こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:スネージヤナ最高でしたね(追い課金)
ダンジョンマスターの朝は優雅と共に始まる。
スプリングの利いたベッドでたっぷり睡眠を取り、寝ぼけ眼でスマホサイズのウィンドウをポチる。
今のオレは人間というより、ダンジョンマスターというシステムだ。
だから本来、食事も睡眠も必要ないんだが、人間の習慣を忘れたくはなかった。
何せ、今のオレには寿命という概念もないからな。
労働時間も少なく、それでいて在宅ワーク。
しかも雇用主たるシロちゃんは実質ただのお飾りなので、幾らでも融通が利くときた。
つまり、めちゃくちゃ時間を持て余してるのである。
そりゃあ好きなだけ食べるし、好きなだけ寝るよねって話だ。
今、オレは勝ち組の最中にある!
「――なんて思っていたオレの姿は滑稽だったぜ」
――141。
マズい。
とてもマズい。
オレは画面に映る数値を凝視しながら滝のような汗を流していた。
さきほどの数字。
それは
オレとシロちゃんの生命線であるDPは一日ごとに目減りしており、このままだと十日もしないうちに我らがダンジョンを消滅を迎えるだろう。
オレが作ろうと思ったダンジョンは、ほとんど完成している。
今のところ、これ以上ポイントを消費して手を加える必要はないんだが、維持費という魔の手に首を締められつつあるのが現状だ。
前にも説明したが、普通のダンジョンというは侵入者の魔力を一割ほど徴収し、それをDPに変換することで運営を成り立たせている。
だがオレのダンジョンは、そこにも手を加えた。
何せ、ダンジョン内に常駐できるよう1階層をホームに改装したのだ
従来のシステムのままだと、常駐する人間から魔力を徴収するのは不可能。
だからダンジョンで暮らす選択をした冒険者が探索を終えた後、残っている魔力を徴収するシステムに変更したのだ。
もちろん全てというわけじゃない。
翌日になれば冒険者の魔力が全快するように調整済みだ。
じゃないと毎日潜ってくんないからな。
これのおかげで一人一人の冒険者から得られる魔力は、かなり増大した――が。
「今んとこリンスレットしかいないんだよなぁ……!!」
圧倒的な人員不足……!
幾ら一人から得られる魔力が増したからといって、たった一人じゃ火の車というやつだ。
ちなみに、魔力というのは『潜在魔力』と『顕在魔力』の二種類が存在する。
潜在魔力というのは、ダンジョンから齎された恩恵のことだ。
うちのダンジョンで例えるならレベルやステータス、スキルや戦技、ホロキャスト(ウィンドウのこと)だ。
で、顕在魔力は、その余剰分。
要はMP。
ダンジョンが徴収してるのは、こっちの魔力だ。
じゃないとダンジョンに入るたび弱体化すっからな。
とにかく、今は新規勢の獲得だ。
リンスレットが来てから数日経過したが、今のところ来訪者はゼロ。
リンスレットに帰る場所がないってのが一番の痛手だった。
元々は最初に訪れた冒険者を丁重にもてなし、他の冒険者を連れてきてもらうつもりだったからな。
そうして少しずつ冒険者の輪を広げていき、最終的に大量の人々をガチャの沼にハマらせる。
それがオレの生存戦略だったのだ。
「――にしても、こんなに来ないもんかね」
確かに最寄りの町まで六時間と結構離れているが、もうちょっとダンジョンの探索に気合いを入れても良いんじゃなかろうか。
ダンジョン内を探索ではなく、ダンジョンの存在を探索、ね。
というわけでリンスレットに尋ねてみた。
「で、どうなんだ?」
「そうですね、ダンジョンの捜索自体は、どの国でも行われていると思います。我々からすれば貴重な産業になり得る可能性がありますから」
ホームの喫茶店。
そこに呼び出された彼女は、嫌な顔一つせず返答してくれた。
「やっぱそうだよなぁ」
「……クロ様は、このダンジョンに新しい冒険者がいないことを危惧されておいでなんですよね?」
リンスレットは困ったように眉根を寄せた。
「そんな反応をするってことは、何か問題でもあるのか?」
「クロ様は、このダンジョンの外がどういうものかご存じですか?」
「どうって、かなりデカい森の中ってのは知ってるが」
「一度外に出たことは?」
「ない」
オレはかぶりを振った。
一度チラッと画面越しに見たことはあるんだが、かなり不気味だったからな。
森林浴には向かないってのは一目で分かった。
オレはホラーが死ぬほど嫌いなんだ。
「では、ご説明を致します」
元公爵令嬢説明中。
「…………マジか」
「マジです」
リンスレットから語られた内容に絶句する。
どうやらこの森、ラビリンス大森林は幾多ものダンジョンが生まれては滅びを繰り返した結果、天外魔境の地と化したそうなのだ。
天候や気温はもちろん、空間すらも流動的に変化しており、一度踏み入れば帰還は困難。真っ直ぐ歩いていても逆走してたとかは序の口なんだとか。
「私など、入口から四歩歩いただけでこのダンジョンが目の前にありましたからね」
「ここ、そこそこに奥地にあると聞いたんだが」
「そこがラビリンス大森林の恐ろしいところです」
「……人が寄り付かんわけだ」
シロちゃん、あーたどんなところにダンジョン作ってんのよ。
これもう完全に手の施しようなくね??
