こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:スネージヤナ最高でしたね(追い課金)
――翌日。
リンスレットの意識は、深い闇の中からゆっくりと浮上した。
心地良い微睡みに浸っていた彼女だったが、その表情は一変。
「いけない!」
リンスレットは跳ねるように起き上がった。
身体が羽のように軽い。
が、それこそが問題だったのだ。
(い、一体何時間寝てしまったの? 間違いなく遅刻だわ!)
王太子の婚約者であるリンスレットには淑女教育に加え、政務もある。
そんな彼女に満足な睡眠を取れるような時間など無いのだ。
何たる失態と臍を噛み、それでも身支度を整えようとする。
「早く――……あら?」
慌てて中腰になったところで、ふと違和感に気付いた。
部屋が自室と全く違っていたからだ。
しばしの間、呆然となるリンスレットだったが、
(あ、私、もう王太子の婚約者じゃなくなったんだわ)
一気に全身から力が抜け、ぺたんとベッドに座り込む。
そうだ。自分は学園の卒業パーティーにて婚約破棄と追放刑を言い渡され。
ラビリンス大森林を彷徨っていると、ダンジョンを発見。
そこを死地と決めて侵入したら、自らをダンジョンマスターと名乗る青年と出会った。
そんな青年に色々な未知を見せ付けられたのがつい昨日のことだ。
そんなリンスレットに与えられたのがこの部屋である。
「はあぁぁ……良かった」
事の経緯を遡ったリンスレットは、心の底から安堵の息を零した。
何ともなしにベッドに指先を押し込み、スプリングの弾力を堪能する。
こんなにも気持ちの良いベッドで寝たのは初めてだ。
部屋の広さこそ自室の半分にも満たないが、それ以外は遥かに優れていた。
リモコンというものを操作すれば、自動でカーテンが開いた。
ダンジョン内だというのに朝日が差し込んでくる。
別のボタンを押せば部屋の温度が変わったり、照明を付けたり、お風呂にお湯を貯めることも可能なのだとか。
冷蔵庫と呼ばれる大きな箱を開ければ、キンキンに冷えた飲み物。
(王族だってこれほど凄い部屋には住んでいないでしょうね……)
何だかおかしなことになったと儚げに微笑む。
美味しいものを食べ、ゆっくりと大浴場に浸かり、フカフカのベッドでぐっすりと睡眠を取れば、流石に多少なりともリフレッシュにはなったようだ。
前向きになったとは口が裂けても言えないが、ほんの少しだけ視野が広がったのは確かである。
そのとき、ピロン♪ という音が鳴った。
「えっと……確か」
リンスレットは頭の中にウィンドウが開くイメージをする。
すると眼前に想像した通りのものが出現した。
半透明のウィンドウには『アイテム』や『装備』、『スキル』、『ステータス』、『メール』等を始めとした無数の項目が並んでいる。
リンスレットは右往左往させていた指を『メール』の項目で止めた。
手紙のマークをした項目には、新着を知らせるエクスクラメーション・マークが付いており、おっかなびっくりにタップする。
メール画面へと切り替わると、そこには一通のメール。
ピンと伸ばした人差し指でタップすると、メールが開いた。
――――――――――
差出人 クロ
おはよう。
ダンジョンで迎える初めての朝はどうだ?
