こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:スネージヤナ最高でしたね(追い課金)
それからおよそ二時間くらい経って。
「ふぅ……」
小説を読み終えたリンスレットは、余韻に浸るかのように目を閉じた。
彼女の余韻が冷めるのを待ってから声を掛ける。
「おつかれ。どうだった?」
「……とても親近感のある物語でした。私と同じように身に覚えのない罪で悪役に仕立てられた少女が自分の力で未来を切り開く……とても素晴らしい物語です」
「だろ。オレも結構好きなんだよな。バカが破滅するところとか特に」
「……胸がすいてないと言えば嘘になりますが」
リンスレットは言い淀みながらも否定しなかった。
そこに若干の後ろめたさがあるのは、自分の元婚約者と重ねているからだろう。
聞く限り、別に好きというわけじゃなかったらしいが、律儀なものである。
「ま、簡単に割り切れたら苦労しねえか」
おどけたように言うと、リンスレットも苦笑する。
「そうですね。この物語の主人公は早々に気持ちを切り替えていますが、そんな簡単に捨てられるものではありません。例え捨てたつもりになったとしても、心には残るんですから」
それはそう。
人との繋がりなんて簡単に切れるもんじゃないわな。
それが嫌悪の対象であったとしても。
悪役令嬢物の主人公は鋼メンタルが過ぎるのだ。
「しかし少しだけ前向きな気分になれたのも事実です。こういう生き方もあるのだと。クロ様、ありがとうございました」
恭しく頭を下げるリンスレット。
が、何か気になることがあったのか、おずおずと続ける。
「ですがその……お尋ねしたいことがあるのですが」
質問の意図を読み取ったオレは、ニヤリと笑った。
「続きだろ? そういう締め方だったからな」
「では……!」
リンスレットの目に好奇が宿る。
どうやら読み物としては合格点を叩き出したようだ。さすがアニメ化まで漕ぎ着けただけはある。
「もちろんある。これ、五巻で完結の長編作品だからな」
「五巻も」
微かに喜色を滲ませるリンスレット。
分かる分かる。自分の趣味趣向と合致した作品が既に何巻も続いてたらテンション上がるよね。
「――が、残念ながら今続きを見せるのは無理なんだ」
「そう、なんですね」
「悪いね。オレとしても布教活動に勤しむのも悪くないんだが、こいつは大事な商売の種なんだ」
「クロ様は商人だったんですか?」
「……お前さん、ここがどこか忘れてとらんか?」
「え? ……あ」
ジト目を受けてハッとなるリンスレットだったが、彼女はオレと同じようにジト目を返してきた。ダニィ!?
「ここをダンジョンと認識するのは無理がありませんか?」
「オレの負けだ。殺せよ」
「こ、殺しませんよ!? 私を何だと思っているんですか」
リンスレットは遺憾の意を示した。
ネタが通じないのも異世界の辛いところよな。
「しかし、未だ俄かに信じ難いです。ここが本当にダンジョンなどと」
釈然としない様子でリンスレットは辺りを見渡す。
「そこに地下の2階層へと続く螺旋階段があるじゃろ?」
オレはホームの中央にある地下へと続く大きな螺旋階段へと顎をしゃくった。
「それに内部こそご覧の通りだが、外は特に手を加えてないはずだぜ。真っ白な大樹だったろ?」
「それは、そうなんですが……」
イマイチ釈然としない様子のリンスレット。
「そう言えばクロ様は出会い頭に自分のことをダンジョンマスターと言ってましたね。……クロ様は人間、なんですか?」
「んー? 半分?」
オレは市松模様のアイスボックスクッキーを創り出し、口に放り込みながら答えた。
「半分」
促せばリンスレットもおずおずと手を伸ばす。
美味しい、とリンスレットの目がもう一段階輝きを取り戻した。
「そ、半分。異世界召喚って聞いたことないか?」
「あくまで概要程度ですが」
「充分だ。オレも異世界の人間だったんだけど、そこで死んじまってな。魂だけになったところをこのダンジョンのコアに召喚されたんだよ」
オレはバカ正直に語る。
異世界召喚って概念はこの世界にもあるんだ。一々隠す必要もないだろ。
こういうのは隠すから後々面倒くさいことになるんだ。
「ダンジョンコアに……? ダンジョンには意思があるんですか?」
目を丸くして驚くリンスレット。
「あー、やっぱ人類側には伝わってない感じか」
コクコクと首肯が返ってくる。
「確かにダンジョンを専門とする研究者はいますが、そんな話、聞いたことありません」
「まあ普通ダンジョンと意思疎通を図ろうとは思わんわな」
建物や地形に話し掛けるようなもんだからな。
というわけでダンジョンについて色々話してやることにした。
まあダンジョンコアの破れかぶれな行動が人類に大打撃を与えてる事実は伏せることにしたが。
流石にこの情報ばっかりはアウト。墓場まで持っていくだろう。
敵対されたら堪ったもんじゃないからな。
「……とんでもないことを聞いてしまいました」
悩ましいと言わんばかりにリンスレットは額に手を当てた。
「どうする? 今から国に帰って報告でもするか?」
提案しといてだが、普通に困るから止めてほしい。
……いや、寧ろ人を呼び寄せる切っ掛けになるから有りか?
