大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
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言うまでもなく、雷というものの速度は速い。
目には見えず、音も後から聞こえ、意識より遥かに高速で相手を貫く。
そしてそれを操るエレクトロという男にとって戦闘は存在しなかった。
指を構え、雷を放つ。
ただそれだけで全てが済んできた。
故にこそ今の現状は理解が出来ない。
「なんで当たらねぇ!」
閃光が世界を照らし、エレクトロの指先から雷が伸びスパイダーマンを狙う。
まるでその武骨な指から樹木が生えるかのように太く、そして枝分かれした電撃が放たれた。
「考えるな、感じろって奴だよ!」
その音が遅れてやってくる電撃の数々を僅かに体を動かし、スパイダーマンは避ける。
無論、彼は雷撃より速く動けるわけでも、そして雷というエネルギーを視認出来るわけでもない。
彼を致死の電撃から生還させているのは彼に備わった直感、スパイダーセンスだった。
ピーターは己に宿るその超直感により、自身が死ぬであろう未来を察知し、それが実現しないように即座に体を動かしている。
「クソがぁあああああああ!」
スパイダーマンの産毛すら焼き焦がせないこの現実に、エレクトロは怒りを覚えていた。
自分は無敵の筈だ。
この力は最強の筈だ。
誰も自分には勝てない筈だ。
「充電器がいらなそうで羨ましいよ!」
こんな軽口を叩く存在に避けられるものでは断じてない。
今この瞬間、彼の世界に目の前のスパイダーマン以外の存在が消える。
避難しているオズコープの社員も、先ほどの人質も、そして作戦前にタランチュラから言われた任務の内容さえも、彼の脳内から消えた。
思考を殺意という漆黒の絵の具で塗りつぶし、彼は口を開いた。
「ぶっ殺してやる」
怒りから殺意へと切り替わったエレクトロの言葉は、どこまでも冷たい。
掌全体から雷が放たれた。
それは先ほどのように、ただ直線に放出するわけではない。
「これなら避けられねぇだろ」
例えるならそれは雷の網である。
飛び回り、よけるならその隙間さえ無くして放てばいい。
子供のような発想であるが、それは効果的な物だった。
スパイダーマンが対策を用意していなければ、の話であるが。
「対策その1」
「はぁ!?」
ぐにゃり、と雷が曲がった。
まるでそれは超能力の様であったが、エレクトロはそんな操作はしていない。
吸い寄せられるように雷が直撃したのは、スパイダーマンの放った糸である。
それにはエレクトロが電撃によって破損した窓枠や、机の脚などの金属部品が巻き付けられていた。
「避雷針って知ってる?」
ピーターはエレクトロの能力を分析し、放った電撃を完全な操作を行ってるわけではなく、あくまで指向性をもって放出していることを見抜いたのである。
故にこうして、誘導する避雷針となるものを幾つか用意すればその曖昧な操作を喪失して外れるのだ。
そしてその余波で避難民が傷つかないように彼は研鑽して、この避雷針を形成している。
「はいその汚らしい口をチャック!」
「がぁっ?」
スパイダーマンは確信した必殺が崩れ、動揺している口にウェブを叩き込んだ。
反射的にエレクトロはその口と鼻を覆うウェブを取り除こうと手を動かす。
その隙に、ウェブスイングでピーターは接近しようとした。
―――こいつヤバい、マジヤバい、今のうちに潰す!
表向きは飄々と翻弄していたが、彼の内心はガチガチにビビっていたのである。
なにせこちとら移動手段&攻撃手段が機械製品であるウェブシューターなのだ。
耐電用の防護措置は実施しているがそれもこのレベルの電撃を幾発も受けれるかは自身が無い。
エレクトロという大敵を相手するにはまだまだ設備も金も足りなかったのである。
「スパイダーパンチでKOでよろしく!」
故に速攻で潰すべく振るわれた拳が届く数秒前、彼の肉体に寒気が発生した。
実際に冷気が彼を襲ったわけではない、だがこの感覚の意味を彼は知っている。
それは、明確な殺意だ。
「ッ!」
バン、と火薬が炸裂する音。
そして発射された弾丸がスパイダーマンを貫く、ことはない。
空中で身をよじり、その弾道から自身の肉体を外す。
同時に、発射地点に向けて彼はウェブを放った。
「なっ!」
発射とほぼ同時に放たれたウェブをスパイダーマンを狙撃した男、タランチュラは避け切れず、使用した銃器を盾にする。
壁に貼り付けにされた銃を見ながらタランチュラは思わず口に出した。
「バケモノめ....」
完全な死角、そして勝利を得られるだろう瞬間での狙撃。
回避も防御も間に合わない筈の射撃を当然の様に避けて、同時に反撃する。
タランチュラという長年裏社会で活動してきた人間にとってもこれほどの異常性を持った存在との戦闘の経験はない。
彼にとって文字通りスパイダーマンは怪物だった。
―――ちょっとマズイな
同時にピーターの思考も警戒へと移行している。
頭部と胴体への二連射、同時に反撃に対して冷静に対処した判断能力を持った敵への対処の追加は正直言って辛い。
ギアをさらに上げ、重傷を負ってでも潰すべくピーターが意識を切り替える瞬間にタランチュラは叫ぶ。
「エレクトロ!ここは撤退するぞ!」
即座に装備したグレネードを複数種タランチュラは投げつけエントランスから脱出した。
その全てを即座にウェブシューターで撃ち落とす。
「逃がすわけないだろ!」
どうせ大事件起こすんだろ!」知ってんだぞ!とこの場で片付けるべく彼は動いた。
まずは指揮するだろう奴、つまりはタランチュラから潰すべく振り返る。
しかし彼はその判断を後悔することになった。
「スパイ、ダーマァァァン!」
バヂバヂバヂ、と音が鳴る。
それは空気が破裂する音であり、エネルギーが迸る音であり、攻撃の準備音だった。
先ほどまでとは比較にならないレベルの雷が、エレクトロから放たれている。
―――どうやって!?そうかこのビルの配線を!