快眠だったなら幸いだ。
至れり尽くせりな部屋を提供したと自負してるから存分に堪能してくれ。
仕事に関しては自分のペースで頑張ってくれればいい――と思ったが、その場合だと働き詰めになりそうだな。
とりあえず仕事は午後からでいい。
デイリーとスタミナの消費をしたら好きなタイミングで切り上げていいから。
午前中は二度寝したり、読書したりと存分に余暇を満喫してくれ。
お前は息抜きを覚えるべきだよ。
特に二度寝。
二度寝は良いぞ。
『今頃、愚民どもは学業や労働に勤しんでるんだろうな~』と思いながらの二度寝は格別だ。神になった気分になるから是非とも試してくれ。返信不要。優雅を祈る。
――――――――――
「そこは健闘を祈るところでは」
と言いながら、ユニークな文面にくすりと笑う。
根を詰めすぎてるリンスレットのために、敢えてこんな言い回しをしたんだろう。
こちらを気遣う文面に心が温かくなるのを感じた。
結局あの後、リンスレットはクロの勧誘を受けることにした。
それは募集要項や待遇に惹かれたわけじゃない。
他にすることが無かったからという消極的な理由だ。
だが、その判断は正しかったようだ。
(そういえば、異性の方にここまで労われたのは初めてね)
元婚約者たる王太子は労いどころか、こちらを見向きもしなかった。
アドルフは下心しかないから除外だ。
クロもこちらの顔や身体を見ながら『うむ』と頷くことはあったので、下心が皆無というわけではないのだろう。
が、それ以上に気遣いがこもっていたのは明白だ。
「あ、返信――は、不要なのよね」
返信不要という文字を思い出し、動かしかけた手を止める。
(それにしても、何て便利な機能なのかしら。一瞬で手紙のやり取りができるだなんて)
執政にも携わっていた彼女には、この情報伝達速度がどれほどの国益になるか容易に想像可能だった。
しかし、もう終わったことだとかぶりを振るい、思考を打ち切る。
「二度寝……」
もちろん、リンスレットには未経験の概念だ。
毎日が繁忙期だった彼女に、惰眠を貪るような余暇など存在しなかったのだから。
誘われるようにリンスレットはベッドに横たわった。
全身を優しく受け止める包容力に、あっという間に眠気が押し寄せてくる。
急かすものは何もなく、微睡みの中を揺蕩う多幸感が堪らない。
(あ、これクセになるかも……)
心地良い睡魔に身を預けながら、この瞬間も王太子たちは新しい環境に四苦八苦している姿を想像すると、確かに胸がすく思いだった。
それから一時間後。
かつてないほどの快眠を堪能したリンスレットは、喫茶店で遅めの朝食を取り、紅茶をお供に図書館で異世界の本を読み漁った。
自然と悪役令嬢物に手が伸びたのは、やはり親近感を覚えるからか。
彼女たちのように心機一転とはいかないのだが。
ちなみに図書館に置いてあるのは、どれも一巻までだ。
続きを読みたければダンジョンに潜ってドロップしろということだろう。
ちなみにワー〇ドトリガーという作品だけは、なぜか9巻まで読めるらしい(なお続巻未定)。
朝食が遅かったこともあり、昼食は軽く済ませた。
そして、ようやくダンジョンに向かう時間となる。
クロと出会うことは無かった。
彼は基本的にマスタールームという専用の部屋で仕事や生活をしているらしい。
少しの寂しさを覚えるリンスレットだったが、そんな自身に自嘲する。
人間関係に疲れ果てたはずなのに、それでも人の温もりを求めてしまうことに浅ましさを感じてしまった。
そんな胸中を振り払うようにダンジョンへ向かう。
ホームの中心にある大きな螺旋階段。
地下へと続くソレを降りれば、2階層となる草原地帯が待ち構えていた。
晴れ晴れとした青い空。
行けども行けども広がる草原の彼方には、霞み掛かった山々がある。
彼方から吹き抜ける涼風は心地良く、リンスレットの艶やかな金髪が舞う。
「これが作り物、なのよね」
本物と何一つ変わらない空気感に、つい疑いの視線を向けてしまう。
リンスレットの知っているダンジョンとは、閉塞感のある薄暗い洞窟なのだから当然だ。