こんなのアマゾンの奥地にイオン建てるようなもんだろ。
新手の自殺志願かな?
深いため息をついたオレは席から立ち上がった。
「クロ様?」
「ちと外見てくるわ」
策を練るにも、まずはちゃんと地理の把握を行う必要がある。
「お気を付けて」
「おう。色々教えてくれてありがとな」
ひらひらと手を振りながらダンジョンの出口に向かう。
さっきも言った通り、外に出るのは初めてだ。
外が不気味だったってのも理由の一つだが、多分ダンジョンマスターになった弊害とかもあるんだろうな。カケラも興味が湧かなかった。
で、肝心な外だが――
「おっふ」
何この気色悪いクネクネした樹。
全体的に薄暗いし、空気も最悪だ。
つか、それ以上に魔力の淀みがヤバい。
ただでさえ異常な濃度を叩き出してる上に、色んな性質を宿した魔力がグッチャグチャに入り乱れてやがる。
オレの視界には、水面に浮かぶ油膜っぽいナニカが蔓延しているように見えた。
リンスレットはそんなこと言ってなかったから、おそらくはダンマスになった影響だろう。ちっとも嬉しくねえ。
これらの魔力をDPに変換できんかな? と思ったけど普通に無理。
そりゃあ、このラビリンス大森林とやらも異界化するわ。
魔力って、要は物理法則に干渉する力だもん。
「DPに変換は無理だけど、操ること自体はそう難しくなさそうだな」
魔力の指向性を掴み、その流れを意図的に操る。
リンスレットは四歩でここに流れ着いたと言っていた。
空間が流動的に変化してるのか、無秩序に連結してるのか、はたまたリンスレットがワープしたのか。
何にせよ、魔力を正しく制御すれば、上記の事象は任意で引き起こすことは可能なはず。
もちろん、これもダンマスになった恩恵だろう。
ラビリンス大森林に満ちた魔力は、元を辿ればどれもダンジョンだからな。
手足を動かすように魔力を操ることができた。
「これなら――」
オレはひたすら空間に干渉。
一歩も歩くことなくラビリンス大森林を散策した。
スゲェ。空間系の能力者になった気分だ。
断言しよう。
今のオレは――セミより強い。
嘘ですオレには蚊やコバエくらいの小さな虫しか殺せません。
それ以上は殺虫剤がないと無理です。
蚊とコバエは泣いていい。でも処すね。
異世界転生ニキやネキたちは、よくモンスターを倒せるよな。
郷に入っては郷に従えとは言うが、オレには無理だ。
――とまあ、そんなふうにラビリンス大森林を転々としながら、外へと繋がるルートを構築しているときだった。
少し離れた位置から戦いの音がした。
もしや冒険者だろうか?
期待してなかったと言えば嘘になるが、これは僥倖。
今度こそ普通の冒険者でありますようにと祈りながら音のする方へ向かい――
「は?」
オレは思わず間抜けな声を上げた。
え、ちょっと待って。
ここって中世ヨーロッパ風の異世界だよな?
国名は横文字だったし、それはリンスレットもそう。
貴族の階級だって中世のものと大体同じだ。
だからてっきり、この世界は中世ヨーロッパ風の異世界ファンタジーだと思ってたんだが……。
目を擦る。頬を叩く。頭を振るう。
そしてもう一度目の前にいる人物を注視する。
額に巻いた鉢金。
口元を覆うマスク。
闇に溶け込むような衣装。
手に握るのは暗器。
その装いはまさしく――
に、に、忍者だーーーーっ!!!
・自称セミより強い男
めちゃくちゃ広大なラビリンス大森林を転々とできるようになった。
ちなみに空間系能力者特有の切断技は使えない。
何なら割りと集中力がいるので戦いでは使い物にならない。
セミ……昔は手づかみで行けたのになぁ……
・あれから幾つかレベルが上がったけど、未だ幸運0な元公爵令嬢
数日が経過して今の生活にもそこそこ慣れてきた。
図書館で悪役令嬢物を読んでは続巻を求めてダンジョンに潜る生活を繰り返している。なお(
・ロリっ娘。しかしマザー
まっくろくろすけ曰く、アマゾンの奥地にイオンを建てた幼女。