「……できる事ならそうしたいのですが」
リンスレットは力なくかぶりを振った。
今のリンスレットは追放刑などという、なんかヤバそうな罪状を着せられてるっぽいからな。
ダンジョンの真実を話そうとしても、その前にひっ捕らえられて裁かれる可能性があるわけだ。
――にしても、
「随分と優しいんだな」
自分を追放した国に掛ける情けなど無いと思うが。
「そうでしょうか? 確かに私はフィアレスを追放されましたが、それを行ったのは王太子です。王太子や周りにいた方々に思うところはあれど、それ以外の方にまで矛先を向けるのは違うでしょう」
「そか? ……そうかも」
いや無理。
冤罪とか普通に全人類滅べやクソがと呪詛吐く自信あるわ。
自分が不幸の渦中にあるのに他人を慮れるのは充分な美徳だろ。
「なあリンスレット。お前はこれからどうするつもりだ?」
「……分かりません」
リンスレットはかぶりを振る。
「じゃあ、どうしたい?」
「……それも分かりません」
リンスレットはかぶりを振り、俯いた。
精神的に追い詰められている彼女には、『次』を考える余裕がないんだろう。
自分から何かをしようと思っても、胸の中にある虚無感が邪魔をするわけか……。
「それなら、お前さえ良ければこのダンジョンに定住して冒険者をやらないか?」
――ホームにある螺旋階段を降りると、そこは草原だった。
というわけで我がモノクロダンジョンの2階層である。
名前は『始まりの庭』。
2階層だけじゃ味わいが無いからな。
ちなみに面倒臭くなると普通に辞めます。
何となく始めてみたは良いものの段々管理するのがかったるくなる――あると思います。
「あの……ここは本当にダンジョンなんですよね?」
隣を歩くリンスレットがおずおずと問い掛けてくる。
その手には、オレが用意した細剣【☆ 初心者の細剣】が握られていた。
「どうした? お前もちゃんと階段は降りただろ?」
「だからおかしいんです……。どうして階段を降りたら草原があるんですか……!?」
「そりゃあダンジョンだからな」
草原があっても雪山があっても火山があってもおかしくあるまい。
何せダンジョンだからな。
「私の知っているダンジョンと違いすぎます」
この世界のダンジョンって、洞窟とか無機質な空間ばっかだもんな。
もう少しダンジョンコアくんたちには、ダンジョン物を読み込んでレパートリーを増やした方がいいと思う。
「まあ良いじゃねえか。薄暗い洞窟ばっかだと気が滅入るだろ?」
「それはそうですが……」
ジト目を向けてくるリンスレットを尻目に、オレはモンスターをポップさせた。
前方に黒い渦が出現し、瞬く間にモンスター――ゴブリンへと姿を変える。
「――――」
すぐにリンスレットは戦闘態勢に入った。
オレより一歩前に出て、細剣を構える。
その姿は堂に入っており、一朝一夕で身に付けたものではないのは明らかだ。
「はぁっ!」
凛々しい掛け声と共に細剣が躍る。
虚空を迸る鋭い刺突は、正確無比にゴブリンの急所を貫いた。
一撃必殺。棍棒を振り下ろす暇もなく絶命するゴブリン。
あまりにも呆気ない幕切れである。
死体が灰のように崩れ、霧散する。
血肉も骨も残さない。
代わりに残されたのは、一冊の小説だ。
「これは……!」
リンスレットの目の色が変わる。
それもそのはず。
ゴブリンからドロップしたのは、リンスレットが所望した小説の次巻だったからだ。
「……なるほど。このダンジョンのドロップ品は、異世界の本ということですか」
正解を尋ねるかのようにこちらへと振り返るリンスレットに対し、
「こわぁ」
オレは普通にドン引きしていた。
「何でですか!?」
これには流石に声を荒げてしまうリンスレットさん。
や、だってさぁ。
確かにオレは嗾けた側だよ。
それなりに覚悟もしてるつもりだった。
でも、いざ苛烈な暴力を目の当たりにすると元パンピーとしては、尻込みするのも致し方ないことでして。
まさかこんな儚げかつ淑女然とした美少女から、あんな殺意マシマシの刺突が繰り出されるとは思わなんだ。
どうやらオレの覚悟は、覚悟(笑)あるいはKAKUGOだったようだ。
「まあお前の予想通りだよ。このモノクロダンジョンのドロップ品はオレがいた世界のモンを設定にするつもりだ。もちろん低確率だけど」