クロ曰く、遠くに見える景色は、進入禁止エリアの張りぼてらしい。
一定方向に進み続けると、やがて見えない壁にぶつかり、それ以上は進めないようになっているのだ。
オープンワールドに良くあるアレと言ってたが、もちろんリンスレットにそんな異世界言語はさっぱりだ。
しばらく辺りを散策しながら次の階層に繋がる階段を探していると、前方に三つの黒い渦。
瞬時にリンスレットは右手を翳す。
すると翳した手を中心に光の粒子が弾け、次の瞬間には彼女の手中には細剣が納まっていた。
仄かに舞う光の粒子を払うように細剣を翻し、攻撃態勢を取る。
クロからの提案を受け、リンスレットは他のダンジョンで蓄積した魔力の全てを献上した。
おかげで身体能力は弱体化。
普通の人間と大差ないスペックまで落ち込んだが、培った技術と経験は消えない。
それは一対三という数の不利に立たされても変わらず、リンスレットは難なくモンスターを駆逐した。
死体が灰のように崩れ、霧散。
その中から現れたのは、モンスターの素材だけだった。
「……そういえば本がドロップするのは低確率だったわね」
モンスターの素材はリンスレットが近づくと、自動的に光の粒子となり、吸い込まれるように消失した。
見慣れた素材。
既に供給過多であり、低価格で取引されている代物だが……。
テーテレテテン テッテー♪
どこかコミカルな電子音が流れる。
それはレベルアップしたときに流れる音楽だった。
自動的にウィンドウが立ち上がり、リンスレットに自身の情報が更新されたことを開示する。
――――――――――
名前 :リンスレット・フォン・エーデルワイス
職業:細剣士
Lv. :3→4
HP :31→35
MP :21→22
力 :10→11
知力:10
技量:18→20
速さ:20→22
幸運:0
守備:5
スキルポイントを3獲得
戦技〝デルタトラスト〟を習得した
――――――――――
ほんの少し。
雀の涙に等しいレベルだが、身体に活力が宿った。
しかし、リンスレットの視線が捉えるのは、たった一つの項目だ。
「幸運0……」
分かる。分かるのだ。
確かに自分は幸運とは縁遠いのだろう。
公爵令嬢に生まれながら何をと思うかもしれないが、王太子の婚約者となった日からリンスレットには感情を発露する権利すら剥奪されていたのだ。
(でも、だからといって0はあんまりでは……?)
自分の人生を数字として見せつけられた気分となり、リンスレットは何とも言えない気持ちとなった。
メランコリックから復帰したリンスレットは、戦技とスキルポイントに着目した。
クロ曰く、使いこなせば戦術パターンは飛躍的に向上するらしい。
戦技とは、職業とレベルに応じて習得できる特別な技だ。
使うという意思さえあれば発動可能。
半自動的に身体が攻撃動作を行うようになり、その速度や威力は普通に武器を振るったときよりも高いという。
しかも物によっては斬撃を飛ばしたり、人間では明らかに不可能な――物理法則に喧嘩を売るが如くスタイリッシュな動きも可能なのだとか。
そう説明を受けたは良いものの、
(良く分からなかったわね……)
残念ながら異世界人たるリンスレットにはあまり伝わらなかった。
なのでリンスレットは試運転に移ることにした。
戦技が発動するトリガーは、使うという意思。
「――――!」
〝デルタトラスト〟。
その瞬間、リンスレットは身体の主導権を失った。
棒立ちの状態から刺突の構えに移行したかと思えば、力強く踏み込んだ。
二歩目はない。
矢の如く飛び出した身体は、地面を滑るように疾走しながら素早い刺突を繰り出した。
そこから瞬時に後ろへ跳躍しながらの切り上げへと派生。
第三者視点から見ると、リンスレットの動きは鋭角的であり、三角形を描くように見えたことだろう。
奇襲と後退を併せ持つような動きだった。
「っとと」
キレイに着地したところで身体の主導権が戻ってきたリンスレットはたたらを踏んだ。
数十メートルを走ったような軽い疲労感。
