こちらダンジョンマスター。異世界にてソシャゲ式ダンジョン始めました 作:黒雛
忍者が投擲したクナイ。
凄まじい速度で撃ち出されたソレが狙い澄ますのは、モンスターの双眸だ。
しかし獣型のモンスターは、尻尾を鞭のようにしならせた。
どうやら尻尾は伸縮自在らしく、先端に付いた鉤爪が的確にクナイを迎撃。そのまま薙ぐように振り回した。
「くっ」
すんでのところで飛び退る忍者は、辛うじて回避に成功した。
しかし肩で息をしており、身体も至るところに傷が見られる。
対するモンスターは悠然と構えており、全長数メートルにも及ぶ巨体には傷一つ見当たらなかった。
素人ながらに無理もないと思う。
暗器なんて対人戦に特化した小さな武器で大きなモンスターと渡り合うなど無謀も良いところだ。あの見るからに硬そうな剛毛を切るにも一苦労だろう。
どちらが優勢なのかは明白だった。
ここで忍者に加勢すれば、さぞかしカッコいいシーンに違いない。
――が、オレの力などあってないようなもの。
覚えている技なんぞ『クソザコパンチ(威力5 命中率70% ノーマル技)』くらいだ。
助けに来たぜ! とドヤ顔を決めた次の瞬間にはミンチになっていてもおかしくない。
この世界のケー〇ィとはオレのことよ。
ちなみにレベルを上げても進化はしないぜ!
仮に進化できたとしても友だちがいないから通信進化は不可能だぜ!
通信進化とは即ち、伝説よりも希少なのである。伝説って? ああ!
とは言え、伊達にエスパーで例えたわけじゃない。
戦闘力は皆無だが、バトルから逃走するくらいはお手の物。
もちろん、ラビリンス大森林のような特殊な空間限定だけどな。
オレは木陰に潜みながらちょちょいと空間を操り、モンスターを遠くに飛ばした。
「は?」
突然モンスターがいなくなったことに愕然とする忍者。
しかし、さすが忍者というべきか、すぐに小太刀を構え、体勢を立て直した。
「何者ですか!?」
その険しい視線が見据えるのは、吾輩。
普通に気付かれてますやん。
そりゃあそう。気配を消すってどうやんのよ。
つか、今の声……もしかして。
「はいはい、こっちに敵対する意思はないよ」
敢えて軽い調子で言いながら、両手を挙げて姿を見せる。
念のため薄皮一枚分の空間を捻じ曲げ、不可視のバリアも展開しておく。
ダンジョンとシロちゃんがいる限り不死とはいえ、怪我すんのは嫌だからな。
しばらくこちらに警戒の視線を向けたままだったが、敵意がないと悟ったのか、その視線が和らいだ。
途端、忍者は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「ちょ――おいっ。大丈夫か?」
うわっ、結構傷深いじゃん。
真っ黒な装束のせいで全然気付かなかった。
駆け寄ったオレに何のリアクションも返せない辺り、もう限界なんだろう。
えっと、こういう時どうすればいいんだ?
回復系の技……は無理。
ダンジョンでの無法っぷりを鑑みれば治癒なんて簡単と思うかもだが、実は色々と制限があるんだよな。
例えば目の前の外傷。
これなんかは、オレの領域内――つまりモノクロダンジョンで起きたことなら何とかなるかもだが、ここは領域外かつ、領域外で負った傷だ。
しかも忍者が内包する魔力は、他のダンジョンで培ったもの。
魔力の性質が異なる以上、何かしらの副作用が発生する恐れがあった。
回復系の技となれば、直接魔力を流し込むわけだからな。
ダンジョンに潜って強くなるのとは訳が違う。
異なる血液を輸血するようなものだ。
一応、対処法はあるんだが……。
「ま、背に腹は代えられねえか」
そもそも困るのはオレじゃないしな。
寧ろ嬉しい誤算っつーか。
や、人が怪我してんのに喜ぶのはダメだろ。反省。
命あっての物種とも言うし、この際仕方ない。
「っと、その前に」
オレは息苦しそうなマスクをズラし、ついでに頭巾を脱がす。
露になったのは、ぐっしょりと濡れた黒髪と、血と汗に汚れながらも可憐な顔。
高い声と華奢な身体から予想はしてたが、忍者はクノイチだった。
「…………」
もうちょっとその野暮ったい衣装なんとかならんかったん? と思ったのは内緒。
二次元のクノイチっていうのはぁ!
ノースリーブでぇ!
スカートの丈が短くてぇ!
暑いのか寒いのかどっちやねんなと、問いたくなるような長いマフラーを巻いててぇ!
