大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
-1-
廃墟になったとある部屋の一室。
それがピーター・パーカーのスパイダーマンとしての拠点の一つである。
現状彼の寝食をする場所であるベン・パーカーの家にはガレージがあったが、そこではどうしても家族によるアクシデントが発生する可能性が避けられない。
故にこうして、ホームレスが居住しておらずそして作業ができる広さがある場所を使っているのだ。
不法侵入や盗電という犯罪であることは気にしてはいけない。
「ウェブシューターは修理できたけどマスクの方は駄目か、これ高いんだけどなぁ。スペア作っといてよかったけどこんな早く使うとは...」
具体的には貯めていたピーター・パーカーのお小遣い三か月分が消し飛ぶくらいには高いし作るのに時間がかかる。
学生にとってこの消費が凄まじいのは言うまでもない。
その憂鬱を癖になってしまった溜息を一つ吐いて振り切り、重力が存在しないかのように天井に立つ。
文字通り蜘蛛のように上下逆さまになった世界で彼は思考を始めた。
ピーターの視線の先には先ほど自分に向けて放たれた弾丸と、それを発射した銃がある。
「やっぱり市販品じゃないなこの銃、お金がありそうで羨ましいよまったく」
バラバラになった部品一つ一つを検査してもタランチュラの来歴や所属している組織に関する情報は無い。
つまりそういった経歴すら消せるほどに、巨大な組織からあの二人は所属していた。
「じゃあ間違いなくただの強盗じゃないよね、狙いは機材か...発明品か....」
チンピラそのものだった男エレクトロとプロフェショナルだったタランチュラの姿がピーターの脳裏に浮かぶ。
前者は能力は本物であったし、後者は彼が今まで経験したことがないプロフェショナルな暗殺者だった。
彼らのような人間を投入してまでオズコープから奪いたいモノがあったのは間違いない。
「それが何か解れば苦労しないんだけど」
ピーターは頭を掻く。
加害者であるあの二人も、そして被害者であるオズコープにも隠し事が多すぎる。
故にもう少し、この銃器から得られる情報が必要だ。
「ほい」
軽い調子で直したウェブシューターで糸を放ち、銃を引き寄せる。
そして軽い調子で僅かにそれに力を入れた。
次の瞬間にはばきりと大きな音を立てて銃はねじ切られる。
「そしてこう!」
超人としての文字通りの力技を披露した後に、検査機にそれをぶち込んだ。
銃に使われている合金や製造法などを調べそこに痕跡が無いか調べることにしたのである。
十数分の後部屋に設置されたPC(廃棄されていたものを魔改造したもの)の画面に結果が表示された。
「え?」
そして、その結果は彼の予想に無いものである。
ヒドラとか、SHIELDとかAIMSとかヤミノテとか、或いはもっと別の大物ヴィランの痕跡が出ると彼は思っていた。
「オズコープ?」
しかし、出てきたのは今回の被害者である企業の名前だった。
表示された結果に至るまでの情報を改めて自らの手でピーターは調べる。
銃が作られるために使われた合金、強化セラミック、そして硝煙反応に残る特殊な薬剤、確かにそれはオズコープが自社製品に使うためのものだった。
「ノーマンさん?いや違う」
確かにオズコープは少なからずこの世界でも軍需産業に関わっている。
しかしノーマン・オズコープは無作為に販路を開拓したり、兵器を流通させるという意味ではない。
彼は責任をもって兵器を管理し、銃器への刻印を行っている筈だった。
「つまり今回の襲撃を首謀したのは内部の犯行ってことか」
彼の脳裏に原作の知識の一つが浮かび上がる。
ノーマン・オズボーンは基本的に理事会との関係が悪く、対立が大きい。
インターンの最初に会話した内容からしてこの世界の彼は人道的な人間だ。
危険な研究には反対している。
「ノーマンさんが中止させた研究か何かを狙ったのか?馬鹿じゃないの?」
故に彼のような人間が中止させた計画は確実にヤバイ代物なのは間違いない。
タランチュラというプロが自身の後ろから射撃してきたことも、内部に裏切り者がいたというなら納得できた。
十二分なセキュリティを誇るオズコープの本社の見取り図やセキュリティについての詳細をあらかじめ渡していたのだろう。
「じゃあ早速これについて調べて見るか」
検査結果を確認したピーターはスーツを着用し、行動を開始した。
「あ、メイおばさんにチャットしておかなきゃ。ええとネッドのインターンの課題を手伝うので遅れます、と」
スマホにチャットを送りつつネッドに心で謝りつつ彼は空中に身を投げ、行動を開始する。
-2-
オズコープの本社。
午前中にあった活気のある姿はそこにはない。
あるのは赤色の警告灯とパトカーのサイレンのみである。
「うわひでぇな、どうやったらこんな壊れるんだ?」
「でも死には出てないらしいぜ」
「そりゃあいい」
まるで爆発事故が起きたかのようなエントランスホールを、幾人かの警察官が調べ写真を撮りつつ会話していた。
黒焦げになった観葉植物や、割れ砕けたガラスの破片が散乱している光景は彼らの経験でもそうはない光景である。
どうやって元通りにするのか、或いはそれに幾らかかるのか彼らには想像もつかない。
「治すのに幾らかかるんだろうな?」
「俺らの安月給じゃ考えても仕方ねぇだろ」
カシャカシャと写真のフラッシュが幾度も焚かれた。
「そういえば知ってるか?」
「なんだよ」
写真を撮る警官にタバコを咥えた警官が小耳に挟んだ話を語る