「……つまり新しい本を読みたければモンスターを倒せということですか」
「厳密にはダンジョンを攻略しろ、だな」
「何か違うんですか?」
「ちょっとな。オレとしちゃあ階層ごとに巻数を設定するつもりなんだよ。2階層は二巻。3階層からは三巻みたいな感じでな」
もちろん完全に階層と巻数を合わせるつもりはない。
じゃないと長期連載の作品は、とんでもない階層にまで膨れ上がるからな。
巻数の多い作品は階層ごとに二~三巻を同時に放出することもあれば、巻数の少ない作品は幾つかの階層を跨ぐことになるだろう。
例えば先ほどゴブリンがドロップした小説。
あれはリンスレットに述べた通り、五巻で完結する作品だ。
今回は特例だったが、本来なら三階層間隔――つまり4階層辺りで二巻をドロップさせるつもりだったのだ。
「なるほど。だからダンジョンを攻略しろというわけですか」
「そ。続きを読みたきゃ階層を更新するしかないからな」
「ちなみにクロ様、この本の三巻は何階層に設定するつもりですか?」
「7階層辺りだな」
「……確かこのダンジョンの最下層は5階層でしたよね?」
不服そうなリンスレットにオレは不敵な笑みを返した。
「だからもっともっとダンジョンを成長させないとな。お前の働きにも期待してるぜ、部下一号」
「……まだ正式に決めたわけではありません」
軽い調子で返すと、リンスレットはそっぽを向いた。
いきなりダンジョンで働かないかと言われても素直に頷けんわな。
だからこうやってお試しプレイをしているんだし。
「で、身体の調子はどうだ?」
「酷く重いというのが正直な感想です。クロ様、本当にこれで以前より強くなれるんですか?」
「なる。百パーなる」
論より証拠ってな。
オレは再びエネミー役のモンスターを召喚した。
今度はゴブリンとコボルトを一体ずつだ。
あの瞬殺劇を見る限り大丈夫だと思ったが、案の定、リンスレットは如才なくモンスターを駆逐した。
そして――
テーテレテテン テッテー♪
レベルが上がったようなSEがどこからともなく響き渡った。
「クロ様、今の音は?」
「レベルが上がった音だ」
「レベル……?」
小首を傾げるリンスレットの眼前に半透明のウィンドウが出現した。
「ひゃっ。……これは、クロ様の」
「オレのとはまた違うけどな。レベルが上がったことでお前にも似たようなのが使えるようになったんだ」
オレのは運営側の、割と何でもありの機能が搭載されたウィンドウだが、リンスレットの眼前にあるのは、パソコンやスマホのホーム画面だ。
これの説明をする前に、この世界のダンジョンの仕組みを理解する必要がある。少し長くなるぞ。
この世界のダンジョンに冒険者が挑むメリット。
それはドロップ品に加え、倒したモンスターが保有する魔力の一部を力の糧にする――つまりモンスターを倒した分だけ強くなるという性質も兼ね備えているからだ。
だからより多くのモンスターと戦い、より深い階層に潜った冒険者というのは、規格外の戦闘力を保有している。
上澄みにもなれば『目にも止まらぬ』というのが標準装備されている化け物たちだ。
だが、それでもオレはこう言おう。
――や、普通に無駄が多すぎっス。
あ、もちろん戦闘技術に関してじゃないよ。
そっちに関してはオレはド素人だもん。
武道を嗜んでるわけでもなければ、喧嘩をしたことだって小学生の頃が精々だ。グーを握るとき、親指を握り込んじゃダメって最近知ったレベル。
オレが無駄と言ったのは、養分となった魔力の強化内容だ。
これが本当に無駄が多い。
何せ、ダンジョンは冒険者の都合などお構いなし。
冒険者が体験・経験したことをランダムに強化するというクソ仕様なのだ。
これがRPGによくある『力』とか『守備』とか『速さ』といったステータスをランダムに上げるだけなら、まだ救いはあった。
だが、この世界のダンジョンはどこまでも残酷というか、人の心がなかった。
上記のステータスをすっ飛ばして歌が上手くなったり、はたまた味覚が敏感になったりと『それ必要あるん?』と言いたくなるような強化内容が盛りだくさんなのだ。
冒険者が体験・経験したことというのは、そういうことである。
戦闘に一切関わりのない要素を強化することもあるのだ。
あれかな? 生産職の人間にも配慮しましたというダンジョン側の気遣いかな?