どうやら戦技は、無茶な軌道を可能とする代償に、より多くの体力が消費するようだ。
「これが戦技……」
だが、それを差し引いても遥かにメリットの方が上回る。
先ほどの鋭角的な動きは完全に物理法則を超えていた。
だというのに身体には少しの疲労感。
無茶な動きをしたことによる筋や関節への反動は一切なかった。
それは何度か試し打ちをしても同様。
最初は半ば引っ張られる形だったが、そこに自分の動きを合わせると、もっと鋭い攻撃を繰り出すことも可能ということが分かった。
次はスキルだ。
戦技が武器種とレベルに応じて習得していくシステムなら、スキルはレベルが上がると同時に獲得できるスキルポイントを振って特殊能力を習得するシステムだ。
ウィンドウを開き、ホーム画面に並ぶ『スキル』をタップする。
すると何十何百という膨大なスキルの項目へと切り替わった。
スキル項目は蜘蛛の巣状に展開されており、攻撃系や防御系、回避系、知力系、回復系、強化系、妨害系、付与系、変化系、探知系、移動系etc……と、系統ごとに膨大なツリーが伸びている。
今までスキルには未着手だったため、全てのスキルが未取得状態の灰色となっていた。
スキルは中心から外に向かって順番に習得するようになっており、中には条件を満たさなければ習得不可能な代物もある。
スキルポイントさえあれば何でも習得可能というわけではなさそうだ。
「この中から必要なスキルを選定するのよね」
悩ましい、とリンスレットは柳眉を寄せる。
リンスレットが持っているスキルポイントは12。
現在習得可能なスキルたちは3ポイントのため、最大で四つのスキルが習得可能だ。
しかしスキルは外に向かえば向かうほど必要なスキルポイントが増加しており、最後の方は当たり前のように三桁のポイントを要求してくる。
しかも項目の半数は『力+1.01%』等、ステータスを上昇させるだけときた。
である以上、無駄遣いを避け、ポイントを溜め込むという択が正解に思えた。
それに、クロも事前に言っていた。
『スキルはちゃんとビルド――方向性を決めて伸ばせよ。あれもこれもと手を出すと器用貧乏になっちまうからな。……ゲームとリアルじゃ別物かもだが』
だが、それだけだ。
どんなスキルがおススメとか、どんなふうにスキルツリーを伸ばせば良いか等、具体的なアドバイスはくれなかった。
『こういうのは自分で考えるのが楽しいんだよ。まっ、もしもの時は特別にスキルリセットしてやるから安心し給へ』
とのこと。
間違えても大丈夫とお墨付きをもらったのは助かる。
が、与えられたタスクを淡々とこなしてきたのがリンスレットだ。
彼女は『自分で選ぶ』ということが苦手だった。
白魚のような指先が何度も右往左往する。
やがて彼女はおっかなびっくりに回避系スキルの一つ目、〝直感〟を習得。
スキルの説明には『勘が鋭くなり、いち早く敵意や攻撃を察知することができるようになる』と記載されていた。
「これで良いのよね……?」
自分なりに考えてこれが最善と選んだが、それでも不安なものは不安だ。
特に何かが変わったという感覚はない。
一先ずリンスレットは散策を続けることにした。
・自分で決めることが苦手な元公爵令嬢
新しい生活に順応しようと頑張っている。
幸運0。
普通の人間の『幸運』の成長率は大体50%前後だが、何と彼女の『幸運』成長率は5%も満たない。
・元公爵令嬢の幸運の成長率を見て泣いた
元公爵令嬢が戦ってる姿をポテチ片手に観戦中。
ガチャが絡まない限りは、ちゃんと気遣いのできる男。
ガチャが絡むと途端に民度がカスになる。
とても辛い過去があった。主にすり抜けとかすり抜けとかほぼ天からのすり抜けとか。2凸に約10万ってマ???? 2枚抜きを許すな。
・情操教育を受けてるロリっ娘マザー
バラエティの面白さはちっとも理解できないが「なんでやねん」を覚えた。使いどころはない。
・ワー〇リ9巻止め
個人的には9巻止めより「これから新しい章が開幕するぞ!」感がつよつよな10巻止めのほうが辛い民