「この本社の被害を受けた場所への立ち入りが上手くいってねぇって話だよ」
「はぁ?ここじゃねぇのか」
「噂じゃ高層階に強盗が入ったらしいぜ」
噂話が興味を引いたのか写真を撮っていた警官が振り返る。
「なんでそこに呼ばれてねぇんだ?」
「理事会の面々はそんなのは起きていないって言ってんだってさ」
「そんな話が通るのかよ」
怪訝そうな表情を浮かべた同僚に咥えたばこの男は皮肉気に顔を歪ませた。
「通るさ、なんせ天下のオズコープだぜ?このNY市にも、俺らの上司にも腐るほどあいつらに頭の上がらない連中はいるのさ」
「胸糞悪い話だぜ」
「だが給料が必要ならそいつらの下で俺らは働かなくちゃいかんのさ」
ふん、と鼻を鳴らしもう一度カメラを持った警官は現場を撮り始める。
そして咥えたばこの警官も作業に戻り始めた。
「いいこと聞いちゃった」
二人の警官の頭上でその噂話を聞いたのは言わずもがなスパイダーマンである。
壊れた天井に張り付いて先ほどの警官達をオズコープ本社へと潜入しようとしていたのだ。
「そういえば指導員の研究者の人が気絶していたって聞いたな」
インターンで自分たちを指導した優秀な研究者は不自然にもビルの揺れで気絶して病院に運ばれている。
MJからその話を聞いたことを思い出したピーターは彼らが担当していた階へと向かった。
エレベーターや階段で向かえば不審者であるスパイダーマンは発見される、しかしそれは普通の使い方ならばの話である。
「不謹慎だけど壊してくれてありがとうビリビリ君」
エレクトロの極大の電気放出に巻き込まれたエレベーターは開かれ、通路の闇がむき出しになっていた。
そこにひっそりと入り、高層ビルの目的値へと彼は移動する。
ウェブシューターがある彼にとって、常人ならば何時間もかかる登攀作業は数分で完了できるものだった。
「よし到着」
目的の階に設置された分厚い開閉ドアを無理矢理開けた彼が目にしたのは誰も居ない廊下である。
「警備員もいないのか、いや逆にここの防備固めたら自分達はここを荒らされましたって言うようなものか」
警察には何も起きていないとするならば不自然に警備を固めるわけにはいかない。
そう考えつつも周囲を警戒しながら彼が突き進んだ先にあるのは一見平凡に見えるドアだった。
しかしピーターは直感する。
このドアの先に目的の情報があると。
「僕たちが使わせてもらってる処より扉分厚すぎるし、なんで電子キーパッドなんてあるんだ」
力技では時間がかかるのは一目で解る。
ならば技術で開かせればいい。
「てれれってれーネッド謹製開閉プログラム~!」
手首のウェブシューターに組み込んだケーブルを取り出し、キーパッドの下部にあるソケットを見つけ出しそこに差し込めばマスクの内のUIが目まぐるしく動きOPENと表示された。
そして力をドアに入れれば抵抗なくそこが開かれる。
部屋の中は廊下と同じく無人であり闇が広がっていた。
「さ~てどこかな」
マスクの暗視モードを起動させつつ部屋の中を見渡す。
この部屋は随分使われていなかったらしく、埃が層となるほどに積もっており、椅子もテーブルも残ってはいない。
故にその埃が取り払われた部分こそが、タランチュラが訪れた場所だった。
「銃の腕はプロフェッショナルだったけどPCの腕前はまだまだアマチュアだったみたいだね」
起動したPCにはデータは何も残っていないように見える。
しかしピーターの腕ならば容易くデータを元々の状態に戻せるほどに杜撰な工作だった。
「よしよしいい子だ~」
パスワードも容易く解き、その消されたファイルは展開される。
そしてそのファイルに付けられた名前を、彼は言葉として吐き出した。
「プロジェクトGG?」
表示されたのは設計図である。
一目でピーターはそれがパワードスーツと呼ばれるものだと理解した。
その性能は脅威的な物であり、装備されている兵器もまた凄まじい。
だが―――
「何これ粗大ごみ?」
―――それは余りにも欠陥品だった。
まず第一に稼働させ続ける電力が無い。
バッテリーでは賄いきれない程にそのパワードスーツの燃費が悪いのである。
ケーブルをつないで通電するならパワードスーツの機動性の意味が無いのだ。
第二に装着者への負担が大きすぎる。
例えるならF1に素人の無免許ドライバーを乗せるかのようなものだ。
即座に事故を起こすほどにパワードスーツに必要な人間の水準は高すぎる。
自分のような超人か、或いはその事故を起こしても再生するような人間じゃなければ不可能だろうとピーターは思った。
「再生...?」
脳裏に浮かぶのは彼が先日倒したヴィラン、リザードことカート・コナーズである。
彼の研究成果であるあの人を蜥蜴へと変異させると同時に驚異的な再生能力を持たせる血清を開発する資金はどこから来たのか、という疑問が今まさに氷解した。
オズコープのこの一派が夢をあきらめきれず、コナーズ博士に資金を提供していたのである。
そしてその派閥は、設計図を取り戻した。
なら次に求めるのは間違いなくそれを扱う操縦者であり、その研究をしていた人間である
「コナーズ博士が危ない!」
ピーターは急いでドアから飛び出し、緊急用の窓から外の世界へと飛び出した。
カート・コナーズを助けるべく糸を放ちビルの合間を飛び去っていく。
Tips
・ピーター・パーカー
やっぱりオズコープが悪いじゃないか!(憤怒)
インターンで良い企業と思ってちょっと油断してた男
そしてガンガン貯金が減っている男
・カート・コナーズ
オズコープから金をもらってた男
普通に再生医療への出資だと思ってた
現在留置所へ収監中