大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
-1-
己という存在が、普通の人間から変化した瞬間をエレクトロは覚えている。
それは彼の生業である電気技師としての仕事の最中だった。
いつも通り電線の状態を確認し、そしてそれが正常でなかった場合は修理する。
知識と技術を身に着ける為に払った金の多くは未だ返済は済んではいなかったため貧しく、そしてそれを助けてくれる人間はいなかった。
数少ない電気技師としての度重なる勤務による疲労が漠然と肉体を満たした瞬間、彼の身に文字通りの雷が落ちたのである。
普通ならば死ぬ。
間違いなく、遺言を残す暇すらなく死ぬ。
だが、彼はそうはならなかった。
「――――zッッッアァAAAAaaaaAAAAHHH!」
それがどういう奇跡的な確率だったかは解らない、ただ肉体というものがその電撃によって変化していくのを感じたのである。
細胞の一つ一つが意思をもって脈動し、神経は新しく作り直され、彼は雷という不定形のエネルギーを蓄え、操れるエレクトロへとなった。
そして彼は己は無敵だと思った、最強だと思った。
特別では無かった自分が、選ばれた存在となったと感じたのである。
だが現実はそうではない。
「ス....パイダーマン!」
己に敗北を刻んだ存在がいる。
いや、敗北ではない。
己はまだ生きている、存在しているのだ。
まだ負けてはいない、勝てばいい。
あの忌まわしき蜘蛛男をこの世から消え失せさせれば、己が最強の存在なのだと自分に言い聞かせる。
「スパイダーマン!」
再度、敗北者は勝利者の名前を叫び意識を覚醒させた。
ばぢばぢと、周囲の空間が帯電する。
彼に繋がれた医療機器は一斉にショートし、ノイズとエラー音のみが空間に響いた。
『目が覚めたかエレクトロ』
電気の影響かノイズに塗れた声が彼の耳に届く。
それはエレクトロの雇い主であり、今回の依頼を持ちかけた存在でもあった。
だが、荒々しい呼吸を行うエレクトロにその言葉は届いてはいない。
スパークする思考回路の中で彼は、独自の思考を行っている。
『次の指令だ、今からこの船に積んだあれの完成品を指定の場所まで持ってこい。幾らお前でもこれくらいは出来るだろう』
「あ”ぁ?」
『タランチュラは別の任務についている。スパイダーマンがそちらに行ってる間にこちらに運べと言っているのだ』
嘲りに満ちたその言葉に漸く、エレクトロは反応した。
体の痛みはあったが、無視する。
「だれに向かって指図してやがるテメェ」
怒りから湧き出る雷が火花を散らし、薄暗い潜水艦の一室を照らした。
『貴様こそ誰に向かってそんな口を叩いている』
傲慢な声がそのエレクトロの脅しに反応する。
苛立ちに満ちた声だった。
その声にとっても、今の現状というものは元々とは違うらしい。
『その潜水艦をいつでも私は沈められるんだぞ』
命を握っていることを直接示唆する程度には、その声には部下がいない。
或いは、スパイダーマンという例外があまりにも強力であり対抗手段が無いのだろう。
「やれよ」
『なっ!?』
エレクトロは最早、その声に従うつもりはなかった。
悠々とドアに向かって歩く、電子ロックがかかっていたが障子戸よりもエレクトロにとってそれは脆い。
強制的に開かれた扉は火花を散らし、警告音が鳴り響く。
しかしそれはどうでもよい。
『いいんだなッ!死ぬんだぞ!お前は水中では力を失うのは解っている!』
甲高い声が警告音と共にエレクトロの耳を叩いた。
しかしそれに怯えはない。
「さっきお前が言ったじゃねぇかよ、ここから出る方法をよ」
ニヤリ、と口角を上げて先ほど提示された物品がある場所へと向かう。
『まさか!やめろ!お前なんぞにあれを付ける資格はない!』
彼の移動経路を理解したのか声の主は焦りに満ちた声で隔壁を降ろすがエレクトロの放つ電撃の前には意味が無い。
ただ散歩するように気楽に歩くエレクトロを妨害できないのだ。