◇◆◇
ゆりかごの中からそっと押し出されるように望月ヤチヨは目を覚ました。
ぼやけた視界に飛び込んできたのは、白い天井。
窓の向こうから吹き込む涼風がカーテンを優しく揺らしている。
全身を包み込む寝具があまりにも心地良い。
油断すれば再び意識を落としてしまいそうだった。
(拙は一体……)
最新の記憶をサルベージしながら目だけを動かす。
知らない部屋だった。
馴染みのない内装に、見たことのないインテリア。
ぼんやりとしていた思考が徐々に目覚め、ヤチヨは上半身を起こした。
(身体が重い?)
思考は正常だ。
むしろ最近と比べると驚くほど調子が良いくらい。
心身を蝕んでいた倦怠感も無くなっていた。
しかしヤチヨは、自身の身体に酷い違和感を覚えていた。
「あ。起きたみたいだな」
ノックもせずに悪いねと軽い謝罪を述べながら、黒髪の青年が入ってきた。
「貴方は……」
「覚えてるか? おたく、ラビリンス大森林で倒れたんだよ。そのまま放置もできなかったからオレがここまで運んだわけ」
――ラビリンス大森林。
その言葉を聞いた瞬間、ヤチヨの思考に電撃が走った。
霞み掛かっていた記憶が蘇り、転げ落ちるようにベッドから抜け出す。
「お嬢様!」
勢いのまま全力で駆け出そうとしたが、最初の一歩で盛大にすっ転んでしまった。
「は?」
ヒリヒリと痛む身体。訳が分からない。
いつものように走り出したはずだったのに、全然身体が追い付かなかった。
自身の感覚と身体能力に致命的なズレが生じている。
「あー、悪いことは言わんから今は大人しくしといた方が良いぞ」
若干気まずそうに青年が言う。
「どういうことですか?」
「今のお前さん、魔力が完全に無くなってるからな。身体能力は普通の人間と大差ないはずだよ」
告げられた言葉にヤチヨは目を見開く。
「そ、そんな話、聞いたことありません」
「だろうな。でも分かるだろ? 自分の身体が脆弱になったって」
「っ」
その通りだった。
風のように走り出そうと姿勢を低く走り出したが、その重心に足腰が耐えられなくなっていたのだ。
しかも足腰だけじゃない。
あらゆる身体能力が弱体化していた。
そして、それを当然のように語るということは、
「貴方が原因ですか……!?」
自分よりも詳しい青年に険のある目を向ける。
察しが良いな、と青年は肯定した。
思わず飛び掛かりそうになったが、
「でも勘違いすんなよ。こうしないとお前を助けることは不可能だったんだ」
付け足された言葉に制動を掛ける。
「助ける……?」
「モンスターと戦って深手を負ってただろ? 忘れたんか?」
「ぁ……」
ラビリンス大森林に侵入した目的で頭がいっぱいだったが、そうだと思い出す。
あのときヤチヨは強大なモンスターと遭遇し、瀕死の重傷だったのだ。
そんな自分を目の前の青年が助けた。
もしかして、いきなりモンスターが消えたのも――
(いえ! こんなところで議論してる余裕などありません!)
ここはどことか、貴方は誰とか、なぜ魔力を無くす必要があったのかとか。
色々気になることはあるが、ヤチヨにはそれ以上に優先すべきことがあった。
「すみません。助けて頂いたことには心から感謝致します。先ほどの無礼な態度もお詫び致します。ですが拙にはやるべきことがあるので、どうか」
佇まいを直し、一礼。
青年の隣をすり抜けようとしたヤチヨだったが、その手を青年が掴んだ。
「……離していただけませんか?」
失礼と認識しつつも、その声は冷ややかだった。
本当に事態は一刻を争っているのだ。
何なら、もはや手遅れという可能性が一番高い。
だけどヤチヨは諦め切れなかった。
「まあ待てよ。お前のラビリンス大森林にいた理由は、お嬢様とやらが原因か?」
「だとしたら何か?」
「そのお嬢様ってのは『リンスレット』という名前だったりしないかなって」
「――!!」
ヤチヨは驚愕に目を見開いた。
今度はヤチヨが青年に掴み掛る。
「お嬢様を、リンスレットお嬢様を知っているのですか!?」
「おっふ。知ってるも何も、あいつは今、ここで暮らしてるよ」
「暮らし、てる?」
「おうとも」
青年の言葉を飲み込んだ瞬間、目の奥がジンと熱くなった。
「ではお嬢様は、生きて、生きておられるのですね……?」
「ピンピンしてるよ」
「嗚呼……良かった。お嬢様……!」
崩れ落ちたヤチヨの瞳からポロポロと水滴が伝う。
そんなヤチヨを見下ろし、青年は安心したように言った。
「そっか。あいつ、ちゃんと心配してくれる奴がいたんだな」
落ち着きを取り戻したヤチヨは、青年――クロと情報共有を行った。
「ふうん、エーデルワイス公爵が抱える隠密衆ね。やはりクノイチか」
「はい。時にはお嬢様の侍女兼護衛として付き従うこともあり、幼い頃からお嬢様とは親しくさせてもらっていました」
あ、これ美味しい、とヤチヨは市松模様のクッキーをパクパクですわ。
あっという間に完食に至ったが、物足りないというのが本音。
ヤチヨはお皿とクロを交互に見つめる。