くっそ余計なお世話なんよ。
そんなだから同じだけモンスターを倒し、同じ階層を潜った冒険者であっても強さがピンキリなんだよな。
この法則を冒険者が知ったら暴動待ったなしである。
友人が『剣の扱いが上手くなる』に対し、自分は『踊りのキレが増す』とか、普通にダンジョンを訴えても良いと思うの。
ちな実話な模様。お労しやすぎんだろ。
だからオレはそこにテコ入れをすることにした。
モンスターから得られる魔力に指向性を与え、ゲーム的要素を導入したのだ。
レベルやステータスといった身体能力の可視化。
上記のような悲劇を避けるため成長率やスキル、戦技、魔法の習得に関与する職業の導入。
育成要素やアイテムボックス、フレンドとのチャット機能はその他諸々の追加。
分かりやすく言うなら、VRMMO物のシステムを採用したような感じだ。
これにより人類は魔法を始めとする異能を習得可能になった。
この世界、魔法すら無かったからな。
地味に――いや、普通にくっそ驚いた。
エルフがいるのに剣と鎧の無骨なファンタジー世界とかマ???
魔法の使えないエルフなんて、ただ美形で耳が長くて長生きするだけの生き物じゃねーか。
いや充分すぎるわ。エルフの森……やはり燃やすべきか。
という冗談はともかく。
これにより冒険者たちは、バリエーションに富んだ強さを身に付けることが可能になった。
剣と鎧の無骨な世界にサヨナラバイバイ。
どんなふうに自分を育成するのか考えるのが、いっっっちゃん楽しいんだから。
そういうわけで育成要素に関しては、ソシャゲよりもRPGやMMOを参考にすることにした。
やっぱレベルってのは、モンスターを倒して経験値を獲得したいからね。
SE付きでレベルが上がるのが最高なのだ。
スキルとか職業もそう。
やっぱスキルツリーとかで特色を出すのが楽しいのだ。
オレが作るのはソシャゲ式ダンジョンだが、ソシャゲだけに囚われるつもりはない。
これはどうなん? って思ってた要素は削除するし、コンシューマーゲームのアイディアだって採用する。
育成の楽しさはMMOこそが最強だからな。
だからリンスレットが溜め込んだ魔力は全部DPとしてオレが回収、冒険者として一から始めてもらうことにした。
リンスレットが『酷く身体が重い』と言ったのは、これが理由だ。
案の定というべきか、リセット前のリンスレットの育成リソースも無駄の多い配分だったからな。
当然、最初は弱体化することに難色を示したが、ここはもうごり押しだ。
将来的にどちらが強くなるかなんて考えるまでもないからな。
――が、あくまで根幹にあるのはソシャゲ。
ダンジョンはソシャゲと同じく、長時間よりも長期的かつ継続的にプレイできる環境作りが大切だからな。
デイリー然り。スタミナ然り。
可能なら生活の一部となるくらいにまで浸透させたいところである。
そして忘れちゃならないのがおガチャ様。
間違いなくこいつが一番の収入源になるからな。
クックック。
どんなアイテムや武器をガチャに組み込むか、今からでもワクワクが止まらんぜ。
キャラガチャがないのが辛いところよな。
ソシャゲ式ならば当然メインストーリー的なにかも必要。
というわけで地球さんの小説や漫画等をドロップアイテムに指定
『ダンジョンを攻略して異世界の代物を手に入れろ!』みたいな感じでしょうか。
期間限定イベントも設けないと……!
18階層では多分えっちな本がドロップします。
異世界人たちはついていけるだろうか
日本人クリエイターが生み出すドスケベのスピードに
きっとモンスターはヌメヌメの触手さんにオファーが掛かることでしょう。なお主人公は