そして、エレクトロは目的の場所へとたどり着く。
「これは俺が貰っていく」
彼の眼前にあるのは、オズコープから盗んできたデータを基に作り上げられた一品だった。
搭乗者に対して危険極まりなく、そして動力源が無い産業廃棄物と言える代物である。
『やめろやめろやめろォーッ!野良犬が僕の最高傑作に障るんじゃぁないッ!』
先程までの傲慢さは消え失せ、ただただ声は喚き散らした。
それを嘲笑するように、エレクトロはパワードスーツへと乗り込む。
「いい感じじゃねぇか」
そのGG計画において作成されたパワードスーツがスパイダーマンことピーター・パーカーに産業廃棄物と言われた理由は二つあった。
第一に、エネルギーを供給することができない。
だが、ここには雷を操る規格外のバッテリーと言える人間がここにいる。
第二に、システムとして未熟であり人間が操るには難度が高いという点だ。
だが、システムなどいらず感覚的に扱える人間がここにいる。
つまりは声の主にとって未完成である代物であり、ピーター・パーカーに産業廃棄物と言われた代物であったとしても、エレクトロにとってはこれ以上ない強化パーツと言える代物だった。
「ついでにこの潜水艦の電力全部持っていかせてもらうぜェ!」
エレクトロのその叫びと共に無人潜水艦の全ての電力はパワードスーツに吸収され、潜水艦の内部は完全に闇に包まれた。
そして蛹から成虫へと変化するように潜水艦の内部を突き破り、ニューヨークへと帰還する。
-2-
時間はそうして現在へと戻る。
ニューヨークの街角でスパイダーマンが見下ろす画面から響く声にデアデビルは尋ねた。
「知り合いですか?」
「いや~、ほら朝オズコープを襲った迷惑なビリビリ君」
その会話を無視して声が響く。
『お前が欲しがってる男は生きている、安心しな』
ノイズ塗れの画面が揺れ、拘束されたカート・コナーズの映像が映し出された。
その周囲の背景からスパイダーマンはコナーズがどこにいるか推測しようとする。
しかし彼の推理よりも早く、エレクトロがその答えを告げた。
『俺はいまこの都市で一番デカい発電所にいる』
その答えを告げることに何の意味があるのかブリジットは解らなかったが、スパイダーマンには僅かながらでも理解が出来る。
エレクトロの目的は、金ではない。
そんなものでここまで大それた災害のような犯罪を行うわけが無かった。
『俺と勝負しろ、負けても勝っても人質は解放してやる』
ただ、単純に彼は戦いを求める。
一度負けた相手に、正面から堂々と、彼は勝負がしたいのだ。
どうしようもなくくだらない、男のプライドというものである。
『24:00までに来い、これは挨拶代わりだ』
それを告げた後、彼が乗っ取った全てが破壊された。
街頭カメラ、巨大テレヴィジョンその他様々な電子機器がショートし、破裂する。
まるで神の奇跡か何かの様に、ニューヨークという街の大半の電子機器が壊れ去ったのだ。
「なんだよこれッ!」
「スマホが壊れたッ!」
まず第一に自身のスマホを乗っ取られた人々が悲鳴を挙げる。
だがそれはまだ軽い方だった。
「うっ」
「大丈夫か爺さん!」
「おいっ救急車!」
「スマホ壊れてんだぞ!どうやって呼ぶんだよ!」
次に体内にペースメーカーなどの機器を埋め込んだ人間が倒れる。
エレクトロのあまりに強い電流はそれだけで機器に負荷を与えたのだ。
倒れ伏した病人の助けを求める声はどこにも届かない。
そしてエレクトロが破壊したのは、信号機なども含まれる。
「どこ見てんだ!」
「ああっ!?テメェの所赤だっただろうが!」
「テメェの所もだよ!」
ショートした信号機は正しい表示がされず、無数の追突事故が発生した。
その他様々な事故が、ニューヨークという都市で発生している。
ただスパイダーマンに勝つために、それだけの為に、エレクトロはこれを起こしたのだ。
故にスパイダーマンのピーター・パーカーの行動は決まっている。
「行くのですか?」
「行くよ」
ヒーローとして、悪を止めるのだ。