や、別におかわりを催促してるわけじゃないけど。
別におかわりを催促してるわけじゃないけど。
「はいはい」
クロは半笑いで追加のクッキーを出した。
「わっ、ありがとうございます!」
「クール系かと思ったら意外と図太いね、お前」
「はて何のことでしょう? ヤチヨちゃんは素直で明るいと評判の女の子です」
にこりと茶目っ気のある笑みを浮かべる。
リンスレットの安否が判明したことにより、ヤチヨは生来の明るさを取り戻していた。
「それで、リンスレットの捜索はお前の独断じゃなくて、公爵家の総意ってことで良いんだよな?」
「もちろんです。
ヤチヨは頭の上に両手の人さし指を立てる鬼のポーズを取った。
「そいつは重畳。あいつ、自分は家名を汚した者として一族から除籍されたって思い込んでるからな」
「……そんなわけないでしょうに」
「あいつ、やたら自己評価が低いよな」
「無理もありません。妃教育が始まって以来、お嬢様はご家族と団欒を過ごす暇すら与えられませんでしたから」
もしかしたら愛されている自覚も無かったのかもしれないと、ヤチヨは下唇を噛む。
もちろんエーデルワイス公爵や公爵夫人、ご兄弟たちもリンスレットを心配していた。
しかし、彼女は『大丈夫』の一点張り。
一度も弱音を零すことをしなかった。
ならばと本人の意思を尊重するのがエーデルワイスだ。
『盾』としての誇りが生半可な慰めを許さなかった。
「妃ねー。今回の件、あいつに落ち度があったとは思わんのだがな」
リンスレットから事の経緯を聞いたのだろう。
クロは訝しげに眉根を寄せていた。
「ええ、実際裏付けも取れています。完全な冤罪と言えるでしょう」
「よく自供させたな。でっち上げの証言なんざ王族からの脅しか賄賂が関の山と思ってたが」
実際、嘘の証言をした生徒たちの口は硬かった。
中には舌を切り落とそうとした者もいたくらいだ。
しかし、
「――ご家族の命には変えられませんから」
ヤチヨは莞爾として笑った。
これにはクロも「わーお」とドン引きだ。
ちなみに、もしもこのままリンスレットが見つからなかった場合、隠密衆は嘘の証言をした者たちの枕元に、家族の首を並べるつもりだった。
「……ですが、お嬢様を危機に晒したことには変わりありません。これは完全に我々の落ち度です」
表情を一転。忸怩たる思いを吐き出す。
もしもあの日、ヤチヨがリンスレットの傍にいれば。
隠密衆の頭の娘であり、その真髄を叩き込まれているヤチヨなら、リンスレットを連れたまま会場から逃げ出すくらいわけなかった。
或いはリンスレットの親友たちがいれば。
彼女たちならリンスレットのため、王太子の命令にも毅然として立ち向かっていただろう。
だが、そうはならなかった。
ヤチヨは別件でリンスレットの傍から離れており、運悪く彼女の親友たちも実家で問題があり、
「やー、記念すべき卒業パーティーに、んなアホなことをしでかす輩が現れるとは思わんだろ」
「それは仰る通りなんですけどね」
呆れたクロの言葉に苦笑を返す。
正直、今回の件は色々と怪しいというのがヤチヨの所感だ。
確かに王太子は武勇以外は平凡な男だ。
極めて優秀だったリンスレットを煩わしく思っていたのも間違いない。
しかし、仮にも王太子なのだ。
恋だの愛だのに振り回される危険性は教え込まれているはずだし、何より王家がエーデルワイスとの繋がりをより密なものにしたいという下心があったのも理解しているはず。
だというのに、今回の件。
エーデルワイスを敵対視する何者かの陰謀か、或いは王太子が想像を絶するバの人だったか。
「
「それリンスレットの時もやった」
「それで流すのは拙に不親切過ぎません? 拙が弱くなったことも含めて説明を求めますー!」
てしてしとテーブルを叩いて説明を催促する。
しゃーねーわねー、とクロは口を開いた。
自身の正体。
地下へと続く階段を見せ、一度外へと出入りさせてもらう。
外から見上げる真っ白な樹木は、確かにダンジョンのソレだった。
「はえー」
目を丸くするヤチヨに、クロは説明を続ける。
「お前が弱体化した原因は、オレが魔力を根こそぎ奪い取ったからだ。そうしないとオレの力で治療することは不可能だったからな」
「助けていただいたことには感謝してますが、弱体化もある意味副作用と思うのですが……」
と、ダンジョン内に戻りながらその背にジト目を向ける。
自身が弱くなった理由は分かった。
そこに嘘はないのだろう。
ヤチヨはクロに感謝している。本当に感謝しているのだ。
だけど、どうか愚痴を吐き出すくらいは許してほしい。
幼少期からダンジョンを併用しながら厳しい鍛錬に打ち込んできたヤチヨからすると、それを全部リセットされたのは流石に応えた。
「爆発するよりマシだろ?」
「爆発するんですか!?」
「男になるかもしれん」
「男性になるんですか!?」
「腕が四本になる可能性も」
「……楽しんでますね?」
「割と」
ぷっくり頬を膨らませてテシテシテシ!