エレクトロの手にはこのオズコープ本社の剥き出しになった配線があった。
高層ビルを回す電力全てが、今この瞬間エレクトロに集中している。
もし、それが指向性をもって自分に向けて放たれたら。
そう思考し、彼の背筋に冷や汗が流れた。
止めるには間に合わない。
なぜなら彼のスパイダーセンスはこの広大なエントランスホール全体に反応していたからである。
「これならどうだぁあああああああアアアアア!!!」
SSSSSSSPPPPPPAAAAARRRRRKKKKKK!!!
轟雷。
そう表現するしかない紫電が部屋を満たした。
一瞬の出来事であるそれはその僅かに確実に通常の生命を奪う。
ならその後に動く二つの生命は理外の者だ。
「ぐ、ぅうぅ。肩こりはしばらく心配しなくていいかな」
スパイダーマンはなんとかそう言って起き上がる。
彼のスーツの各所が破れていたが、なんとか動くことは可能だった。
そして、スーツに組み込んだシステムとウェブシューターの無事の有無を確かめる。
―――レンズのUI自体が死んでる、スーツの収縮はまだ何とか生きてる、ウェブシューターは....火花散ってるなこれ
だが、この男を捕らえるには十分だ。
一歩、また一歩ともう一つの致死の空間から生還した存在であるエレクトロに近づいていく。
「み、認めねぇ」
倒れ伏したエレクトロが口を開いた。
その言葉には怒りが満ちている。
「俺が、俺が最強だ」
「厨二病かな?もう卒業しなよ。こんな世界でそれやっても意味ないって」
この世界には宇宙に紫ゴリラがいるし、なんならコズミックビーイングがいるし、そいつら蹴散らす文字通りの神が存在しているのだ。
そいつらに比べればこんな辺境の星であるニューヨークで争いはどんぐりの背比べでしかない。
厳しいアメコミ世界の現実を理解しているピーターはそれに同情することは無かった。
配線を引きちぎり、それを縄の様に使い、エレクトロを拘束しようとする。
しかし、残り数メートルになった時エレクトロにワイヤーが巻き付いた。
「えっ?」
「あぁ?」
瞬間、エレクトロは出口へと向けて高速で引き寄せられる。
「がっ!ぐぅ!」
がんがんと散らばった瓦礫にぶつかり、ガラスを砕き、そしてようやくそのワイヤーを吐き出した車両に彼は収納された。
「はぁっ!?どんなびっくりどっきりメカだよ!」
先程外部へと飛び出したタランチュラが運転席にいることを視認した彼は即座に追跡するべく行動に映そうとしたが、出来ない。
限界ですと言わんばかりに力ない糸の成りかけがウェブシューターから噴き出している。
「やっぱり電撃対策は必須だなぁ....」
また修理と改良にお金かかるぞ、と瓦礫の中一人ぽつりとつぶやき、そして何か追跡になる材料がないか探し始めた。
-2-
高速で流れる風景と車体を揺らす衝撃を感じながらタランチュラは舌打ちを一つ放つ。
車内に流れるBGMは警察無線とエレクトロの呻きだった。
「アマチュアが....無駄に騒ぎを起こすとは...」
追跡を振り切るのは容易いが、今後の活動に支障をきたすのは間違いない。
それを巻き起こしたこのチンピラ崩れに対する怒りが胸の内にあるが、息を吐き出しそれを抑える。
スパイダーマンという怪物に対抗することができる化物は忌々しいが今のところこの男だけなのだ。
「うるせぇぞタランチュラぁ....」
この瀕死の男を蘇生して戦力を改めて戻す。
そう考え彼はハンドルを切った。
行く先に道路は存在していない。
ガードレールを突き破りコンクリートの壁をぶち抜き、彼らを乗せた車両は落下する。
どぼん、と水中へと落ちた車両に水が流入することは無い、この車両は水陸両用に作られているのだ。
タランチュラがボタン一つ押せば水中で移動するスクリューが展開される。
『遅い帰りだな、君らしくない』
電子的に加工された音が車内に響いた。
タランチュラとエレクトロの雇い主であり、今回の計画を立てた存在である。
現場の苦労を分かっていない存在に対して思わず罵倒したい衝動を抑え込み発言する。
「不測の事態が発生した、回収してくれ」
その声に返答し、しばし水中を車両は進んだ。
数分後、タランチュラの目の前には巨大な潜水艦が車両を迎え入れる様に下部のハッチを開くのを目にした。