットはカーテシーと共に恭しく頭を下げる。
ほわぁ、まさかの公爵令嬢と来ちゃった…………ん?
「ございました?」
「……はい。おそらく私は家名を汚した者として一族から除籍されたことでしょう。もはや私は公爵家の人間ではありません」
着席したリンスレットは顔を伏せ、悄然と答える。
……いきなり胃もたれのする右ストレートが来たんだが。
「あー、そりゃ災難だったな。何かやらかしたのか?」
ふるふるとリンスレットはかぶりを振った。
「分かりません。数日前の卒業パーティーに、王太子から身に覚えのない罪を着せられ、追放されてしまったんです」
なんだそのネットの海で死ぬほど見てきたような展開。
「もしかしなくともリンスレットは、その王太子とやらの婚約者だったり?」
「どうして分かったんですか?」
「マジで悪役令嬢物かよ」
「悪役、令嬢……?」
オレの独り言を拾い上げたリンスレットが呆然と呟いた。
やっべ。これ勘違いしてね? ジャンルを知らん人間からすりゃあ普通に悪意と受け取るもんな。
「悪い。そういうジャンルがあるってだけで、お前のことを悪役と言ったわけじゃないんだ」
「……そんなジャンル、聞いたことありませんが」
そりゃ流行ってる場所が次元レベルで違うからね。
「百聞は一見に如かずってな」
オレは悪役令嬢物の漫画を取り出そうとしたが、一旦取りやめにした。
この世界には漫画なんてないだろうからな。
だったらラノベの方が良さそうだ。
とりあえず前世の記憶持ち系は除外してっと……。
「ほい」
見繕った一冊の小説を差し出す。
「あの、先ほどの飲み物といい、どこから取り出したのでしょうか?」
「どっからって言われても……どこからともなくとしか」
だって念じたら出てくるんだもん。
「まあ、んなこた良いんだよ。それより、騙されたと思って読んでみな」
「……分かりました。拝見させて頂きます」
「おう」
腑に落ちない様子ながらもリンスレットは小説を受け取った。
オレも続きを読むとしますか。
それから数十分後。
本に視線を落としたまま、リンスレットは独り言を零した。
「……これ、私のことだわ」
不謹慎だけど、ちょっと吹きそうになった。