ヤチヨはクロを叩いた。効果はいま一つのようだ。
「安心しろよ。うちのダンジョンを利用したら数か月で取り戻せるだろ」
「そんな都合良く行くわけないじゃないですか」
ダンジョンは潜れば潜るほど強くなれるが、その上がり幅は亀のような速度だ。
もしかしたら亀すらも『残像だ』と言い出すかもしれない。
それくらい気の遠くなる苦行だというのに、それを数か月で巻き返せるなど冗談としか思えなかった。
「まあ楽しみにしておきたまへ――っと、そろそろリンスレットが帰って来るな」
「え、お嬢様が!?」
そう、タイミングが悪いことにヤチヨを運び込んだときから、リンスレットはダンジョンに潜っている最中だったのだ。
ようやく対面ができるとヤチヨは気色ばんだ。
リンスレットを温かく出迎えるため、階段前で待機する。
コツ、コツと階段を上がってくる音が聞こえた。
ヤチヨの心臓が高鳴る。
期待と不安、双方の感情が複雑に入り乱れていた。
あんなことがあったのだ。
リンスレットはさぞかし傷付いてるに違いない。
ひたすら尽くしてきたというのに、その全てを蔑ろにされたのだ。
その絶望は察して余りあるというもの。
ヤチヨはすっかりやつれてしまった姿を想像し、表情を曇らせた。
どうしてあのとき傍にいなかったのかと悔恨の念が蘇る。
だけど、すぐにかぶりを振った。
顔に出せば、リンスレットは察する。
そしていつものように自分を殺し、『大丈夫』と微笑む姿が簡単に想像できた。
それじゃあダメだと自身に活を入れ――
「……………………ヤチヨ?」
そうして二人は再会する。
およそ二週間ぶりに見たリンスレットの姿は、
(めちゃくちゃキレイになってるーーーーっ!!!)
何か、思った以上に元気だった。
・自称この世界のケー〇ィ。ユン〇ラーに進化はできない。
大抵のことは不思議パワーでなんとかできるけど、あまりに自由が過ぎるとアレなので色々と制限が掛かっている。
せっかくのクノイチがモブみたいな衣装で大変お冠。
ノースリーブの和服に長いマフラー、良いよね……
スキン実装しなきゃ……!
フーデ〇ン? 通信環境が必要な伝説上の生き物さ
伝説って?
・意外と図太く懐っこいクノイチ
幼少期から過酷(ブルア過酷にあらず)な鍛錬を積んできた隠密衆頭領の娘。
『元』疑惑浮上中の公爵令嬢とは主従関係にありながら幼馴染のような関係。
よりにもよってクノイチの仕事を真っ当しているときに婚約破棄が怒りムカ着火インフェルノ。
周囲の制止を振り切り、単身ラビリンス大森林に赴くという蛮勇を働いた結果、案の定クッソ強いモンスターと遭遇。寸でのところで自称ケー〇ィに救われる。
生存が絶望的だった主と再会できた。
やつれてるに違いないと思ってたところに、なんかメチャクチャ艶々してる主をお出しされ、軽い宇宙猫状態
・「元」疑惑が浮上した公爵令嬢
未だ傷心中にあるものの、なんやかんや自称ケー〇ィが用意した美容品を堪能中。
美しさがミロカ〇スレベルになりつつある。